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おまけ:今日もハルピュイアの里は賑やかで

ー/ー



「もー! お兄様ったら、妹が遊びに来るっていうのにどうしていないのよ!」


 むーっと頬を膨らませてマリーナが椅子に腰を掛けていた。

 シャロンの家に彼女は遊びに来ていたのだ。お供のグリュムントを連れて。

 手紙で今日来るというのは伝えていたのにとぷくぷく怒っているマリーナを、グリュムントが「手伝いを頼まれたのならば仕方ないでしょう」と宥めている。


「そうよねぇ。お兄様はとても強いし、頼もしいから引っ張りだこにもなるわよね」

「そうですね。ジークさん、里のみんなから頼りにされてます」


 自分にできることは率先してやってくれるし、困っていれば助けてくれる。

 手伝いを頼まれても嫌な顔せずに引き受けてくれるので、ハルピュイアたちからは信頼さており、すっかりと里の一員としてかけがえのない存在となっていた。

 今日も急遽、手助けを頼まれてしまって、ジークハルトはマリーナを出迎えることができなかったのだ。

 シャロンは「もう少しすれば帰ってくると思いますよ」と、フォローを入れる。


「まぁいいわ。お姉様を悲しませてはいないようだし」

「大切にされてます、かなり」


 夫婦となってからジークハルトはシャロンのことをさらに気にかけてくれるようになった。

 狩りにも参加するし、なるべく一緒に居る時間を長くとってくれる。

 シャロンの両親、主に母の話し相手にもなってくれている。

 シャロンが疲れているようならば、そっと一人にしてくれたりもして、かなり大切にされていた。


「私はいいんですけど、ジークさんは何かしてほしいこととかないのかなぁって思っちゃうんですよね」

「お兄様のことだからお姉様と一緒にいるだけで幸せだと言うと思うわ」


 だって、自分の事を見てくれて、受け入れてくれて、傍に居てくれるのだから。

 それは王子として育ってきたジークハルトにとって、幸せなこと。マリーナの言葉にシャロンはそうかと頷く。彼にとって今が一番、自由なのだと。


「ジークハルト様は公務にもしっかりとやってくださっていますので、現国王のムジラーク様も安心しております。元気そうだと」

「お兄様。お姉様と結婚してからもう元気というか、明るくなったのよねぇ。もうびっくり。周囲の人たちから素敵な人に出逢えてよかったって言われているのよ。ほんとにそう思うわ」


 お姉様には感謝しているのよ。マリーナは嬉しそうに話す。グリュムントも同意するように頷いていた。

 私も感謝してるのだけどなとシャロンは思ったけれど、マリーナたちの表情を見て言葉にするのを止めた。

 なんだか、自分の気持ちも伝わっているように感じられたからだ。


「シャロン、すまない。戻ってきた」

「お兄様、おっそーい!」

「お前は頻繁に遊びくるのはどうなんだ、マリーナ」

「大好きなお姉様とお兄様に会って話したいんだもーん」


 それに此処は居心地が良いのよとマリーナは言う。

 ジークハルトがグリュムントを見遣れば、彼は無言で首を左右に振った。自分にはどうにもできないというように。

 グリュムントは男性であり、本来ならば里に入ることは許されない。けれど、この国の姫であるマリーナの護衛は常に傍に居なくてはならなかった。

 長である三姉妹は協議し、里の者に手を出さないこと、許可なくうろつかないことなど条件をいくつか守る誓約書を結ぶことで、グリュムントのみ出入りを許したのだ。

 ジークハルトが里の一員となったとはいえ、彼が王族であることは変えられない。

 それにこの国の姫を無碍にすることは、この土地で暮らすハルピュイアもできないことだ。

 ハルピュイアは家族を仲間を大切にする一族。仲間の家族もそれは同じであるため、ハルピュイアの結婚式では親族のみ男性を里に招くことを許されている。国王が参列できたのはこれが理由だ。


「ただ、親族以外での出入りの許可が下りた前例がないので、グリュムントさんはかなり目立っているのですよね……」

「そうなのよねぇ。成人の儀を迎える前のハルピュイアたちから声かけられてるし。まぁ、顔は良いものね、顔は」

「そこを強調しないでほしいのですが、姫」

「だって、性格は暗いじゃない」


 ちょっと頭も固いし。ずばずばと言うマリーナにグリュムントは言い返せない。本当の事だからだ。

 見ていて可哀そうになってくるほどにはへこんでいる。それを見かねてジークハルトが「それぐらいにしておけ」とマリーナを注意した。

 グリュムント自身は誓約書を結んでいるので、里のハルピュイアと話す時にはかなり気を付けている。

 けれど、どうしても気になるようでハルピュイアたちは寄ってくるのだ。


「アエロー様たちも注意はしてくれているのですけど、やっぱり若い子だから好奇心旺盛で……」

「大丈夫ですよ。興味の対象になるのは理解しておりますから」

「いいじゃない。王城では女性陣から避けられまくってるんだし。ハルピュイアたちで女性への免疫力を上げなさい」


 マリーナの止めのような言葉にグリュムントは「はい」と力無く返事を返した。

 ジークハルトがまた彼女を叱っているのをシャロンは微笑ましく眺めてしまう。


「シャロン、客人が来ているのだろう! 母が手土産を持ってきてやったぞ!」

「お母さん……」

「おばさまー!」


 ナタリーが豪快に扉を開けて入ってきた、籠一杯の菓子を持って。

 マリーナはぱっと明るくしながら彼女に抱き着く。マリーナはシャロンの両親にも懐いていた。

 抱き着くマリーナは抱きしめ返しながらナタリーは籠をテーブルに置く。今日もお姫様は元気が良いなと笑いながら。


「マリーナが来ているのは知っているぞ。何せ、若いハルピュイアが騒いでいたからな」


 付き人が目立つからなと悪気なく言ったナタリーに、グリュムントが「申し訳ない」とまたへこんだ。

 そんな様子に「どうしたのだ?」と、ナタリーは首を傾げた。

 ちょっといろいろあってとシャロンが話せば、何を思ったのかナタリーが「それならば」と手を打つ。


「里の娘を紹介してやろう! お前を受け入れてくれるハルピュイアはいるぞ!」

「お母さん、そういうことじゃないよ! それに次の成人の儀まではまだ日数があるでしょうが!」


 成人の儀を迎えなければ、夫を見つけることはできない。そういった決まりなのでシャロンが止めるのだが、ナタリーは「紹介してはいけないわけではない」と言う。

 成人の儀を迎えた時にグリュムントを選べばいいだけなのだと。

 いや、誓約書を結んでいるからと反論してみるも、「ハルピュイアから手を出すなとは言われていない」と言い返された。


「こいつから手を出すことは駄目だが、ハルピュイアからは許している。そもそも、アエロー様はそれも見越しているはずさ」

「う、うわぁ……」

「良かったわね! 生涯独身じゃなくて済むわよ、グリュムント!」

「……考えさせてください」


 心の準備がと言うグリュムントなど無視するように、ナタリーとマリーナがそうしましょうと話を勝手に決めていく。

 助けを求めるようにジークハルトは見られたが、俺には無理だと彼の肩を叩いた。


「シャロンの母は一度、決めたらやり通す。頑張ってくれ」

「ジークハルト様!」


 うわぁとグリュムントはナタリーに首根を掴まれてマリーナと共に連れていかれてしまった。

 シャロンは手を合わせてながら心の中で謝罪する。


「シャロン、気にするな」

「母が申し訳ない……」

「グリュムントなら場を切り抜けられるだろうさ」


 あいつはマリーナの我儘にもついていけるのだからと、ジークハルトはあまり心配はしていなかった。

 ということは、対人スキルはあるということなのだろう。母が暴走しなければいいのだがと、それだけをシャロンは心配することにした。


「マリーナがいつもすまない」

「大丈夫ですよ。マリーナちゃんとは気軽に話せるので」


 可愛い妹なのでとシャロンは返す。一人っ子であるシャロンにとって、義理とはいえ妹ができたのは嬉しかった。

 気軽に話せるし、慕ってくれる。愚痴も聞いてくれるからと。

 ジークハルトは「マリーナは聞き上手だからな」と小さく笑う。彼も話を聞いてもらっていた経験があるようだ。

 外からきゃあきゃあと騒ぐ声がする。きっとグリュムントは若いハルピュイアたちに囲まれて困っている頃だろう。


「今日も里は賑やかだなぁ」

「今、賑やかにしているのはグリュムントたちだがな」

「良いと思うますよ。平和って感じがして」


 これぐらい賑やかなほうが楽しいからとシャロンが言えば、ジークハルトは確かにと頷く。それは幸せを確かめあうようだった。


END


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 むーっと頬を膨らませてマリーナが椅子に腰を掛けていた。
 シャロンの家に彼女は遊びに来ていたのだ。お供のグリュムントを連れて。
 手紙で今日来るというのは伝えていたのにとぷくぷく怒っているマリーナを、グリュムントが「手伝いを頼まれたのならば仕方ないでしょう」と宥めている。
「そうよねぇ。お兄様はとても強いし、頼もしいから引っ張りだこにもなるわよね」
「そうですね。ジークさん、里のみんなから頼りにされてます」
 自分にできることは率先してやってくれるし、困っていれば助けてくれる。
 手伝いを頼まれても嫌な顔せずに引き受けてくれるので、ハルピュイアたちからは信頼さており、すっかりと里の一員としてかけがえのない存在となっていた。
 今日も急遽、手助けを頼まれてしまって、ジークハルトはマリーナを出迎えることができなかったのだ。
 シャロンは「もう少しすれば帰ってくると思いますよ」と、フォローを入れる。
「まぁいいわ。お姉様を悲しませてはいないようだし」
「大切にされてます、かなり」
 夫婦となってからジークハルトはシャロンのことをさらに気にかけてくれるようになった。
 狩りにも参加するし、なるべく一緒に居る時間を長くとってくれる。
 シャロンの両親、主に母の話し相手にもなってくれている。
 シャロンが疲れているようならば、そっと一人にしてくれたりもして、かなり大切にされていた。
「私はいいんですけど、ジークさんは何かしてほしいこととかないのかなぁって思っちゃうんですよね」
「お兄様のことだからお姉様と一緒にいるだけで幸せだと言うと思うわ」
 だって、自分の事を見てくれて、受け入れてくれて、傍に居てくれるのだから。
 それは王子として育ってきたジークハルトにとって、幸せなこと。マリーナの言葉にシャロンはそうかと頷く。彼にとって今が一番、自由なのだと。
「ジークハルト様は公務にもしっかりとやってくださっていますので、現国王のムジラーク様も安心しております。元気そうだと」
「お兄様。お姉様と結婚してからもう元気というか、明るくなったのよねぇ。もうびっくり。周囲の人たちから素敵な人に出逢えてよかったって言われているのよ。ほんとにそう思うわ」
 お姉様には感謝しているのよ。マリーナは嬉しそうに話す。グリュムントも同意するように頷いていた。
 私も感謝してるのだけどなとシャロンは思ったけれど、マリーナたちの表情を見て言葉にするのを止めた。
 なんだか、自分の気持ちも伝わっているように感じられたからだ。
「シャロン、すまない。戻ってきた」
「お兄様、おっそーい!」
「お前は頻繁に遊びくるのはどうなんだ、マリーナ」
「大好きなお姉様とお兄様に会って話したいんだもーん」
 それに此処は居心地が良いのよとマリーナは言う。
 ジークハルトがグリュムントを見遣れば、彼は無言で首を左右に振った。自分にはどうにもできないというように。
 グリュムントは男性であり、本来ならば里に入ることは許されない。けれど、この国の姫であるマリーナの護衛は常に傍に居なくてはならなかった。
 長である三姉妹は協議し、里の者に手を出さないこと、許可なくうろつかないことなど条件をいくつか守る誓約書を結ぶことで、グリュムントのみ出入りを許したのだ。
 ジークハルトが里の一員となったとはいえ、彼が王族であることは変えられない。
 それにこの国の姫を無碍にすることは、この土地で暮らすハルピュイアもできないことだ。
 ハルピュイアは家族を仲間を大切にする一族。仲間の家族もそれは同じであるため、ハルピュイアの結婚式では親族のみ男性を里に招くことを許されている。国王が参列できたのはこれが理由だ。
「ただ、親族以外での出入りの許可が下りた前例がないので、グリュムントさんはかなり目立っているのですよね……」
「そうなのよねぇ。成人の儀を迎える前のハルピュイアたちから声かけられてるし。まぁ、顔は良いものね、顔は」
「そこを強調しないでほしいのですが、姫」
「だって、性格は暗いじゃない」
 ちょっと頭も固いし。ずばずばと言うマリーナにグリュムントは言い返せない。本当の事だからだ。
 見ていて可哀そうになってくるほどにはへこんでいる。それを見かねてジークハルトが「それぐらいにしておけ」とマリーナを注意した。
 グリュムント自身は誓約書を結んでいるので、里のハルピュイアと話す時にはかなり気を付けている。
 けれど、どうしても気になるようでハルピュイアたちは寄ってくるのだ。
「アエロー様たちも注意はしてくれているのですけど、やっぱり若い子だから好奇心旺盛で……」
「大丈夫ですよ。興味の対象になるのは理解しておりますから」
「いいじゃない。王城では女性陣から避けられまくってるんだし。ハルピュイアたちで女性への免疫力を上げなさい」
 マリーナの止めのような言葉にグリュムントは「はい」と力無く返事を返した。
 ジークハルトがまた彼女を叱っているのをシャロンは微笑ましく眺めてしまう。
「シャロン、客人が来ているのだろう! 母が手土産を持ってきてやったぞ!」
「お母さん……」
「おばさまー!」
 ナタリーが豪快に扉を開けて入ってきた、籠一杯の菓子を持って。
 マリーナはぱっと明るくしながら彼女に抱き着く。マリーナはシャロンの両親にも懐いていた。
 抱き着くマリーナは抱きしめ返しながらナタリーは籠をテーブルに置く。今日もお姫様は元気が良いなと笑いながら。
「マリーナが来ているのは知っているぞ。何せ、若いハルピュイアが騒いでいたからな」
 付き人が目立つからなと悪気なく言ったナタリーに、グリュムントが「申し訳ない」とまたへこんだ。
 そんな様子に「どうしたのだ?」と、ナタリーは首を傾げた。
 ちょっといろいろあってとシャロンが話せば、何を思ったのかナタリーが「それならば」と手を打つ。
「里の娘を紹介してやろう! お前を受け入れてくれるハルピュイアはいるぞ!」
「お母さん、そういうことじゃないよ! それに次の成人の儀まではまだ日数があるでしょうが!」
 成人の儀を迎えなければ、夫を見つけることはできない。そういった決まりなのでシャロンが止めるのだが、ナタリーは「紹介してはいけないわけではない」と言う。
 成人の儀を迎えた時にグリュムントを選べばいいだけなのだと。
 いや、誓約書を結んでいるからと反論してみるも、「ハルピュイアから手を出すなとは言われていない」と言い返された。
「こいつから手を出すことは駄目だが、ハルピュイアからは許している。そもそも、アエロー様はそれも見越しているはずさ」
「う、うわぁ……」
「良かったわね! 生涯独身じゃなくて済むわよ、グリュムント!」
「……考えさせてください」
 心の準備がと言うグリュムントなど無視するように、ナタリーとマリーナがそうしましょうと話を勝手に決めていく。
 助けを求めるようにジークハルトは見られたが、俺には無理だと彼の肩を叩いた。
「シャロンの母は一度、決めたらやり通す。頑張ってくれ」
「ジークハルト様!」
 うわぁとグリュムントはナタリーに首根を掴まれてマリーナと共に連れていかれてしまった。
 シャロンは手を合わせてながら心の中で謝罪する。
「シャロン、気にするな」
「母が申し訳ない……」
「グリュムントなら場を切り抜けられるだろうさ」
 あいつはマリーナの我儘にもついていけるのだからと、ジークハルトはあまり心配はしていなかった。
 ということは、対人スキルはあるということなのだろう。母が暴走しなければいいのだがと、それだけをシャロンは心配することにした。
「マリーナがいつもすまない」
「大丈夫ですよ。マリーナちゃんとは気軽に話せるので」
 可愛い妹なのでとシャロンは返す。一人っ子であるシャロンにとって、義理とはいえ妹ができたのは嬉しかった。
 気軽に話せるし、慕ってくれる。愚痴も聞いてくれるからと。
 ジークハルトは「マリーナは聞き上手だからな」と小さく笑う。彼も話を聞いてもらっていた経験があるようだ。
 外からきゃあきゃあと騒ぐ声がする。きっとグリュムントは若いハルピュイアたちに囲まれて困っている頃だろう。
「今日も里は賑やかだなぁ」
「今、賑やかにしているのはグリュムントたちだがな」
「良いと思うますよ。平和って感じがして」
 これぐらい賑やかなほうが楽しいからとシャロンが言えば、ジークハルトは確かにと頷く。それは幸せを確かめあうようだった。
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