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36頭目 甥っ子と錬金術師

ー/ー



 今日は、本須賀喫茶へチーズを納品。外回りで疲れたから、俺はコーヒー片手に一息ついているところだ。
「チャイ、サイコーっ!」
 俺の傍らで、牛郎はチャイを飲み干してご満悦。甥っ子よ、チャイは本来一気飲みするものじゃないぞ。
「おっ、来たか鋼の」
 扉の呼び鈴が鳴り、店内に来客を知らせる。蒲田さんの口ぶりからすると常連客のようだが、それにしても鋼とは随分と厳つい通り名だ。
「……ほっ、ひゃっへるはい!?」
 そこにいたのは、タンクトップにタイツで禿げ頭の痩身な男。もしかして、歯がねぇの聞き間違いだったか?
『バチバチッ!』
 男は表情を曇らせたかと思えば、いきなり自身の頬を引っ叩く。すると、彼の掌にスタンガンのような電撃が走った。
「ふぅ……。やっぱり、歯がないと喋りにくいね?」
 は……歯が生えた!? 俺は一瞬、自分の目を疑った。
「そりゃそうさぁ。8020(ハチマルニイマル)運動っていうくらいだろ?」
 蒲田さん、それは入れ歯前提の人物にする話だ。歯を生み出す人物に語るのはお門違いというもの。
「……鋼のおじさん、すごいっ!!」
 男の術に魅入られて、牛郎の目は煌めいている。一方、俺は眼前の出来事が理解できずに周回遅れとなっている。
「それにしても、今日の数式はえらく出来が良さそうじゃねぇか」
 数式……それは、パソコンの事務作業で使う関数のことか? 数式と眼前の術がどう関係しているのか、俺には皆目見当がつかない。
「おうよ! この数式、ようやくバグが修復出来たしな!!」
 鋼の男は、さもITエンジニアのような会話をしている。我が国ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が叫ばれているけれど、玄人となると錬金術を扱えるのか……?
「定年迎えて、ようやく夢を叶えたな」
 蒲田さんはクスッと笑っているが、そこはしみじみする場面なのか……? 話題は飛躍して、もはや大気圏を突破してしまいそうだ。
「よぉし、僕も負けないぞぉっ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 男の錬金術に対抗心を燃やしているのか、牛郎は自慢の九字切りを披露している。相変わらずキレッキレな動きなのだが、残念ながら対抗できる次元ではなさそうだ。
「おおっ、やるじゃねえかお前! 俺も負けねぇぞ!! GHAPE(ガッペ)むかつく!!」
 何だか、店内の空気がカオスになってきたぞ……。というより、GHAPEってあの米国大手5大企業のことか?
「GHAPEも見る目がねぇよなぁ。日本が誇る世界的ITエンジニア・金岡錬師(かねおかれんじ)を、こうもあっさり切り捨てちまうんだもの……」
 よく分からないが、良くも悪くもヤバい人物ということだけは分かる。電子レンジのような危険人物を、GHAPEが切り捨てるのも頷ける。
「おい、そこの馬面! お前に一言物申す!!」
 ヤバいぞ……錬師は変なテンションのまま俺に絡んできた。生卵を電子レンジで温めてしまったかのような、ゾッとする冷や汗が溢れてきた。
「物申すーっ!」
 甥っ子よ、この期に及んで悪ノリをするんじゃない。無邪気というのは、時に罪深いものだ。
「=SUM(horse:face,Minotaur:child……)」
 錬師は何やら、スマートウォッチを見ながらぶつくさ言っている。おそらくメモ帳の数式を確認しているだろうが、傍から見ると錬金術師の詠唱そのもの。
「おっ、今日はどんな面白い数式を披露するんだぁ?」
 蒲田さん、もはや高みの見物。少しくらい、俺を庇ってくれてもいいんじゃないか?
「ドーンっ!!!」
 どういう訳か、錬師は牛郎を蹴り飛ばした。しかも、俺に向かって……。
「わぁーーーっっっ!!!」
 牛郎が接触した途端、電撃が俺の体を貫いた。何だろう、意識が遠のいていく……。

ーーー

「……あれ?」
 鋼のおじさんに蹴り飛ばされて、おじさんとぶつかった。そこから記憶が途切れていて、やっと気付いたのが今。
 何だろう……足に違和感がある。痛いとかじゃなくて、根本的に何かが違う。
「……」
 かま爺は言葉を失っているけど、何が起きたの? 気のせいかな、僕の足元を見ているようだけど……?
「えっ……えぇーーーっっっ!!?」
 僕の足、4つになってる!? けれど、全部馬の足だ……。
「これが融合の数式……。鋼ちゃん、ゾクゾクしちゃうぜぇ!!」
 どうやら、僕はおじさんと合体しちゃったみたい。これ……厨二の夢じゃん!!
「融合って、要するにミノケンタウルスじゃないか!!」
 今のは僕の言葉じゃない。信じられないかも知れないけど、僕の口は別の心を持っているみたいだ。
「融合はいいが、元に戻れるのか!?」
 どうやら、僕の口は心配性。何だか、おじさんみたいな事を言っているなぁ?
「そだね……まぁ、何とかなるでしょ?」
 鋼のおじさん、キョトンとしている。別に、僕はこの足カッコよくて好きだけどね?
「そだね……じゃないだろ! 何とかしろ、このハゲぇーーーっ!!!」
 僕の思いに反して、口は暴言を吐いている。そして、僕の拳は鋼のおじさんを快適な空の旅へ導いた。
 そこから記憶は途切れたけど、僕達は何やかんやあって元に戻った。うん、何やかんや。


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 今日は、本須賀喫茶へチーズを納品。外回りで疲れたから、俺はコーヒー片手に一息ついているところだ。
「チャイ、サイコーっ!」
 俺の傍らで、牛郎はチャイを飲み干してご満悦。甥っ子よ、チャイは本来一気飲みするものじゃないぞ。
「おっ、来たか鋼の」
 扉の呼び鈴が鳴り、店内に来客を知らせる。蒲田さんの口ぶりからすると常連客のようだが、それにしても鋼とは随分と厳つい通り名だ。
「……ほっ、ひゃっへるはい!?」
 そこにいたのは、タンクトップにタイツで禿げ頭の痩身な男。もしかして、歯がねぇの聞き間違いだったか?
『バチバチッ!』
 男は表情を曇らせたかと思えば、いきなり自身の頬を引っ叩く。すると、彼の掌にスタンガンのような電撃が走った。
「ふぅ……。やっぱり、歯がないと喋りにくいね?」
 は……歯が生えた!? 俺は一瞬、自分の目を疑った。
「そりゃそうさぁ。|8020《ハチマルニイマル》運動っていうくらいだろ?」
 蒲田さん、それは入れ歯前提の人物にする話だ。歯を生み出す人物に語るのはお門違いというもの。
「……鋼のおじさん、すごいっ!!」
 男の術に魅入られて、牛郎の目は煌めいている。一方、俺は眼前の出来事が理解できずに周回遅れとなっている。
「それにしても、今日の数式はえらく出来が良さそうじゃねぇか」
 数式……それは、パソコンの事務作業で使う関数のことか? 数式と眼前の術がどう関係しているのか、俺には皆目見当がつかない。
「おうよ! この数式、ようやくバグが修復出来たしな!!」
 鋼の男は、さもITエンジニアのような会話をしている。我が国では|DX《デジタルトランスフォーメーション》の推進が叫ばれているけれど、玄人となると錬金術を扱えるのか……?
「定年迎えて、ようやく夢を叶えたな」
 蒲田さんはクスッと笑っているが、そこはしみじみする場面なのか……? 話題は飛躍して、もはや大気圏を突破してしまいそうだ。
「よぉし、僕も負けないぞぉっ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 男の錬金術に対抗心を燃やしているのか、牛郎は自慢の九字切りを披露している。相変わらずキレッキレな動きなのだが、残念ながら対抗できる次元ではなさそうだ。
「おおっ、やるじゃねえかお前! 俺も負けねぇぞ!! |GHAPE《ガッペ》むかつく!!」
 何だか、店内の空気がカオスになってきたぞ……。というより、GHAPEってあの米国大手5大企業のことか?
「GHAPEも見る目がねぇよなぁ。日本が誇る世界的ITエンジニア・|金岡錬師《かねおかれんじ》を、こうもあっさり切り捨てちまうんだもの……」
 よく分からないが、良くも悪くもヤバい人物ということだけは分かる。電子レンジのような危険人物を、GHAPEが切り捨てるのも頷ける。
「おい、そこの馬面! お前に一言物申す!!」
 ヤバいぞ……錬師は変なテンションのまま俺に絡んできた。生卵を電子レンジで温めてしまったかのような、ゾッとする冷や汗が溢れてきた。
「物申すーっ!」
 甥っ子よ、この期に及んで悪ノリをするんじゃない。無邪気というのは、時に罪深いものだ。
「=SUM(horse:face,Minotaur:child……)」
 錬師は何やら、スマートウォッチを見ながらぶつくさ言っている。おそらくメモ帳の数式を確認しているだろうが、傍から見ると錬金術師の詠唱そのもの。
「おっ、今日はどんな面白い数式を披露するんだぁ?」
 蒲田さん、もはや高みの見物。少しくらい、俺を庇ってくれてもいいんじゃないか?
「ドーンっ!!!」
 どういう訳か、錬師は牛郎を蹴り飛ばした。しかも、俺に向かって……。
「わぁーーーっっっ!!!」
 牛郎が接触した途端、電撃が俺の体を貫いた。何だろう、意識が遠のいていく……。
ーーー
「……あれ?」
 鋼のおじさんに蹴り飛ばされて、おじさんとぶつかった。そこから記憶が途切れていて、やっと気付いたのが今。
 何だろう……足に違和感がある。痛いとかじゃなくて、根本的に何かが違う。
「……」
 かま爺は言葉を失っているけど、何が起きたの? 気のせいかな、僕の足元を見ているようだけど……?
「えっ……えぇーーーっっっ!!?」
 僕の足、4つになってる!? けれど、全部馬の足だ……。
「これが融合の数式……。鋼ちゃん、ゾクゾクしちゃうぜぇ!!」
 どうやら、僕はおじさんと合体しちゃったみたい。これ……厨二の夢じゃん!!
「融合って、要するにミノケンタウルスじゃないか!!」
 今のは僕の言葉じゃない。信じられないかも知れないけど、僕の口は別の心を持っているみたいだ。
「融合はいいが、元に戻れるのか!?」
 どうやら、僕の口は心配性。何だか、おじさんみたいな事を言っているなぁ?
「そだね……まぁ、何とかなるでしょ?」
 鋼のおじさん、キョトンとしている。別に、僕はこの足カッコよくて好きだけどね?
「そだね……じゃないだろ! 何とかしろ、このハゲぇーーーっ!!!」
 僕の思いに反して、口は暴言を吐いている。そして、僕の拳は鋼のおじさんを快適な空の旅へ導いた。
 そこから記憶は途切れたけど、僕達は何やかんやあって元に戻った。うん、何やかんや。