「ミノタウルスバーガーのトレジャーセットと……おじさんは何にする?」
俺は今、牛郎とハンバーガーのドライブスルーへ向かうところだ。その傍らで、牛郎は俺のスマートフォンを弄くり回している。
決してゲームをしているわけじゃなく、専用アプリケーションからオーダーしているのだとか。吉野屋もそうだが、世の中の飲食店は様変わりが著しい。
「あっ、これいいじゃん! 馬刺しバーガー」
けれど、そういうオーダーはアナログ世代のからすれば半信半疑だ。ん……? 甥っ子よ、それは馬面な俺に対する当てつけか……?
そうこうしているうちに、俺達は『10』の文字が誇張されたロゴデザインの建物へやってきた。ここが、牛郎がオーダーをかけていたハンバーガー店『テン・バイヤーズ』だ。
店の玄関口にはベンチが設置されており、そこには道化師を思わせる奇抜な身なりのオブジェが座している。
この道化こそ、創業者のロナウド・テンバイヤーだ。自身をオブジェにするあたり、彼はかなりの変人なのだろうと勘繰ってしまう。
とりあえず、注文口へ向かおう。さて、注文はと……。
「おじさん、この画面をかざして!」
その矢先、牛郎が俺の顔にスマートフォンを押し付けてきた。要領は得ていないのだが、とりあえずQRコードをかざせば良いのか?
『My favorite!』
イケオジボイスとともに、画面にはその一文字が展開された。どうやら、これでオーダーは完了らしい。
デジタル技術の進歩は目を見張るものがあるが、まさかここまでとは。……というより、結局俺のオーダーは馬刺しバーガーなんだな。
「ありがとうございました!」
何と、わずか数分でドライブスルーが終わってしまった。ここまで来ると、もはやファーストフードならぬ光速フードか?
「いただきまーす!」
牛郎が大口を開けて頬張っているのは、牛ミノをふんだんに盛り込んだミノタウルスバーガー。ミノタウルスがミノタウルスバーガーを食らうって、もう共食い以外の何物でもないじゃないか。
「うん……」
俺の初手はフライドポテト。光速なのはいいが、ポテトの味をラードで誤魔化しているのがあからさまだ。
俺がテン・バイヤーズをあまり好きになれないのは、こういう大味なところだ。それに、これはどことなく食べたことのある味わい。
グルメ界隈では、『ロナウドの噂』という都市伝説がある。その一つは、テン・バイヤーズの商品は闇ルートから転売されているというもの。
そんな話を聞くと、このポテトの味も妥当だろう。火のないところに煙は立たないって言うくらいだしな。
「おっ、これは何だかお宝の匂いっ!」
そして何より、トレジャーセットのおまけは完全にワイルドカード。これも一説には、闇ルートからの転売品と噂されている。
「馬刺しバーガー、思ったより悪くないな……」
馬刺しにわさび醤油ソース、何ともパンチの効いたメリハリある味わい。仮に転売品だとしても、これはなかなかに絶品だ。
牛郎はゴリ押ししているようだけど、実は的を射た選択をしている。子供の眼力は、侮れないものがある。
「おじさん、このキャラ知ってる……?」
牛郎は、トレジャーセットのおまけを俺にちらつかせた。甥っ子よ……それは『ドラゴン・クリスタル』50周年記念特別仕様の500円硬貨じゃないか!?
ーー
「ハッハッハ……!」
スマートフォンを片手に高笑いしている男の名は、ロナウド・テンバイヤー。道化を思わせる奇抜な身なりをしているが、こう見えて世界屈指の資産家である。
「ロナウドは、嬉しくなるとつい買っちゃうんだ!」
彼は気ままに不動産を売買し、気付けば巨万の富を得ていた。やがて、主要都市を掌握することで世界を裏から牛耳る存在となる。
彼は身なりにとどまらず、おちょくるような言動でも相手を振り回す。そういう意味で、名実ともに道化と言える。
「……あわーっ!」
それ故、彼を快く思わぬ人物も少なからずいる。そんな男が最期に見たのは、ローブを纏った正体不明の暗殺者だった。