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第161話 確認の前の確認事項

ー/ー



 まるで宣戦布告のような言葉を言ったものの、今の俺は無策に等しかった。
 選択肢というか、相談先の順番をどうしたものか考える。
 樫田に話すのが一番無難な気がするが、これは椎名にも説明しないといけないことだった。

「つってもな……」

 人波に身を任せながら、駅から離れていく。
 樫田は知っているからいいとして椎名にはどう説明したものだろうか。最悪マジギレするんじゃないだろうか。いや、てかこの春大会直前の今言うの? え、マジで? うわ乗り気しねーな。

「…………とりあえず、樫田に連絡するか」

 スマホを取り出して画面を見る。
 すると、俺の行動を予測していたかのように樫田から通知が来ていた。
 思わず、にやけてしまった。

「さすがだよ」

 俺は急ぎ駅の方へと踵を返した。
 そのまま、駅向かいのショッピングモールへと歩み出す。
 いつもの場所。そう思うには最近行ってなかったが、二階のフードコートへとやってきた。
 連絡にあった通り、入ってすぐの隅の方に樫田たちは陣取っていた。

「よお、遅かったな」

「ランデブーは楽しかったか?」

「お疲れー、杉野―」

 樫田と大槻、山路の男子三人組が笑顔で迎えてくれた。
 少し気が軽くなりながら、俺は空いているイスに座る。

「誰がランデブーだよ」

「じゃあデートか……あれ? どう違うんだ?」

「デートは英語でランデブーはフランス語だねー。意味的には合う約束とかー」

「へぇー」

 へぇー、そうなのか。詳しいな山路。
 大槻と俺が山路の説明に頷いていると、樫田が呆れた。

「そんな話をしに来たんじゃないだろ」

「おおっと、そうだった。田島についてなんだが――」

 俺はさっきの帰り道でのことを三人に話した。
 大槻と山路は驚いていたが、樫田だけは特に表情を変えることなくただただ黙っていた。

「ふーん」

「なんだよ大槻。言いたいことがあるなら言えよ」

「いや、今回俺たちはオブザーバーだから」

「だねー。静かに二人の会話を聴いているよ―」

 何オブザーバーって。当たり前のように横文字使うなよ。ちょっとかっこいいだろ。
 よく分からないが二人は参加せずに聴き役に徹するようだ。本当かよ。
 そう思いながら、俺は正面の樫田へと目線を向ける。
 樫田は俺たちのやり取りが一通り終わると、口を開いた。

「さて、杉野。お前は俺から何を聞きたい?」

「え?」

 予想外の問いに、俺は思わず声が漏れた。
 てっきり説明すれば樫田が何かを言ってくれるものかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
 戸惑っている俺に、樫田は優しく提案する。

「別に意地悪しているわけじゃないんだ。ただ、何から聞きたいのかなと思ってな。全国のこと? 高校演劇のこと? それとも田島との関係?」

「そうだな……まずいくつか確認させてくれないか?」

「ああいいぞ」

 会話の中で少しずつ頭が回りだしていく。
 そうか、言わなきゃいけないことが多いから樫田は俺に順序を委ねてくれたんだ。

「樫田は田島が全国を目指すことを知っていたのか?」

「まぁ、明確に宣言されたわけじゃないが、薄々な……ほら、覚えているか? 前に田島と池本と四人で話したことがあっただろ?」

「ああ。一年が入部してすぐのことだよな」

「そう。あの時から、たぶんそうなんだろうなと思ってはいた」

 マジかよ……ああ、そういえばあの時、田島の口から全国ってワードが出てたな。
 話していると明確に思い出す。
 じゃあ、あの時には既に目指していたのか。あれ? でも待てよ?

「その割に、田島が手を抜いていることの理由は知らない感じだったな」

「そこなー。まさか来年のために今年を捨てる選択をすると思ってなくてな」

 (てのひら)を見せて参ったのポーズをしながら空笑(そらわら)いをする樫田。
 ああ、なるほど。結びついていなかったのか。

「田島が樫田のこと一番信用している先輩って言ってたんだけど」

「そりゃ、あれだ。田島の中の評価ではって話だろ? 特別仲いいわけじゃないぞ」

 評価、か。田島が全国を目指す話をしていた時のシビアな表情を思い出す。
 たぶん樫田の言う通りなのだろう。

「樫田から観て、田島の演技をどう思う?」

「……どうだろうな。現状分からないというのが正しい答えなんだろうな」

 樫田はどこか寂しげな表情だった。
 それは手を抜いているからか、あるいは――。
 俺はニュアンスを変えることにした。

「じゃあ、来年田島たちは全国に行けるのか?」

「それこそ、来年の話をすると鬼が笑うっていうふざけた慣用句があるがその通りで、ここで話しても仕方のないことだろ?」

 本当に分からないのか、言いたくないのか、あるいは認めていないのか。
 樫田は来年のことを話す気はないようだ。
 ただその通りでもある。今話すべきなのは田島が演技の手を抜いていることであり、来年のことはその余談でしかない。
 そして、樫田と本格的に話さないといけないことは別にある。
 そのための重要な確認をする。
 一直線に見据える。樫田の表情から出る感情を見落とさないようにして。

「なぁ樫田。お前は俺たちが全国に行けないと思っているのか?」


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 まるで宣戦布告のような言葉を言ったものの、今の俺は無策に等しかった。
 選択肢というか、相談先の順番をどうしたものか考える。
 樫田に話すのが一番無難な気がするが、これは椎名にも説明しないといけないことだった。
「つってもな……」
 人波に身を任せながら、駅から離れていく。
 樫田は知っているからいいとして椎名にはどう説明したものだろうか。最悪マジギレするんじゃないだろうか。いや、てかこの春大会直前の今言うの? え、マジで? うわ乗り気しねーな。
「…………とりあえず、樫田に連絡するか」
 スマホを取り出して画面を見る。
 すると、俺の行動を予測していたかのように樫田から通知が来ていた。
 思わず、にやけてしまった。
「さすがだよ」
 俺は急ぎ駅の方へと踵を返した。
 そのまま、駅向かいのショッピングモールへと歩み出す。
 いつもの場所。そう思うには最近行ってなかったが、二階のフードコートへとやってきた。
 連絡にあった通り、入ってすぐの隅の方に樫田たちは陣取っていた。
「よお、遅かったな」
「ランデブーは楽しかったか?」
「お疲れー、杉野―」
 樫田と大槻、山路の男子三人組が笑顔で迎えてくれた。
 少し気が軽くなりながら、俺は空いているイスに座る。
「誰がランデブーだよ」
「じゃあデートか……あれ? どう違うんだ?」
「デートは英語でランデブーはフランス語だねー。意味的には合う約束とかー」
「へぇー」
 へぇー、そうなのか。詳しいな山路。
 大槻と俺が山路の説明に頷いていると、樫田が呆れた。
「そんな話をしに来たんじゃないだろ」
「おおっと、そうだった。田島についてなんだが――」
 俺はさっきの帰り道でのことを三人に話した。
 大槻と山路は驚いていたが、樫田だけは特に表情を変えることなくただただ黙っていた。
「ふーん」
「なんだよ大槻。言いたいことがあるなら言えよ」
「いや、今回俺たちはオブザーバーだから」
「だねー。静かに二人の会話を聴いているよ―」
 何オブザーバーって。当たり前のように横文字使うなよ。ちょっとかっこいいだろ。
 よく分からないが二人は参加せずに聴き役に徹するようだ。本当かよ。
 そう思いながら、俺は正面の樫田へと目線を向ける。
 樫田は俺たちのやり取りが一通り終わると、口を開いた。
「さて、杉野。お前は俺から何を聞きたい?」
「え?」
 予想外の問いに、俺は思わず声が漏れた。
 てっきり説明すれば樫田が何かを言ってくれるものかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
 戸惑っている俺に、樫田は優しく提案する。
「別に意地悪しているわけじゃないんだ。ただ、何から聞きたいのかなと思ってな。全国のこと? 高校演劇のこと? それとも田島との関係?」
「そうだな……まずいくつか確認させてくれないか?」
「ああいいぞ」
 会話の中で少しずつ頭が回りだしていく。
 そうか、言わなきゃいけないことが多いから樫田は俺に順序を委ねてくれたんだ。
「樫田は田島が全国を目指すことを知っていたのか?」
「まぁ、明確に宣言されたわけじゃないが、薄々な……ほら、覚えているか? 前に田島と池本と四人で話したことがあっただろ?」
「ああ。一年が入部してすぐのことだよな」
「そう。あの時から、たぶんそうなんだろうなと思ってはいた」
 マジかよ……ああ、そういえばあの時、田島の口から全国ってワードが出てたな。
 話していると明確に思い出す。
 じゃあ、あの時には既に目指していたのか。あれ? でも待てよ?
「その割に、田島が手を抜いていることの理由は知らない感じだったな」
「そこなー。まさか来年のために今年を捨てる選択をすると思ってなくてな」
 |掌《てのひら》を見せて参ったのポーズをしながら|空笑《そらわら》いをする樫田。
 ああ、なるほど。結びついていなかったのか。
「田島が樫田のこと一番信用している先輩って言ってたんだけど」
「そりゃ、あれだ。田島の中の評価ではって話だろ? 特別仲いいわけじゃないぞ」
 評価、か。田島が全国を目指す話をしていた時のシビアな表情を思い出す。
 たぶん樫田の言う通りなのだろう。
「樫田から観て、田島の演技をどう思う?」
「……どうだろうな。現状分からないというのが正しい答えなんだろうな」
 樫田はどこか寂しげな表情だった。
 それは手を抜いているからか、あるいは――。
 俺はニュアンスを変えることにした。
「じゃあ、来年田島たちは全国に行けるのか?」
「それこそ、来年の話をすると鬼が笑うっていうふざけた慣用句があるがその通りで、ここで話しても仕方のないことだろ?」
 本当に分からないのか、言いたくないのか、あるいは認めていないのか。
 樫田は来年のことを話す気はないようだ。
 ただその通りでもある。今話すべきなのは田島が演技の手を抜いていることであり、来年のことはその余談でしかない。
 そして、樫田と本格的に話さないといけないことは別にある。
 そのための重要な確認をする。
 一直線に見据える。樫田の表情から出る感情を見落とさないようにして。
「なぁ樫田。お前は俺たちが全国に行けないと思っているのか?」