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鏡の中の私 ⑤

ー/ー



 月日は流れ、自分が通う美術学校の展覧会に足を運んだ時のこと。
 なんと、「私」は「鏡の中の私」と再会した。
 彼女は私と同じ顔を持ちながら、少し長い髪と異なる装いをしていた。
 それは鏡の中で見慣れていた私だった。

「隣に住んでいたの?」

 ようやく声を絞り出すことができた。


 私たちは静かなカフェに席を移し、それぞれの人生を語り合った。
 隣の部屋に住んでいたこと、壁に埋め込まれた特殊なガラスの存在を知っていたこと。
 そして好奇心から私と会話を重ねたことを告白してくれた。

「私は養子だったの」

 彼女は語る。

「生まれた時、双子の妹がいるなんて知らなかった。でも、あなたを見つけたとき、すぐに気付いたの」

 私達は、互いの存在を知らずに育った双子の姉妹なのであった。
 奇跡のような巡り合わせで、同じアパートの隣同士に住んでいたのだった。

「なぜ教えてくれなかったの?」

「驚いて、何も言えなかったの」

 彼女は静かに答えた。

「あなたが私を『鏡の中の自分』だと思っていることに気付いて、なんとなく続けてしまったの。ごめんなさい」

「でも、急に姿を消したのは……」

「急な転勤で引っ越さなければならなかったの。でも、あなたに会いたくて、美術学校の展覧会の案内を見て来たの」

 私たちは互いの顔を見つめた。
 二人の私は、ようやく一つの真実を共有することができた。

* * *


 その日を境に、私たちは長い歳月を越え、姉妹としての時間を重ねるようになった。
 彼女の描く絵は、私の想像を超えていた。
 大胆な筆致と鮮烈な色彩は、私の大人しめな画風とは異なる。
 しかし、その根底に流れる感覚は、どこか共鳴し合っているように感じた。
 いつか二人で展覧会を開く。それが私達の目標となった。

 後に分かったことなのだが、あのアパートはかつて一つの広間として設計され、後に分割されたということだった。
 あのガラスは、その名残として壁に残された奇妙な遺物だったのだ。



 時折、私はあの「鏡」を思い返す。
 あのガラス越しの彼女の姿が、私の知らなかった私を教えてくれたということは確かだ。
 相手の言葉が自らの声のように響き、相手の仕草が自らの動作のように感じられた。
 そして、それは私の内側に潜むものを映し出していたように思えた。
 そう考えれば、あのガラスはやっぱり「鏡」だったのだ。


< 了 >





みんなのリアクション

 月日は流れ、自分が通う美術学校の展覧会に足を運んだ時のこと。
 なんと、「私」は「鏡の中の私」と再会した。
 彼女は私と同じ顔を持ちながら、少し長い髪と異なる装いをしていた。
 それは鏡の中で見慣れていた私だった。
「隣に住んでいたの?」
 ようやく声を絞り出すことができた。
 私たちは静かなカフェに席を移し、それぞれの人生を語り合った。
 隣の部屋に住んでいたこと、壁に埋め込まれた特殊なガラスの存在を知っていたこと。
 そして好奇心から私と会話を重ねたことを告白してくれた。
「私は養子だったの」
 彼女は語る。
「生まれた時、双子の妹がいるなんて知らなかった。でも、あなたを見つけたとき、すぐに気付いたの」
 私達は、互いの存在を知らずに育った双子の姉妹なのであった。
 奇跡のような巡り合わせで、同じアパートの隣同士に住んでいたのだった。
「なぜ教えてくれなかったの?」
「驚いて、何も言えなかったの」
 彼女は静かに答えた。
「あなたが私を『鏡の中の自分』だと思っていることに気付いて、なんとなく続けてしまったの。ごめんなさい」
「でも、急に姿を消したのは……」
「急な転勤で引っ越さなければならなかったの。でも、あなたに会いたくて、美術学校の展覧会の案内を見て来たの」
 私たちは互いの顔を見つめた。
 二人の私は、ようやく一つの真実を共有することができた。
* * *
 その日を境に、私たちは長い歳月を越え、姉妹としての時間を重ねるようになった。
 彼女の描く絵は、私の想像を超えていた。
 大胆な筆致と鮮烈な色彩は、私の大人しめな画風とは異なる。
 しかし、その根底に流れる感覚は、どこか共鳴し合っているように感じた。
 いつか二人で展覧会を開く。それが私達の目標となった。
 後に分かったことなのだが、あのアパートはかつて一つの広間として設計され、後に分割されたということだった。
 あのガラスは、その名残として壁に残された奇妙な遺物だったのだ。
 時折、私はあの「鏡」を思い返す。
 あのガラス越しの彼女の姿が、私の知らなかった私を教えてくれたということは確かだ。
 相手の言葉が自らの声のように響き、相手の仕草が自らの動作のように感じられた。
 そして、それは私の内側に潜むものを映し出していたように思えた。
 そう考えれば、あのガラスはやっぱり「鏡」だったのだ。
< 了 >


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