午前5時45分
爆音の電子音に叩き起こされた。
定期的に蘇ってくるトラウマ。
あんなもん何度繰り返そうと
慣れるはずもなく、
悪夢から救い出してくれた目覚まし音に
いつもは抱かない感謝の意を持ちつつも
目覚めは最悪だ。
窓の外の景色はいつも通り薄暗い、
別に早朝だからって訳では無く
この街はいつだってそうなのだ。
蒼い太陽に選ばれた
新人類が暮らしている
蒼天街(ソウテンガイ)と比べて
日の光が1/10程も降り注がない
落影街(ラクエイガイ)で
俺は6歳から暮らしている。
玄関に掛けられている表札には
日笠家と記されており
その右側には続いて
4人の名前が縦に並ぶ
上から父親の光夜(コウヤ)
その下に母親の鈴李(スズリ)
そして俺の名前、白夜(ハクヤ)
最後に1歳年下の弟 光星(コウセイ)
今この家に住んでいるのは
今年18歳になった俺一人だけ。
そんな生活も3年続けば
日常になってしまった。
のっそりと上体をおこし
ベッドの上の身体を滑らせる、
途端に視界が真っ暗になった
というより真っ黒に。
18歳のお年頃な少年、
そんな言葉とは無縁の俺だ。
父親譲りのボッサボサの癖っ毛は
四方にちりぢり伸びたい放題で
バサっと視界を覆った。
毛先の触れる感覚としては
肩甲骨辺りまではありそうだ。
枕元の棚からヘアバンドを取り
うざったい視界をクリアにしたら
鏡のない洗面台へと向かう、
”黒”の無い世界に少しだけ
先ほどまでの憂鬱が
軽減したのを感じた。
3年前、あの海に溺れた夜から
俺は”黒”が嫌いだ。
いや、怖い。
それなのにこの長髪を
バッサリいけないのは
我ながら何に対して執着してるのか。
外見で言うならこの癖っ毛と
男らしさとひ弱さを両立した
太めの垂れ眉毛、
そしていつの間にか180を超えた
この身長は間違い無く父親譲り、
だが元々日焼けしたような小麦肌だった
父親とは違って、俺の肌は
母親にそっくりで真っ白だ。
父は母の陶器のような白い肌が大好きで
我が子には自分に似て小麦色の肌に
ならないよう願い続けていたらしい。
そうして無事母親から
受け継がれた真っ白な肌と
おまけで付いてきた切れ長な目、
ひょろっとした長身に
ボッサボサの癖っ毛の組み合わせは
自身を俗に言う『パッとしない奴』に
仕上げているであろうという自覚はある。
薄暗かった世界に
街灯の灯りが増え始め
影の街に朝が来た。