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第159話 成し遂げたいこと

ー/ー



「いつから、気づいていたんですか?」

 歩きながら、始めに田島が聞いてきたのはそんなことだった。
 身長差があるため、俺は斜め右を見た。
 隠すこともないだろうと本当のことを話す。

「一番初めの立ち稽古からだな」

「最初っからってことですね」

「まぁ、そうだな」

 俺の言葉に、田島は何を思っているのか。
 田島は俺と目を合わせず、前方を見ながら話を続ける。

「そっかぁ、そうですかぁ…………怒ってます?」

「いいや、何でだろうとは思ったけど」

「杉野先輩と樫田先輩以外に気づいた人っていますか?」

「どうだろう。たぶん、いないんじゃないかな」

 少なくとも大槻と山路は気づいていなかったし、女子たちの中で気づいた人がいるなら、もっと大きな問題になっていても不思議じゃない。
 俺の答えに、田島は少しだけ安堵していた。

「その、私が言うのもなんですが、よくここまで触れずにいましたね」

「樫田の判断でな。それに状況が込み合っていたのもあってな」

「そうですかぁ。ちなみに杉野先輩はどうして分かったんですか?」

「俺か? まぁ、なんつーか、目の奥がつまらなそうだったから」

「…………」

 田島が立ち止まった。
 なんだ? と思う間もなく、急にこちらに振り向く。
 じーっと俺と目を合わせる。

「これで、これだけで分かったんですか?」

「ああ。変か?」

「変ですよ」

 田島は首を傾げて、分からないという様子で俺から目を離した。
 再び、ゆっくりと歩き出す。
 俺も歩幅を合わせて、田島の横につく。

「なら、樫田先輩はどうして気づいたんですか?」

「さぁ、そこまでは聞いてないけど……田島は自分の表現力を隠している、とは言ってたな」

「……表現力を隠している」

 今度は腑に落ちたのか、田島は噛み締めるようにそう呟く。
 そのまま、黙って考え込む田島。
 横でそれを見守りながら、俺はどう切り込んだものか悩んでいると田島が口を開いた。

「お二人ともすごいですね。正直、バレてないと思っていました。さすが、主役と演出家ですね」

「そりゃ、どーも」

「本心ですよ?」

「疑ってはないよ」

 俺がそう言うと、田島はくすりと笑っていた。
 それが余裕なのか、感心なのか俺には分からなかった。

「あーあ。でもそっかぁー」

「……それが聞きたかったのか?」

「違いますよぉ」

 笑顔で否定する田島を見て、俺は察する。
 ああ、まだ言葉にする覚悟が出来ていないのか。
 躊躇いあるいは拒絶が彼女の中あって、一歩踏み出せないでいるのだろう。
 新入部員歓迎会を思い出す。あの時焼き肉屋で話したことを、なんとなく振り返る。
 そして、そのもっと前のことも。
 俺は慎重に言葉を選びながら、田島に言う。

「田島。言えないなら、それはそれでいいと思う」

「先輩?」

「けどな。もし……もしお前の中に吐き出したい想いがあるなら、聞くぞ」

「……」

 田島は黙って俺を見た。
 その真っ直ぐな瞳に、俺は何かを量られている気分になった。
 それでも目をそらせずに、ただ見つめ合う。
 しばらくすると、田島は俺から目を離して歩き出した。

「すごいですね、杉野先輩は」

「そうか?」

「ええ、すごいです。お見通しなんですね」

 あまり自覚のないことを言われると、どこか照れくさい。
 田島は駅へと向かいながら、ゆっくりと語りだした。

「こういうとおこがましいかもしれませんが、いくつか理由があるんです」

「おう、聞かせてくれ」

「はい。といっても、どれもこれも私の欲望ですけど」

「欲望?」

「ええ。先輩の言うところの渇望ってやつですかね。私、成し遂げたいことがあるんです」

 田島の横顔はとても決心に満ちていた。
 それは椎菜や増倉のように、何かを抱いている人の表情だった。

「でも、それは私だけが本気で挑んでも意味がないんです。春佳ちゃんと金子と三人で……いや、来年入ってくる新入部員も含めて、みんなで目指せないとダメなんです」

「それって……」

「そのためには、下準備が必要なんです。春佳ちゃんにはもっと演技できるようになってもらわないといけないし、金子も裏方としての経験が必要なんです」

「……」

「今必要なことを選んだ結果、私は今回の大会で手を抜くことを選びました」

 直接言われたその言葉に、不思議と怒りは覚えなかった。
 気になったことがあったからだろうか。
 俺は、どこか分かっている気がしながらも、聞かずにはいられなかった。

「その渇望って?」

 歩きながら、田島は答える。
 どこか遠くを見ながら微笑んで、さらっと言う。

「私、全国を目指しているんです」



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「いつから、気づいていたんですか?」
 歩きながら、始めに田島が聞いてきたのはそんなことだった。
 身長差があるため、俺は斜め右を見た。
 隠すこともないだろうと本当のことを話す。
「一番初めの立ち稽古からだな」
「最初っからってことですね」
「まぁ、そうだな」
 俺の言葉に、田島は何を思っているのか。
 田島は俺と目を合わせず、前方を見ながら話を続ける。
「そっかぁ、そうですかぁ…………怒ってます?」
「いいや、何でだろうとは思ったけど」
「杉野先輩と樫田先輩以外に気づいた人っていますか?」
「どうだろう。たぶん、いないんじゃないかな」
 少なくとも大槻と山路は気づいていなかったし、女子たちの中で気づいた人がいるなら、もっと大きな問題になっていても不思議じゃない。
 俺の答えに、田島は少しだけ安堵していた。
「その、私が言うのもなんですが、よくここまで触れずにいましたね」
「樫田の判断でな。それに状況が込み合っていたのもあってな」
「そうですかぁ。ちなみに杉野先輩はどうして分かったんですか?」
「俺か? まぁ、なんつーか、目の奥がつまらなそうだったから」
「…………」
 田島が立ち止まった。
 なんだ? と思う間もなく、急にこちらに振り向く。
 じーっと俺と目を合わせる。
「これで、これだけで分かったんですか?」
「ああ。変か?」
「変ですよ」
 田島は首を傾げて、分からないという様子で俺から目を離した。
 再び、ゆっくりと歩き出す。
 俺も歩幅を合わせて、田島の横につく。
「なら、樫田先輩はどうして気づいたんですか?」
「さぁ、そこまでは聞いてないけど……田島は自分の表現力を隠している、とは言ってたな」
「……表現力を隠している」
 今度は腑に落ちたのか、田島は噛み締めるようにそう呟く。
 そのまま、黙って考え込む田島。
 横でそれを見守りながら、俺はどう切り込んだものか悩んでいると田島が口を開いた。
「お二人ともすごいですね。正直、バレてないと思っていました。さすが、主役と演出家ですね」
「そりゃ、どーも」
「本心ですよ?」
「疑ってはないよ」
 俺がそう言うと、田島はくすりと笑っていた。
 それが余裕なのか、感心なのか俺には分からなかった。
「あーあ。でもそっかぁー」
「……それが聞きたかったのか?」
「違いますよぉ」
 笑顔で否定する田島を見て、俺は察する。
 ああ、まだ言葉にする覚悟が出来ていないのか。
 躊躇いあるいは拒絶が彼女の中あって、一歩踏み出せないでいるのだろう。
 新入部員歓迎会を思い出す。あの時焼き肉屋で話したことを、なんとなく振り返る。
 そして、そのもっと前のことも。
 俺は慎重に言葉を選びながら、田島に言う。
「田島。言えないなら、それはそれでいいと思う」
「先輩?」
「けどな。もし……もしお前の中に吐き出したい想いがあるなら、聞くぞ」
「……」
 田島は黙って俺を見た。
 その真っ直ぐな瞳に、俺は何かを量られている気分になった。
 それでも目をそらせずに、ただ見つめ合う。
 しばらくすると、田島は俺から目を離して歩き出した。
「すごいですね、杉野先輩は」
「そうか?」
「ええ、すごいです。お見通しなんですね」
 あまり自覚のないことを言われると、どこか照れくさい。
 田島は駅へと向かいながら、ゆっくりと語りだした。
「こういうとおこがましいかもしれませんが、いくつか理由があるんです」
「おう、聞かせてくれ」
「はい。といっても、どれもこれも私の欲望ですけど」
「欲望?」
「ええ。先輩の言うところの渇望ってやつですかね。私、成し遂げたいことがあるんです」
 田島の横顔はとても決心に満ちていた。
 それは椎菜や増倉のように、何かを抱いている人の表情だった。
「でも、それは私だけが本気で挑んでも意味がないんです。春佳ちゃんと金子と三人で……いや、来年入ってくる新入部員も含めて、みんなで目指せないとダメなんです」
「それって……」
「そのためには、下準備が必要なんです。春佳ちゃんにはもっと演技できるようになってもらわないといけないし、金子も裏方としての経験が必要なんです」
「……」
「今必要なことを選んだ結果、私は今回の大会で手を抜くことを選びました」
 直接言われたその言葉に、不思議と怒りは覚えなかった。
 気になったことがあったからだろうか。
 俺は、どこか分かっている気がしながらも、聞かずにはいられなかった。
「その渇望って?」
 歩きながら、田島は答える。
 どこか遠くを見ながら微笑んで、さらっと言う。
「私、全国を目指しているんです」