鏡に映らない影
ー/ー
そういう都市伝説があるのだと小耳に挟んだ。バウディアムスほど長い歴史を持つ魔法学園にも、都市伝説などという真偽不明の噂があるのかと、久しぶりに聞く心躍る言葉に生徒たちは耳を傾ける。
どうやらそれは、最近広まりつつある噂らしく、生徒会も統制に手を焼いているらしい。どこから生まれた噂なのかはわからないが、伝聞としてどこかから伝わってきた話だという。噂というものは想像もできないほどの速度で拡散されていく。悪意がないにしても、あったとしても、噂は人から人へ、尾をつけヒレをつけて広がっていく。
今回、生徒会がわざわざ統制をとる動きをしているということは、そうする必要があるということである。つまり、今広まっている噂は、根も葉もある噂だということだ。
そして、その噂はやがて、ある人物の元まで届いた。
「都市伝説?」
怪訝そうな顔で旭はそう聞き返す。珍しく寝ずに授業を聞いていた旭は、既に眠気が限界に達しているのか、話を聞きつつもうつらうつらとしていた。一限の終わり、斜め後ろに座っていたレオノールから例の噂の話を耳にした。療養期間を終わっていないのに堂々と病室を抜け出してきたレオノールは、自慢げに語り出す。
「影の映らない鏡って、最近噂になってんだよ」
学園の下層。世界樹の根にあたる部分にある階段の踊り場。そこには豪華な装飾が施された立派な鏡が設置されている。噂の正体はその鏡らしい。
「言葉通り、その鏡には影が映らないんだと」
「それの何が問題だ」
「問題かどうかじゃないんだよ。面白そうだろ!」
噂に踊らされる生徒が一人、レオノールは嬉々として噂を語る。そんなレオノールを見て、旭は興味がなさそうに次の授業の準備をし始める。そして、くだらない噂を一蹴するように旭は言った。
「そろそろ期末試験もあるんだ。くだらん事言ってないで勉強しろ」
「は〜! いいよ、連れねぇヤツだな。おーい、エストレイラ!」
「おい!」
およそ一週間後に筆記、実技の期末試験を控える旭たち。更にその数日後には、大規模侵攻も予想されている。成績だけ見れば優等生の旭も、当然この期末試験と大規模侵攻に向けて準備を進めている。対して、意識しなくてもそこそこの成績を取れるので特に勉強もやろうとしないレオノールは、付き合いの悪い旭にうんざりしているようだった。
「呼んだ? レオノール」
「呼んでねぇから帰れ」
「授業ちゃんと出てるね。えらい」
レオノールの声を聞いてやってきたモニカは旭が授業に出席しているのを見て子どもをあやすように頭を撫でる。
「エストレイラ、最近噂されてる話聞いてるか?」
「うん。鏡のことでしょ? パーシーからも聞いたよ。面白そうだよね〜」
わしゃわしゃと旭の頭を撫で続けてモニカは楽しそうに答える。妙に距離が近い二人に何の疑問も抱かないまま、レオノールは旭と同じようにモニカを誘う。しし、モニカは顔をしかめて言った。
「私は……いいかな。実技に向けて練習しなくちゃ」
「大した練習じゃねぇだろ」
「なんだと〜! 試験で目に物見せてやるんだからね!」
旭はいっそう激しく髪をかき乱すモニカの手をようやく振り払うと、モニカの両頬を親指と人差し指で挟んでむぎゅっ、とつまみ上げる。モニカがむっとした目で旭を見つめると、さっきまでのやり取りからは感じられなかった鋭さと熱を帯びた顔をしていた。じっと、魅入られるようにモニカは旭の目を見る。深く暗い黒と滲むように光る白を見せる旭の瞳は、時折、焔のように紅く、燃えるように揺らめく。
「ひょっと……やへてよ……」
「今日は帰る」
パッと、手を離すと、荷物を持って旭は窓から飛び去っていく。もはや見慣れた光景だからか、教室にいる誰もが呼び止めようとしない。モニカは窓から身を乗り出し、大きく手を振って旭を見送った。
「ホームルームまでには戻ってきてね〜!」
こうして、なんでもない一日がまた過ぎていく。
さて、時に都市伝説とは、学園にまで入り込んでくるものがある。あるいは、『七不思議』や『学校の怪談』などという呼び方をされることもあるこの都市伝説、一般的にはそれらはすべて偽り、作り話であるとされている。
しかし、それはあくまでも一般的にという話である。もし、この都市伝説が、仮に一般人には見えない何かによるものだったとしたら、一体どうだろうか。例えば、それは幽霊であり、あるいは、妖だったりするのだろうか。
鏡に映らない影。フィスティシア率いる生徒会ですらも、この噂の統制に手を焼いている。それは果たして、本当に伝聞、噂によるものなのだろうか。
(何か、人の手が加えられてる気がするな……)
それにいち早く気がついたのは騎獅道旭だった。
(噂……いや、なにより鏡か……)
一体、誰が、何のためにこのような都市伝説を噂として広めたのだろうか。真相が明らかになるのは、まだ少し先の話だ。
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そういう都市伝説があるのだと小耳に挟んだ。バウディアムスほど長い歴史を持つ魔法学園にも、都市伝説などという真偽不明の噂があるのかと、久しぶりに聞く心躍る言葉に生徒たちは耳を傾ける。
どうやらそれは、最近広まりつつある噂らしく、生徒会も統制に手を焼いているらしい。どこから生まれた噂なのかはわからないが、伝聞としてどこかから伝わってきた話だという。噂というものは想像もできないほどの速度で拡散されていく。悪意がないにしても、あったとしても、噂は人から人へ、尾をつけヒレをつけて広がっていく。
今回、生徒会がわざわざ統制をとる動きをしているということは、そうする必要があるということである。つまり、今広まっている噂は、|根《・》|も《・》|葉《・》|も《・》|あ《・》|る《・》|噂《・》だということだ。
そして、その噂はやがて、ある人物の元まで届いた。
「都市伝説?」
怪訝そうな顔で旭はそう聞き返す。珍しく寝ずに授業を聞いていた旭は、既に眠気が限界に達しているのか、話を聞きつつもうつらうつらとしていた。一限の終わり、斜め後ろに座っていたレオノールから例の噂の話を耳にした。療養期間を終わっていないのに堂々と病室を抜け出してきたレオノールは、自慢げに語り出す。
「影の映らない鏡って、最近噂になってんだよ」
学園の下層。世界樹の根にあたる部分にある階段の踊り場。そこには豪華な装飾が施された立派な鏡が設置されている。噂の正体はその鏡らしい。
「言葉通り、その鏡には影が映らないんだと」
「それの何が問題だ」
「問題かどうかじゃないんだよ。面白そうだろ!」
噂に踊らされる生徒が一人、レオノールは嬉々として噂を語る。そんなレオノールを見て、旭は興味がなさそうに次の授業の準備をし始める。そして、くだらない噂を一蹴するように旭は言った。
「そろそろ期末試験もあるんだ。くだらん事言ってないで勉強しろ」
「は〜! いいよ、連れねぇヤツだな。おーい、エストレイラ!」
「おい!」
およそ一週間後に筆記、実技の期末試験を控える旭たち。更にその数日後には、大規模侵攻も予想されている。成績だけ見れば優等生の旭も、当然この期末試験と大規模侵攻に向けて準備を進めている。対して、意識しなくてもそこそこの成績を取れるので特に勉強もやろうとしないレオノールは、付き合いの悪い旭にうんざりしているようだった。
「呼んだ? レオノール」
「呼んでねぇから帰れ」
「授業ちゃんと出てるね。えらい」
レオノールの声を聞いてやってきたモニカは旭が授業に出席しているのを見て子どもをあやすように頭を撫でる。
「エストレイラ、最近噂されてる話聞いてるか?」
「うん。鏡のことでしょ? パーシーからも聞いたよ。面白そうだよね〜」
わしゃわしゃと旭の頭を撫で続けてモニカは楽しそうに答える。妙に距離が近い二人に何の疑問も抱かないまま、レオノールは旭と同じようにモニカを誘う。しし、モニカは顔をしかめて言った。
「私は……いいかな。実技に向けて練習しなくちゃ」
「大した練習じゃねぇだろ」
「なんだと〜! 試験で目に物見せてやるんだからね!」
旭はいっそう激しく髪をかき乱すモニカの手をようやく振り払うと、モニカの両頬を親指と人差し指で挟んでむぎゅっ、とつまみ上げる。モニカがむっとした目で旭を見つめると、さっきまでのやり取りからは感じられなかった鋭さと熱を帯びた顔をしていた。じっと、魅入られるようにモニカは旭の目を見る。深く暗い黒と滲むように光る白を見せる旭の瞳は、時折、焔のように紅く、燃えるように揺らめく。
「ひょっと……やへてよ……」
「今日は帰る」
パッと、手を離すと、荷物を持って旭は窓から飛び去っていく。もはや見慣れた光景だからか、教室にいる誰もが呼び止めようとしない。モニカは窓から身を乗り出し、大きく手を振って旭を見送った。
「ホームルームまでには戻ってきてね〜!」
こうして、なんでもない一日がまた過ぎていく。
さて、時に都市伝説とは、学園にまで入り込んでくるものがある。あるいは、『七不思議』や『学校の怪談』などという呼び方をされることもあるこの都市伝説、一般的にはそれらはすべて偽り、作り話であるとされている。
しかし、それはあくまでも一般的にという話である。もし、この都市伝説が、仮に|一《・》|般《・》|人《・》|に《・》|は《・》|見《・》|え《・》|な《・》|い《・》|何《・》|か《・》によるものだったとしたら、一体どうだろうか。例えば、それは幽霊であり、あるいは、|妖《・》だったりするのだろうか。
鏡に映らない影。フィスティシア率いる生徒会ですらも、この噂の統制に手を焼いている。それは果たして、本当に伝聞、噂によるものなのだろうか。
(何か、人の手が加えられてる気がするな……)
それにいち早く気がついたのは騎獅道旭だった。
(噂……いや、なにより|鏡《・》か……)
一体、誰が、何のためにこのような都市伝説を噂として広めたのだろうか。真相が明らかになるのは、まだ少し先の話だ。