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「もともとうちにあったものなのに、なんで青衣が独占しようとするの?」

「みんなして私に礼儀正しさを求めるからよ。私だって、わがまま言いたい時があるの!」

「ちやほやされていい気になってたくせに!」

「自分が特別扱いしてもらえないからって、やっかまないでほしいわ!」

 二人はついに実力行使に出た。目についたものを手当たり次第、投げ合い始めたのだ。
 気づいた時には深夜だった。急な睡魔を訴えた青衣が床で寝落ちしたところで、やっと静寂を取り戻した。
 体力は限界だし、喉も渇いている。朱夏はよろめきながら踏み台を探してきて棚の前に置いた。けれどどんなに手を伸ばしても、茶色い瓶には届かなかった。

「ああ、どうしてわたしはこんなに背が小さいんだろう。早く大人になりたいな……」

 しかたないので冷蔵庫にあった牛乳を飲むことにした。その時初めて異変に気づいた。
 ラタンの籠がない。確かにダイニングテーブルの上に置いたはずなのに。
 頭のなかがカッと熱くなり、背中には冷や汗がにじんだ。朱夏はパニックになりながら散らかったキッチンを探し回る。籠は間もなく見つかったが、肝心の卵が行方不明だった。けんかに夢中で、なにをどこへやったかなんて覚えていない。こうなったらしらみつぶしに捜すしかない。となれば、人手は多いほうがいい。

 朱夏は万が一にでも卵を踏み潰してしまわないようにと、青衣のところまで慎重に歩を進めた。しかしどんなに揺り起こそうとしても、青衣は目覚めなかった。
 吐く息が酒臭い。なんとなくそうではないかという予感もあったが、やはり茶色い瓶の中身はアルコールだったようだ。今さらだけれど、なんて大それたことをしてしまったのだろう。朱夏は激しく後悔しながら一人、たたずむ。

「懐中電灯があればもっと捜しやすいのに。知らないふりして使っちゃう? でももし卵に悪影響が出たら……」

 薄暗いから余計に不安になるのだ。それがわかっているだけに、もどかしくてたまらない。朱夏は右往左往しながら涙をボロボロこぼした。歪んだ視界に金色の粉が混じったのはその時のことだった。 
 足を止めて周囲を観察すると、薄暗がりに、金色の粒子でできた帯が漂っていることを知った。帯には川のような流れがあり、それは、冷蔵庫の後ろ辺りから始まっているようだった。
 不思議な高揚感に包まれながら、朱夏は床をそっと歩いてゆく。できるだけ息をひそめながら、壁と冷蔵庫の背中の隙間をのぞき込んだ。
 思わず、あっ、と声を上げてしまった朱夏は、あわてて手のひらで口を覆い、改めてそこにいるものを見つめた。


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みんなのリアクション

「もともとうちにあったものなのに、なんで青衣が独占しようとするの?」
「みんなして私に礼儀正しさを求めるからよ。私だって、わがまま言いたい時があるの!」
「ちやほやされていい気になってたくせに!」
「自分が特別扱いしてもらえないからって、やっかまないでほしいわ!」
 二人はついに実力行使に出た。目についたものを手当たり次第、投げ合い始めたのだ。
 気づいた時には深夜だった。急な睡魔を訴えた青衣が床で寝落ちしたところで、やっと静寂を取り戻した。
 体力は限界だし、喉も渇いている。朱夏はよろめきながら踏み台を探してきて棚の前に置いた。けれどどんなに手を伸ばしても、茶色い瓶には届かなかった。
「ああ、どうしてわたしはこんなに背が小さいんだろう。早く大人になりたいな……」
 しかたないので冷蔵庫にあった牛乳を飲むことにした。その時初めて異変に気づいた。
 ラタンの籠がない。確かにダイニングテーブルの上に置いたはずなのに。
 頭のなかがカッと熱くなり、背中には冷や汗がにじんだ。朱夏はパニックになりながら散らかったキッチンを探し回る。籠は間もなく見つかったが、肝心の卵が行方不明だった。けんかに夢中で、なにをどこへやったかなんて覚えていない。こうなったらしらみつぶしに捜すしかない。となれば、人手は多いほうがいい。
 朱夏は万が一にでも卵を踏み潰してしまわないようにと、青衣のところまで慎重に歩を進めた。しかしどんなに揺り起こそうとしても、青衣は目覚めなかった。
 吐く息が酒臭い。なんとなくそうではないかという予感もあったが、やはり茶色い瓶の中身はアルコールだったようだ。今さらだけれど、なんて大それたことをしてしまったのだろう。朱夏は激しく後悔しながら一人、たたずむ。
「懐中電灯があればもっと捜しやすいのに。知らないふりして使っちゃう? でももし卵に悪影響が出たら……」
 薄暗いから余計に不安になるのだ。それがわかっているだけに、もどかしくてたまらない。朱夏は右往左往しながら涙をボロボロこぼした。歪んだ視界に金色の粉が混じったのはその時のことだった。 
 足を止めて周囲を観察すると、薄暗がりに、金色の粒子でできた帯が漂っていることを知った。帯には川のような流れがあり、それは、冷蔵庫の後ろ辺りから始まっているようだった。
 不思議な高揚感に包まれながら、朱夏は床をそっと歩いてゆく。できるだけ息をひそめながら、壁と冷蔵庫の背中の隙間をのぞき込んだ。
 思わず、あっ、と声を上げてしまった朱夏は、あわてて手のひらで口を覆い、改めてそこにいるものを見つめた。