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ー/ー *
「それで……天下の女子中学生作家様が、僕にこれを読ませて、どういうつもり?」
ここは、家の近所にあるカフェ。向かいの席で、幼い頃の作品を読んでくれた熊谷くんは、私の意図することが分からない、という風に尋ねてきた。だから、私は少しすねた風にして、口を開いた。
「だって。熊谷くん、もう物語を書いていないって、言うのだもの」
そう。小学四年生の時に、私は転校したのだけれど、中学二年生になってから、この町に戻ってきた。児童向けの文学賞を受賞して、『作家になる』という夢を叶えて。
それなのに、私が『作家になる』夢を抱くきっかけを与えてくれた彼はもう、物語を書いていなかったのだ。だから、私は小学生の頃、初めて完成させた物語を持って来て、自らの想いを伝えるために、彼に読んでもらったのだった。
「僕が物語を書いていないから?」
「うん……」
まだ、私の意図を理解できない熊谷くんは首を傾げた。
「と言うか、この物語は途中ではないの?」
「うん。あえて、途中までのを読んでもらった」
「へぇ、どうして?」
「それは、その……熊谷くんは、どうしてだと思う? この物語のウサギさんが泣いた理由」
「えっ……」
質問を返すと、彼は一瞬、言葉を詰まらせて……だけれども、すぐに答えてくれた。
「悔しかったから……かな」
「悔しかった?」
「ああ。きっと、このウサギさんも、物語書きなんだ。それで、クマさんの物語を読んで……それが、あまりにも素晴らしくて。感動した、というのもあるけれど、自分には、こんなにも読んだ者の心を打つ物語は書けないと思って、悔しかったんだと思う」
「へぇ、そっか……」
彼の出してくれた答えを聞いた私は、何だかとても嬉しくなって、この口からは自然と笑みが溢れた。
「それにしても。小学生の頃、僕の書いた物語を毎日、読んでくれたのに、難しい顔をして何も言ってくれなかった宇佐美が、まさか、作家デビューするなんてな……」
「まぁね……」
彼の呟きに、私は吹き出しそうになる。何故って、彼の物語を読んで、私が『難しい顔』になったのは、まさに、この物語のウサギさんと同じ理由から、なのだから。
「僕も、もう一度……書いてみようかな。何か、悔しいから……」
熊谷くんが私の作家デビュー作を読んでくれたのかは分からないし、照れ臭くて、尋ねることもできない。でも、頬杖をついた彼がぼそっと口にしたその言葉は、「また、クマさんの物語を読むことができるかも知れない……!」という期待をもって、私の心をときめかせたのだった。
「それで……天下の女子中学生作家様が、僕にこれを読ませて、どういうつもり?」
ここは、家の近所にあるカフェ。向かいの席で、幼い頃の作品を読んでくれた熊谷くんは、私の意図することが分からない、という風に尋ねてきた。だから、私は少しすねた風にして、口を開いた。
「だって。熊谷くん、もう物語を書いていないって、言うのだもの」
そう。小学四年生の時に、私は転校したのだけれど、中学二年生になってから、この町に戻ってきた。児童向けの文学賞を受賞して、『作家になる』という夢を叶えて。
それなのに、私が『作家になる』夢を抱くきっかけを与えてくれた彼はもう、物語を書いていなかったのだ。だから、私は小学生の頃、初めて完成させた物語を持って来て、自らの想いを伝えるために、彼に読んでもらったのだった。
「僕が物語を書いていないから?」
「うん……」
まだ、私の意図を理解できない熊谷くんは首を傾げた。
「と言うか、この物語は途中ではないの?」
「うん。あえて、途中までのを読んでもらった」
「へぇ、どうして?」
「それは、その……熊谷くんは、どうしてだと思う? この物語のウサギさんが泣いた理由」
「えっ……」
質問を返すと、彼は一瞬、言葉を詰まらせて……だけれども、すぐに答えてくれた。
「悔しかったから……かな」
「悔しかった?」
「ああ。きっと、このウサギさんも、物語書きなんだ。それで、クマさんの物語を読んで……それが、あまりにも素晴らしくて。感動した、というのもあるけれど、自分には、こんなにも読んだ者の心を打つ物語は書けないと思って、悔しかったんだと思う」
「へぇ、そっか……」
彼の出してくれた答えを聞いた私は、何だかとても嬉しくなって、この口からは自然と笑みが溢れた。
「それにしても。小学生の頃、僕の書いた物語を毎日、読んでくれたのに、難しい顔をして何も言ってくれなかった宇佐美が、まさか、作家デビューするなんてな……」
「まぁね……」
彼の呟きに、私は吹き出しそうになる。何故って、彼の物語を読んで、私が『難しい顔』になったのは、まさに、この物語のウサギさんと同じ理由から、なのだから。
「僕も、もう一度……書いてみようかな。何か、悔しいから……」
熊谷くんが私の作家デビュー作を読んでくれたのかは分からないし、照れ臭くて、尋ねることもできない。でも、頬杖をついた彼がぼそっと口にしたその言葉は、「また、クマさんの物語を読むことができるかも知れない……!」という期待をもって、私の心をときめかせたのだった。
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「それで……天下の女子中学生作家様が、僕にこれを読ませて、どういうつもり?」
ここは、家の近所にあるカフェ。向かいの席で、幼い頃の作品を読んでくれた熊谷くんは、私の意図することが分からない、という風に尋ねてきた。だから、私は少しすねた風にして、口を開いた。
「だって。熊谷くん、もう物語を書いていないって、言うのだもの」
そう。小学四年生の時に、私は転校したのだけれど、中学二年生になってから、この町に戻ってきた。児童向けの文学賞を受賞して、『作家になる』という夢を叶えて。
それなのに、私が『作家になる』夢を抱くきっかけを与えてくれた彼はもう、物語を書いていなかったのだ。だから、私は小学生の頃、初めて完成させた物語を持って来て、自らの想いを伝えるために、彼に読んでもらったのだった。
「僕が物語を書いていないから?」
「うん……」
まだ、私の意図を理解できない熊谷くんは首を傾げた。
「と言うか、この物語は途中ではないの?」
「うん。あえて、途中までのを読んでもらった」
「へぇ、どうして?」
「それは、その……熊谷くんは、どうしてだと思う? この物語のウサギさんが泣いた理由」
「えっ……」
質問を返すと、彼は一瞬、言葉を詰まらせて……だけれども、すぐに答えてくれた。
「悔しかったから……かな」
「悔しかった?」
「ああ。きっと、このウサギさんも、物語書きなんだ。それで、クマさんの物語を読んで……それが、あまりにも素晴らしくて。感動した、というのもあるけれど、自分には、こんなにも読んだ者の心を打つ物語は書けないと思って、悔しかったんだと思う」
「へぇ、そっか……」
彼の出してくれた答えを聞いた私は、何だかとても嬉しくなって、この口からは自然と笑みが溢れた。
「それにしても。小学生の頃、僕の書いた物語を毎日、読んでくれたのに、難しい顔をして何も言ってくれなかった宇佐美が、まさか、作家デビューするなんてな……」
「まぁね……」
彼の呟きに、私は吹き出しそうになる。何故って、彼の物語を読んで、私が『難しい顔』になったのは、まさに、この物語のウサギさんと同じ理由から、なのだから。
「僕も、もう一度……書いてみようかな。何か、悔しいから……」
熊谷くんが私の作家デビュー作を読んでくれたのかは分からないし、照れ臭くて、尋ねることもできない。でも、頬杖をついた彼がぼそっと口にしたその言葉は、「また、クマさんの物語を読むことができるかも知れない……!」という期待をもって、私の心をときめかせたのだった。
ここは、家の近所にあるカフェ。向かいの席で、幼い頃の作品を読んでくれた熊谷くんは、私の意図することが分からない、という風に尋ねてきた。だから、私は少しすねた風にして、口を開いた。
「だって。熊谷くん、もう物語を書いていないって、言うのだもの」
そう。小学四年生の時に、私は転校したのだけれど、中学二年生になってから、この町に戻ってきた。児童向けの文学賞を受賞して、『作家になる』という夢を叶えて。
それなのに、私が『作家になる』夢を抱くきっかけを与えてくれた彼はもう、物語を書いていなかったのだ。だから、私は小学生の頃、初めて完成させた物語を持って来て、自らの想いを伝えるために、彼に読んでもらったのだった。
「僕が物語を書いていないから?」
「うん……」
まだ、私の意図を理解できない熊谷くんは首を傾げた。
「と言うか、この物語は途中ではないの?」
「うん。あえて、途中までのを読んでもらった」
「へぇ、どうして?」
「それは、その……熊谷くんは、どうしてだと思う? この物語のウサギさんが泣いた理由」
「えっ……」
質問を返すと、彼は一瞬、言葉を詰まらせて……だけれども、すぐに答えてくれた。
「悔しかったから……かな」
「悔しかった?」
「ああ。きっと、このウサギさんも、物語書きなんだ。それで、クマさんの物語を読んで……それが、あまりにも素晴らしくて。感動した、というのもあるけれど、自分には、こんなにも読んだ者の心を打つ物語は書けないと思って、悔しかったんだと思う」
「へぇ、そっか……」
彼の出してくれた答えを聞いた私は、何だかとても嬉しくなって、この口からは自然と笑みが溢れた。
「それにしても。小学生の頃、僕の書いた物語を毎日、読んでくれたのに、難しい顔をして何も言ってくれなかった宇佐美が、まさか、作家デビューするなんてな……」
「まぁね……」
彼の呟きに、私は吹き出しそうになる。何故って、彼の物語を読んで、私が『難しい顔』になったのは、まさに、この物語のウサギさんと同じ理由から、なのだから。
「僕も、もう一度……書いてみようかな。何か、悔しいから……」
熊谷くんが私の作家デビュー作を読んでくれたのかは分からないし、照れ臭くて、尋ねることもできない。でも、頬杖をついた彼がぼそっと口にしたその言葉は、「また、クマさんの物語を読むことができるかも知れない……!」という期待をもって、私の心をときめかせたのだった。