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ー/ー



「ちがうわ!」
 ぼくの頭の中には、アイの声がひびいた。そして、ぼくの周りをあたたかい……やさしくて幸せなオーラが包んだ。
「あなたは、死んでなんかいない! 現実の世界で生きている」
「えっ、でも。じゃあ、ここは……」
「ここは、仮想空間よ」
 アイは説明してくれた。ここは天国ではなくて、コンピュータ内の仮想空間なのだと。
 つまり、ぼくの精神を仮想空間に転送して、少しずつ、世界を取りもどしてゆく。そうすることで、現実のぼくの脳内の神経回路を少しずつ、回復させてゆく……そのような治療プログラムに組みこまれていたのだ。
「あなたの脳内の神経回路は、じゅうぶんに回復した。そう。現実世界で、目を覚ませるくらいに……」
 アイの声とともに、ぼくの目にはぼんやりと映りはじめた。そう……この世界でずっと一緒の時間を過ごした彼女、アイの姿が。
「だから……私とはもう、お別れね」
 そう話して、アイは寂しげに笑った。
 その顔はもう、ぼくの目にも、はっきりと映った。
 そうだ。ぼくが幼い頃に、一緒に行ったシロツメクサの野原で、四つ葉のクローバーを見つけて……ぼくの幸せを祈ってくれた。それ以降は離れてしまったけれども、それでもぼくははっきりと思い出した。
 この声。この笑顔……。
「お母さん……」
 すると、アイは……いや、お母さんは、とろけそうなほどに幸せそうな顔をうかべた。そのとたんに目の前が真っ白になって、ぼくの意識はとぎれたのだった。

 ほほをなでるようなくすぐったい感じがして、ぼくは目を覚ました。どうやら、特別に病室に入れられていた子犬が、ほほをなめていたみたいで……ぼくはちゃんと、あの子犬を助けたのだと確認できた。
 現実世界のぼくは、中学校からの帰り道に交通事故にあって、いわゆる『脳死』という状態で、治療室で寝たきりとなっていたようだ。だから、入院した病院で、ぼくの精神を医療用コンピュータのプログラムに転送しての治療が行われていた。
 実は、このプログラムは、ぼくのお母さんが作ったものだそうだ。
 医療コンピュータのプログラマーだったお母さんはぼくが幼い頃に、余命いくばくもない病気だということが分かった。だから、入院しながらも、自分が死んでしまう前に、このプログラムをつくりあげたのだ。
 そう、自分の精神をコンピュータに転送して……プログラムが完成すると同時に、お母さんは亡くなったということだった。

「お母さん。ありがとう……」
 やっぱり、あの空間は……幸せと愛情にあふれた、天国のような仮想空間は、確かにぼくのお母さんで、あの人工知能『アイ』も、お母さんそのものだった。
 そのことを確認することができたぼくの目からは、温かいなみだがあふれて止まらなかった。




みんなのリアクション

「ちがうわ!」
 ぼくの頭の中には、アイの声がひびいた。そして、ぼくの周りをあたたかい……やさしくて幸せなオーラが包んだ。
「あなたは、死んでなんかいない! 現実の世界で生きている」
「えっ、でも。じゃあ、ここは……」
「ここは、仮想空間よ」
 アイは説明してくれた。ここは天国ではなくて、コンピュータ内の仮想空間なのだと。
 つまり、ぼくの精神を仮想空間に転送して、少しずつ、世界を取りもどしてゆく。そうすることで、現実のぼくの脳内の神経回路を少しずつ、回復させてゆく……そのような治療プログラムに組みこまれていたのだ。
「あなたの脳内の神経回路は、じゅうぶんに回復した。そう。現実世界で、目を覚ませるくらいに……」
 アイの声とともに、ぼくの目にはぼんやりと映りはじめた。そう……この世界でずっと一緒の時間を過ごした彼女、アイの姿が。
「だから……私とはもう、お別れね」
 そう話して、アイは寂しげに笑った。
 その顔はもう、ぼくの目にも、はっきりと映った。
 そうだ。ぼくが幼い頃に、一緒に行ったシロツメクサの野原で、四つ葉のクローバーを見つけて……ぼくの幸せを祈ってくれた。それ以降は離れてしまったけれども、それでもぼくははっきりと思い出した。
 この声。この笑顔……。
「お母さん……」
 すると、アイは……いや、お母さんは、とろけそうなほどに幸せそうな顔をうかべた。そのとたんに目の前が真っ白になって、ぼくの意識はとぎれたのだった。
 ほほをなでるようなくすぐったい感じがして、ぼくは目を覚ました。どうやら、特別に病室に入れられていた子犬が、ほほをなめていたみたいで……ぼくはちゃんと、あの子犬を助けたのだと確認できた。
 現実世界のぼくは、中学校からの帰り道に交通事故にあって、いわゆる『脳死』という状態で、治療室で寝たきりとなっていたようだ。だから、入院した病院で、ぼくの精神を医療用コンピュータのプログラムに転送しての治療が行われていた。
 実は、このプログラムは、ぼくのお母さんが作ったものだそうだ。
 医療コンピュータのプログラマーだったお母さんはぼくが幼い頃に、余命いくばくもない病気だということが分かった。だから、入院しながらも、自分が死んでしまう前に、このプログラムをつくりあげたのだ。
 そう、自分の精神をコンピュータに転送して……プログラムが完成すると同時に、お母さんは亡くなったということだった。
「お母さん。ありがとう……」
 やっぱり、あの空間は……幸せと愛情にあふれた、天国のような仮想空間は、確かにぼくのお母さんで、あの人工知能『アイ』も、お母さんそのものだった。
 そのことを確認することができたぼくの目からは、温かいなみだがあふれて止まらなかった。


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