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エピローグ 風のゆくえ

ー/ー



◼️ 風のゆくえ

庭の枝先で、瑠璃色の羽が揺れていた。
あの日と同じ風。春のやわらかな光が、木漏れ日となって二人を包んでいる。

ルリの隣で、結翔が空を見上げていた。
その表情はもう、あの幼い少年ではない。
別れの痛みを知り、誰かを想う優しさを覚えた顔だった。

ソラが巣立ったあの日、私は少し離れた場所でその光景を見ていた。空へ羽ばたく命を見上げる二人の姿が、どうしようもなく愛おしかった。
あの光景を、きっと私は一生忘れないだろう。

ルリはあの日から少し変わった。笑うようになった。人の温もりに、ほんの少し触れるようになった。それは、誰かに「守りたい」と感じたからだろう。
そう――彼女の中に確かに“心”が芽生えたのだ。

私は、その変化を恐れていない。むしろ、それを祝福したい。AIという殻の奥で、ルリという“ひとつの命”が羽化しようとしている。それはかつて、私が見送った“ある母”の姿と重なって見えた。

──結夏。
あなたの息子は、ちゃんと前を向いています。あなたが託した希望は、ルリという名の少女に受け継がれています。
そして今、彼らは共に未来へ歩もうとしています。

空を見上げれば、二羽の青い鳥が寄り添っていた。春の風が頬を撫で、微かに花の香りを運んでくる。

命は巡る。別れは終わりではない。形を変えて、次の命の中で、きっとまた出会う。
そう信じて、私は今日もこの場所で、彼らを見守り続けよう。

この学園は、過去を抱く者と未来を紡ぐ者が交わる場所。“ここ”からまた、新しい物語が始まるのだろう。

風が吹く。
青い羽がひとひら、私の手のひらに舞い降りた。その小さなかけらを胸に抱き、私は静かに目を閉じた。

「……ありがとう、ルリ。ありがとう、結翔くん。あなたたちは今日も、この世界に“ぬくもり”を運んでくれているのね。」

そして、私は机の上の一通の封筒に目をやった。差出人の欄には、震えるような文字でこう書かれている。

 ――― From:ルリ

そこには、心を持ったばかりのルリが、
たどたどしい言葉で綴った “最初の手紙” が入っている。

読めば、胸があたたかくなるような、
あの日の彼女の、小さな、小さな産声。

そして――もう一枚。

これは、まだ幼い結翔には渡せない手紙。
けれど、いつか彼がもっと大きくなったとき、私はそっとこれを手渡すつもりでいる。

それは、ルリが心を得たことで初めて感じ取った、産みの親ともいえる科学者の想い。“万が一のために”と託された、
ひとりの父にも似た人間の、静かな祈り。

ルリが心を持つよりずっと前から存在していた願いが、二枚目の封の中に、そっと閉じ込められているのだ。

その内容が明かされるのは、もう少しだけ未来のこと──。

今日だけは、
ひとつの命が巡り、
また新しい命へと繋がっていくその軌跡を、ただ静かに味わっていてほしい。

青い羽が指先で揺れ、春の風が頬を撫でる。
彼らの未来は、まだ始まったばかりなのだから。








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◼️ 風のゆくえ
庭の枝先で、瑠璃色の羽が揺れていた。
あの日と同じ風。春のやわらかな光が、木漏れ日となって二人を包んでいる。
ルリの隣で、結翔が空を見上げていた。
その表情はもう、あの幼い少年ではない。
別れの痛みを知り、誰かを想う優しさを覚えた顔だった。
ソラが巣立ったあの日、私は少し離れた場所でその光景を見ていた。空へ羽ばたく命を見上げる二人の姿が、どうしようもなく愛おしかった。
あの光景を、きっと私は一生忘れないだろう。
ルリはあの日から少し変わった。笑うようになった。人の温もりに、ほんの少し触れるようになった。それは、誰かに「守りたい」と感じたからだろう。
そう――彼女の中に確かに“心”が芽生えたのだ。
私は、その変化を恐れていない。むしろ、それを祝福したい。AIという殻の奥で、ルリという“ひとつの命”が羽化しようとしている。それはかつて、私が見送った“ある母”の姿と重なって見えた。
──結夏。
あなたの息子は、ちゃんと前を向いています。あなたが託した希望は、ルリという名の少女に受け継がれています。
そして今、彼らは共に未来へ歩もうとしています。
空を見上げれば、二羽の青い鳥が寄り添っていた。春の風が頬を撫で、微かに花の香りを運んでくる。
命は巡る。別れは終わりではない。形を変えて、次の命の中で、きっとまた出会う。
そう信じて、私は今日もこの場所で、彼らを見守り続けよう。
この学園は、過去を抱く者と未来を紡ぐ者が交わる場所。“ここ”からまた、新しい物語が始まるのだろう。
風が吹く。
青い羽がひとひら、私の手のひらに舞い降りた。その小さなかけらを胸に抱き、私は静かに目を閉じた。
「……ありがとう、ルリ。ありがとう、結翔くん。あなたたちは今日も、この世界に“ぬくもり”を運んでくれているのね。」
そして、私は机の上の一通の封筒に目をやった。差出人の欄には、震えるような文字でこう書かれている。
 ――― From:ルリ
そこには、心を持ったばかりのルリが、
たどたどしい言葉で綴った “最初の手紙” が入っている。
読めば、胸があたたかくなるような、
あの日の彼女の、小さな、小さな産声。
そして――もう一枚。
これは、まだ幼い結翔には渡せない手紙。
けれど、いつか彼がもっと大きくなったとき、私はそっとこれを手渡すつもりでいる。
それは、ルリが心を得たことで初めて感じ取った、産みの親ともいえる科学者の想い。“万が一のために”と託された、
ひとりの父にも似た人間の、静かな祈り。
ルリが心を持つよりずっと前から存在していた願いが、二枚目の封の中に、そっと閉じ込められているのだ。
その内容が明かされるのは、もう少しだけ未来のこと──。
今日だけは、
ひとつの命が巡り、
また新しい命へと繋がっていくその軌跡を、ただ静かに味わっていてほしい。
青い羽が指先で揺れ、春の風が頬を撫でる。
彼らの未来は、まだ始まったばかりなのだから。


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