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第30話 異世界の探偵

ー/ー



 それからファイド刑事さんの告白を聞かされた。かつての仲間のアジトで、どっしりと座りながら語り始めるファイド刑事さんの姿は何ともはや哀愁が漂う。

 話のあらましは私の推理で大体あっていた。十数年前まではこのドワーフの里で炭鉱夫として働いていて、発掘した鉱石で日銭を稼いでいたのだとか。
 それでも次第に金に困り、自前の有り余った体力を活かした仕事はないかとギルドに掛けより、多くの仕事をこなし、気付いたら自警団から声が掛かったらしい。

 一方その頃、かつての炭鉱夫仲間たちは生活に苦しいままで、ファイド刑事さんのように離れていくものも多く、そして残されたものたちは負の感情を募らせるばかりだったのだろう。いつしか盗掘団に成り代わり、今に至ったというわけだ。

「よくぞそこまで見抜けたもんだね、ルックちゃん」
 一頻り話し終えて感心したような表情でマコフさんが言う。

「今回のは本当に当てずっぽで、たまたまですよ」
「それでも――見事なものだ。ただの勘とは到底思えん」
 ファイド刑事さんがまた深く辛そうな溜め息をこぼし、言う。

「でも、肝心の盗掘団さんたちの埋蔵金の在処は分からないままなんだよね?」
「いえ、多分ですが、手がかりはありますよ」
 私がそういうと、周囲がざわつく。ファイド刑事はガタンとテーブルを蹴り飛ばしながら立ち上がり、マコフさんも目が猫みたいに丸くなっている。

「なんだと? 我が輩たちが何度調べても何もなかったのだぞ」
「そうなんですよね。何も残っていないというのが怪しいんです。財産はともかくとして、ここには採掘に使う道具も何もないんです」
「それはここを捨てて別のアジトで使うからとかじゃないかしら?」

 顎に手を当て首を傾げたマコフさんが言う。
 普通に考えてみればそれが妥当だろう。道具が一番大事になるはずなのだから。

 一味が捕まり、アジトも暴かれ、ここにはいられないと確信したのなら残党は先ず真っ先に何をしようとするか。少なくとも、貴重なものを持ち出して、自分たちの足跡を消すんじゃないかなとは思う。

「ここには岩や泥の塊が沢山落ちていますよね。しかも見たところ、このアジトのものではないことが分かります。なら、これは何処からきたのでしょう?」
「炭鉱、かしら? でもルックちゃん。それが分かったところで何が判明するの? もしそれが財宝の隠し場所だったとしても特定まではできないんじゃない?」
「――ファイドさん。直ぐ近くで土を掘り返せる場所は分かりますか?」
「そんなの――とっくに我が輩が調べてしまったぞ」

 まあそうだろう。誰より先に埋蔵金を探し当てたいと思っていたはずなのだから。
 おそらくは、昨日の時点でも、はたまたそれより以前でも何度か調べ回っていたはずだ。それでいて見つからないということになる。
 だとしたら、この岩や泥は何を意味するのか。

「って、ルックちゃん、どうしたの? そんな泥の塊を漁っても何も……」

 私はこんもりと山になっていたその塊に、転がっていた石の破片を突き立てて中を探った。掘り返された土だからか、結構柔らかく、崩すのは容易だった。

「おいおい――そんな中に財宝があるわけないだろう――鉱石を売りさばいて儲けた額ならそこに収まるはずはない」

 そう、無造作に放置されたこの泥の塊の中に財宝があるはずない。どう考えてもこれらは掘り返された土塊でしかないのだから。でも、もしこの中に何かがあるとしたらそれは一体なんだろうか。

 私が手を泥まみれにしながら何個目かの泥山を崩したとき、それは手の先で感じられた。布を何重にも巻かれた小さな小さな箱のようなもの。

「ファイドさん、これに覚えは?」

 ギチギチに巻かれた布を丁寧に解くように外し、泥を被ったその箱をファイド刑事に差し出してみる。すると脆いガラス玉でも受け取るかのように、そっと手を添えるようにして受け取ってくれた。

「こ――これは――まさか――」

 ファイド刑事さんが箱をそっと開く。中に入っていたものは、写真のようなもの。この世界に写真という文明があるのかは知らないけれど、少なくともファイド刑事さんを中心に、気のよさそうなドワーフたちが集まっている場面が映し出されていた。

 もし、これが表に出てしまったならばファイド刑事さんの自警団内での扱いは難しいものになっていたのかもしれない。

「どうして――どうしてこんなところに――」
「泥の中にあったんだし、捨てられちゃったのかな……?」

 二人とも悲観的な方向で考えているようだった。
 ただ、私はそう思ってなかった。

「財宝を掘り返したときに、これだけ持ち帰ったんだと思います」
「掘り返したときにって……じゃあ、その肝心の財宝は何処に?」
「多分、溶岩の中なんじゃないでしょうかね」

 私の言葉に二度ビックリする二人。
 身構えていない状態でクリーンヒットを食らったかのような表情だ。
 あまりにも意表を突かれた様子だったので、順を追って説明することにした。

 掻い摘まんで言うとだ。アジトに岩や泥を運ぶ行動に疑問があった。
 発掘用の道具に付着していたものを落としたにしては量も多いし、そもそも道具そのものが行方不明。

 ファイド刑事さんがアジトの中を掘り返したのかとも思ったが、汗まみれにはなっているものの、泥まみれにはなっていない。というか、土質自体も違うし、道具もないからこの路線も消える。

 そうなるとわざわざ他所から岩や泥を運んで、道具だけ持ち去ったことになる。
 アジトの位置を暴かれて、逃げなくてはいけない状況で、そんなことをする必要性があるのか。否、思い当たる理由は一つ。

「――つまり、ファイドさんが元仲間だとバレることを恐れたのは、ファイドさん自身だけでなく、元仲間の人も同じだったということですよ」

 アジトの中に財宝がないことが分かれば、それ以上探すことはない。宝の入っていない空っぽの金庫があったら、他の場所を探すだろう。
 いわばここは最も探されることのない場所。そこに残されたものは、なんだったか? そう、ファイド刑事さんと元仲間を繋ぐ証拠品だ。

 わざわざ岩や泥をアジトに運び出してきたのは、見つけられないようにするためのカモフラージュだったのだ。

「待て――ルック。それが本当だったとして――何故、財宝が溶岩の中になるのだ。何処かに持ち去った可能性を何故消した」
「何故って……遠くに持ち運ぶことができないと思ったからです」

 ファイド刑事さんもおそらく勘違いしていると思う。
 盗掘団の残党は、もう、一人しかいない。このアジトにある椅子やテーブルで最近まともに使用された形跡のあるものの数を見たらそれを推測できた。

 一人しかいない。そうなるとできることが限られる。そしてここで思い出してほしいのが、ファイド刑事さんの証拠品を隠すのに別の場所の岩や泥を運んできたということを。おそらくその場所が財宝の在処だったのだろう。
 しかし、既にファイド刑事さんが調べたところ、もう何もなかったという。

 カモフラージュするのにも時間を掛けたはずだ。その上でさらにどっさりと財宝を隠す余裕があったのだろうか。私のギルドで稼いでいる小遣いならいざ知らず、鉱石を売りさばいてきたものともなれば相当な量、重さになる。

 それがそっくりそのまま消失しているとしたら、その手段はかなり限られる。
 でも、思いついたなら直ぐにできたことだろう。
 このドワーフの里では何処に行っても目と鼻の先に溶岩があるのだから。


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 それからファイド刑事さんの告白を聞かされた。かつての仲間のアジトで、どっしりと座りながら語り始めるファイド刑事さんの姿は何ともはや哀愁が漂う。
 話のあらましは私の推理で大体あっていた。十数年前まではこのドワーフの里で炭鉱夫として働いていて、発掘した鉱石で日銭を稼いでいたのだとか。
 それでも次第に金に困り、自前の有り余った体力を活かした仕事はないかとギルドに掛けより、多くの仕事をこなし、気付いたら自警団から声が掛かったらしい。
 一方その頃、かつての炭鉱夫仲間たちは生活に苦しいままで、ファイド刑事さんのように離れていくものも多く、そして残されたものたちは負の感情を募らせるばかりだったのだろう。いつしか盗掘団に成り代わり、今に至ったというわけだ。
「よくぞそこまで見抜けたもんだね、ルックちゃん」
 一頻り話し終えて感心したような表情でマコフさんが言う。
「今回のは本当に当てずっぽで、たまたまですよ」
「それでも――見事なものだ。ただの勘とは到底思えん」
 ファイド刑事さんがまた深く辛そうな溜め息をこぼし、言う。
「でも、肝心の盗掘団さんたちの埋蔵金の在処は分からないままなんだよね?」
「いえ、多分ですが、手がかりはありますよ」
 私がそういうと、周囲がざわつく。ファイド刑事はガタンとテーブルを蹴り飛ばしながら立ち上がり、マコフさんも目が猫みたいに丸くなっている。
「なんだと? 我が輩たちが何度調べても何もなかったのだぞ」
「そうなんですよね。何も残っていないというのが怪しいんです。財産はともかくとして、ここには採掘に使う道具も何もないんです」
「それはここを捨てて別のアジトで使うからとかじゃないかしら?」
 顎に手を当て首を傾げたマコフさんが言う。
 普通に考えてみればそれが妥当だろう。道具が一番大事になるはずなのだから。
 一味が捕まり、アジトも暴かれ、ここにはいられないと確信したのなら残党は先ず真っ先に何をしようとするか。少なくとも、貴重なものを持ち出して、自分たちの足跡を消すんじゃないかなとは思う。
「ここには岩や泥の塊が沢山落ちていますよね。しかも見たところ、このアジトのものではないことが分かります。なら、これは何処からきたのでしょう?」
「炭鉱、かしら? でもルックちゃん。それが分かったところで何が判明するの? もしそれが財宝の隠し場所だったとしても特定まではできないんじゃない?」
「――ファイドさん。直ぐ近くで土を掘り返せる場所は分かりますか?」
「そんなの――とっくに我が輩が調べてしまったぞ」
 まあそうだろう。誰より先に埋蔵金を探し当てたいと思っていたはずなのだから。
 おそらくは、昨日の時点でも、はたまたそれより以前でも何度か調べ回っていたはずだ。それでいて見つからないということになる。
 だとしたら、この岩や泥は何を意味するのか。
「って、ルックちゃん、どうしたの? そんな泥の塊を漁っても何も……」
 私はこんもりと山になっていたその塊に、転がっていた石の破片を突き立てて中を探った。掘り返された土だからか、結構柔らかく、崩すのは容易だった。
「おいおい――そんな中に財宝があるわけないだろう――鉱石を売りさばいて儲けた額ならそこに収まるはずはない」
 そう、無造作に放置されたこの泥の塊の中に財宝があるはずない。どう考えてもこれらは掘り返された土塊でしかないのだから。でも、もしこの中に何かがあるとしたらそれは一体なんだろうか。
 私が手を泥まみれにしながら何個目かの泥山を崩したとき、それは手の先で感じられた。布を何重にも巻かれた小さな小さな箱のようなもの。
「ファイドさん、これに覚えは?」
 ギチギチに巻かれた布を丁寧に解くように外し、泥を被ったその箱をファイド刑事に差し出してみる。すると脆いガラス玉でも受け取るかのように、そっと手を添えるようにして受け取ってくれた。
「こ――これは――まさか――」
 ファイド刑事さんが箱をそっと開く。中に入っていたものは、写真のようなもの。この世界に写真という文明があるのかは知らないけれど、少なくともファイド刑事さんを中心に、気のよさそうなドワーフたちが集まっている場面が映し出されていた。
 もし、これが表に出てしまったならばファイド刑事さんの自警団内での扱いは難しいものになっていたのかもしれない。
「どうして――どうしてこんなところに――」
「泥の中にあったんだし、捨てられちゃったのかな……?」
 二人とも悲観的な方向で考えているようだった。
 ただ、私はそう思ってなかった。
「財宝を掘り返したときに、これだけ持ち帰ったんだと思います」
「掘り返したときにって……じゃあ、その肝心の財宝は何処に?」
「多分、溶岩の中なんじゃないでしょうかね」
 私の言葉に二度ビックリする二人。
 身構えていない状態でクリーンヒットを食らったかのような表情だ。
 あまりにも意表を突かれた様子だったので、順を追って説明することにした。
 掻い摘まんで言うとだ。アジトに岩や泥を運ぶ行動に疑問があった。
 発掘用の道具に付着していたものを落としたにしては量も多いし、そもそも道具そのものが行方不明。
 ファイド刑事さんがアジトの中を掘り返したのかとも思ったが、汗まみれにはなっているものの、泥まみれにはなっていない。というか、土質自体も違うし、道具もないからこの路線も消える。
 そうなるとわざわざ他所から岩や泥を運んで、道具だけ持ち去ったことになる。
 アジトの位置を暴かれて、逃げなくてはいけない状況で、そんなことをする必要性があるのか。否、思い当たる理由は一つ。
「――つまり、ファイドさんが元仲間だとバレることを恐れたのは、ファイドさん自身だけでなく、元仲間の人も同じだったということですよ」
 アジトの中に財宝がないことが分かれば、それ以上探すことはない。宝の入っていない空っぽの金庫があったら、他の場所を探すだろう。
 いわばここは最も探されることのない場所。そこに残されたものは、なんだったか? そう、ファイド刑事さんと元仲間を繋ぐ証拠品だ。
 わざわざ岩や泥をアジトに運び出してきたのは、見つけられないようにするためのカモフラージュだったのだ。
「待て――ルック。それが本当だったとして――何故、財宝が溶岩の中になるのだ。何処かに持ち去った可能性を何故消した」
「何故って……遠くに持ち運ぶことができないと思ったからです」
 ファイド刑事さんもおそらく勘違いしていると思う。
 盗掘団の残党は、もう、一人しかいない。このアジトにある椅子やテーブルで最近まともに使用された形跡のあるものの数を見たらそれを推測できた。
 一人しかいない。そうなるとできることが限られる。そしてここで思い出してほしいのが、ファイド刑事さんの証拠品を隠すのに別の場所の岩や泥を運んできたということを。おそらくその場所が財宝の在処だったのだろう。
 しかし、既にファイド刑事さんが調べたところ、もう何もなかったという。
 カモフラージュするのにも時間を掛けたはずだ。その上でさらにどっさりと財宝を隠す余裕があったのだろうか。私のギルドで稼いでいる小遣いならいざ知らず、鉱石を売りさばいてきたものともなれば相当な量、重さになる。
 それがそっくりそのまま消失しているとしたら、その手段はかなり限られる。
 でも、思いついたなら直ぐにできたことだろう。
 このドワーフの里では何処に行っても目と鼻の先に溶岩があるのだから。