表示設定
表示設定
目次 目次




第29話 謎を解き明かすのに理由はいるかい?

ー/ー



「報告通り、もぬけの殻ね。ルックちゃん、これじゃ無駄足だったかしら?」
「いえ、そんなことはないと思いますよ」
「ふむ――だが、足取りを掴めそうなものもないぞ。盗掘団の残党は財宝を持って何処に逃げたか……」

 ほんの少しだけ間を置く。ここには放置されたものも多い。ガラクタばかりに見えるが、それらの物証は様々なものを語る。

 物事には良い方向と悪い方向がある。どんなに良い方向に動き続けていても、必ず悪い方向というものは出てくる。だから、こんなときは物事が悪い方向に動いてしまったときのことを考えるんだ。

 パパの言葉を反芻して、私は深い溜め息をついた。多分、もう既に分かってしまっていることなんだろうな、と察してしまう。

「――では、一つ伺います。ファイドさんは盗掘団にお知り合いはいますか?」
 そのとき、私は大男が眉をひそめたのを見逃してはいない。

「――じゃあ、違う質問です。ファイドさんは、盗掘団の一味を捕まえる以前にこのアジトに立ち入ったことはありますか?」
 依然として、ファイド刑事さんは無言のままだ。

「どういうこと? ルックちゃん。その質問の意図は何?」

 マコフさんは、頭にハテナを浮かべている。さすがに心当たりはなさそうだ。
 もう一度、私は深く呼吸をする。まだだ。まだ繋がっていない。

 盗賊のアジトに残されているものは、せいぜい散乱した椅子やテーブル。それと片付けられていない岩や泥の塊。それらに紛れて、何か細長いもの……毛のようなものも落ちているのが見えた。かなりの数、かなりの長さだ。

 椅子やテーブルは急ごしらえで作られたもののようで不揃い。ただ、そのほとんどはサイズが小さい。ドワーフは体格の小さい種族だからだろう。

 採掘道具も、掘り出された鉱石もないこの空間は捨てられたアジトそのもの。
 くり抜かれた穴蔵のような室内に漂うこの生活感には、強烈な違和感もある。

「よいしょっと。まあまあファイドさん。立ち話もなんなので座りませんか?」

 一際大きな椅子を起こして、ファイド刑事さんの前に差し出す。
 するとまた一番と渋い顔をされた。

「我が輩には――ルック。某が何を言っているのか分からん」

 巨体の大男がその椅子に座る。
 潰れるわけでもなく、倒れるわけでもなく、椅子は巨体を支えていた。
 あたかも、おあつらえ向きのよう。

 せっかくなので、私は同じくそこに横倒しになっていた長テーブルも起こす。
 ちょっぴり重かったけど、どうにかテーブルとして機能を果たせる状態にはなった。そしたらどうしたことだろう。

 この光景をどう捉えるのかは個人にもよるとは思う。ただ、私にはテーブルの高さからいっても、ファイド刑事さんにとって丁度良い具合に見えた。
 なんだったら――そう、まるで自分たちの扱いやすいように作ったかのようなフィット感があった。

「あら、ファイド。そこら辺に散らかってたものなのに随分とサイズがぴったりね」
 マコフさんが何かに気付いたかのような反応を示す。

「――どうした、ルック。アレは言わないのか? イッツ……なんとかというのは」
 ファイド刑事さんからも特に言い返す言葉もないらしい。

「いえ、まだ私の中では最後の確信がついておりませんので」
「じゃあルックちゃん。今、頭の中にある憶測だけでも話せる?」

 言われるとは思った。ただ、それはとても危険である。何処までが正解で、また不正解なのかも不明瞭なのだから。
 しかし、ここまできて言わずに終える方が難しい。

「……分かりました。間違っていたら指摘してくださいね」

 繋がっていないときは、本当に不安になる。
 三度目、もう三度目の深呼吸を終えて、私は口火を切る。

「ドワーフの里の盗掘団ということで、団員はドワーフ族であると断定しました。その証拠に、このアジトに残されたものの多くは小さい家具ばかりです。ドワーフ族とは人間族と比べれば背の低い種族ですから当然ですよね。また、床にも長い体毛のようなものも落ちているのが見えました。ヒゲが長いのもドワーフの特徴だったと思います。ですが、ここでおかしなことがあるのがお分かりですか? まあ、言わなくても分かると思うのですが、ファイドさん、あなたはかなり身長が高いですよね。でもこのアジトは地下に掘られた場所だというのに何故かドワーフのアジトにしてはとても天井が高く、ファイドさんでも余裕に入れます。不思議ですね。それと、その椅子やテーブル。これも説明しますか。小さい種族であるドワーフのアジトで、どうしてファイドさんのサイズにあったものがあるのでしょう――それは」
「もういい――」
 ファイド刑事さんが遮ろうとする。が、私は言葉を続ける。

「それはファイドさんが、このアジトの……つまり盗掘団と縁があるから。それもただ知り合いというだけじゃない、昔の仲間だったんじゃないでしょうか。ここは私の憶測ですが、この盗掘団も昔はただの炭鉱夫だった。そしてファイドさんもそこで共に活動をしていた仲間だったんじゃないでしょうか。リーダーだったのかどうかは分かりませんが、かなり仲間の中でも優遇されていたとは思います。何せ、専用の椅子もこさえてもらってますしね。これもまた根拠は弱いのですが、ファイドさんはこのドワーフの里のことを詳しく、それでいてこの環境にも慣れている。地図にも載っていない炭鉱を把握しているのもちょっぴり引っかかってはいました。ドワーフの里、とても暑い場所です。自警団の皆さん、ほとんどバテているのにファイドさん、昨日は早馬で先に来ていましたよね。今も汗だくですけど、まだ元気そう。何度も来ているとはいえもう暑さに馴染むとは考えづらい。だとするとファイドさんはそういった訓練を前々からしていたか、あるいはこの環境での仕事に慣れていた、ということが考えられます」
「あのー……ルックちゃん、ルックちゃん……ちょっと待ってもらっていい?」
 マコフさんが横やりを入れてきた。そこでハッと私は一時停止する。

「なんでしょう?」
「ファイドは、盗掘団の仲間だったってこと? 今も盗掘団とつるんでいるってことでいいの?」
「いいえ、それはないと思っています。むしろそれが問題だったんじゃないかと」

 マコフさんはやっぱり頭にハテナを浮かべている。

「自警団のファイドさんが盗掘団の仲間だったことをギルドにバレたくなかったんですよ。でもまずいことが起きてしまった。盗掘団の一味がドワーフの里を抜けて町にまで足を伸ばしてきたことです」
「んー……でもそれだけだったら適当に黙っていればいいんじゃないかしら」

 アゴに指先を添えてマコフさんが言う。
 一方その頃、ファイド刑事さんは色々な汗を流しながら黙していた。

「それだと盗賊の財宝を探す理由がありません。これもまた私の勝手な想像ですが、その財宝の中にはファイドさんが昔、盗掘団の仲間だったことを指し示すものがあると確信していたのではないでしょうか。だからファイドさんは誰よりも先にそれを見つけ出して処分する必要があった。今回の仕事、ファイドさんにしては冷静じゃないな、って思ってたので。時間を掛ければどうにかなりそうなのに、占い師さんも何人か雇って、賢者のマコフさんにも依頼して、私にまでっておかしいなって」
「ああ――ルック――我が輩の負けだよ。某の言う通り、このアジトの連中とは仲間だったのだ」
たどり着いたよ(イッツ・ダーン)
 ようやくして、私はここにたどり着くことができたようだ。


次のエピソードへ進む 第30話 異世界の探偵


みんなのリアクション

「報告通り、もぬけの殻ね。ルックちゃん、これじゃ無駄足だったかしら?」
「いえ、そんなことはないと思いますよ」
「ふむ――だが、足取りを掴めそうなものもないぞ。盗掘団の残党は財宝を持って何処に逃げたか……」
 ほんの少しだけ間を置く。ここには放置されたものも多い。ガラクタばかりに見えるが、それらの物証は様々なものを語る。
 物事には良い方向と悪い方向がある。どんなに良い方向に動き続けていても、必ず悪い方向というものは出てくる。だから、こんなときは物事が悪い方向に動いてしまったときのことを考えるんだ。
 パパの言葉を反芻して、私は深い溜め息をついた。多分、もう既に分かってしまっていることなんだろうな、と察してしまう。
「――では、一つ伺います。ファイドさんは盗掘団にお知り合いはいますか?」
 そのとき、私は大男が眉をひそめたのを見逃してはいない。
「――じゃあ、違う質問です。ファイドさんは、盗掘団の一味を捕まえる以前にこのアジトに立ち入ったことはありますか?」
 依然として、ファイド刑事さんは無言のままだ。
「どういうこと? ルックちゃん。その質問の意図は何?」
 マコフさんは、頭にハテナを浮かべている。さすがに心当たりはなさそうだ。
 もう一度、私は深く呼吸をする。まだだ。まだ繋がっていない。
 盗賊のアジトに残されているものは、せいぜい散乱した椅子やテーブル。それと片付けられていない岩や泥の塊。それらに紛れて、何か細長いもの……毛のようなものも落ちているのが見えた。かなりの数、かなりの長さだ。
 椅子やテーブルは急ごしらえで作られたもののようで不揃い。ただ、そのほとんどはサイズが小さい。ドワーフは体格の小さい種族だからだろう。
 採掘道具も、掘り出された鉱石もないこの空間は捨てられたアジトそのもの。
 くり抜かれた穴蔵のような室内に漂うこの生活感には、強烈な違和感もある。
「よいしょっと。まあまあファイドさん。立ち話もなんなので座りませんか?」
 一際大きな椅子を起こして、ファイド刑事さんの前に差し出す。
 するとまた一番と渋い顔をされた。
「我が輩には――ルック。某が何を言っているのか分からん」
 巨体の大男がその椅子に座る。
 潰れるわけでもなく、倒れるわけでもなく、椅子は巨体を支えていた。
 あたかも、おあつらえ向きのよう。
 せっかくなので、私は同じくそこに横倒しになっていた長テーブルも起こす。
 ちょっぴり重かったけど、どうにかテーブルとして機能を果たせる状態にはなった。そしたらどうしたことだろう。
 この光景をどう捉えるのかは個人にもよるとは思う。ただ、私にはテーブルの高さからいっても、ファイド刑事さんにとって丁度良い具合に見えた。
 なんだったら――そう、まるで自分たちの扱いやすいように作ったかのようなフィット感があった。
「あら、ファイド。そこら辺に散らかってたものなのに随分とサイズがぴったりね」
 マコフさんが何かに気付いたかのような反応を示す。
「――どうした、ルック。アレは言わないのか? イッツ……なんとかというのは」
 ファイド刑事さんからも特に言い返す言葉もないらしい。
「いえ、まだ私の中では最後の確信がついておりませんので」
「じゃあルックちゃん。今、頭の中にある憶測だけでも話せる?」
 言われるとは思った。ただ、それはとても危険である。何処までが正解で、また不正解なのかも不明瞭なのだから。
 しかし、ここまできて言わずに終える方が難しい。
「……分かりました。間違っていたら指摘してくださいね」
 繋がっていないときは、本当に不安になる。
 三度目、もう三度目の深呼吸を終えて、私は口火を切る。
「ドワーフの里の盗掘団ということで、団員はドワーフ族であると断定しました。その証拠に、このアジトに残されたものの多くは小さい家具ばかりです。ドワーフ族とは人間族と比べれば背の低い種族ですから当然ですよね。また、床にも長い体毛のようなものも落ちているのが見えました。ヒゲが長いのもドワーフの特徴だったと思います。ですが、ここでおかしなことがあるのがお分かりですか? まあ、言わなくても分かると思うのですが、ファイドさん、あなたはかなり身長が高いですよね。でもこのアジトは地下に掘られた場所だというのに何故かドワーフのアジトにしてはとても天井が高く、ファイドさんでも余裕に入れます。不思議ですね。それと、その椅子やテーブル。これも説明しますか。小さい種族であるドワーフのアジトで、どうしてファイドさんのサイズにあったものがあるのでしょう――それは」
「もういい――」
 ファイド刑事さんが遮ろうとする。が、私は言葉を続ける。
「それはファイドさんが、このアジトの……つまり盗掘団と縁があるから。それもただ知り合いというだけじゃない、昔の仲間だったんじゃないでしょうか。ここは私の憶測ですが、この盗掘団も昔はただの炭鉱夫だった。そしてファイドさんもそこで共に活動をしていた仲間だったんじゃないでしょうか。リーダーだったのかどうかは分かりませんが、かなり仲間の中でも優遇されていたとは思います。何せ、専用の椅子もこさえてもらってますしね。これもまた根拠は弱いのですが、ファイドさんはこのドワーフの里のことを詳しく、それでいてこの環境にも慣れている。地図にも載っていない炭鉱を把握しているのもちょっぴり引っかかってはいました。ドワーフの里、とても暑い場所です。自警団の皆さん、ほとんどバテているのにファイドさん、昨日は早馬で先に来ていましたよね。今も汗だくですけど、まだ元気そう。何度も来ているとはいえもう暑さに馴染むとは考えづらい。だとするとファイドさんはそういった訓練を前々からしていたか、あるいはこの環境での仕事に慣れていた、ということが考えられます」
「あのー……ルックちゃん、ルックちゃん……ちょっと待ってもらっていい?」
 マコフさんが横やりを入れてきた。そこでハッと私は一時停止する。
「なんでしょう?」
「ファイドは、盗掘団の仲間だったってこと? 今も盗掘団とつるんでいるってことでいいの?」
「いいえ、それはないと思っています。むしろそれが問題だったんじゃないかと」
 マコフさんはやっぱり頭にハテナを浮かべている。
「自警団のファイドさんが盗掘団の仲間だったことをギルドにバレたくなかったんですよ。でもまずいことが起きてしまった。盗掘団の一味がドワーフの里を抜けて町にまで足を伸ばしてきたことです」
「んー……でもそれだけだったら適当に黙っていればいいんじゃないかしら」
 アゴに指先を添えてマコフさんが言う。
 一方その頃、ファイド刑事さんは色々な汗を流しながら黙していた。
「それだと盗賊の財宝を探す理由がありません。これもまた私の勝手な想像ですが、その財宝の中にはファイドさんが昔、盗掘団の仲間だったことを指し示すものがあると確信していたのではないでしょうか。だからファイドさんは誰よりも先にそれを見つけ出して処分する必要があった。今回の仕事、ファイドさんにしては冷静じゃないな、って思ってたので。時間を掛ければどうにかなりそうなのに、占い師さんも何人か雇って、賢者のマコフさんにも依頼して、私にまでっておかしいなって」
「ああ――ルック――我が輩の負けだよ。某の言う通り、このアジトの連中とは仲間だったのだ」
「|たどり着いたよ《イッツ・ダーン》」
 ようやくして、私はここにたどり着くことができたようだ。