外へ出たくないという彼を、何とか黒田家へ連れて来ると、私は彼に護符を持たせ、祓い屋のお祓いを受けてもらった。
「リュウ、私は社長を辞めようと思う」
「どうなさったのですか?」
「器の小さい私には、社長なんて向いていなかったんだ」
「そんな──どうか、お考え直しを」
「もう決めたことだ」
リュウと横並びでソファへ座ると、彼の手を握った。
「これからは──好きな人に尽くそうと思う」
「好きな人?」
私は呆気に取られている彼の肩を掴むと、頬を寄せてキスをした。
「社長、お戯れもほどほどに……」
顔を赤くしたリュウは、私から距離をとると俯いた。
「リュウ、君を愛している」
「ご冗談を──社長には、奥様がいらっしゃるでは、ありませんか」
「仮面夫婦だがな」
私は妻と関係を持っていないこと、妻とは別居中で、妻は妻で女性しか愛せず、女性と暮らしていることを話した。そして──私が男性しか愛せないということも。
「それでは社長、仮面夫婦というのは……」
「契約結婚をした。私が女性を抱けないことが、判明していたからだ。グループ会社に、同じ理由を抱えた社長令嬢がいないか調べたんだ」
「……」
私は逃げ出してしまいそうな彼の手を掴むと、しっかりと抱きしめた。
「リュウ、君を愛している。世界中の誰よりも」
「はい」
しばらく抱きしめ合った後、身体を離すと彼は泣いていた。
「すまない、痛かったか?」
「いいえ。この涙は──たぶん、嬉し泣きです。私も少し前から、社長の事が気になっていました。でも、社長には奥様がいらっしゃるので、諦めていたのです。しかも私は、マリアにひどいことを──」
「言わなくていい。催眠術の効果は一時的なものだ。強く掛けても、数年が限界だ。今ごろ彼女は、以前の記憶を取り戻しているだろう」
「社長……」
「リュウ、私と一緒になってくれるか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
目に涙を浮かべたリュウは、震えながら答えると微笑んだ。
「私のことも、出来れば名前で呼んで欲しい」
「──ケイ」
赤くなりながら小さく呟いた彼を、私は強く抱きしめた。
世界中の誰よりも、この笑顔を守りたい。引退したら、二人で暮らそう──私はこの時、初めて未来への渇望を抱き、彼を幸せにしたいと願ったのだった。