ナイトメア・リムーバー
ー/ー 僕は今日も気味の悪い夢を見続けていた。
内容は大したものではない。ただ、気持ち悪いなと感じるシーンがところどころに挟まってきて安眠したいと願う僕の心を憂鬱にさせた。
じっとりと肌に纏わりつくのは湿った空気で、夜になっても下がらない室温が不快感を増幅させていく。
寝苦しいのにも程がある。窓を開けたり、水を取ってきたりしたら少しはマシになるのかもしれない。そう頭では分かっていても目を開けるつもりはなく、ひたすらに薄暗い闇の中を泳ぎ続ける。うとうとしながらまた別の夢を見ていたが、こちらも生温い悪夢だった。悪夢続きで疲弊していく精神と、何故か暑さが増していく室内に辟易とする。
夢と現実の境目が曖昧になってきた頃、誰かに肩を叩かれたような気がして僕はひどく恐怖した。夢の中で叩かれたのか、はたまた現実の世界で誰かが僕に触れたのか。もし、後者だったとしたらどうしたらいいのだろう。
ちなみに、この部屋の窓は眠っている僕のちょうど頭側にある。用心深い僕は、暑いからと言って夜中に窓を開け放つような真似はしていない。見知らぬ人間が入ってくることなどあり得ないのに、夜中だから余計にあり得ないのに、肩に触れた人の手の感覚がやけにリアルで冷や汗が止まらなかった。
何なら、まだ背後に人間の気配を感じている。これは夢なのか?
体に触れられたことよりも、くっきりとした気配の方に気味の悪さを覚えた。
やはり目を開けることも、振り返ることもできなかったが。これで本当に侵入者の存在を確かめてしまったら、僕は次の行動を起こさなければならなくなる。眠り続けることが許されなくなる。悪夢の続きだったのかと翌日に笑い飛ばせなくなる。
既に半分ほど覚醒した意識は背中に集中させ、必死に後方の気配を探っていた。気を抜いたらまた肩を叩いてくるのではないかと。そんな妄想に囚われて汗ばんだ手で布団を握り締める。
そのとき。
こん、と窓枠に何かが当たる音がした。頭上から確かに物音がした。
まるで、侵入者が現在進行形で窓の外に潜んでいて、今からこの窓を開けようと手をかけたときの物音のようにも感じられて、もはや研ぎ澄まされた聴覚がありとあらゆる物音を拾ってしまって僕はパニックに陥った。しかし、背中の辺りにねっとりと絡みつく視線と人の気配も消えていない。いったい何なんだ。
次に何か起こったら叫んで飛び起きる自信がある。できれば再び眠りに落ちたい。落ちた先が悪夢でも構わないから、次に目を覚ましたときには朝になっていてほしい。
内容は大したものではない。ただ、気持ち悪いなと感じるシーンがところどころに挟まってきて安眠したいと願う僕の心を憂鬱にさせた。
じっとりと肌に纏わりつくのは湿った空気で、夜になっても下がらない室温が不快感を増幅させていく。
寝苦しいのにも程がある。窓を開けたり、水を取ってきたりしたら少しはマシになるのかもしれない。そう頭では分かっていても目を開けるつもりはなく、ひたすらに薄暗い闇の中を泳ぎ続ける。うとうとしながらまた別の夢を見ていたが、こちらも生温い悪夢だった。悪夢続きで疲弊していく精神と、何故か暑さが増していく室内に辟易とする。
夢と現実の境目が曖昧になってきた頃、誰かに肩を叩かれたような気がして僕はひどく恐怖した。夢の中で叩かれたのか、はたまた現実の世界で誰かが僕に触れたのか。もし、後者だったとしたらどうしたらいいのだろう。
ちなみに、この部屋の窓は眠っている僕のちょうど頭側にある。用心深い僕は、暑いからと言って夜中に窓を開け放つような真似はしていない。見知らぬ人間が入ってくることなどあり得ないのに、夜中だから余計にあり得ないのに、肩に触れた人の手の感覚がやけにリアルで冷や汗が止まらなかった。
何なら、まだ背後に人間の気配を感じている。これは夢なのか?
体に触れられたことよりも、くっきりとした気配の方に気味の悪さを覚えた。
やはり目を開けることも、振り返ることもできなかったが。これで本当に侵入者の存在を確かめてしまったら、僕は次の行動を起こさなければならなくなる。眠り続けることが許されなくなる。悪夢の続きだったのかと翌日に笑い飛ばせなくなる。
既に半分ほど覚醒した意識は背中に集中させ、必死に後方の気配を探っていた。気を抜いたらまた肩を叩いてくるのではないかと。そんな妄想に囚われて汗ばんだ手で布団を握り締める。
そのとき。
こん、と窓枠に何かが当たる音がした。頭上から確かに物音がした。
まるで、侵入者が現在進行形で窓の外に潜んでいて、今からこの窓を開けようと手をかけたときの物音のようにも感じられて、もはや研ぎ澄まされた聴覚がありとあらゆる物音を拾ってしまって僕はパニックに陥った。しかし、背中の辺りにねっとりと絡みつく視線と人の気配も消えていない。いったい何なんだ。
次に何か起こったら叫んで飛び起きる自信がある。できれば再び眠りに落ちたい。落ちた先が悪夢でも構わないから、次に目を覚ましたときには朝になっていてほしい。
「そんなもの、さっさと起きて確かめてみればいいでしょう」
聞き覚えのある呆れきった声と、視界を埋め尽くす白っぽいもの。
先ほどの比ではない濃厚な人の気配に、今度こそ僕は目を開けて正体を確かめることとなった。
一瞬だけ縮み上がった心臓は勢いよく脈打ち、体外に音が聞こえるのではないかと錯覚するほどにバクバクと激しく鳴り続ける。宣言通りに叫んだ僕は、動いた拍子に壁に手を打ちつけてさらにダメージを負ったのだった。
「うわぁ、ぁ、あ…………?」
僕の叫び声がぶつりと途切れたのは物理的に口を塞がれたからだった。
手のひらで塞がれたにしては伝わる感覚が局地的すぎる。もっと確実に、しっかりと唇に蓋をされて、僕はそのまま身動きが取れなくなる。幸いなことに鼻呼吸はできているので窒息する恐れはなさそうだ。ひどく体が熱くて、それなのに頭は妙に冷静に回転していて、今の状況を改めて説明することはそう難しくなかった。
難しくはなかったが、相手の口から言わせたくなるのも当然のことだろう。
「な、にを、してるんだよ……」
僕の後頭部を支えていた手が離れていく。形の良い唇も一拍置いて離れていく。つい数秒前まで重ねられていた唇はやわくて、そして温かった。鼻先に吐息がかかって脳の芯がじんわりと痺れていく。磨き抜かれた美貌を持つ少女から施された口づけは甘く、思考が焼き切れそうになる。こんな寝苦しい夏の夜に、いろいろな意味で汗が止まらなくなる。
「怖い思いをしたら上書きしたらいいの。もっとすごいもので」
まあ、確かに悪夢とか恐怖とか諸々すべて吹っ飛んでいったけど。
「ばか……ていうか、どこから入ってきたんだよ」
「変な声が聞こえてきたから、心配になって見に来たのよ。またうなされて叫んだの?」
「叫んだのは、今だけだ。多分。お前が入ってきてからだよ」
夢の中ならまだしも、現実に声を出して叫んでいたのならその声で起きている。
どこから入ってきたのかという問いには答えず、彼女は僕の肩に手を置いてもう一度顔を近づけた。思わず目を瞑って、数秒後に触れるであろう熱に神経を集中させる。
今日はこのまま眠ってしまいましょうね。
小さな手で両耳を塞がれた理由を確かめる勇気はなかった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
僕は今日も気味の悪い夢を見続けていた。
内容は大したものではない。ただ、気持ち悪いなと感じるシーンがところどころに挟まってきて安眠したいと願う僕の心を憂鬱にさせた。
じっとりと肌に纏わりつくのは湿った空気で、夜になっても下がらない室温が不快感を増幅させていく。
寝苦しいのにも程がある。窓を開けたり、水を取ってきたりしたら少しはマシになるのかもしれない。そう頭では分かっていても目を開けるつもりはなく、ひたすらに薄暗い闇の中を泳ぎ続ける。うとうとしながらまた別の夢を見ていたが、こちらも生温い悪夢だった。悪夢続きで疲弊していく精神と、何故か暑さが増していく室内に辟易とする。
夢と現実の境目が曖昧になってきた頃、誰かに肩を叩かれたような気がして僕はひどく恐怖した。夢の中で叩かれたのか、はたまた現実の世界で誰かが僕に触れたのか。もし、後者だったとしたらどうしたらいいのだろう。
ちなみに、この部屋の窓は眠っている僕のちょうど頭側にある。用心深い僕は、暑いからと言って夜中に窓を開け放つような真似はしていない。見知らぬ人間が入ってくることなどあり得ないのに、夜中だから余計にあり得ないのに、肩に触れた人の手の感覚がやけにリアルで冷や汗が止まらなかった。
何なら、まだ背後に人間の気配を感じている。これは夢なのか?
体に触れられたことよりも、くっきりとした気配の方に気味の悪さを覚えた。
やはり目を開けることも、振り返ることもできなかったが。これで本当に侵入者の存在を確かめてしまったら、僕は次の行動を起こさなければならなくなる。眠り続けることが許されなくなる。悪夢の続きだったのかと翌日に笑い飛ばせなくなる。
既に半分ほど覚醒した意識は背中に集中させ、必死に後方の気配を探っていた。気を抜いたらまた肩を叩いてくるのではないかと。そんな妄想に囚われて汗ばんだ手で布団を握り締める。
そのとき。
こん、と窓枠に何かが当たる音がした。頭上から確かに物音がした。
まるで、侵入者が現在進行形で窓の外に潜んでいて、今からこの窓を開けようと手をかけたときの物音のようにも感じられて、もはや研ぎ澄まされた聴覚がありとあらゆる物音を拾ってしまって僕はパニックに陥った。しかし、背中の辺りにねっとりと絡みつく視線と人の気配も消えていない。いったい何なんだ。
次に何か起こったら叫んで飛び起きる自信がある。できれば再び眠りに落ちたい。落ちた先が悪夢でも構わないから、次に目を覚ましたときには朝になっていてほしい。
内容は大したものではない。ただ、気持ち悪いなと感じるシーンがところどころに挟まってきて安眠したいと願う僕の心を憂鬱にさせた。
じっとりと肌に纏わりつくのは湿った空気で、夜になっても下がらない室温が不快感を増幅させていく。
寝苦しいのにも程がある。窓を開けたり、水を取ってきたりしたら少しはマシになるのかもしれない。そう頭では分かっていても目を開けるつもりはなく、ひたすらに薄暗い闇の中を泳ぎ続ける。うとうとしながらまた別の夢を見ていたが、こちらも生温い悪夢だった。悪夢続きで疲弊していく精神と、何故か暑さが増していく室内に辟易とする。
夢と現実の境目が曖昧になってきた頃、誰かに肩を叩かれたような気がして僕はひどく恐怖した。夢の中で叩かれたのか、はたまた現実の世界で誰かが僕に触れたのか。もし、後者だったとしたらどうしたらいいのだろう。
ちなみに、この部屋の窓は眠っている僕のちょうど頭側にある。用心深い僕は、暑いからと言って夜中に窓を開け放つような真似はしていない。見知らぬ人間が入ってくることなどあり得ないのに、夜中だから余計にあり得ないのに、肩に触れた人の手の感覚がやけにリアルで冷や汗が止まらなかった。
何なら、まだ背後に人間の気配を感じている。これは夢なのか?
体に触れられたことよりも、くっきりとした気配の方に気味の悪さを覚えた。
やはり目を開けることも、振り返ることもできなかったが。これで本当に侵入者の存在を確かめてしまったら、僕は次の行動を起こさなければならなくなる。眠り続けることが許されなくなる。悪夢の続きだったのかと翌日に笑い飛ばせなくなる。
既に半分ほど覚醒した意識は背中に集中させ、必死に後方の気配を探っていた。気を抜いたらまた肩を叩いてくるのではないかと。そんな妄想に囚われて汗ばんだ手で布団を握り締める。
そのとき。
こん、と窓枠に何かが当たる音がした。頭上から確かに物音がした。
まるで、侵入者が現在進行形で窓の外に潜んでいて、今からこの窓を開けようと手をかけたときの物音のようにも感じられて、もはや研ぎ澄まされた聴覚がありとあらゆる物音を拾ってしまって僕はパニックに陥った。しかし、背中の辺りにねっとりと絡みつく視線と人の気配も消えていない。いったい何なんだ。
次に何か起こったら叫んで飛び起きる自信がある。できれば再び眠りに落ちたい。落ちた先が悪夢でも構わないから、次に目を覚ましたときには朝になっていてほしい。
「そんなもの、さっさと起きて確かめてみればいいでしょう」
聞き覚えのある呆れきった声と、視界を埋め尽くす白っぽいもの。
先ほどの比ではない濃厚な人の気配に、今度こそ僕は目を開けて正体を確かめることとなった。
一瞬だけ縮み上がった心臓は勢いよく脈打ち、体外に音が聞こえるのではないかと錯覚するほどにバクバクと激しく鳴り続ける。宣言通りに叫んだ僕は、動いた拍子に壁に手を打ちつけてさらにダメージを負ったのだった。
先ほどの比ではない濃厚な人の気配に、今度こそ僕は目を開けて正体を確かめることとなった。
一瞬だけ縮み上がった心臓は勢いよく脈打ち、体外に音が聞こえるのではないかと錯覚するほどにバクバクと激しく鳴り続ける。宣言通りに叫んだ僕は、動いた拍子に壁に手を打ちつけてさらにダメージを負ったのだった。
「うわぁ、ぁ、あ…………?」
僕の叫び声がぶつりと途切れたのは物理的に口を塞がれたからだった。
手のひらで塞がれたにしては伝わる感覚が局地的すぎる。もっと確実に、しっかりと唇に蓋をされて、僕はそのまま身動きが取れなくなる。幸いなことに鼻呼吸はできているので窒息する恐れはなさそうだ。ひどく体が熱くて、それなのに頭は妙に冷静に回転していて、今の状況を改めて説明することはそう難しくなかった。
難しくはなかったが、相手の口から言わせたくなるのも当然のことだろう。
手のひらで塞がれたにしては伝わる感覚が局地的すぎる。もっと確実に、しっかりと唇に蓋をされて、僕はそのまま身動きが取れなくなる。幸いなことに鼻呼吸はできているので窒息する恐れはなさそうだ。ひどく体が熱くて、それなのに頭は妙に冷静に回転していて、今の状況を改めて説明することはそう難しくなかった。
難しくはなかったが、相手の口から言わせたくなるのも当然のことだろう。
「な、にを、してるんだよ……」
僕の後頭部を支えていた手が離れていく。形の良い唇も一拍置いて離れていく。つい数秒前まで重ねられていた唇はやわくて、そして温かった。鼻先に吐息がかかって脳の芯がじんわりと痺れていく。磨き抜かれた美貌を持つ少女から施された口づけは甘く、思考が焼き切れそうになる。こんな寝苦しい夏の夜に、いろいろな意味で汗が止まらなくなる。
「怖い思いをしたら上書きしたらいいの。もっとすごいもので」
まあ、確かに悪夢とか恐怖とか諸々すべて吹っ飛んでいったけど。
「ばか……ていうか、どこから入ってきたんだよ」
「変な声が聞こえてきたから、心配になって見に来たのよ。またうなされて叫んだの?」
「叫んだのは、今だけだ。多分。お前が入ってきてからだよ」
「変な声が聞こえてきたから、心配になって見に来たのよ。またうなされて叫んだの?」
「叫んだのは、今だけだ。多分。お前が入ってきてからだよ」
夢の中ならまだしも、現実に声を出して叫んでいたのならその声で起きている。
どこから入ってきたのかという問いには答えず、彼女は僕の肩に手を置いてもう一度顔を近づけた。思わず目を瞑って、数秒後に触れるであろう熱に神経を集中させる。
今日はこのまま眠ってしまいましょうね。
小さな手で両耳を塞がれた理由を確かめる勇気はなかった。
どこから入ってきたのかという問いには答えず、彼女は僕の肩に手を置いてもう一度顔を近づけた。思わず目を瞑って、数秒後に触れるであろう熱に神経を集中させる。
今日はこのまま眠ってしまいましょうね。
小さな手で両耳を塞がれた理由を確かめる勇気はなかった。