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何となく音楽の授業を思い出したの

ー/ー




 君に、さっき見た悪夢の話をしてあげる。
 ……そんなこと、頼んでない?
 私が話したいから話すの。君は黙って聞いていればいいの。逃げようなんて考えないことね。
 頑張ってもこういう話し方しかできないんだけど、事実を並べるだけというのも芸がなくて退屈ね。せっかく話をするんだから、聞いている君にとっても興味深いと思える話をしないと。そうじゃないと最後まで聞いてもらえないかもしれないし。
 私は見ての通り、とてもとても美しい容姿をしているでしょう。それこそ、「人を喰らう魔物が人に化けて現れたような」一点の曇りもない美貌を持って生まれてきた。
 だからね、昔から鏡を見ることができなかった。今でも少し苦手だったりする。
 鏡の中の自分が、こちら側を見つめ返しているのを直視することが恐ろしかったの。とんでもない美人に見つめられたら誰だって萎縮するし、もちろん私だってそうよ。まぁ、鏡の中にあるのは紛れもなく私の顔なんだけど。あれは嘘偽りない真実しか映さない。どんなに直視したくない現実でもね。
 宝石すら霞む私の美しさはさておき、話を進めましょうね。いつまで経っても眠れないから。
 夢の中に出てきた鏡は、両手で持たないと動かせないような、それなりに重さがある物だった。イメージしやすいかもしれないけど、何の変哲もないただの大きな鏡よ。当然、使った後も机の上に置いたままにしておくよね。
 伏せることも、鏡面を何かで覆うこともできないわけだから、常に剥き出しの状態で部屋のどこかを映しているの。
 私が見た夢では、小さな和室の中に置かれていた。置いてある場所はちょうどこの部屋と同じ作りをしていて、時間は昼間だった。西日が差しかけていたからだいぶ日が落ちてきて夕方に近かったのかもしれないけれど、それでもまだ昼間だと言える明るさはあったかな。
 人がいない間はずっと室内だけを映し続けていて、反転させられている世界の景色が変わることはそうそうない。映しているものが静止している限りは、代わり映えのない景色がずっとそこにあるだけ。まるで絵画みたいに。
 私は部屋の隅の方に座って、自分が映り込まないように気をつけながら鏡を注意深く観察していた。時々ね、影がよぎるのよ。こちら側には何もいないのに向こう側で何かが動いているの。そうしていると、突然目の前が真っ暗になって、ゆっくりと意識が覚醒して布団の上に寝転がっていたことを思い出すの。内容としてはそれだけ。
 これのどこが悪夢だったのか、君はまだピンと来ないのね。何が怖かったのかって言われると私もよく分からない。幽霊が出てくるわけじゃないし。
 まぁ、簡単に言うとね。繰り返してるのよ、この話。
 君がうっかり叩き壊したあの日から、ずっと同じ夢を見せられているものだから、いい加減に飽きてしまったわ。
 今、机の上に置いてある鏡?
 あれはね、君が壊した物だよ。だからたった今言ったでしょう。繰り返してるって。あの鏡が死んだ瞬間を私たちは追体験してるというわけ。私だけじゃないよ。君もだよ。
 だって、この話をするのも初めてじゃないもの。その証拠に、話を聞いた君の顔からは血の気が引いて、一刻も早く電気をつけるために立ち上がって、転んで、うっかり机の上にあった鏡を叩き割る。どう頑張ってもそうなることは変えられなかった。
 逃げようなんて考えないことね。
 向こうの世界は昼間だし、目が眩むほど整った顔立ちの美女が鏡の破片を通してこちら側を見ているのが分かるの。不躾な視線が一方的にチクチク刺さるから嫌でも分かる。夢なら覚めてほしい。今の私たちが置かれたこの状況が「夢」ならね。
 もう、私にもどちら側が夢の出来事なのか分からないのよ。そして、どこからが夢だったのかも分からないの。

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 君に、さっき見た悪夢の話をしてあげる。
 ……そんなこと、頼んでない?
 私が話したいから話すの。君は黙って聞いていればいいの。逃げようなんて考えないことね。
 頑張ってもこういう話し方しかできないんだけど、事実を並べるだけというのも芸がなくて退屈ね。せっかく話をするんだから、聞いている君にとっても興味深いと思える話をしないと。そうじゃないと最後まで聞いてもらえないかもしれないし。
 私は見ての通り、とてもとても美しい容姿をしているでしょう。それこそ、「人を喰らう魔物が人に化けて現れたような」一点の曇りもない美貌を持って生まれてきた。
 だからね、昔から鏡を見ることができなかった。今でも少し苦手だったりする。
 鏡の中の自分が、こちら側を見つめ返しているのを直視することが恐ろしかったの。とんでもない美人に見つめられたら誰だって萎縮するし、もちろん私だってそうよ。まぁ、鏡の中にあるのは紛れもなく私の顔なんだけど。あれは嘘偽りない真実しか映さない。どんなに直視したくない現実でもね。
 宝石すら霞む私の美しさはさておき、話を進めましょうね。いつまで経っても眠れないから。
 夢の中に出てきた鏡は、両手で持たないと動かせないような、それなりに重さがある物だった。イメージしやすいかもしれないけど、何の変哲もないただの大きな鏡よ。当然、使った後も机の上に置いたままにしておくよね。
 伏せることも、鏡面を何かで覆うこともできないわけだから、常に剥き出しの状態で部屋のどこかを映しているの。
 私が見た夢では、小さな和室の中に置かれていた。置いてある場所はちょうどこの部屋と同じ作りをしていて、時間は昼間だった。西日が差しかけていたからだいぶ日が落ちてきて夕方に近かったのかもしれないけれど、それでもまだ昼間だと言える明るさはあったかな。
 人がいない間はずっと室内だけを映し続けていて、反転させられている世界の景色が変わることはそうそうない。映しているものが静止している限りは、代わり映えのない景色がずっとそこにあるだけ。まるで絵画みたいに。
 私は部屋の隅の方に座って、自分が映り込まないように気をつけながら鏡を注意深く観察していた。時々ね、影がよぎるのよ。こちら側には何もいないのに向こう側で何かが動いているの。そうしていると、突然目の前が真っ暗になって、ゆっくりと意識が覚醒して布団の上に寝転がっていたことを思い出すの。内容としてはそれだけ。
 これのどこが悪夢だったのか、君はまだピンと来ないのね。何が怖かったのかって言われると私もよく分からない。幽霊が出てくるわけじゃないし。
 まぁ、簡単に言うとね。繰り返してるのよ、この話。
 君がうっかり叩き壊したあの日から、ずっと同じ夢を見せられているものだから、いい加減に飽きてしまったわ。
 今、机の上に置いてある鏡?
 あれはね、君が壊した物だよ。だからたった今言ったでしょう。繰り返してるって。あの鏡が死んだ瞬間を私たちは追体験してるというわけ。私だけじゃないよ。君もだよ。
 だって、この話をするのも初めてじゃないもの。その証拠に、話を聞いた君の顔からは血の気が引いて、一刻も早く電気をつけるために立ち上がって、転んで、うっかり机の上にあった鏡を叩き割る。どう頑張ってもそうなることは変えられなかった。
 逃げようなんて考えないことね。
 向こうの世界は昼間だし、目が眩むほど整った顔立ちの美女が鏡の破片を通してこちら側を見ているのが分かるの。不躾な視線が一方的にチクチク刺さるから嫌でも分かる。夢なら覚めてほしい。今の私たちが置かれたこの状況が「夢」ならね。
 もう、私にもどちら側が夢の出来事なのか分からないのよ。そして、どこからが夢だったのかも分からないの。
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