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第三十九話 連携

ー/ー



 ――さて、どうする? 拓磨(たくま)よ。
 前回は下男(げなん)を介して君の実力を見たが、今度はこの目で確かめさせてもらう。

 ついでに、君の可愛い式神もな。

 道を挟んだ対面側で繰り広げられる戦いを、私は五重塔に登り、文字どおりの〝高みの見物〟に胸を躍らせた。



 攻撃に転じられない。岩の雨は休むことなく降り注ぎ続ける。
 岩石の妖術を操る二足歩行の和邇(ワニ)の攻撃に、周りの陰陽師は勿論、私ですら結界壁(けっかいへき)を解くことができなかった。

 岩石を防げば石斧となり襲われる。
 岩石を打てば粉砕され破片の刃と化す。

 この状況を打破しなければ、結界からは一生出られない。

「くっ……! 拓磨、このままじゃ埒が明かないぞ!」
「分かっている、考えているのだ黙っててくれ」

 横から口を挟んできた華葉(かよう)にそう言い放つと、彼女は不服そうに眉をしかめたが素直に口を閉ざした。まだ華葉の力に頼るわけにはいかない。
 相手は妖術を繰り出し続けている。妖力切れを待てばいずれこの煩わしい攻撃を止めることができるが、その前に結界が持たない。結界の強度にも限界はあり、打撃を受け続ければ当然脆くなるものだ。それに私は兎も角として、検非違使(けびいし)も守っている周りの陰陽師たちの心力(しんりょく)がまず持たないだろう。

 どうにかして和邇自身に一撃を入れない限り、こちらに勝機はない。この岩の雨を掻い潜って奴に一矢報いることができれば……。どの道あの(ふん)を前にして接近戦は不利だろう。
 奴の妖術・雲母乱石斧(うんもらんせきふ)の隙を狙い、私は術を放った。

「安曇式陰陽術、根楼白槍(こんろうはくそう)!」

 だが狙った端から石斧が投下され、白槍の勢いは相殺されてしまった。砕かれた石斧が再び粉末となり、周囲を雲母の破片がキラキラと光る霞が包んだ。
 ……まぁ、そう来るだろうな。

 ならばと心力を上乗せした根楼白槍を乱れ打ちし、数で勝負に出た。周囲一帯の木の根を操り、自分の周りだけでなく和邇の周囲からも根の槍で奴を狙う。殆どが見事なまでに石斧の餌食になったが、何本かは奴を捉えたのだ。
 自身目がけて迫り来る白槍に奴は奥歯を噛みしめた。

 刹那。

『妖術、蛇紋(じゃもん)葉脈壁(ようみゃくへき)……ッ!』

 和邇自身を覆うように岩の盾が奴を包みこんで白槍を防いだ。白槍は盾を貫くものの、葉脈のように複雑に絡まった石の結晶に阻まれ、その剣先が奴まで届くことはなかった。
 役目を終えた盾はガラガラと崩れ去り、和邇は得意げにほくそ笑んだ。――これも駄目か。

「拓磨、石斧を防ぎながらの攻撃は無理だ。誰かの手を借りるしかないぞ!」
「周りの陰陽師を当てにしろと? 無駄だ、奴らの心力が持つと思えん」

 それに他人など信用できるか。そう付け加えると華葉は小さく溜め息を吐いた。

「お前の過去に何があったかは知らぬが、今はそんなこと言っている場合ではないだろう。あいつらの心力なら心配いらぬ。何のために私がいる?」

 再び襲いかかる石斧の乱れ打ちに、周りの者たちの悲鳴が上がる。そんな中、華葉の言葉に私はハッとした。確かに妖術は公にできないが、彼女の心力回復技はもう何人かの陰陽師に知れ渡っている。あれで華葉を妖怪と思う者はいないだろう。
 しかし、奴らの力にどれくらいの期待を持てというのか。並の陰陽師が戦える相手ではない。そう考えている間に和邇の攻撃は周囲の民家にも影響し始めていた。

「拓磨ッ! 迷っている暇はないぞ!!」

 華葉にそう啖呵を切られ、仕方なく私は腹を括った。
 ……奴らが死んでも、私のせいではないぞ。

「お前たち! 心力を全開にして援護しろ!!」
「ぅえ!? は、はあ、しかし我らの心力はもう――!?」

 話している間に華葉は既に陰陽師たちの心力回復を施し始めたようで、全身にみなぎる心力に奴らは驚きの声を上げていた。何が起こっているのか困惑する者もいれば、華葉を知っているのか何かを説明する者の姿も見られた。
 そして瞬く間に彼らの表情が変わったのである。

「拓磨殿! 何をすれば良い!?」
「何でも言ってください、精一杯やります!!」

 威勢の良い言葉に私は一瞬声を失った。彼らとて陰陽師、その心には確かな使命感を宿しているのだ。どの者も所有する心力は期待した量ではないが、全員でかかれば不足はない。信じてみても良いのだろうか。

「石斧の処理はお前たちに任せる! なるべく全ての石斧を砕いてくれ。……私は和邇(ほんたい)を討つ!」
「「「承知した!」」」

 声を合わせそう叫ぶと、彼らは一斉に護符を新たに取り出した。私の言葉のとおり、彼らの全開の心力であらゆる気の陰陽術が放たれる。粉砕した岩に傷つけられても構わず、検非違使たちもこぞって石斧を攻撃した。
 私はこの機を逃すわけにはいかない。最大の心力を持って和邇(ヤツ)を滅する!

(もく)よ、(すい)の気を相生(そうしょう)せよ。安曇式陰陽術、根楼水槍(こんろうすいそう)!」

 陰陽五行相生、水生木(すいしょうもく)による二気混合術を発動した。案の定、奴は蛇紋葉脈壁で防御をしてきたが、水の気を纏った今度の槍はその盾を打ち破ったのだ。
 そのまま奴の身体を貫く――はずだった。

 キーン! という金属を叩いたような甲高い音が響き、剣先が和邇に届いたところで水槍は止まった。私は勿論、周りの者たちも息を飲んでその様子を見ていた。
 鱗だと思っていた奴の身体は、今までのどの岩よりも堅いそれで包まれていたのだ。とは言え私が放ったのは二気混合術、通常の陰陽術よりも遙かに強力だというのに破れぬとは。

『惜しいな、今のは焦った。……だが残念、もう降参か?』

 焦ったという割りには余裕の和邇の口ぶりに、腹の中で舌打ちをした。根楼水槍で太刀打ちできぬのなら、以前雷龍(らいりゅう)に使った土生金(どしょうきん)の混合術……鋼土波渦(こうどはか)を使うしかない。(ごん)の気は掌握しづらいが故に五行の中でも最上位の威力なのだ。
 それで破れぬならそれ以上の術はない。だが、やってみなければ分からぬもの。

「よし、華葉。すまぬがもう一度……」

 陰陽師たちの心力を回復させてくれ、と頼みたかったのだが、振り返った先で見たのは苦しそうに膝を突く華葉だった。慌てて再度結界壁を張り巡らせ、彼女の元へ駆けつける。それを見ていた陰陽師たちも異変に気づき、結界壁で防御に転じた。

「どうした、華葉!?」
「分からんっ。一度に、多くの気を、転じたからか、身体が、重い」

 周りにいた陰陽師は六人。一人一人の心力は少なくとも、全員分を常時回復に努めたのだ。妖怪である華葉には五行の気は本来不要であり、恐らくそもそも身体に敵していないのであろう。それを一度に大量に取り入れたのだ、負担がかかるのも無理はない。
 しかし再度和邇に攻撃をするには、もう一度彼らの心力を回復する必要がある。先ほどの攻撃でもう殆どの者が使い切ってしまっているだろう。

 だがこれ以上の負担は危険だ。

「もう良い、充分だ。あとは私が一人で何とか――」
「馬鹿を言うな、いくら鍛錬しても拓磨にだって心力の限界はあるだろう。心配するな、もう一度、やれる……!」

 歯を食いしばって彼女は私を見上げた。その目は〝絶対に引かぬぞ〟と訴える。
 仕方なく私は了解の言葉を口にすると、一旦華葉を宥めた。

 もう一度挑戦するとして、それは真にの機会となるだろう。それで決まらなければ自分で何とかする他に手はない。
 だが悔しいが、もう私一人で奴を討伐できるとは思えなかった。攻撃自体は単純だが、石斧を破り、葉脈壁を破り、岩の鱗を破らなければ奴は倒せない。その三段攻撃は流石に一人では無理がある。

 華葉の助言どおり、周りの手を借りるのが必須だ。最後の一撃に賭けるしかない。……が、問題は鋼土波渦で破れなければどうするか、だ。
 否、確実性に欠ける。最後の手に託せる、もっと強力な術はないのか。

 すると、三度飽くことなく石斧が投下される中、結界を張る陰陽師の背にしがみついていた検非違使が自信なさげに手を上げた。

「あのう……あの妖怪は岩を操っておられるのですよね」

 石斧が割れる爆音に小さく悲鳴を上げながら問いかける。
 いや、見てのとおりだが今更聞く必要あるか?

「それが何だ」
「すすすすみません。でしたら、その、石工が岩を割る方法が使えるのでは……」

 ……そうか、なるほど。何故私は気づかなかったのか。
 くだらない質問と思ったが、案外他人の意見も聞いてみるものだな。

 検非違使の助言により、鋼土波渦ではなく、それぞれの気の特性を生かす戦術に賭けることを決意した。
 そして私は華葉に「無理をするな」と告げると、再び周りの者に叫んだ。

「皆の者、もう一度だけ全力で頼む! これを最後に必ず仕留める!!」

 再び湧き上がる士気高き声に私の胸も高鳴る。
 他人を頼りにしたのは、これが初めてだった。


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次のエピソードへ進む 第四十話  お前の正体は


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 ――さて、どうする? |拓磨《たくま》よ。
 前回は|下男《げなん》を介して君の実力を見たが、今度はこの目で確かめさせてもらう。
 ついでに、君の可愛い式神もな。
 道を挟んだ対面側で繰り広げられる戦いを、私は五重塔に登り、文字どおりの〝高みの見物〟に胸を躍らせた。
 攻撃に転じられない。岩の雨は休むことなく降り注ぎ続ける。
 岩石の妖術を操る二足歩行の|和邇《ワニ》の攻撃に、周りの陰陽師は勿論、私ですら|結界壁《けっかいへき》を解くことができなかった。
 岩石を防げば石斧となり襲われる。
 岩石を打てば粉砕され破片の刃と化す。
 この状況を打破しなければ、結界からは一生出られない。
「くっ……! 拓磨、このままじゃ埒が明かないぞ!」
「分かっている、考えているのだ黙っててくれ」
 横から口を挟んできた|華葉《かよう》にそう言い放つと、彼女は不服そうに眉をしかめたが素直に口を閉ざした。まだ華葉の力に頼るわけにはいかない。
 相手は妖術を繰り出し続けている。妖力切れを待てばいずれこの煩わしい攻撃を止めることができるが、その前に結界が持たない。結界の強度にも限界はあり、打撃を受け続ければ当然脆くなるものだ。それに私は兎も角として、|検非違使《けびいし》も守っている周りの陰陽師たちの|心力《しんりょく》がまず持たないだろう。
 どうにかして和邇自身に一撃を入れない限り、こちらに勝機はない。この岩の雨を掻い潜って奴に一矢報いることができれば……。どの道あの|吻《ふん》を前にして接近戦は不利だろう。
 奴の妖術・|雲母乱石斧《うんもらんせきふ》の隙を狙い、私は術を放った。
「安曇式陰陽術、|根楼白槍《こんろうはくそう》!」
 だが狙った端から石斧が投下され、白槍の勢いは相殺されてしまった。砕かれた石斧が再び粉末となり、周囲を雲母の破片がキラキラと光る霞が包んだ。
 ……まぁ、そう来るだろうな。
 ならばと心力を上乗せした根楼白槍を乱れ打ちし、数で勝負に出た。周囲一帯の木の根を操り、自分の周りだけでなく和邇の周囲からも根の槍で奴を狙う。殆どが見事なまでに石斧の餌食になったが、何本かは奴を捉えたのだ。
 自身目がけて迫り来る白槍に奴は奥歯を噛みしめた。
 刹那。
『妖術、|蛇紋《じゃもん》|葉脈壁《ようみゃくへき》……ッ!』
 和邇自身を覆うように岩の盾が奴を包みこんで白槍を防いだ。白槍は盾を貫くものの、葉脈のように複雑に絡まった石の結晶に阻まれ、その剣先が奴まで届くことはなかった。
 役目を終えた盾はガラガラと崩れ去り、和邇は得意げにほくそ笑んだ。――これも駄目か。
「拓磨、石斧を防ぎながらの攻撃は無理だ。誰かの手を借りるしかないぞ!」
「周りの陰陽師を当てにしろと? 無駄だ、奴らの心力が持つと思えん」
 それに他人など信用できるか。そう付け加えると華葉は小さく溜め息を吐いた。
「お前の過去に何があったかは知らぬが、今はそんなこと言っている場合ではないだろう。あいつらの心力なら心配いらぬ。何のために私がいる?」
 再び襲いかかる石斧の乱れ打ちに、周りの者たちの悲鳴が上がる。そんな中、華葉の言葉に私はハッとした。確かに妖術は公にできないが、彼女の心力回復技はもう何人かの陰陽師に知れ渡っている。あれで華葉を妖怪と思う者はいないだろう。
 しかし、奴らの力にどれくらいの期待を持てというのか。並の陰陽師が戦える相手ではない。そう考えている間に和邇の攻撃は周囲の民家にも影響し始めていた。
「拓磨ッ! 迷っている暇はないぞ!!」
 華葉にそう啖呵を切られ、仕方なく私は腹を括った。
 ……奴らが死んでも、私のせいではないぞ。
「お前たち! 心力を全開にして援護しろ!!」
「ぅえ!? は、はあ、しかし我らの心力はもう――!?」
 話している間に華葉は既に陰陽師たちの心力回復を施し始めたようで、全身にみなぎる心力に奴らは驚きの声を上げていた。何が起こっているのか困惑する者もいれば、華葉を知っているのか何かを説明する者の姿も見られた。
 そして瞬く間に彼らの表情が変わったのである。
「拓磨殿! 何をすれば良い!?」
「何でも言ってください、精一杯やります!!」
 威勢の良い言葉に私は一瞬声を失った。彼らとて陰陽師、その心には確かな使命感を宿しているのだ。どの者も所有する心力は期待した量ではないが、全員でかかれば不足はない。信じてみても良いのだろうか。
「石斧の処理はお前たちに任せる! なるべく全ての石斧を砕いてくれ。……私は|和邇《ほんたい》を討つ!」
「「「承知した!」」」
 声を合わせそう叫ぶと、彼らは一斉に護符を新たに取り出した。私の言葉のとおり、彼らの全開の心力であらゆる気の陰陽術が放たれる。粉砕した岩に傷つけられても構わず、検非違使たちもこぞって石斧を攻撃した。
 私はこの機を逃すわけにはいかない。最大の心力を持って|和邇《ヤツ》を滅する!
「|木《もく》よ、|水《すい》の気を|相生《そうしょう》せよ。安曇式陰陽術、|根楼水槍《こんろうすいそう》!」
 陰陽五行相生、|水生木《すいしょうもく》による二気混合術を発動した。案の定、奴は蛇紋葉脈壁で防御をしてきたが、水の気を纏った今度の槍はその盾を打ち破ったのだ。
 そのまま奴の身体を貫く――はずだった。
 キーン! という金属を叩いたような甲高い音が響き、剣先が和邇に届いたところで水槍は止まった。私は勿論、周りの者たちも息を飲んでその様子を見ていた。
 鱗だと思っていた奴の身体は、今までのどの岩よりも堅いそれで包まれていたのだ。とは言え私が放ったのは二気混合術、通常の陰陽術よりも遙かに強力だというのに破れぬとは。
『惜しいな、今のは焦った。……だが残念、もう降参か?』
 焦ったという割りには余裕の和邇の口ぶりに、腹の中で舌打ちをした。根楼水槍で太刀打ちできぬのなら、以前|雷龍《らいりゅう》に使った|土生金《どしょうきん》の混合術……|鋼土波渦《こうどはか》を使うしかない。|金《ごん》の気は掌握しづらいが故に五行の中でも最上位の威力なのだ。
 それで破れぬならそれ以上の術はない。だが、やってみなければ分からぬもの。
「よし、華葉。すまぬがもう一度……」
 陰陽師たちの心力を回復させてくれ、と頼みたかったのだが、振り返った先で見たのは苦しそうに膝を突く華葉だった。慌てて再度結界壁を張り巡らせ、彼女の元へ駆けつける。それを見ていた陰陽師たちも異変に気づき、結界壁で防御に転じた。
「どうした、華葉!?」
「分からんっ。一度に、多くの気を、転じたからか、身体が、重い」
 周りにいた陰陽師は六人。一人一人の心力は少なくとも、全員分を常時回復に努めたのだ。妖怪である華葉には五行の気は本来不要であり、恐らくそもそも身体に敵していないのであろう。それを一度に大量に取り入れたのだ、負担がかかるのも無理はない。
 しかし再度和邇に攻撃をするには、もう一度彼らの心力を回復する必要がある。先ほどの攻撃でもう殆どの者が使い切ってしまっているだろう。
 だがこれ以上の負担は危険だ。
「もう良い、充分だ。あとは私が一人で何とか――」
「馬鹿を言うな、いくら鍛錬しても拓磨にだって心力の限界はあるだろう。心配するな、もう一度、やれる……!」
 歯を食いしばって彼女は私を見上げた。その目は〝絶対に引かぬぞ〟と訴える。
 仕方なく私は了解の言葉を口にすると、一旦華葉を宥めた。
 もう一度挑戦するとして、それは真に《《一度きり》》の機会となるだろう。それで決まらなければ自分で何とかする他に手はない。
 だが悔しいが、もう私一人で奴を討伐できるとは思えなかった。攻撃自体は単純だが、石斧を破り、葉脈壁を破り、岩の鱗を破らなければ奴は倒せない。その三段攻撃は流石に一人では無理がある。
 華葉の助言どおり、周りの手を借りるのが必須だ。最後の一撃に賭けるしかない。……が、問題は鋼土波渦で破れなければどうするか、だ。
 否、確実性に欠ける。最後の手に託せる、もっと強力な術はないのか。
 すると、三度飽くことなく石斧が投下される中、結界を張る陰陽師の背にしがみついていた検非違使が自信なさげに手を上げた。
「あのう……あの妖怪は岩を操っておられるのですよね」
 石斧が割れる爆音に小さく悲鳴を上げながら問いかける。
 いや、見てのとおりだが今更聞く必要あるか?
「それが何だ」
「すすすすみません。でしたら、その、石工が岩を割る方法が使えるのでは……」
 ……そうか、なるほど。何故私は気づかなかったのか。
 くだらない質問と思ったが、案外他人の意見も聞いてみるものだな。
 検非違使の助言により、鋼土波渦ではなく、それぞれの気の特性を生かす戦術に賭けることを決意した。
 そして私は華葉に「無理をするな」と告げると、再び周りの者に叫んだ。
「皆の者、もう一度だけ全力で頼む! これを最後に必ず仕留める!!」
 再び湧き上がる士気高き声に私の胸も高鳴る。
 他人を頼りにしたのは、これが初めてだった。