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極東風土料理

ー/ー



 旭たちがノーチェスにやってきてから数ヶ月が経つ。人生で初めて舞い降りた極東以外の土地。慣れない生活。特にそれは彼らの食生活に大きく影響を及ぼしていた。
 極東風土料理。ノーチェスを含む様々な国では、近年爆発的な人気を博している極東の郷土料理。当然、知らぬ者はいない。スシ、天ぷら、すき焼き、鰻、焼肉、たこ焼き、お好み焼き。極東が誇るその料理は、一度目にすれば焼き付いて離れない。

 そんな極東料理を毎日のように食べていた旭たちに訪れた悲劇!

 決してノーチェスの食事に不満があるというわけではない。むしろ美味い、何度でも食べれるほどに。しかしそれ以上に、極東料理のあの味が脳裏に焼き付いて忘れられないのである。極東を離れてもホームシックになどなったことがない彼らにとってそれは未体験の感覚。


「ラーメンが食べたぁあぁぁい!!!」

「同上」


 長い間極東で過ごしていた彼らはとうに、舌が肥えてしまっているのである。もはや、取り返しはつかない。久しぶりにあれが食べたい、一度その思考に陥ってしまったら最後、それを口にするまでその欲求は止まらない。
 授業も終わり、それぞれが帰り支度をし始め、中にはそうそうに教室を後にする者もいる放課後、レオノールが突如、耐え難い欲求を抑えきれず叫び出した。レオノールの口から出た言葉を理解できない者はほとんどいなかっただろう。その言葉を聞いて、隣にいた旭を除く、教室中の全員がレオノールに視線を向けた。


「ラーメンが食べたい」

「二回も言うな」

「ラーメンが食べたいんだよ!!!」

「うっせぇ」


 なぜ旭がこんなにも冷たい態度なのか、その理由はたった一つ。ノーチェスには、いや、ほとんどの地域において、極東料理を提供する店は存在しないからである。つまり、旭は極東以外で極東料理を食べることを半ば諦めているのだ。


「ちゃんと調べたのかよ!」

「十中八九無いだろ。潔く諦めろ」

「ヤダーッ!!!」


 子どものように駄々をこねるレオノールを尻目に旭は支度を済ませて帰ろうとする。レオノールもこれ以上喚いても仕方がないと悟ったのか、荷物に手をかけて教室を出ようとしたその時、運命が救いの糸を垂らすのだった。


「……あ〜、そういえば、最近メインストリートに新しく極東料理の店ができたらしいよ。ラーメンの店だったかな」

「詳しく」

「聞かせろ」


 ウミストラから放たれた衝撃の事実に真っ先に食いつく旭とレオノール。その直後に、教室中の視線はウミストラに移った。記憶消失事件から数週間、騒ぎを避けるために旭はメインストリート及びギルドに顔を出すことを辞めた。レオノールも当然、滅多にしない買い物以外ではメインストリートに行くことはない。二人の知らなかった事実。口を滑らせてしまったウミストラはもう逃げ場を失っていた。


「……じゃあ、一緒に行くか」

「っしゃあ!!!」

「ダモクレスも呼んでこい!!!」


 水を得た魚のよう騒ぎ出す旭たち。そして、()()()()()()()例外ではなかった。


(ラーメン……ソラも食べれるかな……)

(気になる……けど、乙女的にNGでしょ……)

(私もラーメン食べたくなってきた……)


 しかし、立ちはだかるのは乙女の壁。ラーメン、それは乙女の天敵である。最も恐ろしきは周囲の視線。何よりも忌むべきそのカロリー。そして、麺類であることで避けられぬは上品さ。麺は、啜らなくてはならないのである。であれば汁が飛び散るのは必然。服に汁が付着してしまえば最後、乙女にとってそれは死を意味する。一度も口にしたことがなくても理解できる、上品さを試される食べ物であるということ。これらの理由から、ラーメンは天敵。それが乙女の共通認識なのだ。しかも男性(旭たち)と出会う可能性があるのならばなおさら入店はできない。そう思い込んでいた矢先――


「じゃあ、私も一緒に行こうかな」


 モニカ・エストレイラが混沌を作り出す!

 ラーメンは乙女的にありえない。ありえないのである。しかし、そんな固定観念はモニカには存在しない。食べたいものを食べたい時に食べたい量食べる。そしてなにより、モニカはその体質ゆえに、どれだけ食べても太らない。カロリーを気にする必要がないのである。


(うらやましい……)


 その太らない体質にソフィアが嫉妬している中、この乙女もまた勝負に出る。


「モニカが行くなら私も行こっと」


 しれっと参戦するパーシー。モニカといられるなら基本どこでも構わないこの女。たとえそこがラーメン屋であろうとそれは変わらない。そもそもモニカ以外の人間に興味がないので周りの目が気にならない。幼なじみのモニカにどんな姿を見られようと抵抗がないのである。


「じゃあみんなでラーメンを食いに出発!!!」


 そして始まる、ラーメン屋での激闘――


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次のエピソードへ進む 極東風土料理 ―ラーメン編―


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 旭たちがノーチェスにやってきてから数ヶ月が経つ。人生で初めて舞い降りた極東以外の土地。慣れない生活。特にそれは彼らの食生活に大きく影響を及ぼしていた。
 極東風土料理。ノーチェスを含む様々な国では、近年爆発的な人気を博している極東の郷土料理。当然、知らぬ者はいない。スシ、天ぷら、すき焼き、鰻、焼肉、たこ焼き、お好み焼き。極東が誇るその料理は、一度目にすれば焼き付いて離れない。
 そんな極東料理を毎日のように食べていた旭たちに訪れた悲劇!
 決してノーチェスの食事に不満があるというわけではない。むしろ美味い、何度でも食べれるほどに。しかしそれ以上に、極東料理のあの味が脳裏に焼き付いて忘れられないのである。極東を離れてもホームシックになどなったことがない彼らにとってそれは未体験の感覚。
「ラーメンが食べたぁあぁぁい!!!」
「同上」
 長い間極東で過ごしていた彼らはとうに、舌が肥えてしまっているのである。もはや、取り返しはつかない。久しぶりにあれが食べたい、一度その思考に陥ってしまったら最後、それを口にするまでその欲求は止まらない。
 授業も終わり、それぞれが帰り支度をし始め、中にはそうそうに教室を後にする者もいる放課後、レオノールが突如、耐え難い欲求を抑えきれず叫び出した。レオノールの口から出た言葉を理解できない者はほとんどいなかっただろう。その言葉を聞いて、隣にいた旭を除く、教室中の全員がレオノールに視線を向けた。
「ラーメンが食べたい」
「二回も言うな」
「ラーメンが食べたいんだよ!!!」
「うっせぇ」
 なぜ旭がこんなにも冷たい態度なのか、その理由はたった一つ。ノーチェスには、いや、ほとんどの地域において、極東料理を提供する店は存在しないからである。つまり、旭は極東以外で極東料理を食べることを半ば諦めているのだ。
「ちゃんと調べたのかよ!」
「十中八九無いだろ。潔く諦めろ」
「ヤダーッ!!!」
 子どものように駄々をこねるレオノールを尻目に旭は支度を済ませて帰ろうとする。レオノールもこれ以上喚いても仕方がないと悟ったのか、荷物に手をかけて教室を出ようとしたその時、運命が救いの糸を垂らすのだった。
「……あ〜、そういえば、最近メインストリートに新しく極東料理の店ができたらしいよ。ラーメンの店だったかな」
「詳しく」
「聞かせろ」
 ウミストラから放たれた衝撃の事実に真っ先に食いつく旭とレオノール。その直後に、教室中の視線はウミストラに移った。記憶消失事件から数週間、騒ぎを避けるために旭はメインストリート及びギルドに顔を出すことを辞めた。レオノールも当然、滅多にしない買い物以外ではメインストリートに行くことはない。二人の知らなかった事実。口を滑らせてしまったウミストラはもう逃げ場を失っていた。
「……じゃあ、一緒に行くか」
「っしゃあ!!!」
「ダモクレスも呼んでこい!!!」
 水を得た魚のよう騒ぎ出す旭たち。そして、|彼《・》|女《・》|た《・》|ち《・》|も《・》|ま《・》|た《・》例外ではなかった。
(ラーメン……ソラも食べれるかな……)
(気になる……けど、乙女的にNGでしょ……)
(私もラーメン食べたくなってきた……)
 しかし、立ちはだかるのは乙女の壁。ラーメン、それは乙女の天敵である。最も恐ろしきは周囲の視線。何よりも忌むべきそのカロリー。そして、麺類であることで避けられぬは上品さ。麺は、啜らなくてはならないのである。であれば汁が飛び散るのは必然。服に汁が付着してしまえば最後、乙女にとってそれは死を意味する。一度も口にしたことがなくても理解できる、上品さを試される食べ物であるということ。これらの理由から、ラーメンは天敵。それが乙女の共通認識なのだ。しかも|男性《旭たち》と出会う可能性があるのならばなおさら入店はできない。そう思い込んでいた矢先――
「じゃあ、私も一緒に行こうかな」
 モニカ・エストレイラが混沌を作り出す!
 ラーメンは乙女的にありえない。ありえないのである。しかし、そんな固定観念はモニカには存在しない。食べたいものを食べたい時に食べたい量食べる。そしてなにより、モニカはその体質ゆえに、どれだけ食べても太らない。カロリーを気にする必要がないのである。
(うらやましい……)
 その太らない体質にソフィアが嫉妬している中、この乙女もまた勝負に出る。
「モニカが行くなら私も行こっと」
 しれっと参戦するパーシー。モニカといられるなら基本どこでも構わないこの女。たとえそこがラーメン屋であろうとそれは変わらない。そもそもモニカ以外の人間に興味がないので周りの目が気にならない。幼なじみのモニカにどんな姿を見られようと抵抗がないのである。
「じゃあみんなでラーメンを食いに出発!!!」
 そして始まる、ラーメン屋での激闘――