EX22 ホームで待つ間の与太話
ー/ー ガタンゴトンと、発車の音が響いた。
ホームへの階段を上がると、すでに電車の姿はなかった。
「あー、行っちゃったか」
「次の電車は十六分後だねー」
大槻が悔しがり、山路が電光掲示板を見て確認する。
俺たちはほぼ人のないホームを少し歩き、並んでいるイスを占領する。
腰を下ろすと大槻が笑う。
「いやぁ、無事に解決してよかったわ」
「さっきからそればっかりだね―」
「だな。よっぽど嬉しいんだな」
「うっせー」
端に座った大槻は恥ずかしそうにそっぽ向いた。
山路と俺はそれを見て、お互い静かに微笑む。
実際には俺も心の中で安堵していた。
今回のこと、予想外の過程も含めて本当にどう転ぶか分からなかった。
ふと山路を見ると、左頬を触っていた。
「まだ痛むか?」
「え、ああ。少しねー」
山路は苦笑するかのように、困り笑顔を作った。
椎名に叩かれたところが少し腫れていた。
まぁ、本番までには治るだろう。
「にしても、今日一番の驚きだったな」
「だねー。僕が言うのもなんだけどー」
「そうだな……」
大槻が俺を挟んで山路をのぞき込む。
本当に驚いた。椎名があんな言動をするなんてな。
正直、今回のことも杉野が主体となって解決するだろうと思っていた俺がいた。
もちろん。杉野の尽力は大きかった。だが決定的な一撃を与えたのは椎名だった。
想像だにしないあの叫びが、今なお俺の中で鮮烈に覚えている。
「……でも、悪い気はしなかったよ」
「そっか」
「…………」
「二人も、迷惑かけてごめんね」
「よせよ。照れくさい」
「全くだ。それに今回俺は何もしていない」
山路の謝罪を、大槻と俺は軽く受け流した。
迷惑? だから何だ。それを気にする友達はないだろう。
「ありがとう」
「なんだぁ? 山路。ビンタされて性格まで変わったのか?」
大槻が笑って茶化すと、山路はそれ以上言わなかった。
それでいい。きっともう言葉はいらないだろう。
今ここで一緒に部活が出来る。その結果だけで十分なのだから。
少しだけ静寂が流れた後、大槻が思い出したかのようにぼぞっと呟いた。
「あいつら、本当に全国目指すのかな」
「……」
「……」
山路も俺もその問いの答えを持ち合わせていなかった。
ただ、知らないといけないことではあった。
だから今度は俺が聞いた。
「だとして、二人はどうするつもりだ?」
「それなー」
「たぶん、もうすぐ結論を出さないとだねー」
「だよなー。だって春大会終わったら先輩たち引退だろ? どうすんよ?」
「それを聞いてんだって」
「樫田―、目指すって何すんのー?」
お前もか、ブルータス。
俺に聞くなって。そんなもん杉野か椎名に聞いてくれ。
そう思いながらも、なんとか喉から言葉をひねり出す。
「……そうだな。例えば必死に稽古して、演技の勉強をして――」
「それって今とどう違うわけよ?」
「必死になったら全国行けるのー?」
「そんなもん俺が知るか」
「じゃあ、無理だ」
「演出家の想像つかないことを役者はできないもんねー」
「お前ら……」
好き放題言いやがって。
そう思う反面、現実問題として二人の言っている事の正しさを思い知る。
俺たちは決して強豪校でも名門校でもない。
極々ありふれた、どこにでもある演劇部だ。
故に、勝つための練習を知らない。そもそも演劇における勝つという概念を分かっているかも定かではない。
「実際のところさ、樫田的にどうなん? 演出家として全国行くイメージはあるわけ?」
大槻が核心に迫ることを聞いてきた。
二人の視線が俺に集まる。
俺は正直に答える。
「……考えてないわけではない」
「つまり、あると?」
「さすがだねー」
「どっちに転んでいいようにしているだけだ」
俺がそう言うと二人はどうだか、という感じで微笑した。
仕方ないだろ。それが俺の務めなんだから。
「……それでもやっぱりその熱量は僕にはないかなー」
「俺もイメージ湧かないわ」
「……」
どうやら二人は全国を目指すことに消極的らしい。
まぁ、気持ちは分からなくないが。
行こうと思って全国へ辿り着けば、どれほど楽だろうか。
それが出来ないから、輝かしい誰かの青春の後ろに悔しい誰かの涙があり、苦々しい誰かの辛さがある。
誰も彼もが最高の思い出があるわけじゃない。
そのことを、あいつらはどこまで気づいているのだろうか。
そしてそれはこいつらも同じことだ。
俺は探りを入れるかのように、あるいは忠告をするように二人に言った。
「きっと二人は目指すぞ。それがどういう形になるのか、どういう願いであるのか、それはまだ分からないが、演劇部にいる以上巻き込まれるぞ」
俺の言葉の意味を二人は理解しただろう。
奇しくも、一度は部活を去ろうとした二人だ。
自分たちの立場も、必要なことも分かっているだろう。
二人が何か言う前にガタンゴトンと電車がやってきた。
俺たちは立ち上がり乗車した。
与太話はここで終わりのようだ。
さっきまでの話が嘘のように、何にもなかったかのように別の話題をし始めた。
他愛ないこと、明日の部活について。
この誤魔化しもすぐに意味を失くすだろう。
みんなが主軸となる時は、もうすぐそこまで来ているのだから。
ガタンゴトンと、ゆっくりと電車が動き出す。
ガタンゴトンと、すぐに猛スピードになってゆく。
ホームへの階段を上がると、すでに電車の姿はなかった。
「あー、行っちゃったか」
「次の電車は十六分後だねー」
大槻が悔しがり、山路が電光掲示板を見て確認する。
俺たちはほぼ人のないホームを少し歩き、並んでいるイスを占領する。
腰を下ろすと大槻が笑う。
「いやぁ、無事に解決してよかったわ」
「さっきからそればっかりだね―」
「だな。よっぽど嬉しいんだな」
「うっせー」
端に座った大槻は恥ずかしそうにそっぽ向いた。
山路と俺はそれを見て、お互い静かに微笑む。
実際には俺も心の中で安堵していた。
今回のこと、予想外の過程も含めて本当にどう転ぶか分からなかった。
ふと山路を見ると、左頬を触っていた。
「まだ痛むか?」
「え、ああ。少しねー」
山路は苦笑するかのように、困り笑顔を作った。
椎名に叩かれたところが少し腫れていた。
まぁ、本番までには治るだろう。
「にしても、今日一番の驚きだったな」
「だねー。僕が言うのもなんだけどー」
「そうだな……」
大槻が俺を挟んで山路をのぞき込む。
本当に驚いた。椎名があんな言動をするなんてな。
正直、今回のことも杉野が主体となって解決するだろうと思っていた俺がいた。
もちろん。杉野の尽力は大きかった。だが決定的な一撃を与えたのは椎名だった。
想像だにしないあの叫びが、今なお俺の中で鮮烈に覚えている。
「……でも、悪い気はしなかったよ」
「そっか」
「…………」
「二人も、迷惑かけてごめんね」
「よせよ。照れくさい」
「全くだ。それに今回俺は何もしていない」
山路の謝罪を、大槻と俺は軽く受け流した。
迷惑? だから何だ。それを気にする友達はないだろう。
「ありがとう」
「なんだぁ? 山路。ビンタされて性格まで変わったのか?」
大槻が笑って茶化すと、山路はそれ以上言わなかった。
それでいい。きっともう言葉はいらないだろう。
今ここで一緒に部活が出来る。その結果だけで十分なのだから。
少しだけ静寂が流れた後、大槻が思い出したかのようにぼぞっと呟いた。
「あいつら、本当に全国目指すのかな」
「……」
「……」
山路も俺もその問いの答えを持ち合わせていなかった。
ただ、知らないといけないことではあった。
だから今度は俺が聞いた。
「だとして、二人はどうするつもりだ?」
「それなー」
「たぶん、もうすぐ結論を出さないとだねー」
「だよなー。だって春大会終わったら先輩たち引退だろ? どうすんよ?」
「それを聞いてんだって」
「樫田―、目指すって何すんのー?」
お前もか、ブルータス。
俺に聞くなって。そんなもん杉野か椎名に聞いてくれ。
そう思いながらも、なんとか喉から言葉をひねり出す。
「……そうだな。例えば必死に稽古して、演技の勉強をして――」
「それって今とどう違うわけよ?」
「必死になったら全国行けるのー?」
「そんなもん俺が知るか」
「じゃあ、無理だ」
「演出家の想像つかないことを役者はできないもんねー」
「お前ら……」
好き放題言いやがって。
そう思う反面、現実問題として二人の言っている事の正しさを思い知る。
俺たちは決して強豪校でも名門校でもない。
極々ありふれた、どこにでもある演劇部だ。
故に、勝つための練習を知らない。そもそも演劇における勝つという概念を分かっているかも定かではない。
「実際のところさ、樫田的にどうなん? 演出家として全国行くイメージはあるわけ?」
大槻が核心に迫ることを聞いてきた。
二人の視線が俺に集まる。
俺は正直に答える。
「……考えてないわけではない」
「つまり、あると?」
「さすがだねー」
「どっちに転んでいいようにしているだけだ」
俺がそう言うと二人はどうだか、という感じで微笑した。
仕方ないだろ。それが俺の務めなんだから。
「……それでもやっぱりその熱量は僕にはないかなー」
「俺もイメージ湧かないわ」
「……」
どうやら二人は全国を目指すことに消極的らしい。
まぁ、気持ちは分からなくないが。
行こうと思って全国へ辿り着けば、どれほど楽だろうか。
それが出来ないから、輝かしい誰かの青春の後ろに悔しい誰かの涙があり、苦々しい誰かの辛さがある。
誰も彼もが最高の思い出があるわけじゃない。
そのことを、あいつらはどこまで気づいているのだろうか。
そしてそれはこいつらも同じことだ。
俺は探りを入れるかのように、あるいは忠告をするように二人に言った。
「きっと二人は目指すぞ。それがどういう形になるのか、どういう願いであるのか、それはまだ分からないが、演劇部にいる以上巻き込まれるぞ」
俺の言葉の意味を二人は理解しただろう。
奇しくも、一度は部活を去ろうとした二人だ。
自分たちの立場も、必要なことも分かっているだろう。
二人が何か言う前にガタンゴトンと電車がやってきた。
俺たちは立ち上がり乗車した。
与太話はここで終わりのようだ。
さっきまでの話が嘘のように、何にもなかったかのように別の話題をし始めた。
他愛ないこと、明日の部活について。
この誤魔化しもすぐに意味を失くすだろう。
みんなが主軸となる時は、もうすぐそこまで来ているのだから。
ガタンゴトンと、ゆっくりと電車が動き出す。
ガタンゴトンと、すぐに猛スピードになってゆく。
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