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30頭目 甥っ子と宇宙人

ー/ー



 翌日、本須賀町はUFOの襲来によって大騒ぎとなった。新聞社やテレビ局などのマスコミはもちろん、それを聞きつけた野次馬たちも殺到した。
 しかしながら、田舎のキャパシティは限られている。黒山の人だかりによって、中心街の交通網はあっという間に麻痺してしまった。
 これを見越した栃木県警察は、マスコミを出し抜いて規制線を張っていた。今や公僕も、それくらいの狡猾さが必要とされる時代なのかもしれない。
 夜明けとともに、警察の現場検証は滞りなく進められた。彼らとしても、未知なる検証は腰を据えて進めたいのが本音だろう。
 屋根もなく全壊した牛舎、光線によって黒焦げになった芝。いずれも、UFOとの戦いが凄惨であったことを物語るには十分な爪痕だ。
 ただ一つ、この事件には不可解な遺物があった。UFOの残骸に紛れて、何故かイカの干物3枚が残されていたんだ。
 まさか、宇宙人は炙ったイカを肴にしていたのか? 夜更けに寂しくなって、鼻歌を歌いだす……いや、そんな訳あるか。
 前置きが長くなってしまったが、今の俺達は本須賀病院で診察を受けている。幸いにも俺と牛郎は軽症、診察もすぐに終わった。
 けれど、刑部さんは重傷を負っていた。もちろん、その場で緊急入院することとなった。
 UFOから受けた光線によって、刑部さんは左目に大火傷を負っていたらしい。とにかく、早急に手術をしなければ命に関わる重傷だという。
 俺達はただ、刑部さんの無事を祈っていた。

ーー

 数時間に亘る大手術は終わり、刑部さんが集中治療室から戻って来た。左目を包帯で覆っているのが何とも痛々しい。
「刑部さん、大丈夫……?」
 牛郎が不安げな表情で尋ねる。意識を取り戻して間もないのか、刑部さんは刹那の間を置いて答えた。
「牛郎ちゃん、俺ぁ大丈夫だ。心配ねぇ……」
 やや掠れた声だが、きっとこれが今の刑部さんには精一杯。おそらく、本人なりに俺達を気遣っているんだろうな
 医師によると、刑部さんは火傷によって左目を失明。脳の一部が損傷しており、運動機能に後遺症が懸念されるらしい。
 とはいえ、一命を取り留めたことは大きい。生きていること、それが何よりの成果だ。
「それよっか、俺ぁUFOを仕留めたのは初めてでなぁ。ハッハッハ……」
 あれだけの重傷にも拘らず、刑部さんの表情は清々しい。UFOを狩ったマタギなんて、おそらく前代未聞だろうな。
「けど、この左目()はもう見えねぇ。少々寂しいが、猟師の看板は下ろすしかねぇなぁ……」
 清々しさから一転、刑部さんは切なげな表情を浮かべた。俺もそうだが、生業を引退することの痛手は想像以上に大きい。
 その気持ちを紛らわせようとしているのか、刑部さんはおもむろに煙草に火を点けた。病院は禁煙だが、今だけは見逃そう。
「刑部さん、ゴメン……。僕がUFOに攫われなければ、こんなことにはならなかったのに……」
 自身の不甲斐なさに、牛郎は涙を滲ませている。甥っ子よ、お前だって牛達を守る為に頑張っていたじゃないか。
「男ってのは、守るべき時に戦うことが一番大切なんだ。牛郎ちゃんには、それが出来たじゃないか……」
 刑部さんは、小さな拍手で牛郎の健闘を称えた。甥っ子よ、お前が体に鞭打ちながら奮闘していたことを俺も知っているぞ。 
「うぅぅぅ……」
 自身の涙を恥じているのか、牛郎は右腕で顔を覆った。大丈夫だ、その涙はいつかきっとお前の糧になるだろう。

ーー

「……ところで牛郎ちゃん、宇宙人ってのはどんなヤツだったんだ……?」
 言われてみれば、UFOは刑部さんが狩った獲物。搭乗していた宇宙人の正体が気になるのは、当然のことだろうな。
「えっとねぇ……確かイカだった。思い出したぞ、スルメイカだっ!」
 スルメイカ……。もしかして、あれは肴じゃなくて宇宙人だったのか!!?
「スルメイカ……こりゃあ魂消た!」
 刑部さんは、驚きのあまり煙草を呑む手が止まってしまった。おいおい、布団に灰がポロポロと落ちているぞ……?



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 翌日、本須賀町はUFOの襲来によって大騒ぎとなった。新聞社やテレビ局などのマスコミはもちろん、それを聞きつけた野次馬たちも殺到した。
 しかしながら、田舎のキャパシティは限られている。黒山の人だかりによって、中心街の交通網はあっという間に麻痺してしまった。
 これを見越した栃木県警察は、マスコミを出し抜いて規制線を張っていた。今や公僕も、それくらいの狡猾さが必要とされる時代なのかもしれない。
 夜明けとともに、警察の現場検証は滞りなく進められた。彼らとしても、未知なる検証は腰を据えて進めたいのが本音だろう。
 屋根もなく全壊した牛舎、光線によって黒焦げになった芝。いずれも、UFOとの戦いが凄惨であったことを物語るには十分な爪痕だ。
 ただ一つ、この事件には不可解な遺物があった。UFOの残骸に紛れて、何故かイカの干物3枚が残されていたんだ。
 まさか、宇宙人は炙ったイカを肴にしていたのか? 夜更けに寂しくなって、鼻歌を歌いだす……いや、そんな訳あるか。
 前置きが長くなってしまったが、今の俺達は本須賀病院で診察を受けている。幸いにも俺と牛郎は軽症、診察もすぐに終わった。
 けれど、刑部さんは重傷を負っていた。もちろん、その場で緊急入院することとなった。
 UFOから受けた光線によって、刑部さんは左目に大火傷を負っていたらしい。とにかく、早急に手術をしなければ命に関わる重傷だという。
 俺達はただ、刑部さんの無事を祈っていた。
ーー
 数時間に亘る大手術は終わり、刑部さんが集中治療室から戻って来た。左目を包帯で覆っているのが何とも痛々しい。
「刑部さん、大丈夫……?」
 牛郎が不安げな表情で尋ねる。意識を取り戻して間もないのか、刑部さんは刹那の間を置いて答えた。
「牛郎ちゃん、俺ぁ大丈夫だ。心配ねぇ……」
 やや掠れた声だが、きっとこれが今の刑部さんには精一杯。おそらく、本人なりに俺達を気遣っているんだろうな
 医師によると、刑部さんは火傷によって左目を失明。脳の一部が損傷しており、運動機能に後遺症が懸念されるらしい。
 とはいえ、一命を取り留めたことは大きい。生きていること、それが何よりの成果だ。
「それよっか、俺ぁUFOを仕留めたのは初めてでなぁ。ハッハッハ……」
 あれだけの重傷にも拘らず、刑部さんの表情は清々しい。UFOを狩ったマタギなんて、おそらく前代未聞だろうな。
「けど、この|左目《め》はもう見えねぇ。少々寂しいが、猟師の看板は下ろすしかねぇなぁ……」
 清々しさから一転、刑部さんは切なげな表情を浮かべた。俺もそうだが、生業を引退することの痛手は想像以上に大きい。
 その気持ちを紛らわせようとしているのか、刑部さんはおもむろに煙草に火を点けた。病院は禁煙だが、今だけは見逃そう。
「刑部さん、ゴメン……。僕がUFOに攫われなければ、こんなことにはならなかったのに……」
 自身の不甲斐なさに、牛郎は涙を滲ませている。甥っ子よ、お前だって牛達を守る為に頑張っていたじゃないか。
「男ってのは、守るべき時に戦うことが一番大切なんだ。牛郎ちゃんには、それが出来たじゃないか……」
 刑部さんは、小さな拍手で牛郎の健闘を称えた。甥っ子よ、お前が体に鞭打ちながら奮闘していたことを俺も知っているぞ。 
「うぅぅぅ……」
 自身の涙を恥じているのか、牛郎は右腕で顔を覆った。大丈夫だ、その涙はいつかきっとお前の糧になるだろう。
ーー
「……ところで牛郎ちゃん、宇宙人ってのはどんなヤツだったんだ……?」
 言われてみれば、UFOは刑部さんが狩った獲物。搭乗していた宇宙人の正体が気になるのは、当然のことだろうな。
「えっとねぇ……確かイカだった。思い出したぞ、スルメイカだっ!」
 スルメイカ……。もしかして、あれは肴じゃなくて宇宙人だったのか!!?
「スルメイカ……こりゃあ魂消た!」
 刑部さんは、驚きのあまり煙草を呑む手が止まってしまった。おいおい、布団に灰がポロポロと落ちているぞ……?