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29頭目 甥っ子とバラン軍曹

ー/ー



『ドォンッ!!!』
 牛郎を抱えたバランが空中から降りて来た。着地で地面が抉れるとは……この男の質量はどうなっているんだ??
 それはさておき、牛郎は無事なのだろうか。俺達は大急ぎでバランの元へ駆け寄る。
「う、うぅーん……」
 顔などに多少の擦り傷があるものの、命に別状は無さそうだ。俺はほっと胸を撫で下ろした。
 牛達も、奇跡的に草むらへ着地した模様。おそらく、大きな心配はないと見た。
「ワンワンッ!」
 皆の無事に安堵していたが、ポコ太郎が刑部さんへ向き直って何かを訴えている。その表情は『まだだっ!』と言いたげだ。
 後ろへ振り返ると、鈍足ながらもUFOは逃走を図っている。まさか、ポコ太郎は刑部さんに撃墜を促しているのか……?
「そうだなポコちゃん……あいつを仕留めなきゃ、ご先祖様に顔向けできねぇよな!」
 ポコ太郎の一声が、ハンデを背負う刑部さんを再起させた。マタギの魂が激しく内燃していること、それは背後からでもひしひしと伝わってくる。
『パァーン!』
 刑部さんは、間髪入れずに銃爪(ひきがね)を引いた。その発砲音は夜空に轟く。
『ボォン!』
 刑部さんの弾丸は見事に直撃。UFOは間もなく爆散、木っ端微塵となった。
 UFOの撃墜を確認した刑部さんは、静かに笑みを浮かべている。左目が利かずとも、その実力は伊達じゃない。
「やっぱ、獲物を仕留めた後の一服が一番旨ぇや……」
 UFOに一矢報いたことで、刑部さんもご満悦。安堵からか、彼は深く煙草を呑んだ。
「あっ、ヤニクラ来た……」
 いつになく深く呑んだ刑部さん、意識はどこかへ飛んで行ってしまった。夜警の疲れはあるだろうが、さすがに寝煙草は危ないぞ……。 
 傍らにいたポコ太郎は、労うように刑部さんの頬を優しく舐めた。そうだな、お前は立派な立役者だ。

ーー

 吹き飛ばされた牛舎前で、牛郎とバランが向かい合っていた。バランがここへ赴いた目的、もしや牛郎なのだろうか?
「……これを僕にくれるの?」
 バランが懐から何かを取り出し、牛郎へ手渡したようだ。円錐のような形をしているが、もしかして角笛か?
 刹那の間を置き、バランは黙って頷いた。よく見ると、彼の右角は欠損している。
 指名手配直後、バランの角は健在だったと記憶している。右角が欠けたこと、それはおそらく牛郎が関係しているのかもしれない。
 牛郎は、バランへ応えるように静かな謝意を示した。心なしか、アイコンタクトで会話しているようにも見える。
「कृपया मेरा नाम जपें」
 その一言を残し、バランは踵を返すように立ち去った。アジア圏の言語に思えるが、さしずめヒンディー語辺りだろうか。
 その真意は分かりかねるが、一つだけ確かなことがある。バランの目は、間違いなく我が子を憂いた父の目だった。


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『ドォンッ!!!』 牛郎を抱えたバランが空中から降りて来た。着地で地面が抉れるとは……この男の質量はどうなっているんだ??
 それはさておき、牛郎は無事なのだろうか。俺達は大急ぎでバランの元へ駆け寄る。
「う、うぅーん……」
 顔などに多少の擦り傷があるものの、命に別状は無さそうだ。俺はほっと胸を撫で下ろした。
 牛達も、奇跡的に草むらへ着地した模様。おそらく、大きな心配はないと見た。
「ワンワンッ!」
 皆の無事に安堵していたが、ポコ太郎が刑部さんへ向き直って何かを訴えている。その表情は『まだだっ!』と言いたげだ。
 後ろへ振り返ると、鈍足ながらもUFOは逃走を図っている。まさか、ポコ太郎は刑部さんに撃墜を促しているのか……?
「そうだなポコちゃん……あいつを仕留めなきゃ、ご先祖様に顔向けできねぇよな!」
 ポコ太郎の一声が、ハンデを背負う刑部さんを再起させた。マタギの魂が激しく内燃していること、それは背後からでもひしひしと伝わってくる。
『パァーン!』
 刑部さんは、間髪入れずに|銃爪《ひきがね》を引いた。その発砲音は夜空に轟く。
『ボォン!』
 刑部さんの弾丸は見事に直撃。UFOは間もなく爆散、木っ端微塵となった。
 UFOの撃墜を確認した刑部さんは、静かに笑みを浮かべている。左目が利かずとも、その実力は伊達じゃない。
「やっぱ、獲物を仕留めた後の一服が一番旨ぇや……」
 UFOに一矢報いたことで、刑部さんもご満悦。安堵からか、彼は深く煙草を呑んだ。
「あっ、ヤニクラ来た……」
 いつになく深く呑んだ刑部さん、意識はどこかへ飛んで行ってしまった。夜警の疲れはあるだろうが、さすがに寝煙草は危ないぞ……。 
 傍らにいたポコ太郎は、労うように刑部さんの頬を優しく舐めた。そうだな、お前は立派な立役者だ。
ーー
 吹き飛ばされた牛舎前で、牛郎とバランが向かい合っていた。バランがここへ赴いた目的、もしや牛郎なのだろうか?
「……これを僕にくれるの?」
 バランが懐から何かを取り出し、牛郎へ手渡したようだ。円錐のような形をしているが、もしかして角笛か?
 刹那の間を置き、バランは黙って頷いた。よく見ると、彼の右角は欠損している。
 指名手配直後、バランの角は健在だったと記憶している。右角が欠けたこと、それはおそらく牛郎が関係しているのかもしれない。
 牛郎は、バランへ応えるように静かな謝意を示した。心なしか、アイコンタクトで会話しているようにも見える。
「कृपया मेरा नाम जपें」
 その一言を残し、バランは踵を返すように立ち去った。アジア圏の言語に思えるが、さしずめヒンディー語辺りだろうか。
 その真意は分かりかねるが、一つだけ確かなことがある。バランの目は、間違いなく我が子を憂いた父の目だった。