その後も俺達は夜警を続けていたが、不審者などは現れなかった。気の遠くなる作業だが、牛達を守るために粉骨砕身。
「ふわぁ〜あ」
夜警の疲れからか、牛郎はあくびを連発している。いくら早番にしているとはいえ、小学生に夜警は心身への負荷が大きい。
「牛郎、今日は休むか?」
牛郎を気遣い、俺は言葉をかけた。けれど、牛郎は頑として首を横に振った。
「牛郎ちゃんの気持ちはよく分かる。だが、無理だと思ったら大人の俺達を頼れ。いいな?」
刑部さんの言葉を受け、牛郎は右拳を突き上げながら夜警に向かった。左手で瞼を擦りながらも、その背中は雄々しく映っていた。
「ワンワンッ!」
『僕も行くぞ!』と言わんばかりにポコ太郎が牛郎の背中を追い掛ける。牛郎を頼むぞ、スーパーサブ!
ーー
「……」
夜警から牛郎とポコ太郎が帰って来た。あまりの眠気に、牛郎は言葉を失っている。
「ご苦労様。あとは俺達に任せろ」
牛郎は右拳を掲げ、挨拶代わりに親指を突き立てた。甥っ子よ、後はふかふかの布団でゆっくり休むといい。
「牛郎ちゃん、体に相当ガタが来ているな。明日からは俺達二人で夜警に回ろう」
刑部さんの目から見ても、牛郎が体に鞭を打っていることは明白だった。思いは限界を超えるというけれど、その前に体が壊れてしまっては元も子もない。
「僕も同意見です。ここは大人達が頑張らないと!」
牛郎の勇姿を見届けた俺は、鉈を掲げながら夜警に向かった。
ーー
俺が戻る頃には日付が変わっていた。その後も牛舎には不審者もなく、平穏を保っている。
何事もないのは一番だが、それ故に徒労感は尋常でない。いずれ、警備システムの契約を検討した方が良いかもしれない。
俺はつい先程、刑部さんに夜警を引き継いだ。このまま何事もなく、今宵が過ぎていくことを願う。
「……!」
そんな矢先、俺の傍で寝ていたはずのポコ太郎がいきなりムクッと起き上がった。一体どうしたんだ?
『ピンポーン!』
それとほぼ同時に、刑部さんからSNSなメッセージが送られて来た。今は丑三つ時だが、俺は恐る恐るメッセージを確認する。
『緊急事態!!!』
刑部さんのメッセージはその一文だけ。どうやら、抜き差しならない状況と見た!
「ワンワンッ!」
俺が考えるよりも先に、ポコは牛舎を飛び出していた。俺も駿馬の如く、大急ぎで刑部さんの元へ向かった。
ーー
「なっ、何じゃこりゃーーーっ!!?」
俺が駆け付けると、刑部さんは驚嘆しながら叫んでいた。その視線を追ってみると、夜空に光の球が浮遊している。
その球は、電気自動車に似たモーター音を発しながら飛行していた。まっ、まさかUFO!?
「グルルゥッ!!!」
ポコ太郎が、全身の毛を逆立てながらUFOを威嚇している。とにかく、これが俺達の敵であることに間違いない!
「くそっ、変な動きをしやがるっ!」
刑部さんは威嚇として散弾銃を発砲したが、UFOは弾をひらりと躱した。
さながら舞踊を想起する柔軟な機動性、もはや地球人の技術ではない。これは実に厄介な相手だ。
「参ったな……これじゃあ狙いが定まらねぇ」
追撃がままならず、刑部さんの額には冷や汗が滲んでいる。熟練の猟師でさえ翻弄される相手に、素人の俺はどうしたらいいんだ?
「しまった!!」
UFOは刑部さんを弄んだ挙句、隙をついて逃げ出した。そいつの向かう先は牛舎……やばいっ!!!
俺達は、大急ぎで牛舎へ引き返した。