「行くぞ、ポコ太郎!!」
牛郎は意気揚々と夜警に向かった。ポコ太郎も『待ってました!』と言わんばかりに牛郎を追う。
ちなみに、敵との遭遇に備えて各々が武器を携帯している。牛郎は防犯用の催涙スプレー、俺は作業用の鉈、そして刑部さんは散弾銃。
刑部さんはさておき、民間人の俺と牛郎が丸腰というの心許ないからな。厳密には銃刀法違反かもしれないが、未知の敵を相手にするのだから四の五の言ってられない。
なお、ポコ太郎については特に担当を割り振っていない。彼はスーパーサブ、いざとなったら迅速な動きを展開するだろう。
それと、連絡用としてSNSを共有している。これなら、状況に合わせて緊急や隠密の行動が可能となる。
決して万全を期しているとは言えないが、俺達なりに最善を尽くした体制だと思っている。クマだか宇宙人だか分からないが、どっからでも掛かってこい!!
ーー
「お月さん、綺麗だなぁ……」
刑部さんは、煙草を吹かしながら夜空を見上げている。月明かりに照らされた背中からは、いぶし銀の風格が漂う。
「月夜、良いものですよねぇ……」
満月の柔い明かりを眺めていると、夜警という使命を忘れてしまいそうになる。月明かりには、万人を包み込む優しさがある。
「夜空を彩る星達もまた……あ、そう言えば」
しみじみと夜空を眺めていた俺だが、空というキーワードから龍洞湖のサバを思い出した。もしかしたら、刑部さんなら何か心当たりがあるだろうか?
「龍洞湖にサバ……そりゃあ、きっとカワサバだな」
カワサバ、聞き慣れない魚だ。サバって、淡水にも棲めるのか……?
「カワサバは神の使いでなぁ。山の知らせを届ける時に現れるそうだ」
刑部さんによると、山の知らせは先祖代々の言い伝えらしい。マタギが山と共に生きてきた証は、カワサバの伝承に垣間見える。
龍洞湖のサバは、思わぬところで正体が明らかになった。まさか、カワサバがそんな神聖な存在だったとは。
「俺の爺様によると、関東大震災が起きる数日前にカワサバが釣れたらしい」
関東大震災といえば、あの歴史的災害か。山の知らせは史実にも顔を覗かせている。
「かくいう俺も、あの雪崩事故前日にカワサバを釣り上げてなぁ。爺さん曰く、カワサバには文字が書かれているらしいんだが……文字がとんでもなく小さくてよぉ」
雪崩事故、須賀高原に起きた忌まわしい出来事だ。あの事故で、大学生7人と引率顧問1人が犠牲になった。
当時の俺はまだ幼かった。けれど、親父が懸命に雪掻きをしていた姿を今でも覚えている。
それにしても、まさかカワサバの模様が文字になっていようとは……。一体誰が想像できただろうか。
刑部さんのお爺さんは意味を解読出来なかったそうだが、それを難なく読めた牛郎の視力と読解力はどうなっているんだ……!?