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市松人形 ―1―

ー/ー



「結局、座敷わらしってどんな見た目なのさ」


 授業も終わり寮へ帰る準備をしているモニカを引き止めて、パーシーは眉間に皺を寄せて言った。どうやら、モニカが盤星寮に棲み憑く座敷わらし『小福』の話をしてから、その姿が気になって夜も満足に眠れなくなってしまったらしい。
 妖の姿はパーシーには見えない。認識できないどころか、干渉することすらできず、魔法を当てることはもちろん、触れることもできない。


「気になりすぎて授業も頭に入ってこないよ」

「じゃあ、見にいこっか」

「それができないから困ってるんでしょ!」

「うん。だから、見えるようにするんだよ」


 わけのわからないことを口にするモニカを見てパーシーはポカンとすることしかできなかった。妖を見ることができるのは特別な人間だけだ。モニカのような『繋ぐ者』であったり、旭のように『妖憑き』でなくてはならない。あるいは、自身が妖に、つまり()()()()()ことで、無理やりな方法ではあるが妖を視認することはできる。つまり、今現在、パーシーが妖を見るためにはどの方法が最適かと言うと――


「モニカに半殺しにされる……」

「しないよ!?」


 割と本気で怯えていたパーシーを宥めながらモニカは教室を後にする。行き先は盤星寮とは真逆のメインストリート。通い慣れた様子でモニカは進んでいく。カバンの中で丸まりすやすやと眠っているソラを起こさないように歩くのはもう慣れてしまった。
 数分歩いてたどり着いたのはメインストリートにあるとある店。ショーケースの中で見せびらかすように展示されているのは、もふもふとした()()()()()だった。


「ちょうど気になってたぬいぐるみがあったんだよね〜」

「ぬいぐるみでぶん殴られる……」

「そんなことしないって」


 からんからんと、扉を開けた音でソラが目を覚ます。ひょっこりとカバンから顔を出し、目をしぱしぱさせて辺りを見渡して聞き取りにくい小さな声で呟く。


「妖がいっぱいいるのです……」

「これは妖じゃないよ、ソラ。まだ眠ってていいからね」

「む。これは……モニカのお部屋にいっぱいあるあれですね。また増やすのですか」

「違うの。これは小福ちゃんにあげるやつ」


 モニカは人気そうなぬいぐるみがたくさん置いてあるコーナーを通り過ぎて、もふもふとした人形ではなく、10歳ほどの子どもくらいの大きさをしたとある人形を指さして店主に声をかけた。


「これ、いくらですか?」

「……あんた、そんなもん買うのかい」

「はい。友達が欲しがっていて」


 モニカが指さしたそれは、極東の伝統的な着せ替え人形。しかも、店頭においてあったそれは真新しく、傷一つない、心なしかキラキラと輝いてさえ見えるほど美しい人形だった。
 おかっぱ頭に、赤を基調とした極東らしい着物、にっこりと笑っている微笑ましい表情。とても精巧な造りに、最初は怯えていたパーシーもつい見惚れてしまうほどだった。
 しかし、モニカの言葉に店主はなかなか返事をしない。かつかつと靴で音を鳴らし、黙り込んで市松人形を見るばかりだ。店主の年老いた老婆は椅子に腰を下ろし、キセルをふかしながら眉をひそめた。


「ふん、そんなに欲しけりゃ持っていきな。こっちとしても、いつまでもあってくれちゃ困る」

「何かあるんですか?」


 何か含みのある言い方に聞こえたのか、モニカはそう聞き返した。そして、老婆はバツが悪そうに答える。


「二人殺してる――」


 いわく付き、と言うやつだ。モニカの見つけた市松人形は、その造り手と、次に渡った持ち主、二人を呪い殺しているのだと老婆は語る。


「人形が、と思うだろう。だが真実だ。持って行きたきゃ好きにしな。お代はいらないよ」

「はい。ありがとうございます」

「……死んでもあたしのせいにすんじゃないよ。あんたが勝手に持って行って勝手に死んだんだ」

「優しいんですね」


 パーシーに箱を持ち上げさせて、モニカは老婆に言った。二人も人を殺しているいわく付きの人形。その言葉を聞いて、この市松人形がなぜ人形屋にあるのかをパーシーは理解した。
 たまたま拾ったなら、そんな話は知らないはずだ。だからきっと、老婆は事情を理解しながらもこの市松人形を引き取ったのだろう。ピカピカに磨かれたガラスケースも、目にとまりやすい場所に置いてあったのも、きっと、この市松人形の譲り手を老婆なりに見つけてあげようとしていたからだろう。


「ちょいと待ちな」


 ドアノブに手をかけ、モニカたちが立ち去ろうとする。からんからんと、またベルが鳴ったその時、老婆がモニカたちを引き止めた。


「その人形はうちの主人が造り、そしてその後、息子の手に渡ったもんだ」


 老婆はキセルの吸殻を落として、呟くように言った。


「そんなんでも主人と息子の形見だ。大事にしてくれ」


 モニカは何も言わず、ただ深々と頭を下げて店を後にした。老婆はモニカたちの背を見送り、今まで市松人形のあった場所をじっと見つめて、静かに涙を流した。


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「結局、座敷わらしってどんな見た目なのさ」
 授業も終わり寮へ帰る準備をしているモニカを引き止めて、パーシーは眉間に皺を寄せて言った。どうやら、モニカが盤星寮に棲み憑く座敷わらし『小福』の話をしてから、その姿が気になって夜も満足に眠れなくなってしまったらしい。
 妖の姿はパーシーには見えない。認識できないどころか、干渉することすらできず、魔法を当てることはもちろん、触れることもできない。
「気になりすぎて授業も頭に入ってこないよ」
「じゃあ、見にいこっか」
「それができないから困ってるんでしょ!」
「うん。だから、見えるようにするんだよ」
 わけのわからないことを口にするモニカを見てパーシーはポカンとすることしかできなかった。妖を見ることができるのは特別な人間だけだ。モニカのような『繋ぐ者』であったり、旭のように『妖憑き』でなくてはならない。あるいは、自身が妖に、つまり|死《・》|に《・》|近《・》|づ《・》|く《・》ことで、無理やりな方法ではあるが妖を視認することはできる。つまり、今現在、パーシーが妖を見るためにはどの方法が最適かと言うと――
「モニカに半殺しにされる……」
「しないよ!?」
 割と本気で怯えていたパーシーを宥めながらモニカは教室を後にする。行き先は盤星寮とは真逆のメインストリート。通い慣れた様子でモニカは進んでいく。カバンの中で丸まりすやすやと眠っているソラを起こさないように歩くのはもう慣れてしまった。
 数分歩いてたどり着いたのはメインストリートにあるとある店。ショーケースの中で見せびらかすように展示されているのは、もふもふとした|ぬ《・》|い《・》|ぐ《・》|る《・》|み《・》だった。
「ちょうど気になってたぬいぐるみがあったんだよね〜」
「ぬいぐるみでぶん殴られる……」
「そんなことしないって」
 からんからんと、扉を開けた音でソラが目を覚ます。ひょっこりとカバンから顔を出し、目をしぱしぱさせて辺りを見渡して聞き取りにくい小さな声で呟く。
「妖がいっぱいいるのです……」
「これは妖じゃないよ、ソラ。まだ眠ってていいからね」
「む。これは……モニカのお部屋にいっぱいあるあれですね。また増やすのですか」
「違うの。これは小福ちゃんにあげるやつ」
 モニカは人気そうなぬいぐるみがたくさん置いてあるコーナーを通り過ぎて、もふもふとした人形ではなく、10歳ほどの子どもくらいの大きさをしたとある人形を指さして店主に声をかけた。
「これ、いくらですか?」
「……あんた、そんなもん買うのかい」
「はい。友達が欲しがっていて」
 モニカが指さしたそれは、極東の伝統的な着せ替え人形。しかも、店頭においてあったそれは真新しく、傷一つない、心なしかキラキラと輝いてさえ見えるほど美しい人形だった。
 おかっぱ頭に、赤を基調とした極東らしい着物、にっこりと笑っている微笑ましい表情。とても精巧な造りに、最初は怯えていたパーシーもつい見惚れてしまうほどだった。
 しかし、モニカの言葉に店主はなかなか返事をしない。かつかつと靴で音を鳴らし、黙り込んで市松人形を見るばかりだ。店主の年老いた老婆は椅子に腰を下ろし、キセルをふかしながら眉をひそめた。
「ふん、そんなに欲しけりゃ持っていきな。こっちとしても、いつまでもあってくれちゃ困る」
「何かあるんですか?」
 何か含みのある言い方に聞こえたのか、モニカはそう聞き返した。そして、老婆はバツが悪そうに答える。
「二人殺してる――」
 いわく付き、と言うやつだ。モニカの見つけた市松人形は、その造り手と、次に渡った持ち主、二人を呪い殺しているのだと老婆は語る。
「人形が、と思うだろう。だが真実だ。持って行きたきゃ好きにしな。お代はいらないよ」
「はい。ありがとうございます」
「……死んでもあたしのせいにすんじゃないよ。あんたが勝手に持って行って勝手に死んだんだ」
「優しいんですね」
 パーシーに箱を持ち上げさせて、モニカは老婆に言った。二人も人を殺しているいわく付きの人形。その言葉を聞いて、この市松人形がなぜ人形屋にあるのかをパーシーは理解した。
 たまたま拾ったなら、そんな話は知らないはずだ。だからきっと、老婆は事情を理解しながらもこの市松人形を引き取ったのだろう。ピカピカに磨かれたガラスケースも、目にとまりやすい場所に置いてあったのも、きっと、この市松人形の譲り手を老婆なりに見つけてあげようとしていたからだろう。
「ちょいと待ちな」
 ドアノブに手をかけ、モニカたちが立ち去ろうとする。からんからんと、またベルが鳴ったその時、老婆がモニカたちを引き止めた。
「その人形はうちの主人が造り、そしてその後、息子の手に渡ったもんだ」
 老婆はキセルの吸殻を落として、呟くように言った。
「そんなんでも主人と息子の形見だ。大事にしてくれ」
 モニカは何も言わず、ただ深々と頭を下げて店を後にした。老婆はモニカたちの背を見送り、今まで市松人形のあった場所をじっと見つめて、静かに涙を流した。