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もふ

ー/ー



「と、言うことで、色々あったが元気でやってます」


 かくかくしかじか、と旭はこれまであったことを獄蝶のジョカに伝える。これまであったこと、と言ってもその情報量はあまりにも膨大で、古書館あたりから記憶を取り戻したところまでのすべてを話すことになった。途中までは理解できていたのか首を縦に振って頷いていた獄蝶のジョカも最後は顔をピクピクと引き攣らせて今にも怒りが爆発せんばかりに全身を震わせていた。
 八重に呪いをかけられて妖憑きになったこと、国綱とヴェローニカのこと、何度も死にかけたこと、記憶を失い、取り戻したこと。そして、『焔の魔法』の本当の姿のこと。すべて偽りなく、一切の情報を欠かすことなく旭は獄蝶のジョカに伝えた。
 今、ノーチェスは災いの渦中にある。様々な思惑、天災、妖。良くないものが渦巻いて混沌を作り出している。現在は表に出てきてはいないが、それも時間のうちだろう。そして、それを抑え込めるのは旭の知る中では一人しか存在しない。


「……まったく、連絡もせずにどこほっつき歩いてんのかと思ったらさ。面倒事ばかり持ってくるな、お前は」


 ―モフッ―

 獄蝶のジョカ。極東の大魔法使いにして、最強の魔法使い。お互いに相手の魔法を知らないこと、一対一であること、体力や魔力量などの消耗がないこと。要するに、初見、タイマン、よーいドン、この3つが揃えば獄蝶のジョカは、極端な話、神すら殺せると断言できる。相手が神の鍵であろうと例外ではない。生きている、死なない化け物が相手でもない限り獄蝶のジョカは絶対に負けない。


「レオから色々聞きました」

「あぁ、あれか……あいつもお前と同じ。こっちの仕事増やさないで欲しいよね」

「七曜の狙いは……」

「恐らくエストレイラだ。正確に言えば、彼女の持つ『奇跡』の力だろうね」


 ―モフモフッ―

 月が欠け、再び満ちる刻、奇跡を奪いに――。
 ソフィアたちがメモリアとの戦いで得た情報は一部の人物には広まっている。当然、旭もその一人だ。メモリアの発言から考えるに、七曜の襲撃までそれほど時間があるわけではない。既にあと一月もないと考えれば、そろそろ対策を講じなければいけない頃合だろう。


「……それで、その。非常に言いにくいんだが……」


 視線を左下に逸らしながら、言いにくそうに旭はそう言った。さっきからどうしても視界に入ってしまって、緊張感を削がれて仕方がない。どこからともなく、もふもふ、と聞こえてくるオノマトペのせいで気が散って話が入ってこない。

 ―モフモフモフッ―

 旭が指定した獄蝶のジョカとの待ち合わせ場所は、確かに人目につきにくく、密談には都合のいいところだった。だからと言っても、自由にも程があるというものだ。


「なんなんだよ、その()は!」


 旭が声を荒らげて獄蝶のジョカにドロップキックをお見舞いする。数分前、獄蝶のジョカを待つ旭の目の前に現れたのは、とてもこの世の生き物とは考えられない巨大な()だった。旭の身長の倍ほどはある三毛の長毛の猫は「わ゛ゃん」と、到底猫とは思えない声で鳴いて、その存在を再度アピールする。
 旭のドロップキックによって吹き飛ばされた獄蝶のジョカは猫の長い毛に埋まり、もぞもぞと猫の背中を這って頭のてっぺん辺りまで移動して顔を出した。


「この子は大猫(おおねこ)っていう妖でね。なにやら事情があってこっちまで迷い込んじゃったらしいんだ」

「わ゛ゃぁん!」

「お前は鳴くなデカ猫」

「わ゛ゃん……」

「あ! 可哀想だろうデカ猫なんて呼び方! こいつには大猫(おおねこ)という立派な名前がなぁ!」

「うっせぇよこのくそマヌケ! 妖ばっかり連れてきやがって!」

「しょうがないだろ! こんな可愛い子を見て見ぬふりなんて!」


 旭に一蹴された大猫は獄蝶のジョカと旭の口喧嘩にも割り込めず、香箱座りでちょこんと腰を下ろす。その大きさにさえ目をつぶれば可愛いのだが、如何せんその大きさが足を引っ張りすぎる。一声上げるたびに森全体がざわざわと揺れるほど大きな声に、一般人なら容易く切り下げるであろう爪。大口を開けて欠伸をするたびに鋭い牙が見え隠れする。そのくせ、本人に獣的な気質はないのか、ごろごろの爆音で喉を鳴らすどころか、捕食者としての威厳を微塵も感じさせない柔らかい眼差しに、大きく手を振ると喜んでお腹を差し出す始末。二重の意味でとても猫とは思えない。


「どうすんだよこいつ」

「寮……」

「あの寮を妖屋敷にするつもりか」

「座敷わらしがいる時点で大した違いはないよ」

「そう言ってどんどん妖が増えてくんだろうがよ!」

「まだ四人しかいないよぉ!」


 その言葉を聞いて旭の動きがピタリと止まる。旭は盤星寮の様子をよくモニカから聞いていた。盤星寮には現在、モニカの部屋にいる『ソラ』、座敷わらしの『小福』、食堂で夜な夜な餅をついている『静か餅』の三人しかいないはずだ。それを、今獄蝶のジョカはなんと言ったか。


「一人増えてんじゃねぇかくそ魔法使いが!」

「ごめんなさぁぁあぁい!」


 こうして、今日も自由すぎるがあまりに弟子に頭が上がらない獄蝶のジョカなのだった。

 ちなみに、大猫は旭が引き取って冒険者ギルドの近くの野原に住むことになりました。


「食費のこと忘れてた……」

「わ゛ゃん!!!」


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次のエピソードへ進む 市松人形 ―1―


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「と、言うことで、色々あったが元気でやってます」
 かくかくしかじか、と旭はこれまであったことを獄蝶のジョカに伝える。これまであったこと、と言ってもその情報量はあまりにも膨大で、古書館あたりから記憶を取り戻したところまでのすべてを話すことになった。途中までは理解できていたのか首を縦に振って頷いていた獄蝶のジョカも最後は顔をピクピクと引き攣らせて今にも怒りが爆発せんばかりに全身を震わせていた。
 八重に呪いをかけられて妖憑きになったこと、国綱とヴェローニカのこと、何度も死にかけたこと、記憶を失い、取り戻したこと。そして、『焔の魔法』の本当の姿のこと。すべて偽りなく、一切の情報を欠かすことなく旭は獄蝶のジョカに伝えた。
 今、ノーチェスは災いの渦中にある。様々な思惑、天災、妖。良くないものが渦巻いて混沌を作り出している。現在は表に出てきてはいないが、それも時間のうちだろう。そして、それを抑え込めるのは旭の知る中では一人しか存在しない。
「……まったく、連絡もせずにどこほっつき歩いてんのかと思ったらさ。面倒事ばかり持ってくるな、お前は」
 ―モフッ―
 獄蝶のジョカ。極東の大魔法使いにして、最強の魔法使い。お互いに相手の魔法を知らないこと、一対一であること、体力や魔力量などの消耗がないこと。要するに、初見、タイマン、よーいドン、この3つが揃えば獄蝶のジョカは、極端な話、神すら殺せると断言できる。相手が神の鍵であろうと例外ではない。生きている、死なない化け物が相手でもない限り獄蝶のジョカは絶対に負けない。
「レオから色々聞きました」
「あぁ、あれか……あいつもお前と同じ。こっちの仕事増やさないで欲しいよね」
「七曜の狙いは……」
「恐らくエストレイラだ。正確に言えば、彼女の持つ『奇跡』の力だろうね」
 ―モフモフッ―
 月が欠け、再び満ちる刻、奇跡を奪いに――。
 ソフィアたちがメモリアとの戦いで得た情報は一部の人物には広まっている。当然、旭もその一人だ。メモリアの発言から考えるに、七曜の襲撃までそれほど時間があるわけではない。既にあと一月もないと考えれば、そろそろ対策を講じなければいけない頃合だろう。
「……それで、その。非常に言いにくいんだが……」
 視線を左下に逸らしながら、言いにくそうに旭はそう言った。さっきからどうしても視界に入ってしまって、緊張感を削がれて仕方がない。どこからともなく、もふもふ、と聞こえてくるオノマトペのせいで気が散って話が入ってこない。
 ―モフモフモフッ―
 旭が指定した獄蝶のジョカとの待ち合わせ場所は、確かに人目につきにくく、密談には都合のいいところだった。だからと言っても、自由にも程があるというものだ。
「なんなんだよ、その|猫《・》は!」
 旭が声を荒らげて獄蝶のジョカにドロップキックをお見舞いする。数分前、獄蝶のジョカを待つ旭の目の前に現れたのは、とてもこの世の生き物とは考えられない巨大な|猫《・》だった。旭の身長の倍ほどはある三毛の長毛の猫は「わ゛ゃん」と、到底猫とは思えない声で鳴いて、その存在を再度アピールする。
 旭のドロップキックによって吹き飛ばされた獄蝶のジョカは猫の長い毛に埋まり、もぞもぞと猫の背中を這って頭のてっぺん辺りまで移動して顔を出した。
「この子は|大猫《おおねこ》っていう妖でね。なにやら事情があってこっちまで迷い込んじゃったらしいんだ」
「わ゛ゃぁん!」
「お前は鳴くなデカ猫」
「わ゛ゃん……」
「あ! 可哀想だろうデカ猫なんて呼び方! こいつには|大猫《おおねこ》という立派な名前がなぁ!」
「うっせぇよこのくそマヌケ! 妖ばっかり連れてきやがって!」
「しょうがないだろ! こんな可愛い子を見て見ぬふりなんて!」
 旭に一蹴された大猫は獄蝶のジョカと旭の口喧嘩にも割り込めず、香箱座りでちょこんと腰を下ろす。その大きさにさえ目をつぶれば可愛いのだが、如何せんその大きさが足を引っ張りすぎる。一声上げるたびに森全体がざわざわと揺れるほど大きな声に、一般人なら容易く切り下げるであろう爪。大口を開けて欠伸をするたびに鋭い牙が見え隠れする。そのくせ、本人に獣的な気質はないのか、ごろごろの爆音で喉を鳴らすどころか、捕食者としての威厳を微塵も感じさせない柔らかい眼差しに、大きく手を振ると喜んでお腹を差し出す始末。二重の意味でとても猫とは思えない。
「どうすんだよこいつ」
「寮……」
「あの寮を妖屋敷にするつもりか」
「座敷わらしがいる時点で大した違いはないよ」
「そう言ってどんどん妖が増えてくんだろうがよ!」
「まだ四人しかいないよぉ!」
 その言葉を聞いて旭の動きがピタリと止まる。旭は盤星寮の様子をよくモニカから聞いていた。盤星寮には現在、モニカの部屋にいる『ソラ』、座敷わらしの『小福』、食堂で夜な夜な餅をついている『静か餅』の三人しかいないはずだ。それを、今獄蝶のジョカはなんと言ったか。
「一人増えてんじゃねぇかくそ魔法使いが!」
「ごめんなさぁぁあぁい!」
 こうして、今日も自由すぎるがあまりに弟子に頭が上がらない獄蝶のジョカなのだった。
 ちなみに、大猫は旭が引き取って冒険者ギルドの近くの野原に住むことになりました。
「食費のこと忘れてた……」
「わ゛ゃん!!!」