公園で後輩三人と別れて、俺は帰路に就く。
スマホで連絡を入れるとすぐに返事がきた。
というか通話がかかってきたので、俺は住宅地を歩きながらスマホを耳に当てた。
「もしもし」
『よお、杉野。びっくりしたぞ』
「樫田でも驚くことがあるんだな」
冗談交じりにそう言うと、樫田は笑った。
『おいおい、随分余裕が出てきたじゃねーか。大槻と話してそこまで良いこと聞いたのか?』
「いや、大槻とじゃないよ」
『ほう、なるほど』
何に納得したのか、電話越しの樫田は上機嫌そうだった。
まぁ、おそらく上機嫌なのはさっき俺が送った連絡が理由だろう。
樫田が本題へと入る。
『で、二年で集まる日程を決めたいって、覚悟が出来たってことでいいのか?』
「覚悟っていうか、話の突破口? は掴んだよ」
『それまた』
どういうリアクション? 嬉しいの? ダメなの?
見えない樫田の表情を考えながら話を進める。
「で、それの確認もしたくてな」
『突破口のか? 何だ?』
「―――――?」
『……』
俺の問いに、樫田は黙った。
それを肯定として受け入れる。どこか寂しさを覚えた。
「合っているんだな」
『……まさか、そこに辿り着くとはな』
樫田の声音が低くなる。
少しの静寂の後、樫田はゆっくりと答える。
『その通りだ……言いぐさからして、まだ全部は分かってないようだな』
「ああ、けど予想はだいたいついたよ」
『そうか』
「樫田、これって――」
『まぁ、詳しいことは山路に聞いてくれ』
樫田が俺の言葉を遮った。
これ以上は話さないということなんだろう。
「……そうだな。じゃあ、集まるタイミングなんだけど」
『ああ。明日ってわけにはいかないだろうし、土曜日でどうだ?』
「いいのか?」
『嫌だよ』
即答する樫田。
貴重な長時間稽古できる土曜日を潰したくはないのだろう。それでも土曜日を提案してくるってことは。
『けど、早く決着しないと、お前ら本気で稽古に取り込めないだろ?』
「……手抜いているつもりはないんだけどな」
『分かっているよ、それでも今の雰囲気が良くないことも分かるだろ』
ああ、嫌というほどな。
どこか上っ面のような雰囲気は、誰もが感じているのだろう。
『じゃあ、今日中には轟先輩たちに許可取って、二年のグループに連絡流すから』
「よろしく頼むわ」
『杉野』
「ん?」
『お互い、頑張ろうな』
少しだけ胸のあたりが暖かくなった
なぜだかその言葉に勇気をもらった気がした。
樫田はそれだけ言うと、通話を切った。
俺はスマホをポケットに戻す。
「ふぅ……」
曇天とした空を見ながら、思いふける。
樫田の反応的に俺の仮説は正しいことが分かった。
でも、それって――。
……いや止めよう。どうせ話せばわかることだ。
それよりも今俺が決めないといけないのは、俺自身のことだ。
覚悟。青春。強い意志。
色んな言い方で、色んな意味を持ったそれを、俺は未だ決めていない。
いつかいつかと思っていた日は、気づいたら今だった。
決断しないといけない。
きっとあと一歩で決まるのに。
何かに後ろ髪を引かれて、ここにずっといる。
怯者のモラトリアム。
でも、それももう終わる。
世界が、社会が、環境が、時間が、流れゆく日々がそれを許さない。
山路が辞めるにしろ、辞めないにしろ。
ここはきっともう無くなる。
「ああちくしょう。やっぱ覚悟なんてできねぇよ」
そんな言葉が口から洩れた。
あれだけアドバイスをもらって、あれだけ確認をしても、俺は答えなんて出せないでいた。
椎菜や増倉みたいな覚悟は、俺には持てないのかもしれない。
でもさ。それでも俺は山路に辞めてほしくないんだ。
だからこれは、演技なのかもしれない。
弱虫な俺が、堂々と立ち居振る舞うための虚勢。
相も変わらず覚悟はないが、それでも精一杯立ち向かおうか。
俺の持つ心の叫びを表現するんだ。