第144話 後輩たちに相談
ー/ー 俺は簡潔に山路が辞めようとしていることを三人に話した。
後輩たちはそれぞれ驚いたようだった。
「そんなことになっていたんですね」
「それは一大事ですね……」
「っす」
三人からしたら、寝耳に水な展開だろう。
一通り話したところで、田島から質問があった。
「先輩は、山路先輩が辞めようとしているのを阻止するために動いているんですよね?」
「ああ、そうだ」
「他の皆さんはどうなんですか?」
「……それは、それぞれって感じだな」
「なんか意外ですね。樫田先輩と大槻先輩はてっきり……」
田島からしたら、俺たち四人は仲良しに見えていたのだろう(実際俺的にはそうなのだが)。
この感覚をどう説明したものか、と考えていると金子が口を開いた。
「友達だから否定できないことってあるっす。きっとお二人は山路先輩の気持ちを汲んだっす」
「男の友情ってやつだぁ」
「そんな綺麗なものじゃないと思うっす。もっとエゴイスティックなものっす」
「ふーん」
田島は興味なさげに返事をした。
同性だからか、金子は俺の話を聞いただけで二人の感情を察したのだろう。
その表情はどこか寂しさがありながら、不思議と落ち着いているように見えた。
今度は池本から質問があった。
「あの、山路先輩が辞めたい理由は分からないんですよね?」
「そうだな。樫田や大槻は察しているらしいが……」
「ならどうやって阻止するんですか?」
「うっ!」
ストレートな正論が俺の胸を刺した。
た、確かにそうなんだが。
「ちょ、春佳ちゃん! 正論すぎ!」
「っす! 元も子もないっす!」
二人がフォローなのか傷口に塩を塗っているのか分からないことを言う。
慌てて池本が謝罪する。
「あ、え、そのごめんなさい!」
「いや、大丈夫だ……それについては、たぶん、次集まる時に分かるはず、だ」
「でも、その時って決着する時ですよね?」
う。池本って意外と言いたいことハッキリ言うタイプなのな。
俺の表情を読み取ったのか、池本が弁明する。
「その、違うんです! 辞める理由は分からない。周りに聞けるだけのことは聞いた。なら先輩は今、何に悩んでいるんでしょうか!?」
「……そうだな。なんつーか話の切口っていうか突破口が掴めないんだ」
「突破口……」
そう。俺が今一番悩んでいるのは、山路に対してどういう話をすべきなのかということだった。
単純に「辞めるな」って言うだけでは何の意味もない。何か山路の心を揺さぶる何かが欲しかった。
「分かるっす。話し合うにも議題が必要っす」
「う~ん。辞める理由は聞くとして、他の議題?」
金子と田島が頭をひねっていた。
そうだよなぁ。そんな簡単に浮かばないよな。
池本も難しい顔で何かを考えていた。
「でもぉ、先輩たちすごいですねぇ」
「すごい?」
「だってぇ、普通は部活辞める人が出ても、はいそうですかで終わりじゃないですかぁ」
「っす。去る者追わずって言うっす」
田島が感心していると金子も賛同した。
……そんな高尚なことだろうか。もっと自分本位な考えの結果な気がしてならなかった。
あるいは、変化を受け入れたくないだけの物ぐさな考えか。
どちらにせよ、阻止したい理由は、きっと俺のわがままだ。
「……杉野先輩」
「ん?」
池本が硬い表情をして、俺を呼んだ。
何かアイデアが浮かんだのだろうか。
「山路先輩は、いつから辞めようと思っていたのでしょうか?」
問われて、俺の中でぞわっと何かが蠢いた。
いつから? それは……。
思い出す。いつぞやこの公園で大槻が言っていたこと。
『けど杉野への宣戦布告、あれは山路なりの義理を通すってことだったんだと思う』
つまり宣戦布告されたあの時、山路の頭には辞める可能性があった?
いや、落ち着け俺。
「池本。それがどうしたんだ?」
「はい。気になったのは辞めるタイミングが春大会終わりだということです」
「別におかしくなくない? キリ良いし」
「っす。辞めるならそのタイミングっす」
二人の質問に池本は落ち着いて答える。
「だって、もしオーディション前から辞めたがっているなら、少し長いかなって思って」
「…………」
確かに、それはそうなのかもしれない。
俺の脳内でいろんな意見が生まれる。
でも有終の美って言葉があるだろ。最後に舞台に立ちたかったんじゃないか?
……いや、そこじゃない。考え方を、見方を変えろ俺。
なぜ春大会終わりなんだ?
そして、そこには樫田も大槻も触れなかった。
核心に至る何かがあるのか?
「でもでもぉ、春大会終わりじゃないとすぐに秋大会に向けて動き出すし」
「っす。代替わりの時期っす」
「そうだけど……」
そうか、春大会終わりって先輩たちの引退か。
分かんないって言えば、何で轟先輩が山路の辞める動機を知っていたんだ?
部長だから? いや、そんな感じじゃなさそうだったしな。
「嫌になって辞めたいなら、そんなに長期間部活するのかなって」
「まぁ、確かにぃ」
「何が嫌になったかによるんじゃないっすか?」
いや、、違うな。たぶん山路は何かが嫌になったんじゃない。
山路にとって――。
「先輩? どうしましたぁ?」
「ああ、いや、たぶん山路はそういう理由で辞めるんじゃない」
「? じゃあどんな理由ですかぁ?」
「……悪い、それは分からない。けど、樫田は山路にとっての演劇部の青春が失われるからって言っていた。きっと山路自身も苦しんでいると思う」
増倉と椎名が喧嘩した時の話し合いで、俺には山路がそう見えた。
田島は、俺の言葉に不思議そうにしていた。
「嫌になってないのに辞めるんですかぁ? 矛盾してません?」
「それは……」
「そういうこともあるっす。人間関係とかモチベーションとか色々あるっす」
金子が俺の代わりに答える。
そうだな、確かに嫌になっただけが辞める理由とは限らない。
「じゃあ、山路先輩はモチベーションがなくなったとか?」
「そこまでは分からないっす」
「もう! 話が進まないじゃん!」
「真弓ちゃん落ち着いて。問題は阻止するための突破口がないことだから」
「っすね。会話の糸口っす」
池本と金子の言う通りだった。
それと同時にもう少し、もう少しで何かが思い浮かぶ気がする。
何だ? 俺は何かを見逃しているのか?
……
…………
……………………あ。
「あ」
思わず声を上げると、三人の注目を集める。
だが俺は気にせずに考え込んだ。
青春が失われる。春大会終わり。そして――。
「先輩ぃ? どうしたんですかぁ?」
「ああ、いや」
「何かお気づきになったんですね」
田島の質問にどう答えようかと悩んでいると、池本が穏やかな笑みでこちらを見てきた。
俺は正直に頷いた。
「ええ! 教えてくださいよぉ!」
田島が顔を俺に近づける。
次の瞬間、意外なことに池本が田島の肩を持って、それを止めに入った。
「真弓ちゃん。これ以上は野暮だよ」
「っすね」
「えぇ! ここまで来たのに!?」
「二人とも……」
俺の心情を察してか、これ以上は聞かないでいてくれるようだ。
一人納得していない田島をよそに話を進める池本。
「杉野先輩。その方がいいですよね?」
「悪い」
「謝らないでください。もし他に私たちに出来ることがあったら仰ってください」
「っす! 微力ながら力になるっす!」
「私たちだって演劇部なんですからね!」
三人はそれぞれ笑いながら、真っ直ぐに俺を見てきた。
頼もしい後輩たちだった。
「三人とも、ありがとう」
そう言って、俺は笑い返した。
後輩たちはそれぞれ驚いたようだった。
「そんなことになっていたんですね」
「それは一大事ですね……」
「っす」
三人からしたら、寝耳に水な展開だろう。
一通り話したところで、田島から質問があった。
「先輩は、山路先輩が辞めようとしているのを阻止するために動いているんですよね?」
「ああ、そうだ」
「他の皆さんはどうなんですか?」
「……それは、それぞれって感じだな」
「なんか意外ですね。樫田先輩と大槻先輩はてっきり……」
田島からしたら、俺たち四人は仲良しに見えていたのだろう(実際俺的にはそうなのだが)。
この感覚をどう説明したものか、と考えていると金子が口を開いた。
「友達だから否定できないことってあるっす。きっとお二人は山路先輩の気持ちを汲んだっす」
「男の友情ってやつだぁ」
「そんな綺麗なものじゃないと思うっす。もっとエゴイスティックなものっす」
「ふーん」
田島は興味なさげに返事をした。
同性だからか、金子は俺の話を聞いただけで二人の感情を察したのだろう。
その表情はどこか寂しさがありながら、不思議と落ち着いているように見えた。
今度は池本から質問があった。
「あの、山路先輩が辞めたい理由は分からないんですよね?」
「そうだな。樫田や大槻は察しているらしいが……」
「ならどうやって阻止するんですか?」
「うっ!」
ストレートな正論が俺の胸を刺した。
た、確かにそうなんだが。
「ちょ、春佳ちゃん! 正論すぎ!」
「っす! 元も子もないっす!」
二人がフォローなのか傷口に塩を塗っているのか分からないことを言う。
慌てて池本が謝罪する。
「あ、え、そのごめんなさい!」
「いや、大丈夫だ……それについては、たぶん、次集まる時に分かるはず、だ」
「でも、その時って決着する時ですよね?」
う。池本って意外と言いたいことハッキリ言うタイプなのな。
俺の表情を読み取ったのか、池本が弁明する。
「その、違うんです! 辞める理由は分からない。周りに聞けるだけのことは聞いた。なら先輩は今、何に悩んでいるんでしょうか!?」
「……そうだな。なんつーか話の切口っていうか突破口が掴めないんだ」
「突破口……」
そう。俺が今一番悩んでいるのは、山路に対してどういう話をすべきなのかということだった。
単純に「辞めるな」って言うだけでは何の意味もない。何か山路の心を揺さぶる何かが欲しかった。
「分かるっす。話し合うにも議題が必要っす」
「う~ん。辞める理由は聞くとして、他の議題?」
金子と田島が頭をひねっていた。
そうだよなぁ。そんな簡単に浮かばないよな。
池本も難しい顔で何かを考えていた。
「でもぉ、先輩たちすごいですねぇ」
「すごい?」
「だってぇ、普通は部活辞める人が出ても、はいそうですかで終わりじゃないですかぁ」
「っす。去る者追わずって言うっす」
田島が感心していると金子も賛同した。
……そんな高尚なことだろうか。もっと自分本位な考えの結果な気がしてならなかった。
あるいは、変化を受け入れたくないだけの物ぐさな考えか。
どちらにせよ、阻止したい理由は、きっと俺のわがままだ。
「……杉野先輩」
「ん?」
池本が硬い表情をして、俺を呼んだ。
何かアイデアが浮かんだのだろうか。
「山路先輩は、いつから辞めようと思っていたのでしょうか?」
問われて、俺の中でぞわっと何かが蠢いた。
いつから? それは……。
思い出す。いつぞやこの公園で大槻が言っていたこと。
『けど杉野への宣戦布告、あれは山路なりの義理を通すってことだったんだと思う』
つまり宣戦布告されたあの時、山路の頭には辞める可能性があった?
いや、落ち着け俺。
「池本。それがどうしたんだ?」
「はい。気になったのは辞めるタイミングが春大会終わりだということです」
「別におかしくなくない? キリ良いし」
「っす。辞めるならそのタイミングっす」
二人の質問に池本は落ち着いて答える。
「だって、もしオーディション前から辞めたがっているなら、少し長いかなって思って」
「…………」
確かに、それはそうなのかもしれない。
俺の脳内でいろんな意見が生まれる。
でも有終の美って言葉があるだろ。最後に舞台に立ちたかったんじゃないか?
……いや、そこじゃない。考え方を、見方を変えろ俺。
なぜ春大会終わりなんだ?
そして、そこには樫田も大槻も触れなかった。
核心に至る何かがあるのか?
「でもでもぉ、春大会終わりじゃないとすぐに秋大会に向けて動き出すし」
「っす。代替わりの時期っす」
「そうだけど……」
そうか、春大会終わりって先輩たちの引退か。
分かんないって言えば、何で轟先輩が山路の辞める動機を知っていたんだ?
部長だから? いや、そんな感じじゃなさそうだったしな。
「嫌になって辞めたいなら、そんなに長期間部活するのかなって」
「まぁ、確かにぃ」
「何が嫌になったかによるんじゃないっすか?」
いや、、違うな。たぶん山路は何かが嫌になったんじゃない。
山路にとって――。
「先輩? どうしましたぁ?」
「ああ、いや、たぶん山路はそういう理由で辞めるんじゃない」
「? じゃあどんな理由ですかぁ?」
「……悪い、それは分からない。けど、樫田は山路にとっての演劇部の青春が失われるからって言っていた。きっと山路自身も苦しんでいると思う」
増倉と椎名が喧嘩した時の話し合いで、俺には山路がそう見えた。
田島は、俺の言葉に不思議そうにしていた。
「嫌になってないのに辞めるんですかぁ? 矛盾してません?」
「それは……」
「そういうこともあるっす。人間関係とかモチベーションとか色々あるっす」
金子が俺の代わりに答える。
そうだな、確かに嫌になっただけが辞める理由とは限らない。
「じゃあ、山路先輩はモチベーションがなくなったとか?」
「そこまでは分からないっす」
「もう! 話が進まないじゃん!」
「真弓ちゃん落ち着いて。問題は阻止するための突破口がないことだから」
「っすね。会話の糸口っす」
池本と金子の言う通りだった。
それと同時にもう少し、もう少しで何かが思い浮かぶ気がする。
何だ? 俺は何かを見逃しているのか?
……
…………
……………………あ。
「あ」
思わず声を上げると、三人の注目を集める。
だが俺は気にせずに考え込んだ。
青春が失われる。春大会終わり。そして――。
「先輩ぃ? どうしたんですかぁ?」
「ああ、いや」
「何かお気づきになったんですね」
田島の質問にどう答えようかと悩んでいると、池本が穏やかな笑みでこちらを見てきた。
俺は正直に頷いた。
「ええ! 教えてくださいよぉ!」
田島が顔を俺に近づける。
次の瞬間、意外なことに池本が田島の肩を持って、それを止めに入った。
「真弓ちゃん。これ以上は野暮だよ」
「っすね」
「えぇ! ここまで来たのに!?」
「二人とも……」
俺の心情を察してか、これ以上は聞かないでいてくれるようだ。
一人納得していない田島をよそに話を進める池本。
「杉野先輩。その方がいいですよね?」
「悪い」
「謝らないでください。もし他に私たちに出来ることがあったら仰ってください」
「っす! 微力ながら力になるっす!」
「私たちだって演劇部なんですからね!」
三人はそれぞれ笑いながら、真っ直ぐに俺を見てきた。
頼もしい後輩たちだった。
「三人とも、ありがとう」
そう言って、俺は笑い返した。
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