夜に叫ぶ者たち ―2―
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『真偽刻銘 ”大嘘つきの世界”』。メルティ・ヴァンチャットが0から編み出した嘘の魔法の奥義。その効果は、既に起きた事象の反転。その範囲に制限はなく、巻き込む対象にも限界はない。しかし、その強力な効果は重い枷がかけられている。1つは発動に長い詠唱が必須であること。この詠唱を省いて発動はできない。2つ、発動に莫大な魔力が必要になること。必要となる魔力はメルティ1人では到底届かず、他の誰かからの魔力供給が不可欠となる。そして3つ、この魔法の効果は事象の反転ならば必然である、忘れてはならないこと。
(……っ痛い! 詠唱を必須とする魔法! 詠唱から推測するに効果は事象の逆転!? まずい……こんな隠し球があったなんて……!)
対象となったのはメモリアとソフィア、メルティ、ヨナ、レオノール。メモリアは4人の疲労、傷、魔力の消耗。すべてが反転している。
反転しているのだ。
(この傷の痛み、疲労。全部私がソフィアたちに与えたもの……大部分がレオノールのだけど……一番やばいのは――)
事象の反転により、ソフィアの心に突き刺さっていた氷の刃もメモリアに振りかかっている。
(まぁ、こんなものはどうでもいい。私の魔法なんだから溶かすのも簡単)
突如襲いかかる痛みと疲労。この隙をソフィアが見逃すはずはない。今の状態で猛攻をかけられたらタダでは済まない。それがメモリアが懸念していたことだった。反転により魔力は正真正銘底を尽きた。回避をとる余裕もなく、耐えられるだけの体力もない。
だが、その懸念も杞憂に終わる。
「うっ……うぁ……!」
「か、身体が……思うように動かない……!」
ソフィアとメルティが地に這いつくばって悶えている。まるで、身体中が麻痺しているように。
大嘘つきの世界の効果は事象の反転である。
(そうか……!)
瞬時にメモリアは理解する。発動した魔法の効果が事象の逆転、あるいは反転であること。痛みで気がつかなかった、身体の痺れが消えていること。そして、反転の効果により、毒による麻痺がソフィアたちに振りかかっていることを。
(攻めるなら今しかないッ……!)
けれど、メモリアは気がつかない。長いようで短いこの戦いによって冷静さを削がれていたからか。あるいは、痛みと疲労で判断を事を急いたからか。
「――――待ってたよ」
どちらにしても、メモリアがすべてが罠であったことに気がついたのは既に手遅れになってからのことだった。
「あなたを、1人にはしない」
「……っ! ソフィアぁぁぁあぁ!!!」
麻痺して動けない様子だったソフィアが振り返って鋭い眼光をメモリアに向ける。そこは既にソフィアの間合い。
触れる。ゆっくりと、優しく。慈愛のごとく、ソフィアの手がメモリアの頬に触れた。
「愛ゆえに、あなたへ」
そっとつぶやく。ふわりとはにかむ。それはおまじないのように、祈るように唱えられた言葉。愛ゆえに、あなたへは己の心を開き、相手の心を開く。云わば心の共鳴。純粋な、愛する者ただ1人だけを愛す純愛だけではない、愛のカタチを理解したソフィアに開花した心を共鳴させる魔法。
共鳴した心に隠し事はできない。メモリアの思惑も、思考も、何もかもがソフィアには筒抜けになってしまう。ソフィアにとってもそれは同様のことだが、もはやそれすらソフィアは問題には考えていなかった。
「……やっぱり、そうだったんですね。メモリア先輩」
ソフィアに向かって突撃していたメモリアが、ソフィアに触れる寸前でピタリと動きを止める。空を見上げると、雲に姿を消していた月が朧に浮かんできているように見える。メモリアは眉間にしわを寄せ、苛立ちを隠せないままその口を開いた。
「コモルの相手をしたがらない連中の気持ちがわかったよ……初めて知った。自分の心に無理やり入り込まれるのって、こんなにも不快な気分になるんだね」
「そうですか? 私は……そうでもないですけど、ね」
「……あぁ、ほんっとうにうざったいなぁ。何がしたいのか理解ができない。こんなことをしても何にもならないって知ってるくせに、なのに、なんで命なんか張れるの?」
メモリアにもソフィアの心は共鳴している。その上で、メモリアはそう問いかけた。風が強く吹いている。ソフィアは、ん〜、と考えるように声を出してから少し口角を上げながら言う。
「協力して欲しいんですよ。私には、なんで先輩がそっち側に行こうとしているのかわかりません」
「……無理だよ、協力なんて。エトゥラに頼んで」
「フィスティシアって、呼ばないんですか?」
「……分かりきったことを」
メモリアは大きくため息をついて言った。気持ち悪いのやら、心地よいのやら、どうにも言い難い感覚がした。ただ、常に感じていたどうしようもない孤独感だけは取り払われていて、だけどその感覚すら不快に感じられて、自分の心がよくわからなくなっている。
「呼べるわけないでしょ。私たちはもう――」
フィスティシアは常に平等だ。だがその中心にはバウディアムスが、仲間が、友達がいる。対して、メモリアは――
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『真偽刻銘 ”|大嘘つきの《リバーシブル・》|世界《ワールド》”』。メルティ・ヴァンチャットが0から編み出した嘘の魔法の奥義。その効果は、既に起きた事象の反転。その範囲に制限はなく、巻き込む対象にも限界はない。しかし、その強力な効果は重い枷がかけられている。1つは発動に長い詠唱が必須であること。この詠唱を省いて発動はできない。2つ、発動に莫大な魔力が必要になること。必要となる魔力はメルティ1人では到底届かず、他の誰かからの魔力供給が不可欠となる。そして3つ、この魔法の効果は事象の反転ならば必然である、忘れてはならないこと。
(……っ痛い! 詠唱を必須とする魔法! 詠唱から推測するに効果は事象の逆転!? まずい……こんな隠し球があったなんて……!)
対象となったのはメモリアとソフィア、メルティ、ヨナ、レオノール。メモリアは4人の疲労、傷、魔力の消耗。すべてが反転している。
|反《・》|転《・》|し《・》|て《・》|い《・》|る《・》のだ。
(この傷の痛み、疲労。全部私がソフィアたちに与えたもの……大部分がレオノールのだけど……一番やばいのは――)
事象の反転により、ソフィアの心に突き刺さっていた氷の刃もメモリアに振りかかっている。
(まぁ、こんなものはどうでもいい。私の魔法なんだから溶かすのも簡単)
突如襲いかかる痛みと疲労。この隙をソフィアが見逃すはずはない。今の状態で猛攻をかけられたらタダでは済まない。それがメモリアが懸念していたことだった。反転により魔力は正真正銘底を尽きた。回避をとる余裕もなく、耐えられるだけの体力もない。
だが、その懸念も杞憂に終わる。
「うっ……うぁ……!」
「か、身体が……思うように動かない……!」
ソフィアとメルティが地に這いつくばって悶えている。まるで、身体中が麻痺しているように。
|大嘘つきの《リバーシブル・》|世界《ワールド》の効果は事象の|反《・》|転《・》である。
(そうか……!)
瞬時にメモリアは理解する。発動した魔法の効果が事象の逆転、あるいは反転であること。痛みで気がつかなかった、身体の痺れが消えていること。そして、反転の効果により、毒による麻痺がソフィアたちに振りかかっていることを。
(攻めるなら今しかないッ……!)
けれど、メモリアは気がつかない。長いようで短いこの戦いによって冷静さを削がれていたからか。あるいは、痛みと疲労で判断を事を急いたからか。
「――――待ってたよ」
どちらにしても、メモリアがすべてが罠であったことに気がついたのは既に手遅れになってからのことだった。
「あなたを、1人にはしない」
「……っ! ソフィアぁぁぁあぁ!!!」
麻痺して動けない様子だったソフィアが振り返って鋭い眼光をメモリアに向ける。そこは既にソフィアの間合い。
触れる。ゆっくりと、優しく。慈愛のごとく、ソフィアの手がメモリアの頬に触れた。
「|愛ゆえに、《ポル アモール・》|あなたへ《パラ テュー》」
そっとつぶやく。ふわりとはにかむ。それはおまじないのように、祈るように唱えられた言葉。|愛ゆえに、《ポル アモール・》|あなたへ《パラ テュー》は己の心を開き、相手の心を開く。云わば|心《・》|の《・》|共《・》|鳴《・》。純粋な、愛する者ただ1人だけを愛す純愛だけではない、愛のカタチを理解したソフィアに開花した心を共鳴させる魔法。
共鳴した心に隠し事はできない。メモリアの思惑も、思考も、何もかもがソフィアには筒抜けになってしまう。ソフィアにとってもそれは同様のことだが、もはやそれすらソフィアは問題には考えていなかった。
「……やっぱり、そうだったんですね。メモリア先輩」
ソフィアに向かって突撃していたメモリアが、ソフィアに触れる寸前でピタリと動きを止める。空を見上げると、雲に姿を消していた月が朧に浮かんできているように見える。メモリアは眉間にしわを寄せ、苛立ちを隠せないままその口を開いた。
「コモルの相手をしたがらない連中の気持ちがわかったよ……初めて知った。自分の心に無理やり入り込まれるのって、こんなにも不快な気分になるんだね」
「そうですか? 私は……そうでもないですけど、ね」
「……あぁ、ほんっとうにうざったいなぁ。何がしたいのか理解ができない。こんなことをしても何にもならないって知ってるくせに、なのに、なんで命なんか張れるの?」
メモリアにもソフィアの心は共鳴している。その上で、メモリアはそう問いかけた。風が強く吹いている。ソフィアは、ん〜、と考えるように声を出してから少し口角を上げながら言う。
「協力して欲しいんですよ。私には、なんで先輩が|そ《・》|っ《・》|ち《・》|側《・》に行こうとしているのかわかりません」
「……無理だよ、協力なんて。エトゥラに頼んで」
「フィスティシアって、呼ばないんですか?」
「……分かりきったことを」
メモリアは大きくため息をついて言った。気持ち悪いのやら、心地よいのやら、どうにも言い難い感覚がした。ただ、常に感じていたどうしようもない孤独感だけは取り払われていて、だけどその感覚すら不快に感じられて、自分の心がよくわからなくなっている。
「呼べるわけないでしょ。私たちはもう――」
フィスティシアは常に平等だ。だがその中心にはバウディアムスが、仲間が、友達がいる。対して、メモリアは――