今宵はどうにも寝つきが悪い。体は重くて疲れているはずなのに、なぜか目は冴えている。
こういう時は、ホットミルクを飲むと良いらしい。ホットミルクにはリラックス効果があるらしく、入眠をスムーズにしてくれるそうだ。
少々気だるいが、体を休ませるためには仕方ない。腹に力を込めて、俺は気合いで起き上がった。
「ブーン、ブンブーン……」
……何だろう、心なしか牛郎の部屋が騒がしいな。あいつはまだ起きているのか?
無断なのは申し訳ないと思いつつも、俺はそっと牛郎の部屋を覗き込んだ。すると、そこには意外な光景が広がっていた。
「海に代わって、お仕置きよっ!」
牛郎の部屋で、数々のおもちゃが動き回っている。何とも摩訶不思議な光景だ。
紅蓮ライダーにセーラーマーリン、いずれも古いおもちゃばかり。おそらく、俺やみのりが幼い頃に遊んでいたものだろう。
「パン! パン! パン!」
そして、部屋の主は寝ながら手拍子をしている。随分と器用なやつだ。
「カシン! カシン!」
天井付近では、プラモデルのグンダム2機が空中戦を繰り広げている。リバティーとコスモス、これは最終決戦のワンシーンだ。
そういえば、古物には付喪神が宿ると聞いたことがある。おもちゃとて古物、それは例に漏れないといったところか。
懐かしいおもちゃ達の面々を見ていて、俺はふと昔を思い返す。そういえば、子供の頃は空想を繰り広げる毎日だった。
正義のヒーローが悪の組織と戦ったり、魔法使いが世界を危機から救ったり……。子供ながらに、夢は叶うと思っていた。
いつからだろうな。夢とロマンを忘れて、何かと理屈をつけるようになったのは。
理論的思考に至るのが大人であるならば、それは人の道理なのかもしれない。けれど、それが人の全てではない気がする。
こんなことを考えていると、何だか哲学者のようで小難しいな。純真さというのは、やはり子供特有の感性なのだろう。
「ブーン、ブンブーン」
俺が自問自答している傍らで、紅蓮ライダーがマフラーをふかしながら押し入れの方へ向かい始めた。それを皮切りに、他のおもちゃ達も続々と押し入れに向かって行く。
「あぁ、もうこんな時間か……」
気付くと、窓辺から陽光が差し込んでいた。なるほど、あれはおもちゃたちが撤退する合図だったのか。
「グォー……」
手拍子が途中だったのだろうか、牛郎は合掌したまま仰向けになっている。甥っ子の安らかな表情を見ると、心なしかお地蔵様に見えなくもない。
陽光、朝……。あぁ、結局眠れなかった……。