17話 土地神様と体育祭 その八
ー/ー
~少し時を戻して、セキ視点~
「あー……つっかれた……」
男子だらけの騎馬戦を終え、退場門から出てきた僕は砂だらけの体操服を軽く叩きながら呟いた。
そんな僕よりも泥まみれの服に身を包む親友、フキも隣を歩きながら流石に少し疲れた顔をしている。
「まさかあんなことになるとはね……」
「ああ、まさか隣のクラスの笹川が自分の着用してる男性用ブラを囮にする作戦を繰り出してくるなんて予想外だったな」
ついさっきまでの戦いのハイライトをお互いに言い合い、思い出す。
全学年男子のクラス対抗騎馬戦は筆舌し難い壮絶な戦いだった。
それぞれのクラスから選ばれた屈強な男子達が騎馬を組んでひしめき合い、ぶつかり合う。飛び交う怒号、殴り合い寸前の喧騒、堪らず吹き飛ぶ生徒……思い出すだけで身震いしそうだ。
僕らのクラスは一位にはなれなかったものの、最終的には二位まで食い込むことができた。あの修羅場の中でこの順位なら、相当健闘した方だと思いたい。
……ていうか今更だけど、どうして僕はこの競技に放り込まれていたんだろう。おそらく身長のせいだろうけども。
「つーかセキ、お前大丈夫なのか? さっき他の奴とぶつかった時に首がすげえ角度で曲がってた気がするんだが」
「ああ、あれくらいなら平気だよ。サラがよく捻ってくるから慣れてるし」
「普段どんなハードプレイしてんだお前ら」
変な言い方をするな。定期的に死を間際に控えているレベルに至るだけの普通のじゃれ合いだ。
「ま、それはともかくとして、まずはお嬢さん方に合流すっか」
「うん。多分マトイさんもニシユキさん達のところにいるだろうし、お昼はそこで食べてもいいかもね」
「そういやマトイも来てんだったな……あ、そうだ。セキ、昼食った後に話があるんだが、少しいいか?」
「え? まあいいけど……何の話?」
「話してからのヒ・ミ・ツ♡」
「うっわ……」
「なんだその目は。興奮するじゃねえか」
ウインクまでしてきた180㎝後半筋肉隆々の大男に吐き気を催す。
なんて気色悪さだ。疲労困憊じゃなかったら手が出てたぞ?
そんな話をしながらグラウンド端へと向かう。視界の先にはニシユキさんやサラ達が一緒に並んで座って……おや?
キリさんとマトイさんの姿が見えない。それに……なんか一人、見覚えのない小柄な三つ編みの女性がいる。誰だろう?
「おーい!」
「戻ったぞーっと」
少しだけ疑問に思いながら、片手を挙げてフキと一緒に声を上げる。すると皆がこちらに気が付いて、手を振り返してきた。
「オカエリ! 二人トモBrownishだナー」
「名誉の汚れだ。褒めてくれてもいいぞ」
「エライぞ、セッチャン」
「よく頑張ったじゃない、セキ」
「俺をスルーしてくれるな。放置プレイなんて興奮しちゃうぜ」
勝手にしててくれ。
「フキザキ先輩はいつでも変わらないな。先生、このお二人は……先生?」
「…………っ!」(サッ)
僕らがいつも通りの会話をしていると、何故か三つ編みの女性は逃げるようにリンギクさんの後ろへと隠れてしまった。
陰から僕とフキの様子を伺う顔には恐怖の色が見えていて、少し震えているようにも見える。
「ど、どうしたんだ先生? さっきと様子が……」
「おいフキ。お前のせいで僕まで怖がられてるじゃねえか」
「フキじゃなくてさっきの騎馬戦のせいじゃネーノ?」
「あー……たしかにアレは遠目でも怖かったわ」
たしかにサラとイザの言う通りかもしれない。当事者の僕も怖かったからな。
「ぼ、盆提灯先生、大丈夫ですか?」
さっきの地獄を思い出して遠くを見つめていると、ニシユキさんが心配そうに三つ編みの女性へと声をかけた。
(ん? 盆提灯……?)
はて、どっかで聞いたことあるような、ないような。
ニシユキさんが口にした名前のような単語に引っ掛かりを感じていると、リンギクさんの陰で三つ編みを揺らす女性はゆっくりと口を開いた。
「に、にに……」
「に?」
「……西中の、フキセキコンビ……!!」
「「は?」」
青い顔をして震えるその口から、とんでもねえ言葉が飛び出してきた。
僕とフキは思わず一瞬思考が停止して呆け、他の皆は言葉の意味が分からずに僕らへと視線を向けている。そして、しばらく沈黙が流れた。
「…………なんで、それを知って──」
「ひぃ!」
混乱しつつもどうにか僕が口を開いて訊ねると、彼女は短い悲鳴を上げて脱兎の如く駆け出した。
ちょっと待ってその反応は傷付く……いやホントに待て!?
い、一体どういうことだ!? なぜその名称を……僕らの中学時代の通り名を知ってるんだ、あの人!?
「あ、二人ともお疲れさ……ま?」
「おォ、どうしたどうした」
追いかけようとした矢先、逃げた女性の前にはキリさんとマトイさんが立っていた。
彼女は一瞬つんのめるように立ち止まったかと思うと、すぐに布巻怪人の後ろへと回り込み、盾にするように隠れてしまった。
よ、よかった。とりあえず遠くには行かないみたいだ……。
「ニシチューノ……ってナニ?」
「お、お二方の異名のようなものなのか!? 教えてくれ、先輩方!」
「「……」」
安心したのも束の間、赤と銀の髪をした二人に問われた僕とフキは同時に無言で顔を背けた。
人間には言いたくないことってあるもんなんですよ、お二人さん。
「い、言いづらいことなら聞かなくてもいいんじゃないかなぁ……?」
無言を貫いていると、ニシユキさんから控えめに優しいフォローが入った。
ほんわかした雰囲気と容姿もあってキリさんよりこっちの方が女神様に見えてくるぜ。
「西中の……あ、西中の竜と虎って二人のコト?」
「「だからなんで知ってんの!?」」
なぜかマトイさんから別の呼び名まで飛び出してきた。なんでアンタまで知ってんだよ。
「……その、さっきからなんなん? その、西中のなんたらって」
「あーいや、えっと……」
とうとうマトイさんの隣に控えていたキリさんにまで訊かれてしまい、言い淀んでしまう。
ううむ、どう説明したものか。話すのはいいけど、あまり面白い話でもないというか、恥ずかしいというか……。
「コイツらが中学ん時にそう呼ばれてたんですよ。キリさんには前話したけど、アタシらの中学で生徒十数人と教師が病院送りになった西中乱闘事件っていうのがあって、その主犯がこの二人でんぶぅ」
「勝手に話すなっつうに」
「せめて俺らから話させろや」
僕が言い淀んでいる横でイザが勝手に話し始めたので、フキと一緒に顔面を手で挟んで黙らせた。野郎二人による子供肌サンドイッチの完成である。
先月同様、イザが勝手にバラしてしまったが……西中のどうとかと色々言われているこれらは、言うなれば僕とフキの中学時代の通り名である。
乱闘事件というか、まあ……色々あって殴り合ったりとかはしたのは事実だ。ただ、その一件の後で噂に尾ひれがついたりしたのか、後々になってこんなクッッッソダサい通り名なんかが付けられてしまったのだ。
当然、僕ら自身が命名したわけでも認可したわけでもない。してたまるか。
「ら、乱闘って……フキザキさんはともかく、セキさんもですか?」
「俺はともかくってなんすかニシユキさん」
「黙秘権を行使します」
「否定はしないのだな……」
やめてリンギクさん。今後の付き合い方をマジで悩んでそうな顔で見ないで。
居たたまれない気分になりながら皆の視線を避け、咳払いを一つする。
「んんっ……とにかく、僕らの話はいいとして、なんでそこの人とマトイさんが知ってるんですか」
「そもそも誰なんだ、そこの愛らしい女性は。RAINやってる?」
「ひぃっ」
気を取り直して僕らが話しかけると、女性はまた短い悲鳴と共にマトイさんの背へ隠れてしまった。
初手でナンパをかますフキはともかく、僕のどこに怖がる要素があるというのやら。
「明らかに中学校の時の話が原因じゃろ」
「全力で過去から目を背けようとしてるわね」
「イザまで一緒になって心を読むな。それで、結局どういうことなんです?」
「あ、待てよ……思い出した。その人、俺らと同中だったぞ。確か学年が二つ上の先輩だったはずだ」
マトイさん達に問いかけると、答えて貰うよりも先にフキが指を鳴らして女性の正体を口にした。
中一の時の先輩の顔なんてよく覚えてるなコイツ。まあ人生の中で出会った自分好みの人間の顔が全て頭に入っている変態データベースだし、情報は正確だろう。
「中学の先輩……ってことはあの件について知っててもおかしくはないか。マトイさんはこの人から僕らの話を聞いてたってことですね」
「聞いてた話とは印象が違ったから、キミらとは思わなかったけどね」
「どう聞いてたんすか?」
「教室を半壊させてクラスメイトを全員半殺しにした2メートル近い男子二人組」
「「バケモンかよ」」
ひでえ尾ひれの付き方だなオイ。当たり前だけどそこまで酷いことはしていないし、中一の時点じゃ僕らもそんなに身長なかったぞ。
「噂ってのは面白おかしく脚色されるモンだからなァ。……しかし、なるほどねェ」
僕とフキが驚くよりも呆れていると、マトイさんは何か納得したように呟いた。
……何が『なるほど』なんだろう?
「あー、先輩方。色々と気になる話はあるが、一度弁当を取りに行かないか? あまり話し込むと休息の刻がなくなってしまうぞ」
「そうね。後でまた話すとしましょぐえー」
「お前に任すと勝手に色々言いそうだからやめろ」
銀髪の後輩からの指摘に賛同したイザはフキに首根っこを掴まれて引きずられていった。
珍しい。いつもと立場が逆……あ、蹴られた。なんだいつも通りか。
「ジャ、ソユコトでワタシ達はおベント取ってくるネ」
「その間に説明の方、よろしくお願いしますね。……マジでお願いします」
「はいよ。じゃァまずは先月、二人が協力して壁を壊そうとしたところから──」
「き、器物損壊罪……!?」
「誤解を加速させようとしないでください」
「セッチャン行くぞー」
出だしから不安になる言い方に後ろ髪を引かれる思いが半端じゃない。
しかし空腹なのはその通りなので、僕らは昼食を取りに一度その場を離れるのだった。
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そんな僕よりも泥まみれの服に身を包む親友、フキも隣を歩きながら流石に少し疲れた顔をしている。
「まさかあんなことになるとはね……」
「ああ、まさか隣のクラスの笹川が自分の着用してる男性用ブラを囮にする作戦を繰り出してくるなんて予想外だったな」
ついさっきまでの戦いのハイライトをお互いに言い合い、思い出す。
全学年男子のクラス対抗騎馬戦は筆舌し難い壮絶な戦いだった。
それぞれのクラスから選ばれた屈強な男子達が騎馬を組んでひしめき合い、ぶつかり合う。飛び交う怒号、殴り合い寸前の喧騒、堪らず吹き飛ぶ生徒……思い出すだけで身震いしそうだ。
僕らのクラスは一位にはなれなかったものの、最終的には二位まで食い込むことができた。あの修羅場の中でこの順位なら、相当健闘した方だと思いたい。
……ていうか今更だけど、どうして僕はこの競技に放り込まれていたんだろう。おそらく身長のせいだろうけども。
「つーかセキ、お前大丈夫なのか? さっき他の奴とぶつかった時に首がすげえ角度で曲がってた気がするんだが」
「ああ、あれくらいなら平気だよ。サラがよく捻ってくるから慣れてるし」
「普段どんなハードプレイしてんだお前ら」
変な言い方をするな。定期的に死を間際に控えているレベルに至るだけの普通のじゃれ合いだ。
「ま、それはともかくとして、まずはお嬢さん方に合流すっか」
「うん。多分マトイさんもニシユキさん達のところにいるだろうし、お昼はそこで食べてもいいかもね」
「そういやマトイも来てんだったな……あ、そうだ。セキ、昼食った後に話があるんだが、少しいいか?」
「え? まあいいけど……何の話?」
「話してからのヒ・ミ・ツ♡」
「うっわ……」
「なんだその目は。興奮するじゃねえか」
ウインクまでしてきた180㎝後半筋肉隆々の大男に吐き気を催す。
なんて気色悪さだ。疲労困憊じゃなかったら手が出てたぞ?
そんな話をしながらグラウンド端へと向かう。視界の先にはニシユキさんやサラ達が一緒に並んで座って……おや?
キリさんとマトイさんの姿が見えない。それに……なんか一人、見覚えのない小柄な三つ編みの女性がいる。誰だろう?
「おーい!」
「戻ったぞーっと」
少しだけ疑問に思いながら、片手を挙げてフキと一緒に声を上げる。すると皆がこちらに気が付いて、手を振り返してきた。
「オカエリ! 二人トモBrownishだナー」
「名誉の汚れだ。褒めてくれてもいいぞ」
「エライぞ、セッチャン」
「よく頑張ったじゃない、セキ」
「俺をスルーしてくれるな。放置プレイなんて興奮しちゃうぜ」
勝手にしててくれ。
「フキザキ先輩はいつでも変わらないな。先生、このお二人は……先生?」
「…………っ!」(サッ)
僕らがいつも通りの会話をしていると、何故か三つ編みの女性は逃げるようにリンギクさんの後ろへと隠れてしまった。
陰から僕とフキの様子を伺う顔には恐怖の色が見えていて、少し震えているようにも見える。
「ど、どうしたんだ先生? さっきと様子が……」
「おいフキ。お前のせいで僕まで怖がられてるじゃねえか」
「フキじゃなくてさっきの騎馬戦《キバセン》のせいじゃネーノ?」
「あー……たしかにアレは遠目でも怖かったわ」
たしかにサラとイザの言う通りかもしれない。当事者の僕も怖かったからな。
「ぼ、盆提灯先生、大丈夫ですか?」
さっきの地獄を思い出して遠くを見つめていると、ニシユキさんが心配そうに三つ編みの女性へと声をかけた。
(ん? 盆提灯……?)
はて、どっかで聞いたことあるような、ないような。
ニシユキさんが口にした名前のような単語に引っ掛かりを感じていると、リンギクさんの陰で三つ編みを揺らす女性はゆっくりと口を開いた。
「に、にに……」
「に?」
「……西中の、フキセキコンビ……!!」
「「は?」」
青い顔をして震えるその口から、とんでもねえ言葉が飛び出してきた。
僕とフキは思わず一瞬思考が停止して呆け、他の皆は言葉の意味が分からずに僕らへと視線を向けている。そして、しばらく沈黙が流れた。
「…………なんで、それを知って──」
「ひぃ!」
混乱しつつもどうにか僕が口を開いて訊ねると、彼女は短い悲鳴を上げて脱兎の如く駆け出した。
ちょっと待ってその反応は傷付く……いやホントに待て!?
い、一体どういうことだ!? なぜその名称を……僕らの中学時代の通り名を知ってるんだ、あの人!?
「あ、二人ともお疲れさ……ま?」
「おォ、どうしたどうした」
追いかけようとした矢先、逃げた女性の前にはキリさんとマトイさんが立っていた。
彼女は一瞬つんのめるように立ち止まったかと思うと、すぐに布巻怪人の後ろへと回り込み、盾にするように隠れてしまった。
よ、よかった。とりあえず遠くには行かないみたいだ……。
「ニシチューノ……ってナニ?」
「お、お二方の異名のようなものなのか!? 教えてくれ、先輩方!」
「「……」」
安心したのも束の間、赤と銀の髪をした二人に問われた僕とフキは同時に無言で顔を背けた。
人間には言いたくないことってあるもんなんですよ、お二人さん。
「い、言いづらいことなら聞かなくてもいいんじゃないかなぁ……?」
無言を貫いていると、ニシユキさんから控えめに優しいフォローが入った。
ほんわかした雰囲気と容姿もあってキリさんよりこっちの方が女神様に見えてくるぜ。
「西中の……あ、西中の竜と虎って二人のコト?」
「「だからなんで知ってんの!?」」
なぜかマトイさんから別の呼び名まで飛び出してきた。なんでアンタまで知ってんだよ。
「……その、さっきからなんなん? その、西中のなんたらって」
「あーいや、えっと……」
とうとうマトイさんの隣に控えていたキリさんにまで訊かれてしまい、言い淀んでしまう。
ううむ、どう説明したものか。話すのはいいけど、あまり面白い話でもないというか、恥ずかしいというか……。
「コイツらが中学ん時にそう呼ばれてたんですよ。キリさんには前話したけど、アタシらの中学で生徒十数人と教師が病院送りになった西中乱闘事件っていうのがあって、その主犯がこの二人でんぶぅ」
「勝手に話すなっつうに」
「せめて俺らから話させろや」
僕が言い淀んでいる横でイザが勝手に話し始めたので、フキと一緒に顔面を手で挟んで黙らせた。野郎二人による子供肌サンドイッチの完成である。
先月同様、イザが勝手にバラしてしまったが……西中のどうとかと色々言われているこれらは、言うなれば僕とフキの中学時代の通り名である。
乱闘事件というか、まあ……色々あって殴り合ったりとかはしたのは事実だ。ただ、その一件の後で噂に尾ひれがついたりしたのか、後々になってこんなクッッッソダサい通り名なんかが付けられてしまったのだ。
当然、僕ら自身が命名したわけでも認可したわけでもない。してたまるか。
「ら、乱闘って……フキザキさんはともかく、セキさんもですか?」
「俺はともかくってなんすかニシユキさん」
「黙秘権を行使します」
「否定はしないのだな……」
やめてリンギクさん。今後の付き合い方をマジで悩んでそうな顔で見ないで。
居たたまれない気分になりながら皆の視線を避け、咳払いを一つする。
「んんっ……とにかく、僕らの話はいいとして、なんでそこの人とマトイさんが知ってるんですか」
「そもそも誰なんだ、そこの愛らしい女性は。RAINやってる?」
「ひぃっ」
気を取り直して僕らが話しかけると、女性はまた短い悲鳴と共にマトイさんの背へ隠れてしまった。
初手でナンパをかますフキはともかく、僕のどこに怖がる要素があるというのやら。
「明らかに中学校の時の話が原因じゃろ」
「全力で過去から目を背けようとしてるわね」
「イザまで一緒になって心を読むな。それで、結局どういうことなんです?」
「あ、待てよ……思い出した。その人、俺らと同中だったぞ。確か学年が二つ上の先輩だったはずだ」
マトイさん達に問いかけると、答えて貰うよりも先にフキが指を鳴らして女性の正体を口にした。
中一の時の先輩の顔なんてよく覚えてるなコイツ。まあ人生の中で出会った自分好みの人間の顔が全て頭に入っている変態データベースだし、情報は正確だろう。
「中学の先輩……ってことはあの件について知っててもおかしくはないか。マトイさんはこの人から僕らの話を聞いてたってことですね」
「聞いてた話とは印象が違ったから、キミらとは思わなかったけどね」
「どう聞いてたんすか?」
「教室を半壊させてクラスメイトを全員半殺しにした2メートル近い男子二人組」
「「バケモンかよ」」
ひでえ尾ひれの付き方だなオイ。当たり前だけどそこまで酷いことはしていないし、中一の時点じゃ僕らもそんなに身長なかったぞ。
「噂ってのは面白おかしく脚色されるモンだからなァ。……しかし、なるほどねェ」
僕とフキが驚くよりも呆れていると、マトイさんは何か納得したように呟いた。
……何が『なるほど』なんだろう?
「あー、先輩方。色々と気になる話はあるが、一度|弁当《アンブロシア》を取りに行かないか? あまり話し込むと|休息の刻《昼休憩》がなくなってしまうぞ」
「そうね。後でまた話すとしましょぐえー」
「お前に任すと勝手に色々言いそうだからやめろ」
銀髪の後輩からの指摘に賛同したイザはフキに首根っこを掴まれて引きずられていった。
珍しい。いつもと立場が逆……あ、蹴られた。なんだいつも通りか。
「ジャ、ソユコトでワタシ達はおベント取ってくるネ」
「その間に説明の方、よろしくお願いしますね。……マジでお願いします」
「はいよ。じゃァまずは先月、二人が協力して壁を壊そうとしたところから──」
「き、器物損壊罪……!?」
「誤解を加速させようとしないでください」
「セッチャン行くぞー」
出だしから不安になる言い方に後ろ髪を引かれる思いが半端じゃない。
しかし空腹なのはその通りなので、僕らは昼食を取りに一度その場を離れるのだった。