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14話 土地神様と体育祭 その五

ー/ー




「ああ、先輩方。おかえりなさい」

 校門からグラウンドへと帰ってきてニシユキさんのいる木陰へと向かうと、競技を終えたリンギクさんが一緒に座っていた。
 キリさんは……いないようだ。

「リンギクさん、お疲れ様。キリさんは?」
「先程フキザキ先輩が協力してほしいことがあるとのことで連れ立って行かれたぞ」
「何か用事でもあった?」
「ワタシタチじゃナクテ、マトチャンだケドナ」
「マトイさんも来ているのか? 姿が見えないようだが……」
「先に知り合いに挨拶してくるってさ」

 校門で偶然にも合流したマトイさんは後援会なんかにも知り合いがいるらしく、グラウンドに着くと保護者や来賓のいるテントへと挨拶回りに向かっていった。
 顔が広いってのも大変だな。顔見えないけど。

「それで、どうしてフキはキリさんを?」
「協力(キョーリョク)ってナニを?」
「そこまでは聞いていないが……普通に応援の要請ではないだろうか。フキザキ先輩なら魅力的な女性に鼓舞されれば実力以上の力を出せそうだからな」
「その線が妥当な気はするけど……」

 リンギクさんの推察も尤もだけど、少し引っ掛かる部分もある。
 美人に応援されると無駄に張り切りそうなのはそうだが、それならリンギクさん達も誘うんじゃないだろうか。二人も綺麗な容姿だし、節操無しのアイツならそのくらいのことはしそうなものである。
 なのにキリさんだけを誘い出すというのはどういうことなのだろう。
 ……なぜか無性に嫌な予感がする。

「あ、次の競技が始まるみたいですよ」

 この場にいない親友の行動の意図が読めず不安に駆られていると、ニシユキさんがトラックの方を指さした。
 ええっと、順番的に次の種目は……たしか部活対抗リレーだったかな。
 フキは選手として、イザは選手の手伝いとして出ていたはずだ。

「そういえば、リンギクさんは出ないんだね?」
「先程の大玉転がしとで連続出場となってしまうからな。申し訳ないが辞退させてもらった」
「フキはこの後の騎馬戦(キヴァセン)にも出るヨ?」
「タフですねえ……」

 アイツの場合、連続出場どころかかなりの数の競技に出るしな。今のところ疲れた様子はまったくないみたいだし、マジで体力どうなってんだろう。
 そんな話をしていると、入場の音楽が鳴り始めた。それぞれの部活を象徴するユニフォームや物を持った選手が次々にトラック内を歩いているのが遠目でも確認できる。

「部活対抗には先生方も出るのだったな。なかなか手強そうだ」

 リンギクさんが言うように、色んな格好の選手に紛れて教師陣も並んでいる。
 中には体格のいい先生もいて、体育教師ではないにしても走りが得意な先生も参加しているようだ。
 体育祭そのものの勝敗には関係のない種目だから、勝ち負けは気にしなくてもいいから気軽に見ていられるけど……ん?

 ……教師も出る?


『───ギリギリ事故だと言い張れる範囲のラフプレー、及び盤外戦術によって故障を狙う!!』


「……波乱の予感がしてきた」
「「?」」

 先日の会議の内容を思い出し、悪い予感が過ぎる。
 僕の呟きの意味を知らないリンギクさん達は首を傾げていた。



         〇〇〇



 結果から言うと、僕の予感は当たった。
 当たったというか、想定以上の地獄が出来上がっていた。

 スタート直後に飛込みの如く芸術展の高い転倒を行って教師及び他走者を巻き込む水泳部、バトン代わりのトライアングルと壊れたギターをかき鳴らして音響的妨害を行使する吹奏楽部と軽音部、畳を敷いて行うパフォーマンスの相手に体育教師を選んで一本背負いしようとして投げ返される柔道部……。

 最終的に補欠として応援に立っていた野球部とサッカー部の面子が全員コースに出動。100人以上を超える生徒が走り回って競技そのものが破綻しながら、ノリと勢いだけで大歓声が上がって終焉を迎えたのだった――。



「地獄とお祭り騒ぎが同時に来たかと思ったわ」
「「ご愁傷様(ゴシューショーサマ)です」」
「せめて労ってくれない?」

 砂だらけになって帰ってきたイザに対し、入退場門の近くで待っていた僕とサラは合掌しながら出迎えた。
 あのバカ騒ぎの中、美術部は走者が交代しながらコースの端でキャンバスへと筆を走らせていた。その隣で絵具や筆の準備をしていたのが手伝いとして駆り出されたイザである。
 当然、場所を変えずにその場で待機していた彼女は騒ぎの影響をモロに受け、選手でもないのに巻き上がる砂を被っていたというわけだ。哀れなり。

「まさか他のクラスの奴らも妨害工作をしてくるとは……。ひでえ目にあった」

 イザと同じように砂だらけになったフキが僕の隣でぼやく。
 被害者ヅラで言っているが、さっきの地獄絵図を形成した元々の原因はうちのクラスの人間と言っても過言ではない。

 最初の走者の中に2-Aの生徒が混じっており、スタート直後から全力で教師チームの妨害にかかった。それからさらに他の部活を巻き込んで転倒するという荒業をしてのけた結果、他の連中もそれに感化されて競技が進むうちに他を妨害するチームが増えていったのである。
 しかしうちの馬鹿どもが原因とはいえ、即座に対応して同じように暴力で返してくるとは……なんとも恐ろしい連中だ。あらためて思うけど、ここホントに進学校?

「ていうかゴール前に落とし穴まであったわよね。アレどこの部活がやったの?」
「アレは俺がキリさんに頼んだ罠だ。応援ついでに神通力でちょちょいとな」
「神様の奇跡をなんだと思ってんだお前。つーかキリさんよくやってくれたなソレ」
「適当な少年漫画を貸すことを条件に引き受けてくれたぞ」

 神の奇跡をなんだと思ってんですか土地神様。

「テカ、ヒトに向けて神通力(ジンツーリキ)使うナって前にマトチャン怒ってなかった?」
「そこは大丈夫だ。直接人に向けて使ってないからセーフだと騙し……いや誤魔化し…………騙した!」
「少しは取り繕えや」

 勝手に諦めて白状するフキの頭を軽く叩く。
 ちなみにその神聖なる落とし穴にはうちの担任が見事に引っ掛かっていた。すいません粟田先生。

「しかしなかなか入場にならねえな。どういうことだ」
「落とし穴のせいで整備に時間かかってんのよ。自覚ねえのかアンタ」
「チビッ子に言われなくてもんな事分かっとるわ。理解した上ですっとぼけてるだけだ」
「なお質が悪いなお前……」
「罪の意識にとらわれないためには目を背けることが肝心だからな」
「控えめに言ってもクズの思考じゃないかしら」

 控えめではなく全力投球で刺してますよねイザクラさん。

「モーそろそろ終わるンジャナイかナ? ワタシ達は行きましょーゼ」
「そうね。怪我しない程度にね、セキ」
「セッチャン、ガンバッテ!」
「うん、ありがとう」

 女子二人の声援に短くお礼を言う。
 あらためて言われると照れくさいな。でもやる気が出てきた。頑張ろう。

「俺への激励は?」
「汚く散ってこい」
「ありがとうございます」

 僕とは一転、冷たい視線を送るイザに対して清々しい笑顔を浮かべて礼を述べるフキ。
 その表情はあまりにも爽やかでとても気持ちが悪い。……本人的に気合が入るんならいいか。

「あー……一応言っとくが、セキ。無理はしなくていいからな」

 ドン引きしながら離れていく女子二人を嬉しそうに見送った後、フキは表情を引き締めて僕に声を掛けてきた。

「なんだよ急に真面目な顔して」
「真面目な話だ。身体痛めたらちゃんと言えよ? 主に腰とか腰とか、あと腰とかな」
「要介護老人扱いやめてくれます?」

 素直に心配してくれてるのかと思えばこの野郎。たしかに神社の掃除で腰痛めてることは多いけどさあ。
 なんて話をしているうちに、係の人間が生徒を整列させ始めた。どうやらやっと出番が来るみたいだ。
 まばらに集まっていた生徒達が列を成す中、僕らも同じように前を向いて並びつつ、少し声のトーンを落として会話を続ける。

「ま、とにかく無茶はすんなって話だ。次の騎馬戦で午前中最後の種目だし、周りも気合入れてくるだろうからな」
「そういうことね。まあ、怪我しない程度に頑張――」




 ───セッチャン。ワタシ、本当は──……。




「───っ!?」

 突然頭の中に声が響いて、言い表しようのないゾワッとした感覚が身体中を駆け巡った。
 思わず辺りを見回すが……周りには変わらず待機している生徒が並んでいるだけだった。

「どうした?」
「あ、いや……なんでもない」

 フキが僕の顔を覗き込んできたが、適当に誤魔化す。怪訝な顔をされたけど、特に追及されることなく前に向き直った。

(今の……サラの声、だったような……)

 謎の声を思い出して、あらためてこっそりと周りを見てみる。しかし、やはりサラは既に去った後で、どこにもいない。
 一体何だったんだろう。
 そう疑問に思っていると、入場曲が鳴り始めた。

 即座に疑問を頭の隅に追いやり、切り替えて前に進んだのだった。





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次のエピソードへ進む 15話 土地神様と体育祭 その六


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「ああ、先輩方。おかえりなさい」
 校門からグラウンドへと帰ってきてニシユキさんのいる木陰へと向かうと、競技を終えたリンギクさんが一緒に座っていた。
 キリさんは……いないようだ。
「リンギクさん、お疲れ様。キリさんは?」
「先程フキザキ先輩が協力してほしいことがあるとのことで連れ立って行かれたぞ」
「何か用事でもあった?」
「ワタシタチじゃナクテ、マトチャンだケドナ」
「マトイさんも来ているのか? 姿が見えないようだが……」
「先に知り合いに挨拶してくるってさ」
 校門で偶然にも合流したマトイさんは後援会なんかにも知り合いがいるらしく、グラウンドに着くと保護者や来賓のいるテントへと挨拶回りに向かっていった。
 顔が広いってのも大変だな。顔見えないけど。
「それで、どうしてフキはキリさんを?」
「協力《キョーリョク》ってナニを?」
「そこまでは聞いていないが……普通に応援の要請ではないだろうか。フキザキ先輩なら魅力的な女性に鼓舞されれば実力以上の力を出せそうだからな」
「その線が妥当な気はするけど……」
 リンギクさんの推察も尤もだけど、少し引っ掛かる部分もある。
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 なのにキリさんだけを誘い出すというのはどういうことなのだろう。
 ……なぜか無性に嫌な予感がする。
「あ、次の競技が始まるみたいですよ」
 この場にいない親友の行動の意図が読めず不安に駆られていると、ニシユキさんがトラックの方を指さした。
 ええっと、順番的に次の種目は……たしか部活対抗リレーだったかな。
 フキは選手として、イザは選手の手伝いとして出ていたはずだ。
「そういえば、リンギクさんは出ないんだね?」
「先程の大玉転がしとで連続出場となってしまうからな。申し訳ないが辞退させてもらった」
「フキはこの後の騎馬戦《キヴァセン》にも出るヨ?」
「タフですねえ……」
 アイツの場合、連続出場どころかかなりの数の競技に出るしな。今のところ疲れた様子はまったくないみたいだし、マジで体力どうなってんだろう。
 そんな話をしていると、入場の音楽が鳴り始めた。それぞれの部活を象徴するユニフォームや物を持った選手が次々にトラック内を歩いているのが遠目でも確認できる。
「部活対抗には先生方も出るのだったな。なかなか手強そうだ」
 リンギクさんが言うように、色んな格好の選手に紛れて教師陣も並んでいる。
 中には体格のいい先生もいて、体育教師ではないにしても走りが得意な先生も参加しているようだ。
 体育祭そのものの勝敗には関係のない種目だから、勝ち負けは気にしなくてもいいから気軽に見ていられるけど……ん?
 ……教師も出る?
『───ギリギリ事故だと言い張れる範囲のラフプレー、及び盤外戦術によって故障を狙う!!』
「……波乱の予感がしてきた」
「「?」」
 先日の会議の内容を思い出し、悪い予感が過ぎる。
 僕の呟きの意味を知らないリンギクさん達は首を傾げていた。
         〇〇〇
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「地獄とお祭り騒ぎが同時に来たかと思ったわ」
「「|ご愁傷様《ゴシューショーサマ》です」」
「せめて労ってくれない?」
 砂だらけになって帰ってきたイザに対し、入退場門の近くで待っていた僕とサラは合掌しながら出迎えた。
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 当然、場所を変えずにその場で待機していた彼女は騒ぎの影響をモロに受け、選手でもないのに巻き上がる砂を被っていたというわけだ。哀れなり。
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 イザと同じように砂だらけになったフキが僕の隣でぼやく。
 被害者ヅラで言っているが、さっきの地獄絵図を形成した元々の原因はうちのクラスの人間と言っても過言ではない。
 最初の走者の中に2-Aの生徒が混じっており、スタート直後から全力で教師チームの妨害にかかった。それからさらに他の部活を巻き込んで転倒するという荒業をしてのけた結果、他の連中もそれに感化されて競技が進むうちに他を妨害するチームが増えていったのである。
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「しかしなかなか入場にならねえな。どういうことだ」
「落とし穴のせいで整備に時間かかってんのよ。自覚ねえのかアンタ」
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 控えめではなく全力投球で刺してますよねイザクラさん。
「モーそろそろ終わるンジャナイかナ? ワタシ達は行きましょーゼ」
「そうね。怪我しない程度にね、セキ」
「セッチャン、ガンバッテ!」
「うん、ありがとう」
 女子二人の声援に短くお礼を言う。
 あらためて言われると照れくさいな。でもやる気が出てきた。頑張ろう。
「俺への激励は?」
「汚く散ってこい」
「ありがとうございます」
 僕とは一転、冷たい視線を送るイザに対して清々しい笑顔を浮かべて礼を述べるフキ。
 その表情はあまりにも爽やかでとても気持ちが悪い。……本人的に気合が入るんならいいか。
「あー……一応言っとくが、セキ。無理はしなくていいからな」
 ドン引きしながら離れていく女子二人を嬉しそうに見送った後、フキは表情を引き締めて僕に声を掛けてきた。
「なんだよ急に真面目な顔して」
「真面目な話だ。身体痛めたらちゃんと言えよ? 主に腰とか腰とか、あと腰とかな」
「要介護老人扱いやめてくれます?」
 素直に心配してくれてるのかと思えばこの野郎。たしかに神社の掃除で腰痛めてることは多いけどさあ。
 なんて話をしているうちに、係の人間が生徒を整列させ始めた。どうやらやっと出番が来るみたいだ。
 まばらに集まっていた生徒達が列を成す中、僕らも同じように前を向いて並びつつ、少し声のトーンを落として会話を続ける。
「ま、とにかく無茶はすんなって話だ。次の騎馬戦で午前中最後の種目だし、周りも気合入れてくるだろうからな」
「そういうことね。まあ、怪我しない程度に頑張――」
 ───セッチャン。ワタシ、本当は──……。
「───っ!?」
 突然頭の中に声が響いて、言い表しようのないゾワッとした感覚が身体中を駆け巡った。
 思わず辺りを見回すが……周りには変わらず待機している生徒が並んでいるだけだった。
「どうした?」
「あ、いや……なんでもない」
 フキが僕の顔を覗き込んできたが、適当に誤魔化す。怪訝な顔をされたけど、特に追及されることなく前に向き直った。
(今の……サラの声、だったような……)
 謎の声を思い出して、あらためてこっそりと周りを見てみる。しかし、やはりサラは既に去った後で、どこにもいない。
 一体何だったんだろう。
 そう疑問に思っていると、入場曲が鳴り始めた。
 即座に疑問を頭の隅に追いやり、切り替えて前に進んだのだった。