9話 どこかが欠けた青年の就寝
ー/ー
「ふう……」
背もたれに身体を預け、息を吐く。
目の前のデスクトップ画面には映画のエンドロールが映り、音声は主題歌が流れている。
『おっ……もしろかったねぇ……』
「そうですねぇ……」
『スゴカッター……』
スマホの通話画面の向こうにいる二人と一緒に、小さく呟いた。
……いや、マジで面白かった。
単純だけど奥深いストーリー、映像や音楽、演出……そのどれもが素晴らしかった。もう語彙力がどうしようもなくなるくらい圧倒される、とにかく凄い作品だった。
僕らは放心したようにしばらく口数が少ないまま数分を過ごして、それから口々に感想を言い合い始めた。
『映像スゴかった! Gunfightとか興奮シチャッタよネ! カッコよかった!』
「一人称視点で戦うところヤバかったな! アニメーション技術は詳しくないけど、アレCG無しで描いてるのとんでもねえな……」
『最初のところで言っとった台詞が後半出てきた時、ぞくぞくしたよぉ!』
「すごい伏線回収でしたよね、あれ! 川の中で記憶取り戻すところとか、ここでその台詞か! ってなりましたもん」
『『分かる~~~!!』』
うむ、僕含め全員興奮しているせいか声が大きい。それに語彙力の低下が見受けられる。
変なテンションになった僕らはその後、小一時間ほど話し込むことになったのだった。
〇〇〇
『……あ、キリチャン寝ちゃってる』
しばらく話して落ち着いてきた頃、サラが呟いた。
途中から土地神様のお声が聞こえなくなったと思ったら寝落ちていたらしい。耳をそば立てると、小さく寝息が聞こえてきた。
『こーして見ると、ホントにフツーのオンナノコみたいだネ』
「そう言われても僕は見えないんだけど。ちょっと画面通話する?」
『オンナノコの寝顔は勝手に見せませんコトヨー』
あら残念。
まあこの前見たけどね。狐姿だったけど。
「もう11時回ってるし、流石にいい時間か。そろそろ寝るとしますかねー」
『ソーダネ。……ねぇ、セッチャン』
「ふぁ……何?」
あくびをしながら返事をして、スマホを持ったまま椅子から立つ。
時間を意識すると眠くなってきた。明日も学校だし早く寝ないとな、なんて考えながらサラに生返事をして、明日使う授業の教科書を鞄に放り込む──
『まだ、去年のコトは思い出してない?』
───途中で、スマホの声に手が止まった。
「…………うん。まだ、思い出せてないよ」
教科書を降ろし、返事をする。
サラは短く『そっか』とだけ返してきた。そして、
『……おやすみ、セッチャン! また明日ネ!』
「ああ。おやすみ、サラ」
最後はいつもの明るい声になり、お互いに一言添えて電話を切ったのだった。
「……」
通話を終えたスマホを置き、本棚に近付く。
参考書や漫画が並ぶ中、僕が手を伸ばしたのは一冊の女性向けファッション雑誌と、薄い髪の束で出来た一つの冊子。
雑誌の表紙を飾っているのは『GREEN Roots特集』という大きな文字。そして……読者モデルをしていた頃のサラの写真だ。
「……」
パラパラとページを捲り、中に書かれている文章に目を通していく。
モデル、デザイナー、ネイリスト。色々な人のインタビュー記事や特集が書かれていて、その人名は必ずどこかがぼやけている。
「……まあ、いつも通りか」
ひとしきり見てから呟き、雑誌を閉じてもう一つの冊子を開いた。
こっちは去年の文化祭の冊子だ。『林泉高校文化祭』と大きく書かれた表紙には、美術部と漫画研究部の合作イラストが描かれている。
「やっぱダメだなぁ」
さっきと同じように適当にページを捲ってみるが……特に収穫があるわけではない。
いつもと変わらない結果に残念に感じることすらなく、二冊を元の位置に戻した。
それから椅子の横に戻って明日の準備を適当に済ませ、ベッドに身体を放り込む。
「……」
天井を見つめる。
特に何を考えるでもなく、頭の中は空白の状態だ。
そしてそのままゆっくりと瞼を落として……睡魔に囚われた僕の意識は落ちていった。
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「ふう……」
背もたれに身体を預け、息を吐く。
目の前のデスクトップ画面には映画のエンドロールが映り、音声は主題歌が流れている。
『おっ……もしろかったねぇ……』
「そうですねぇ……」
『スゴカッター……』
スマホの通話画面の向こうにいる二人と一緒に、小さく呟いた。
……いや、マジで面白かった。
単純だけど奥深いストーリー、映像や音楽、演出……そのどれもが素晴らしかった。もう語彙力がどうしようもなくなるくらい圧倒される、とにかく凄い作品だった。
僕らは放心したようにしばらく口数が少ないまま数分を過ごして、それから口々に感想を言い合い始めた。
『映像スゴかった! Gunfightとか興奮シチャッタよネ! カッコよかった!』
「一人称視点で戦うところヤバかったな! アニメーション技術は詳しくないけど、アレCG無しで描いてるのとんでもねえな……」
『最初のところで言っとった台詞が後半出てきた時、ぞくぞくしたよぉ!』
「すごい伏線回収でしたよね、あれ! 川の中で記憶取り戻すところとか、ここでその台詞か! ってなりましたもん」
『『|分かる《ワカル》~~~!!』』
うむ、僕含め全員興奮しているせいか声が大きい。それに語彙力の低下が見受けられる。
変なテンションになった僕らはその後、小一時間ほど話し込むことになったのだった。
〇〇〇
『……あ、キリチャン寝ちゃってる』
しばらく話して落ち着いてきた頃、サラが呟いた。
途中から土地神様のお声が聞こえなくなったと思ったら寝落ちていたらしい。耳をそば立てると、小さく寝息が聞こえてきた。
『こーして見ると、ホントにフツーのオンナノコみたいだネ』
「そう言われても僕は見えないんだけど。ちょっと画面通話する?」
『オンナノコの寝顔は勝手に見せませんコトヨー』
あら残念。
まあこの前見たけどね。狐姿だったけど。
「もう11時回ってるし、流石にいい時間か。そろそろ寝るとしますかねー」
『ソーダネ。……ねぇ、セッチャン』
「ふぁ……何?」
あくびをしながら返事をして、スマホを持ったまま椅子から立つ。
時間を意識すると眠くなってきた。明日も学校だし早く寝ないとな、なんて考えながらサラに生返事をして、明日使う授業の教科書を鞄に放り込む──
『まだ、《《去年のコト》》は思い出してない?』
───途中で、スマホの声に手が止まった。
「…………うん。まだ、思い出せてないよ」
教科書を降ろし、返事をする。
サラは短く『そっか』とだけ返してきた。そして、
『……おやすみ、セッチャン! また明日ネ!』
「ああ。おやすみ、サラ」
最後はいつもの明るい声になり、お互いに一言添えて電話を切ったのだった。
「……」
通話を終えたスマホを置き、本棚に近付く。
参考書や漫画が並ぶ中、僕が手を伸ばしたのは一冊の女性向けファッション雑誌と、薄い髪の束で出来た一つの冊子。
雑誌の表紙を飾っているのは『GREEN Roots特集』という大きな文字。そして……読者モデルをしていた頃のサラの写真だ。
「……」
パラパラとページを捲り、中に書かれている文章に目を通していく。
モデル、デザイナー、ネイリスト。色々な人のインタビュー記事や特集が書かれていて、その人名は必ずどこかが《《ぼやけている》》。
「……まあ、いつも通りか」
ひとしきり見てから呟き、雑誌を閉じてもう一つの冊子を開いた。
こっちは去年の文化祭の冊子だ。『林泉高校文化祭』と大きく書かれた表紙には、美術部と漫画研究部の合作イラストが描かれている。
「やっぱダメだなぁ」
さっきと同じように適当にページを捲ってみるが……特に収穫があるわけではない。
いつもと変わらない結果に残念に感じることすらなく、二冊を元の位置に戻した。
それから椅子の横に戻って明日の準備を適当に済ませ、ベッドに身体を放り込む。
「……」
天井を見つめる。
特に何を考えるでもなく、頭の中は空白の状態だ。
そしてそのままゆっくりと瞼を落として……睡魔に囚われた僕の意識は落ちていった。