昨日の夜に引き続き、今日も雨だった。
陰鬱とした気分になるのは、雨の日だからかあるいは部活が上手くいっていないからか。
そんなことを思いながら部活の時間がやってきた。
放課後になり、俺はいつもの教室へと向かう。
「おはようございます」
『おはようございます』
扉を開けて挨拶すると、元気な返事が返ってきた。
少しだけ気分が良くなる。いや、これはある種のスイッチなのかもしれない。
そんなことを考えていると、夏村が近づいてきた。
「杉野、おはよ」
「おう。どうした?」
「樫田から聞いた? サポート役」
「ああ、聞いた聞いた。俺あんま手伝えないかもだけど」
「分かっている。それでもよく見といて」
「りょうかい」
夏村は言うことだけ言うと、去っていった。
どうやらサポート役のことを確認したかったらしい。
俺はカバンを教室後ろのロッカーへと置きに行く。
大槻と山路がそこにはいた。
「よう、杉野」
「おはよー、夏村と話すなんて珍しいねー」
「おう。サポート役のことでな」
俺がそう言うと二人は「あー」と納得する。
二人は少しだけ周りを警戒しながら、話す。
「まぁ、昨日のアレがなきゃ、な」
「だねー。杉野も大変だー」
「……まぁな」
二人の言いたいことも分かるが、ここは適当に相槌を打っておく。
あまり深く掘り下げる話でもないだろう。
二人もそれを理解したのか、それ以上は何も言わなかった。
みんなが徐々に揃い、今日も部活が始まる。
――――――――――――――
ここにきて、一つ困ったことがあった。
あ、いや最近の部活で言うなら困ったことしかないのだが、そうではなく、昨日ラーメン屋で津田先輩からもらったアドバイス。
全員の意見の確認。
これをするタイミングがないことに今気づいた。
どうする? 一人一人に話を聞くにもそんな機会も時間もないぞ。
おまけにサポート役として一年生も見ないといけない。
どうしたものか。
考えている間に、準備運動の時間が終わる。
「はーい! じゃあ十分間の休憩後、稽古に入ります!」
轟先輩が元気よく休憩の指示を出す。
俺は気分を変えるため、頭の中を切り替えるため一人、飲み物を買いに購買横の自販機に向かった。
急いては事を仕損じるってアドバイスももらったけど、ゆっくり過ぎるのもダメだよなぁ。
そう思いながら、自販機に小銭を入れボタンを押す。
「杉野」
てか、どう聞くよ俺。馬鹿正直に「山路が辞めることに反対ですか?」って聞くのか?
そりゃみんな反対に決まってんだろ。
津田先輩にもっと詳細聞いておくんだったなぁ。
「杉野!」
「っ!」
突然、後ろから名前を呼ばれた。
驚いて振り返るとそこには増倉が立っていた。
「増倉か、びっくりさせんなよ」
「いや、さっきから呼んでたんだけど……」
「え、マジ?」
「マジ」
真剣な表情で頷く増倉。
どうやら、考え事をしていて気づかなかったらしい。
「悪い悪い、気づかんかったわ」
「考え事……?」
「まぁな。そっちは? ああ、飲み物買いに来たのか」
「違う。杉野に用があってきたの」
「俺に?」
何の話だろうかと、少し身構えてしまう。
すると増倉は、直角に頭を下げた。
「昨日のこと、ごめんなさい」
「……」
その謝罪を俺はただ見ていることしかできなかった。
数秒後、増倉は姿勢を戻して真っ直ぐに俺を見た。
「許されないのは分かってる。でも、謝らないのも違うから」
「そう、だな……」
「それとありがとね」
「何の礼だよ」
少し笑いながら俺が聞くと、増倉は笑顔で答える。
「あのとき、本音を叫べたのは杉野のお陰だから」
「そーかい」
俺はなんて言うのが正解か分からず、適当に同意した。
あの叫びが結果としてよかったのかどうか、判断がつかなかったからだ。
樫田のように落としどころまで考えているなら、もう解決していたかもしれない。
そう思うと、少しだけ後ろめたさのようなものまで感じてしまう。
「じゃ、それだけだから」
「あ! 増倉!」
去ろうとする増倉を呼び止める。
振り返り、不思議そうな顔で俺を見てきた。
俺は今しかないと、質問する。
「山路のこと…………辞めることを阻止したいのは、変わってないよな?」
「当たり前じゃん」
力強く断言する増倉。
数秒もすると、それが何? と言わんばかりの視線に変わる。
「あ、いや、なんつーか、確認したかっただけだ」
「なにそれ……まぁいいや、私行くから」
「……おう」
今度こそ、増倉は去っていった。
残った俺は買った炭酸ジュースを飲む。
しゅわしゅわの痛みが心地よく喉を通る。
もう五分もしないで部活が再開するだろう。
「よし」
自分に発破をかける。
そのまま増倉の後を追うように教室へと向かいだす。
とりあえず一人聞けたわけだし、先輩たちのアドバイス通り真面目に部活しますか。