近くで見た変態おじさんは、思ったよりもでかかった。まず背丈が彼よりも頭ひとつぶん高かったし、体の横幅も相撲取りみたいに大きかった。
「あのー」彼は声をかけたが、声が小さすぎたのか、変態おじさんは止まろうとしない。
「あのー!」
そいつはぴたりと歩みを止めると、後ろを振り返った。
「すみません、す、ストーカーは、やめたほうがいいですよ・・・・・・」彼は小声で言った。特に、言葉の最後のほうなどは、ほとんど消えかかっていた。
「ストーカー? なんの話?」変態おじさんは尋ねた。
「いや、その、あの子のこと、つけ回してましたよね? 俺、見たんですよ」
「見たって何を?」
「だから、あの子を追いかけまわすところを」
変態おじさんが彼の顔をにらみつけた。
「ボク、言いがかりをつけてもらっちゃ困るね」そう言って彼は、斉木の両肩に手を置いた。そして、彼の肩をぐっと握った。その動作には、その気になればお前なんか紙コップみたいにぺしゃんこにできるんだぞ、というメッセージが込められているような気がした。
「こんなおっさんが女子高生の後ろを歩いてたら、ちょっと怪しく見えちゃうっていうのもわかるよ。でもね、それだけで人を犯罪者呼ばわりしちゃいけないな」
「何を言うか、お前は立派な悪党だろうが!」いきなりしぶい男の声が聞こえてきた。声のしたほうを見ると、そこにはパンツを被った変態の霊の姿があって、変態おじさんの顔を見ていた。
と、変態の霊が彼の視線に気づいて、彼のほうを見た。彼と霊の目が合った。
「返事は?」変態おじさんは威圧感のある口調で言う。
「は、はい。すみませんでした」
「今回は許してあげるよ。でも、次はないからね。おじさんも、いつまでも優しいわけじゃないからさ。キレる時はキレるからね」
変態おじさんは彼の肩を離した。そして、歩き去っていった。
少しして、三輪がやってきて「どうでした?」と尋ねた。
「お前に言われた通りのことを言ったら、人を犯罪者呼ばわりするなと言って怒られたぞ」
「まさか、それで引き下がっちゃったんですか?」
「引き下がるしかないだろう。向こうの言ってることが正しい」
「はあ、呆れてものも言えませんね。正論を言ってれば犯罪が許されるってわけでもないでしょう。正論には法的根拠はありませんが、ストーカーは立派な犯罪なんですぜ」
「そんなこと言うならお前がいってみろ」
「嫌です。怖いですから」
「じゃあお前も人のことを言えないじゃないか」
「それより、いいんですか、あの男のことを見張らなくて?」
「え?」
「今、こうしているあいだにも彼女が襲われているかもしれないですよ?」
彼は血相を変えて、変態おじさんのあとを追った。彼女が昨日通った道を大急ぎで駆け抜けていく。
その道の途中に、なぜかあの変態の霊が立っていた。変態の霊は明らかに彼を見ていた。あの時に目が合ったことで、こちらが霊の視える人間だとばれてしまったはずだ。彼は嫌な予感がした。
だが、ひとまずその霊のことは無視して、彼は走って変態おじさんのあとを追った。
幸い、藤原は襲われてなどいなかった。なんなら、変態おじさんの姿もなかった。
「よかった」彼はほっとしたように言う。
「きっと、あなたに声をかけられたことで警戒して、今日はストーカーするのをやめたんでしょう。彼女が無事でよかったです」
「ああ、本当によかった」
そのあと、彼女が家に無事に帰り着くまで見届けて、そのあとで三輪と別れた。
そのあとで、後ろから「なあ君」と声をかけられた。それは、あの変態の霊の声だった。「君、私のことが見えているのだろう?」
彼は無視した。彼は幽霊と変態には関わらないことにしていたからだ。
「君もわかっていると思うが、このままじゃあの女の子が危ないんだ。あいつはあの子を襲う計画を立てている。誰かが止めなくては」その霊は、パンツを覆面代わりにしている変態にしては、まともなことを言っていた。
「私は私なりにできるかぎりのことをやってきたつもりだ。しかしいかんせん幽霊だからね、できることは限られている。私だけではあいつを止めることはできなかった。お願いだ、君の力を貸してほしい。善良な女の子が傷つけられるのは見たくないんだ」
「言われなくても俺は止めるつもりです」彼は言った。「ただ、変態とは関わりたくありません」言ってから、彼は立ち止まって幽霊のほうを見た。そこは人目につかずに霊と話ができそうな場所だった。
「しかし、止めるつもりがあるとしても、君には情報がいるのではないのかね? 私はずっとあいつのそばにいたから、今のあいつのことなら、あいつの親よりも知っているよ」
「何か知っているんですか?」
「ああ、たくさんのことを知っている。たとえば、あいつには今日あの子を襲うつもりなどなかった。あいつがあの子を襲うのは、明日だ。明日、あいつは仕事が休みなんだ」