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変態おじさん現る

ー/ー



 彼女は、斉木と三輪が追いかけてきていることにまるで気がついていないようだった。もっとも、特別二人の尾行が上手だったわけではない。わざわざ自分を尾行するような阿呆がいるとは想像もしていなかったため、たんに警戒していなかっただけである。

 そんなこんなで三人は駅に着いた。そしてホームまで来たところで二人は、彼女から少し離れたところに立って、電車を待つことにした。

 やがて、電車がやってきた。彼は電車の車窓から見える、電車の中にいる人たちの顔を見た。

 すると、一瞬だが、未来予知に出てきた変態おじさんの顔を見た気がした。

「あっ!」

「どうかしましたか?」

「今、いたかもしれん」

「おおっ、面白くなってきましたね。どこにいたんですか?」

「向こうのほうに行ったと思う。まだ電車内にいるはずだ」

 彼らは電車の中に乗り込むと、車両の中を移動していきながら、変態おじさんの姿を探していった。

 そして、見つけた。彼は作業服を着ていて、しかも霊にとり憑かれていた。その霊というのが、覆面のようなものを被ったブリーフ一丁のおっさんで、しかも覆面に見えたそれは女性もののパンツだった。変態の霊にとり憑かれた変態のおっさんという、目をそむけたくなるほど濃厚すぎる組み合わせだった。

 しかもやつはこともあろうに、藤原のすぐそばに立っていたのである。

 それを見た彼は怒りと嫌悪感から、拳をぎゅっと握り締めた。

「あの野郎、藤原さんのそばに」

 変態おじさんがいきなりこちらのほうを向いた。彼と三輪はさっと目をそらした。少しして、もう一度変態おじさんのほうを見てみたら、やつは藤原のほうを見ていないようでいて、ぎりぎり視界の端に入るような方向を向いていた。

 別に、女子高生のいるほうを向くのが悪いというわけではないし、彼女たちを目で見るのが犯罪であるというわけではない。しかし彼は、これから起こることを知っているだけに、その光景を見ていて胸がざわついた。

 彼らは、彼女とそいつの様子を黙って見守った。特に彼は、変態おじさんが電車内で痴漢に及ぶのではないか、と警戒していた。未来予知にはなかったが、背後から女子高生に抱き着く変態のことだから、十分にやる可能性はあった。

 しかし、意外と電車内では何も起こらなかった。変態おじさんは電車内で静かに立っていた。そして電車が次の駅で止まったところで、彼女と一緒に降りた。

 彼女と変態おじさんはまったく同じ方向へ歩き出していった。

 彼は、いつ彼女が襲われても対処できるように、なるべく変態おじさんに近いところを歩いていった。そして手には念のため、筆箱を持っておいた。

「そんなもん持ってどうするんです?」三輪が、しごく当然な疑問を彼に投げかけた。

「投げるんだ」

「そんなもん投げて、なんの意味があるんです? ましてや、あなたのその貧弱な腕で投げたんじゃ、届くかすら怪しいでしょう」

「ちくしょう、もっと筋トレをしておくべきだった」

「なあに言ってるんです。筋トレが嫌だから文芸部に入ったんでしょうに」

「なぜ知っている?」

「あなたの考えてることなんて、全部お見通しですよ。私とあなたは似た者同士ですからな。それこそ血を分けた兄弟のように、いや、血を分けた兄弟でも我々ほど似ることはないでしょうなあ」

「そんなわけあるか。俺とお前は正反対だよ」

 彼は、三輪と兄弟になった自分を想像して震えた。こんなやつと血がつながっていると知ったら全身の血液を全部抜いて新たに輸血しなおすわ、と彼は思った。

 そんなことを話していると、変態おじさんが道を右に曲がった。しかし彼女のほうはまっすぐに歩いている。

「あら、別れちゃいましたね。付け回していたんじゃなかったんですか?」

「まだわからん。離れたとみせかけておいて、あとで襲い掛かる腹積もりかもしれない。家までちゃんと見届けるまで安心できん」

 しかし結局、藤原が家にたどり着くその時まで、一度も男は現れなかった。

「おかしいな。我々がつけていたことがばれていたんだろうか?」彼はひとりごちた。

「ばれていてもおかしくはないでしょうな。車どおりの激しいところならいざ知らず、人気も車もないようなところは意外と静かで、人の気配も感じやすいでしょうからね。もっとも、藤原さんは最後まで我々に気づかなかったようですが」

「なんて無防備なんだろうか。あの男が後ろにいることにも気づいていないようだったし、心配だ」

 不安は残ったものの、ひとまず今日は安心だということで帰宅した。

 そして翌日、彼らはまた彼女の後ろを追いかけていった。

「明日も明後日も忙しくなるかもしれない、とあなたはおっしゃいますが、いったいいつまでこれを続けるおつもりなんです?」尾行を初めてすぐに、三輪は尋ねた。

 彼は、あいつが彼女を襲うまでだ、とは言えなかった。未来予知ができる、という前提がなければそこまでのことを断言はできないからだ。

「あいつがストーカーをやめるまでだ」

「それならいっそもう、直接声をかけて、やめろって言ったほうが早いんじゃないですか?」

「いや、それは。だって、現行犯で捕まえなくては証拠がない」

「証拠なんていらないでしょう。だってあなた、あいつが藤原さんを付け回していたのを見たんでしょう? それなら、そのことを言って、次やったら警察に言うとかなんとか言えばいいじゃありませんか」

 まさか見ていないなどと言うわけにもいかないので、彼は「まあそうかもしれんが、ごにょごにょ」と言ってごまかした。

 昨日と同様、変態おじさんは電車にいて、しかも彼女に近いところに陣取るところまで一緒だった。

 彼らは二人が見える位置に陣取って、ひとまず二人が電車を降りて駅を出るのを待った。ことを荒立てないようにするには、彼女と変態おじさんがある程度離れたタイミングが一番いいだろう、と判断したのだ。

 電車を降りた変態おじさんのあとを追っていく。そして、変態おじさんが駅を出たタイミングで、三輪が彼の背中を押した。

「そら、今ですよ。言ってきちゃいましょう」

「なんだか怖いなあ」

「今さら何を言うんです。これも藤原さんの身を守るためです。ほら、勇気出して、ファイト」

 彼は、はあ、と息を吐いてから、変態おじさんへ近づいていった。


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 彼女は、斉木と三輪が追いかけてきていることにまるで気がついていないようだった。もっとも、特別二人の尾行が上手だったわけではない。わざわざ自分を尾行するような阿呆がいるとは想像もしていなかったため、たんに警戒していなかっただけである。
 そんなこんなで三人は駅に着いた。そしてホームまで来たところで二人は、彼女から少し離れたところに立って、電車を待つことにした。
 やがて、電車がやってきた。彼は電車の車窓から見える、電車の中にいる人たちの顔を見た。
 すると、一瞬だが、未来予知に出てきた変態おじさんの顔を見た気がした。
「あっ!」
「どうかしましたか?」
「今、いたかもしれん」
「おおっ、面白くなってきましたね。どこにいたんですか?」
「向こうのほうに行ったと思う。まだ電車内にいるはずだ」
 彼らは電車の中に乗り込むと、車両の中を移動していきながら、変態おじさんの姿を探していった。
 そして、見つけた。彼は作業服を着ていて、しかも霊にとり憑かれていた。その霊というのが、覆面のようなものを被ったブリーフ一丁のおっさんで、しかも覆面に見えたそれは女性もののパンツだった。変態の霊にとり憑かれた変態のおっさんという、目をそむけたくなるほど濃厚すぎる組み合わせだった。
 しかもやつはこともあろうに、藤原のすぐそばに立っていたのである。
 それを見た彼は怒りと嫌悪感から、拳をぎゅっと握り締めた。
「あの野郎、藤原さんのそばに」
 変態おじさんがいきなりこちらのほうを向いた。彼と三輪はさっと目をそらした。少しして、もう一度変態おじさんのほうを見てみたら、やつは藤原のほうを見ていないようでいて、ぎりぎり視界の端に入るような方向を向いていた。
 別に、女子高生のいるほうを向くのが悪いというわけではないし、彼女たちを目で見るのが犯罪であるというわけではない。しかし彼は、これから起こることを知っているだけに、その光景を見ていて胸がざわついた。
 彼らは、彼女とそいつの様子を黙って見守った。特に彼は、変態おじさんが電車内で痴漢に及ぶのではないか、と警戒していた。未来予知にはなかったが、背後から女子高生に抱き着く変態のことだから、十分にやる可能性はあった。
 しかし、意外と電車内では何も起こらなかった。変態おじさんは電車内で静かに立っていた。そして電車が次の駅で止まったところで、彼女と一緒に降りた。
 彼女と変態おじさんはまったく同じ方向へ歩き出していった。
 彼は、いつ彼女が襲われても対処できるように、なるべく変態おじさんに近いところを歩いていった。そして手には念のため、筆箱を持っておいた。
「そんなもん持ってどうするんです?」三輪が、しごく当然な疑問を彼に投げかけた。
「投げるんだ」
「そんなもん投げて、なんの意味があるんです? ましてや、あなたのその貧弱な腕で投げたんじゃ、届くかすら怪しいでしょう」
「ちくしょう、もっと筋トレをしておくべきだった」
「なあに言ってるんです。筋トレが嫌だから文芸部に入ったんでしょうに」
「なぜ知っている?」
「あなたの考えてることなんて、全部お見通しですよ。私とあなたは似た者同士ですからな。それこそ血を分けた兄弟のように、いや、血を分けた兄弟でも我々ほど似ることはないでしょうなあ」
「そんなわけあるか。俺とお前は正反対だよ」
 彼は、三輪と兄弟になった自分を想像して震えた。こんなやつと血がつながっていると知ったら全身の血液を全部抜いて新たに輸血しなおすわ、と彼は思った。
 そんなことを話していると、変態おじさんが道を右に曲がった。しかし彼女のほうはまっすぐに歩いている。
「あら、別れちゃいましたね。付け回していたんじゃなかったんですか?」
「まだわからん。離れたとみせかけておいて、あとで襲い掛かる腹積もりかもしれない。家までちゃんと見届けるまで安心できん」
 しかし結局、藤原が家にたどり着くその時まで、一度も男は現れなかった。
「おかしいな。我々がつけていたことがばれていたんだろうか?」彼はひとりごちた。
「ばれていてもおかしくはないでしょうな。車どおりの激しいところならいざ知らず、人気も車もないようなところは意外と静かで、人の気配も感じやすいでしょうからね。もっとも、藤原さんは最後まで我々に気づかなかったようですが」
「なんて無防備なんだろうか。あの男が後ろにいることにも気づいていないようだったし、心配だ」
 不安は残ったものの、ひとまず今日は安心だということで帰宅した。
 そして翌日、彼らはまた彼女の後ろを追いかけていった。
「明日も明後日も忙しくなるかもしれない、とあなたはおっしゃいますが、いったいいつまでこれを続けるおつもりなんです?」尾行を初めてすぐに、三輪は尋ねた。
 彼は、あいつが彼女を襲うまでだ、とは言えなかった。未来予知ができる、という前提がなければそこまでのことを断言はできないからだ。
「あいつがストーカーをやめるまでだ」
「それならいっそもう、直接声をかけて、やめろって言ったほうが早いんじゃないですか?」
「いや、それは。だって、現行犯で捕まえなくては証拠がない」
「証拠なんていらないでしょう。だってあなた、あいつが藤原さんを付け回していたのを見たんでしょう? それなら、そのことを言って、次やったら警察に言うとかなんとか言えばいいじゃありませんか」
 まさか見ていないなどと言うわけにもいかないので、彼は「まあそうかもしれんが、ごにょごにょ」と言ってごまかした。
 昨日と同様、変態おじさんは電車にいて、しかも彼女に近いところに陣取るところまで一緒だった。
 彼らは二人が見える位置に陣取って、ひとまず二人が電車を降りて駅を出るのを待った。ことを荒立てないようにするには、彼女と変態おじさんがある程度離れたタイミングが一番いいだろう、と判断したのだ。
 電車を降りた変態おじさんのあとを追っていく。そして、変態おじさんが駅を出たタイミングで、三輪が彼の背中を押した。
「そら、今ですよ。言ってきちゃいましょう」
「なんだか怖いなあ」
「今さら何を言うんです。これも藤原さんの身を守るためです。ほら、勇気出して、ファイト」
 彼は、はあ、と息を吐いてから、変態おじさんへ近づいていった。