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20頭目 甥っ子の悪魔祓い

ー/ー



 牛郎がデーモンズ・アレルギーと診断されて以来、俺は気が気でない。救急医の診断がデタラメとはいえ、甥っ子が悪魔に取り憑かれたことは事実だ。
 前回はニンニクによって退治されたものの、牛郎が再び悪魔に取り憑かれない保証などない。そこで俺は、地元にある教会を頼ることにした。
「おじさん、今日はどこへ行くの?」
 そういえば、牛郎にはまだ行き先を伝えていなかった。とりあえず、神様のいる所とだけ伝えておこう。
「よぉし、神様に『給食のデザートを独り占め出来ますように』ってお願いしようっと!」
 甥っ子よ、どうせ朱莉ちゃんにあげるつもりなんだろう。それは目的と手段が逆転してしまっているし、そもそも神頼みをすべきじゃない。
 俺は内心でツッコミを入れながら、淡々と軽トラックを走らせた。
――
 自宅から車で数分後、本須賀聖教会へやってきた。どうやら腕の立つ神父がいるらしく、その噂は県外にも知れ渡っているほどだ。
「ここが神様のいる所? 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 祈祷のつもりなのか、牛郎は教会の前で九字切りを披露した。 宗教の違いはさておき、甥っ子の九字切りは随分とキレが良くなっている。
 人間、何事も『継続は力なり』と言われるが、子供のそれは特にスピード感がある。おっと、そんなことより神父様を訪ねなければ。
 俺は心して、教会の重い扉を開けた。
――
「汝が祈れば、たとえ『午後の紅茶』を午前に飲んでしまっても、神は救いの手を差し伸べるでしょう。神を信じなさい、信じなさい......」
 祭壇の方から祈祷の言葉が聞こえてくる。どうでもいいが、紅茶って午前に飲んじゃまずいのか......?
 他にも気になる文言は目白押しだが、これは宗教的な問題。とりあえず、祈祷が終るまで座って待たせてもらおう。
「おやおや、地獄の門番たる牛頭馬頭様がここへ何の御用でしょうか......?」
 おいおい、5時飯ってまだ昼にもなっていないぞ。この神父、よっぽど腹を空かせているのだろうか?
「いや、そうではなくて......実は、甥っ子に悪魔が憑りつくようでして......」
 腹を空かせているところ申し訳ないが、とりあえず神父に事情を説明しよう。善は急げだ。
「なるほど、それはデーモンズ・アレルギーですね......知りませんけど」
 ......って、知らんのかーい! というより、この神父はどう見ても女だぞ!? 本当にこいつが地元で有名な神父なのか?
「ちなみに私、婚約中なんです」
 婚約中......? そうか、神父(・・)じゃなくて新婦(・・)か......喧しいわっ!!
 要するに、こいつは神父じゃなくて修道女というわけだな。それだけは理解した。
「お姉さんが神様!? 美人ですねぇっ!!」
 甥っ子よ、牛のくせに鼻の下が伸びているぞ。今度会ったら、朱莉ちゃんにチクっておこうか。
「事情は分かりました。ではこれより、悪魔祓いの準備を致します。少々お待ちください......」
 悪魔と聞いて、修道女は血相を変えて教会の奥へと消えていった。どうやら、その道に通じていることは確かなようだ。
――
「ペスカトーレ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ......」
 牛郎は今、祭壇の前に立ってお祓いを受けている。修道女は至って真面目な顔をしているのだが、祈祷の言葉が胡散臭い。実力は確かなのだろうが、どうにも猜疑心が拭えない。
「ううう......ぐうわぁぁぁっっっ!!!」
 あの時のように、牛郎の体色は再び赤褐色へと変化していく。コウモリのような羽も生えて来ているし、これは本物だ!!
「儂を呼んだのは......小暮、お主なのかっ!!?」
 そして、例の悪魔も降臨した。気のせいか? 悪魔の反応が前回と違うぞ。
「ダーリン! もう、どこへ行ってたの!!?」
 ダーリン? そうか、この悪魔が婚約者なのか......って、悪魔!? 確か、悪魔と契りを交わした女は魔女になるんだったよな?
 だとしたら、この女は聖職者として問題じゃないか!? けどまぁ、悪魔に住民票はないから事実婚か......知らんけど。
「小暮、心配させてすまなかった......」
 経緯など知らないが、悪魔は詫びの表情で修道女を見つめている。どうでもいいが、この修道女は小暮さんなんだな。
「ダーリン、よりにもよって牛頭さんに憑依するなんて。まるでデーモンね!」
 修道女もとい小暮は笑いを堪え切れないようだが、俺にはその面白さがどうにも伝わらない。笑いのツボは人それぞれだな。
「わっはっはっは! お主も蝋人形にしてやろうか!!」
 渾身の一発なのか、悪魔は全身全霊で顔芸を披露している。すまない、その笑いも俺には理解できない。
「ダーリンったらぁ、笑わせないでよぉっ!!」
 どうやら、渾身の悪魔ジョークが彼女にはドストライクなようだ。良かったな、悪魔。
「それはさておき、このままだとダーリンがデーモンのまま。新たな依り代を見つけないと......」
 抱腹絶倒から一転、小暮は真剣な顔つきになった。依り代ということは、さしづめ悪魔は霊体というわけか。
「あっ、こんなところに良い依り代が!」
 小暮は何か明暗が浮かんだのか、祈祷を再開した。彼女の視線の先にそれらしきものは見当たらないようだが、依り代とは一体何のことだろうか?
「うぐぐ......ぐわぁぁぁっっっ!!!」
 あの時と同じように、悪魔は悶え始めた。とにかく、今度こそ牛郎から悪魔は出て行ってくれるようだ。
――
「あれ、僕は一体......?」
 牛郎は意識を取り戻した。さて、肝心の悪魔はどうなったかと言うと......?
「ついに儂は自由を手に入れた! この時を、どれだけの思いで待ちわびたことか......」
 小暮が見つけた悪魔の新たな依り代、それはハエだった。悪魔よ、随分と惨めな姿になったな......。
「キャーッ! ダーリン、サイコーっ!!!」
 よく分からないが、小暮は黄色い声を上げている。この二人、ある意味で世界一おめでたい夫婦かも知れない。



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 牛郎がデーモンズ・アレルギーと診断されて以来、俺は気が気でない。救急医の診断がデタラメとはいえ、甥っ子が悪魔に取り憑かれたことは事実だ。 前回はニンニクによって退治されたものの、牛郎が再び悪魔に取り憑かれない保証などない。そこで俺は、地元にある教会を頼ることにした。
「おじさん、今日はどこへ行くの?」
 そういえば、牛郎にはまだ行き先を伝えていなかった。とりあえず、神様のいる所とだけ伝えておこう。
「よぉし、神様に『給食のデザートを独り占め出来ますように』ってお願いしようっと!」
 甥っ子よ、どうせ朱莉ちゃんにあげるつもりなんだろう。それは目的と手段が逆転してしまっているし、そもそも神頼みをすべきじゃない。
 俺は内心でツッコミを入れながら、淡々と軽トラックを走らせた。
――
 自宅から車で数分後、本須賀聖教会へやってきた。どうやら腕の立つ神父がいるらしく、その噂は県外にも知れ渡っているほどだ。
「ここが神様のいる所? 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 祈祷のつもりなのか、牛郎は教会の前で九字切りを披露した。 宗教の違いはさておき、甥っ子の九字切りは随分とキレが良くなっている。
 人間、何事も『継続は力なり』と言われるが、子供のそれは特にスピード感がある。おっと、そんなことより神父様を訪ねなければ。
 俺は心して、教会の重い扉を開けた。
――
「汝が祈れば、たとえ『午後の紅茶』を午前に飲んでしまっても、神は救いの手を差し伸べるでしょう。神を信じなさい、信じなさい......」
 祭壇の方から祈祷の言葉が聞こえてくる。どうでもいいが、紅茶って午前に飲んじゃまずいのか......?
 他にも気になる文言は目白押しだが、これは宗教的な問題。とりあえず、祈祷が終るまで座って待たせてもらおう。
「おやおや、地獄の門番たる牛頭馬頭様がここへ何の御用でしょうか......?」
 おいおい、5時飯ってまだ昼にもなっていないぞ。この神父、よっぽど腹を空かせているのだろうか?
「いや、そうではなくて......実は、甥っ子に悪魔が憑りつくようでして......」
 腹を空かせているところ申し訳ないが、とりあえず神父に事情を説明しよう。善は急げだ。
「なるほど、それはデーモンズ・アレルギーですね......知りませんけど」
 ......って、知らんのかーい! というより、この神父はどう見ても女だぞ!? 本当にこいつが地元で有名な神父なのか?
「ちなみに私、婚約中なんです」
 婚約中......? そうか、|神父《・・》じゃなくて|新婦《・・》か......喧しいわっ!!
 要するに、こいつは神父じゃなくて修道女というわけだな。それだけは理解した。
「お姉さんが神様!? 美人ですねぇっ!!」
 甥っ子よ、牛のくせに鼻の下が伸びているぞ。今度会ったら、朱莉ちゃんにチクっておこうか。
「事情は分かりました。ではこれより、悪魔祓いの準備を致します。少々お待ちください......」
 悪魔と聞いて、修道女は血相を変えて教会の奥へと消えていった。どうやら、その道に通じていることは確かなようだ。
――
「ペスカトーレ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ......」
 牛郎は今、祭壇の前に立ってお祓いを受けている。修道女は至って真面目な顔をしているのだが、祈祷の言葉が胡散臭い。実力は確かなのだろうが、どうにも猜疑心が拭えない。
「ううう......ぐうわぁぁぁっっっ!!!」
 あの時のように、牛郎の体色は再び赤褐色へと変化していく。コウモリのような羽も生えて来ているし、これは本物だ!!
「儂を呼んだのは......小暮、お主なのかっ!!?」
 そして、例の悪魔も降臨した。気のせいか? 悪魔の反応が前回と違うぞ。
「ダーリン! もう、どこへ行ってたの!!?」
 ダーリン? そうか、この悪魔が婚約者なのか......って、悪魔!? 確か、悪魔と契りを交わした女は魔女になるんだったよな?
 だとしたら、この女は聖職者として問題じゃないか!? けどまぁ、悪魔に住民票はないから事実婚か......知らんけど。
「小暮、心配させてすまなかった......」
 経緯など知らないが、悪魔は詫びの表情で修道女を見つめている。どうでもいいが、この修道女は小暮さんなんだな。
「ダーリン、よりにもよって牛頭さんに憑依するなんて。まるでデーモンね!」
 修道女もとい小暮は笑いを堪え切れないようだが、俺にはその面白さがどうにも伝わらない。笑いのツボは人それぞれだな。
「わっはっはっは! お主も蝋人形にしてやろうか!!」
 渾身の一発なのか、悪魔は全身全霊で顔芸を披露している。すまない、その笑いも俺には理解できない。
「ダーリンったらぁ、笑わせないでよぉっ!!」
 どうやら、渾身の悪魔ジョークが彼女にはドストライクなようだ。良かったな、悪魔。
「それはさておき、このままだとダーリンがデーモンのまま。新たな依り代を見つけないと......」
 抱腹絶倒から一転、小暮は真剣な顔つきになった。依り代ということは、さしづめ悪魔は霊体というわけか。
「あっ、こんなところに良い依り代が!」
 小暮は何か明暗が浮かんだのか、祈祷を再開した。彼女の視線の先にそれらしきものは見当たらないようだが、依り代とは一体何のことだろうか?
「うぐぐ......ぐわぁぁぁっっっ!!!」
 あの時と同じように、悪魔は悶え始めた。とにかく、今度こそ牛郎から悪魔は出て行ってくれるようだ。
――
「あれ、僕は一体......?」
 牛郎は意識を取り戻した。さて、肝心の悪魔はどうなったかと言うと......?
「ついに儂は自由を手に入れた! この時を、どれだけの思いで待ちわびたことか......」
 小暮が見つけた悪魔の新たな依り代、それはハエだった。悪魔よ、随分と惨めな姿になったな......。
「キャーッ! ダーリン、サイコーっ!!!」
 よく分からないが、小暮は黄色い声を上げている。この二人、ある意味で世界一おめでたい夫婦かも知れない。