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19頭目 甥っ子とトマト

ー/ー



 今日は、近所の農家さんから大量のトマトを頂いた。どうやら規格外品のようで、捨てるには惜しかったようだ。
 形や大きさは様々だが、品質に何ら影響はない。フードロス対策という意味でも、このトマトは有難く頂戴したい。
 そうやって意気込んで頂いたもの、これだけのトマトをどうしようか。俺としたことが、肝心のレシピを考えていなかった。
「うげぇ、何これ......」
 そして、牛郎は苦虫を噛みつぶしたような目でそれらを見つめている。分かっていたけれど、牛郎はトマトが苦手なんだ。
 牛郎曰く青臭い臭いと触感、それと野菜には似つかわしくない真っ赤な色が苦手なんだとか。要するに全部じゃないか。
 とはいえ、俺も甥っ子にはトマト嫌いを克服してもらいたいと願っている。この際だ、全部を圧力鍋にぶち込んでトマト煮込みにでもしてしまおう。
――
 そして、今宵の夕食は鶏肉のトマト煮込みをメインデッシュに。加圧された具材は粉々、これなら牛郎もトマトの存在に気付くまい。
「うぉぉぉいっしいーーーっっっ!!!」
 俺の見立て通り、牛郎はトマトの存在に気付かず鶏肉を貪っている。ついでに、ハーブやスパイスを隠し味に食欲そそるエッセンスも加えていることは内緒だ。
 刺激的なおかずに牛郎はご飯が進む。これで、甥っ子のトマト嫌い克服へ一歩前進だ。 
「う......っ!」
 そう思っていたのも束の間、牛郎は突然悶え始めた。まさか......食中毒か!?
「ううう......うわぁぁぁっっっ!!!」
 牛郎の体色は、見る見るうちに赤褐色へと変化していく。そして何より、コウモリのような羽が生えて来てるじゃないか!!
「牛郎、大丈夫か!!?」
 俺は牛郎の変化に動揺しながらも、必死に肩を叩いた。生産者として食品衛生には人一倍気を付けていたのに、これは不覚だ。
「......儂を呼んだのはお主か?」
 どういうわけか、牛郎が別人のようになっている。これは四の五の言ってられない、とにかく救急車を呼ばないと!!
――
 119番通報から間もなく、牛郎は本須賀病院へと搬送された。しかしながら、子供が悪魔に取り憑かれたと聞かされたオペレーターは電話越しに狼狽した様子だった。
 そりゃそうだよな、いきなりオカルトじみた話をされたら誰だって耳を疑うだろう。場合によっては、俺がカルト信者に認定されかねない。
 そういう経緯もあって、救急医は困惑した様子なんだ。牛頭の小学生が悪魔になりかけているなんて、あまりに突飛押しもないしな。
 「これは、デーモンズ・アレルギーですね......」
 救急医は衝撃的な一言を口走る。ちょっと待て......何を言っているんだ!?
「何ですか、それは......?」
 聞き慣れない言葉に、俺は一瞬耳を疑った。そんなアレルギー、聞いたことないぞ!?
「どうやら、ご存じないようですね。デーモンズ・アレルギーはトマトによる食物アレルギーで、ごく稀ですが悪魔に取り憑かれます」
 食物アレルギーは様々にあるが、まさかトマトにそんなアレルギーがあるとは知らなかった。やっぱり、トマトはヨーロッパで『悪魔の実』と呼ばれていただけあるなぁ。
「私が今、そう名付けました」
 ......って、今決めたんかぁい!! おいおい、この医者大丈夫か!?
「おそらく、デーモンズ・アレルギーにはアレが有効だと思われます。宇野さん、アレを持ってきて」
 救急医、何か思い当たりがあるのか? 悪魔に有効な何かって、十字架とかそういう類のものだろうか?
「先生、これですね?」
 看護師が手渡したのは、まさかのニンニクだった! 確かにニンニクはドラキュラとかに有効らしいが、それはあくまで迷信の話だぞ!?
「......儂の軍門に下れば、世界の半分をお主にやろう」
 悪魔に取り憑かれた甥っ子は、とうとう魔王そのものになりかけている。この際だ、とりあえずどうにかしてくれ!
「では、これから緊急オペを開始します」
 そういうと、救急医はいきなりニンニクを牛郎の口へ突っ込んだ。救急医オイッ!!
「うぐぐ......ぐわぁぁぁっっっ!!!」
 嘘だろ!? ニンニクが悪魔に効いている!! けれど、それで牛郎は大丈夫なのか!!?
「先生、頑張ってください!!」
 看護師が応援するのはいいが、ただニンニクを口へ突っ込んでいるだけだぞ? 救急医、いかにもな感じで額に汗を滲ませるんじゃない。
 けれど、対処療法ながら牛郎の悪魔化は徐々に沈静化していく。この救急医は意外と侮れない、いや......どちかといえばニンニクの方か?
「あれ、僕は一体......?」
 牛郎、どうやら正気に戻ったみたいだ。すまない、お前にそんなアレルギーがあったなんて知らなかった。
 今後は、むやみにトマトを出すのはよそう。仕方ないが、大量のトマトは俺一人で消化する他にあるまい。
――
「パスタ、うぉぉぉいっしいーーーっっっ!!!」
 後日、俺はアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノを拵えた。その旨さに牛郎はご満悦のようだ。
 なるほど、ペペロンチーノは退魔の料理か......って、そんなわけあるか。


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 今日は、近所の農家さんから大量のトマトを頂いた。どうやら規格外品のようで、捨てるには惜しかったようだ。 形や大きさは様々だが、品質に何ら影響はない。フードロス対策という意味でも、このトマトは有難く頂戴したい。
 そうやって意気込んで頂いたもの、これだけのトマトをどうしようか。俺としたことが、肝心のレシピを考えていなかった。
「うげぇ、何これ......」
 そして、牛郎は苦虫を噛みつぶしたような目でそれらを見つめている。分かっていたけれど、牛郎はトマトが苦手なんだ。
 牛郎曰く青臭い臭いと触感、それと野菜には似つかわしくない真っ赤な色が苦手なんだとか。要するに全部じゃないか。
 とはいえ、俺も甥っ子にはトマト嫌いを克服してもらいたいと願っている。この際だ、全部を圧力鍋にぶち込んでトマト煮込みにでもしてしまおう。
――
 そして、今宵の夕食は鶏肉のトマト煮込みをメインデッシュに。加圧された具材は粉々、これなら牛郎もトマトの存在に気付くまい。
「うぉぉぉいっしいーーーっっっ!!!」
 俺の見立て通り、牛郎はトマトの存在に気付かず鶏肉を貪っている。ついでに、ハーブやスパイスを隠し味に食欲そそるエッセンスも加えていることは内緒だ。
 刺激的なおかずに牛郎はご飯が進む。これで、甥っ子のトマト嫌い克服へ一歩前進だ。 
「う......っ!」
 そう思っていたのも束の間、牛郎は突然悶え始めた。まさか......食中毒か!?
「ううう......うわぁぁぁっっっ!!!」
 牛郎の体色は、見る見るうちに赤褐色へと変化していく。そして何より、コウモリのような羽が生えて来てるじゃないか!!
「牛郎、大丈夫か!!?」
 俺は牛郎の変化に動揺しながらも、必死に肩を叩いた。生産者として食品衛生には人一倍気を付けていたのに、これは不覚だ。
「......儂を呼んだのはお主か?」
 どういうわけか、牛郎が別人のようになっている。これは四の五の言ってられない、とにかく救急車を呼ばないと!!
――
 119番通報から間もなく、牛郎は本須賀病院へと搬送された。しかしながら、子供が悪魔に取り憑かれたと聞かされたオペレーターは電話越しに狼狽した様子だった。
 そりゃそうだよな、いきなりオカルトじみた話をされたら誰だって耳を疑うだろう。場合によっては、俺がカルト信者に認定されかねない。
 そういう経緯もあって、救急医は困惑した様子なんだ。牛頭の小学生が悪魔になりかけているなんて、あまりに突飛押しもないしな。
 「これは、デーモンズ・アレルギーですね......」
 救急医は衝撃的な一言を口走る。ちょっと待て......何を言っているんだ!?
「何ですか、それは......?」
 聞き慣れない言葉に、俺は一瞬耳を疑った。そんなアレルギー、聞いたことないぞ!?
「どうやら、ご存じないようですね。デーモンズ・アレルギーはトマトによる食物アレルギーで、ごく稀ですが悪魔に取り憑かれます」
 食物アレルギーは様々にあるが、まさかトマトにそんなアレルギーがあるとは知らなかった。やっぱり、トマトはヨーロッパで『悪魔の実』と呼ばれていただけあるなぁ。
「私が今、そう名付けました」
 ......って、今決めたんかぁい!! おいおい、この医者大丈夫か!?
「おそらく、デーモンズ・アレルギーにはアレが有効だと思われます。宇野さん、アレを持ってきて」
 救急医、何か思い当たりがあるのか? 悪魔に有効な何かって、十字架とかそういう類のものだろうか?
「先生、これですね?」
 看護師が手渡したのは、まさかのニンニクだった! 確かにニンニクはドラキュラとかに有効らしいが、それはあくまで迷信の話だぞ!?
「......儂の軍門に下れば、世界の半分をお主にやろう」
 悪魔に取り憑かれた甥っ子は、とうとう魔王そのものになりかけている。この際だ、とりあえずどうにかしてくれ!
「では、これから緊急オペを開始します」
 そういうと、救急医はいきなりニンニクを牛郎の口へ突っ込んだ。救急医オイッ!!
「うぐぐ......ぐわぁぁぁっっっ!!!」
 嘘だろ!? ニンニクが悪魔に効いている!! けれど、それで牛郎は大丈夫なのか!!?
「先生、頑張ってください!!」
 看護師が応援するのはいいが、ただニンニクを口へ突っ込んでいるだけだぞ? 救急医、いかにもな感じで額に汗を滲ませるんじゃない。
 けれど、対処療法ながら牛郎の悪魔化は徐々に沈静化していく。この救急医は意外と侮れない、いや......どちかといえばニンニクの方か?
「あれ、僕は一体......?」
 牛郎、どうやら正気に戻ったみたいだ。すまない、お前にそんなアレルギーがあったなんて知らなかった。
 今後は、むやみにトマトを出すのはよそう。仕方ないが、大量のトマトは俺一人で消化する他にあるまい。
――
「パスタ、うぉぉぉいっしいーーーっっっ!!!」
 後日、俺はアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノを拵えた。その旨さに牛郎はご満悦のようだ。
 なるほど、ペペロンチーノは退魔の料理か......って、そんなわけあるか。