『今日未明、
豊臣皇国・本能島でザトウクジラの座礁が確認されました。クジラの後頭部には人間による殴打痕があり、これによって脳震盪を起こしたものと推測されています』
朝一番に報道されているニュースは、あまり衝撃的。豊臣皇国のことはよく分からないが、どうやらオセアニアにある小国らしい。
『現地の反捕鯨団体・マリンジャッカルは怒りを露わにし、犯人の公開処刑も辞さないとのこと。なお、近隣海上で水走りをする人物が目撃されており、地元警察は関連を調査しています』
水走り……まさか、あの男か? クジラの殴打に公開処刑といい、さっきから物騒な言葉が飛び交っているな。
「おじさん、ザショウクジラって何?」
この報道に対し、牛郎は口をポカンと開けている。確かに座礁しているのだから、その言葉は言い得て妙だ。
『ザトウクジラというのは、ヒゲクジラの一種ですね。このクジラから取れる髭は弾性に富んでいて、釣竿をはじめとした工芸品に用いられています』
コメンテーターは、ザトウクジラについて具に解説している。なるほど、俺達がよく知るマッコウクジラとは少々違うようだ。
「今日の給食は、くじらのタレ……? 何だそれ??」
牛郎はニュースにそこまで関心がないらしく、鼻をほじりながら給食の献立表を眺めている。くじらのタレといえば、確か千葉県誕生町の特産品だっけか?
捕鯨が規制される以前、クジラは貴重なタンパク源とされていた。クジラ肉を日干しにして、長期保存するために作られたのがくじらのタレなのだ。
現在は調査捕鯨を前提としており、クジラ肉は希少価値が高くなっている。そのため、くじらのタレは珍品として土産物に重宝されているらしい。
「くじらのタレ、とっても甘いのかなぁ……?」
甥っ子よ、タレといっても焼肉のタレなどとは訳が違うぞ。くじらのタレは、干し肉特有の硬さに加えて独特の獣臭さが鼻につく。
「今日の給食、楽しみだなぁっ!」
野獣の肉を喰らうと言う意味では、ジビエに通じるものがある。日本食の歴史を学ぶならば、牛郎には良い経験かも知れないな。
『私、最近知ったんですけどぉ! クジラってぇ、クジラウシ目なんですよぉっ! 皆さん知ってましたぁ??』
女性コメンテーターは、クジラのうんちくを大袈裟に話している。準レギュラーとはいえ、この女の喧しさはあまり好かない。
クジラウシ目ってことは、クジラと牛は仲間なのかぁ。クジラウシ……クジラ、ウシ、牛郎……。
「ファッ!!?」
その時、俺はとんでもない事実に気付いてしまった。