最終話①
ー/ー「君に話さなくちゃいけないことがあるんだよね」
伊沢の真剣な様子でそう言うので、村山は何かよくないこと、たとえば自分がクビになるとか、あるいは伊沢が重い病に冒されているなどのことを話そうとしているのかと思った。
「なんですか?」彼は尋ねた。
「私の使ってる力のことなんだよね」彼女は言った。
「力? でもそれって、たしか話しちゃいけないって言ってませんでしたっけ?」
「そう、本来は話しちゃいけない。でもひとつだけ例外があって、その力を手に入れる必要がある人だけは、その話をしていいことになってる」
「それって・・・・・・つまり僕がその、伊沢さんの持っている力と同じものを手に入れることになる、ってことですか?」
「いや、それは私の話を最後まで聞いたうえで、君が決めることだよ。とにかく、まずは説明をするから」
そう言ってから、彼女は話を始めた。
「霊が成仏したら行く場所っていうのが天国とかあの世とか呼ばれてるわけだけど、そこでいわゆるこの世の輪廻転生が管理されているともいえるわけ。そして、あの世にはそこを管理している存在がいる。
そして彼らが管理しているのはあの世だけじゃなくて、地上も管理してる。悪霊とかが増えすぎたりしないようにするっていうのも、そのひとつ。
その一環として、あの世の管理者が一部の人間に力を与えて、悪霊退治をしてもらうっていうのがある。ここまではいい?」
彼女はいったん、話をきった。
「えっと、その管理者っていうのは何者なんですか? なんで、僕らを管理してるんですか? あと管理者は神とどう違うんですか?」
村山は立て続けに質問をした。
「質問が多いね」彼女は苦笑した。
「いや、ちょっとあまりにもびっくりするような話だったので」
「まあ、急に言われても信じられないよね」
「伊沢さんが嘘をつくとは思ってませんけど、でもこれはちょっとさすがに、驚きを隠せません」
その時、チャイムが鳴った。
「ちょっと出てきます」
村山は入口のドアを開けた。そこには、スーツ姿の若い男が立っていた。
その男は、気温が三十度を超えるなかでスーツをしっかり着込んでいて、それでいて汗ひとつかいていなかった。その季節感皆無の姿に、村山は違和感を覚えた。
「あの、どちら様でしょうか?」
彼は尋ねた。
「私のことが見えるんですね。やはり、伊沢さんが推薦しただけのことはありますね」
「え? えっと、伊沢さんの知り合いの方ですか?」
「知り合いといえば、そうですね。知り合いです」
「ここまで来てくださったんですか?」
その時、彼の後ろから伊沢の驚いたような声が聞こえてきた。
「あ、伊沢さん。この方は?」
「その方が、今話してた、あの世を管理してる方
彼女は言った。
「え?」
「いや、どうせ話すなら、やはり私から直接話したほうがいいと思いまして、こうしてやってきたわけです。突然ですみませんが、中に入れていただいてもいいでしょうか? 私の姿は普通の人には見えないので、他の人から見ると、誰もいないところに話しかけてるみたいに見えてしまいますから」
「あ、ど、どうぞ。お入りください」
事務所へ招き入れると、彼は事務所の中へと入っていった。そのあと、管理者と呼ばれる男性の向かいに伊沢と村山が座るようなかたちで、三人とも席に着いた。
そして、管理者は話しだした。
「先ほどの村山さんの質問されていたことは、管理者とは何者なのかと、なぜ我々が人間を管理しているのかと、神とどう違うのか、でしたね」
彼はこともなげに、村山の疑問を一つも間違えずに言い当ててみせた。その会話をしていた時に、その場にはいなかったはずなのに。
「は、はい」
「まず、我々が何者かということですが、一言で言えば、わけあってこの世界を作り出してそれを管理している者、になります。なんで作ったのかなどは言えません。禁則事項なので」
「禁則事項」
リアルであの言葉を口にする人がいるんだな、と彼は少し驚きながらもうなずいた。
「なぜ管理しているのかは、管理しなければ作った目的が果たせないからということで、ここは言えないとして、神とどう違うのか、ですね。それは、ある意味一緒というのが答えです。
もっとも、私は神と名乗るのはあまり好きではないんですがね。なんか威張っているように見えてしまいますから。私はあの世の中でもかなり下っ端のほうですし」
「ある意味一緒っていうのはどういうことなんですか?」
「神というものが世界を作りだし、人を救うものだとするなら、まさに私たちはそれですから。あと、村山さんは不動明王真言などを唱えたりしますよね?」
「ええ、はい。不動明王を呼ぶために」
「そのやってきている不動明王も、我々の仲間の一人なんです。あなたたちが声に込めた霊力に応じて、やってきているわけです。不動明王が神だとするなら、我々も神ということになるだろうと、そういうわけです」
村山は前からずっと、不動明王とは何者でどこからやってくるのだろう、という疑問を持っていたが、はからずも今、その疑問が解消されるかたちとなったのだった。
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