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人形荘③

ー/ー



Kさん
「まじですか。あ、ちなみに除霊なんですけど」

伊沢さん
「除霊は、ちょっと違いますね。どちらかといえば、供養になります」

Kさん
「そうなんですか? あ、いや、除霊はしないでくださいって言うつもりだったんですけど。幽霊屋敷として売る関係上、幽霊がいないと困るので」

伊沢さん
「その幽霊屋敷の話もかねてなんですけど、彼らって、かわいそうな霊なんですよ。彼らは、洪水で流されて、溺れて亡くなってるんです。彼らの気持ちとしてあるのが、どうして自分たちだけがこんな目に遭わなきゃいけなかったんだ、っていう怒りの感情なんですね。

 やはり溺れる時に苦しかったっていうのもありますし、あとは水の中で自分の死体が腐っていくのを見ているしかなかった、っていう悔しさもあるので、成仏するにできないような状態なんです。

 ですから、今回のところは供養をするというかたちになります。お墓とかは建てられないまでも、せめてここに気の済むまで彼らがここにいられるようにしてあげるっていうことが必要になってきます」

Kさん
「それは、この土地を手放したほうがいい、ということですか?」

伊沢さん
「それについては、ちょっとだけ彼らとお話をさせてもらえますか? その結果しだいで変わってきますので」

Kさん
「わかりました、よろしくお願いします」

伊沢さん
「はい。ではちょっと、向こうへ下がっていてもらっていいですか?」

 伊沢さんは黒い影たちのいるほうへ近寄ると、そこで正座しました。僕も、彼女の隣に座りました。

 彼らのほうへ近づくとほぼ同時に、黒い影が変化して、人の姿になりました。ただし、普通の人の姿ではなく、肌の色が灰色になって、大きくふくれて腐乱した水死体の姿で現れたのです。

 彼らとの交渉は、主に伊沢さんがやりました。

 交渉が終わったあと、伊沢さんは結論をKさんに伝えました。

伊沢さん
「もう大丈夫です。この土地を手放さなくていいっていう風に言ってくれました」

Kさん
「ほんとですか、ありがとうございます」

 彼は、霊たちがいるであろう方角へ頭を下げました。

伊沢さん
「あと、ここにいる霊を追い出そうとしたり、騒がしくしたりしないなら、住むのも構わない、と言ってました」

Kさん
「それって、つまり・・・・・・?」

伊沢さん
「幽霊屋敷として貸し出して、人を泊まらせるのはオッケーです。ただし、条件があって、家の中を荒らさないことと、家の中のものを外へ持ち出さないことです。もうすでに彼らはこの家になかば住んでるような状態なので、人のお家と同じような扱いをしてほしい、とのことでした」

Kさん
「それなら、たぶん大丈夫です。だって、それやったら祟られますもんね?」

伊沢さん
「まあ、そうですね。もし破ったら、とり憑かれるだけじゃすまないと思うので、泊まる人にはちゃんと警告しておいてください」

Kさん
「わかりました。誓約書みたいなのを作って、そこにその二つの項目を加えておきます」

伊沢さん
「よろしくお願いします。では、これから供養のほうに入らせていただきますので」

Kさん
「はい、わかりました。よろしくお願いします。あ、ちなみに供養した時って、霊障って」

伊沢さん
「霊障ですか? それなら、いいかんじに起こすように頼んでおくので、とりあえずは大丈夫だと思います」

Kさん
「あ、よかったです。では、よろしくお願いします」

 そのあと、僕がお経を読んで、成仏したい霊だけは伊沢さんが霊的な炎を使って成仏させてあげる、というようなことをしていって、さらに家の中をお清めして、依頼は終了しました。

 今では、Kさんの事業も繁盛しているようです。大半はちゃんとマナーを守って泊まってくださっているようです。

 ただつい先日、Kさんから電話がありました。人形荘に泊まったある一組のお客様のうちの一人が、バイク事故で足の骨を折る大けがを負った、とのことでした。

 Kさんは、これってやっぱり人形荘にいる霊の祟りなんですかね、と聞いてきました。

 それに対して伊沢さんは、”他所の家に上がり込んで物を盗んでいくような人間に怒らない人なんていませんよね? そういうことです。そして、こういうことが起こるっていうのもわかっていましたよね?”と答えました。

 それから続けて、”どうします? 続けますか?”と聞いていました。

 今も、人形荘は営業中です。
 


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Kさん
「まじですか。あ、ちなみに除霊なんですけど」
伊沢さん
「除霊は、ちょっと違いますね。どちらかといえば、供養になります」
Kさん
「そうなんですか? あ、いや、除霊はしないでくださいって言うつもりだったんですけど。幽霊屋敷として売る関係上、幽霊がいないと困るので」
伊沢さん
「その幽霊屋敷の話もかねてなんですけど、彼らって、かわいそうな霊なんですよ。彼らは、洪水で流されて、溺れて亡くなってるんです。彼らの気持ちとしてあるのが、どうして自分たちだけがこんな目に遭わなきゃいけなかったんだ、っていう怒りの感情なんですね。
 やはり溺れる時に苦しかったっていうのもありますし、あとは水の中で自分の死体が腐っていくのを見ているしかなかった、っていう悔しさもあるので、成仏するにできないような状態なんです。
 ですから、今回のところは供養をするというかたちになります。お墓とかは建てられないまでも、せめてここに気の済むまで彼らがここにいられるようにしてあげるっていうことが必要になってきます」
Kさん
「それは、この土地を手放したほうがいい、ということですか?」
伊沢さん
「それについては、ちょっとだけ彼らとお話をさせてもらえますか? その結果しだいで変わってきますので」
Kさん
「わかりました、よろしくお願いします」
伊沢さん
「はい。ではちょっと、向こうへ下がっていてもらっていいですか?」
 伊沢さんは黒い影たちのいるほうへ近寄ると、そこで正座しました。僕も、彼女の隣に座りました。
 彼らのほうへ近づくとほぼ同時に、黒い影が変化して、人の姿になりました。ただし、普通の人の姿ではなく、肌の色が灰色になって、大きくふくれて腐乱した水死体の姿で現れたのです。
 彼らとの交渉は、主に伊沢さんがやりました。
 交渉が終わったあと、伊沢さんは結論をKさんに伝えました。
伊沢さん
「もう大丈夫です。この土地を手放さなくていいっていう風に言ってくれました」
Kさん
「ほんとですか、ありがとうございます」
 彼は、霊たちがいるであろう方角へ頭を下げました。
伊沢さん
「あと、ここにいる霊を追い出そうとしたり、騒がしくしたりしないなら、住むのも構わない、と言ってました」
Kさん
「それって、つまり・・・・・・?」
伊沢さん
「幽霊屋敷として貸し出して、人を泊まらせるのはオッケーです。ただし、条件があって、家の中を荒らさないことと、家の中のものを外へ持ち出さないことです。もうすでに彼らはこの家になかば住んでるような状態なので、人のお家と同じような扱いをしてほしい、とのことでした」
Kさん
「それなら、たぶん大丈夫です。だって、それやったら祟られますもんね?」
伊沢さん
「まあ、そうですね。もし破ったら、とり憑かれるだけじゃすまないと思うので、泊まる人にはちゃんと警告しておいてください」
Kさん
「わかりました。誓約書みたいなのを作って、そこにその二つの項目を加えておきます」
伊沢さん
「よろしくお願いします。では、これから供養のほうに入らせていただきますので」
Kさん
「はい、わかりました。よろしくお願いします。あ、ちなみに供養した時って、霊障って」
伊沢さん
「霊障ですか? それなら、いいかんじに起こすように頼んでおくので、とりあえずは大丈夫だと思います」
Kさん
「あ、よかったです。では、よろしくお願いします」
 そのあと、僕がお経を読んで、成仏したい霊だけは伊沢さんが霊的な炎を使って成仏させてあげる、というようなことをしていって、さらに家の中をお清めして、依頼は終了しました。
 今では、Kさんの事業も繁盛しているようです。大半はちゃんとマナーを守って泊まってくださっているようです。
 ただつい先日、Kさんから電話がありました。人形荘に泊まったある一組のお客様のうちの一人が、バイク事故で足の骨を折る大けがを負った、とのことでした。
 Kさんは、これってやっぱり人形荘にいる霊の祟りなんですかね、と聞いてきました。
 それに対して伊沢さんは、”他所の家に上がり込んで物を盗んでいくような人間に怒らない人なんていませんよね? そういうことです。そして、こういうことが起こるっていうのもわかっていましたよね?”と答えました。
 それから続けて、”どうします? 続けますか?”と聞いていました。
 今も、人形荘は営業中です。