「ひっさしぶりの席替えじゃー!!」
一人の|クラスメイト《陽キャ》がそう叫んだ。
「こら落ち着け津田。さっきも言った通り自由に決める訳じゃない。……これだ」
担任が片手を上げてふらふらと揺らしながら見せたのは、丁度手が入りそうな大きさの穴の開いた箱だった。
「この中には君たち人数分のそれぞれ数字の入った紙が入ってる。一人ずつ引いて行って、そこのー席の端が1、反対の端の奥が42。蛇みたいにこうくねくねしてる感じな」
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黒板
1 14 15 28 29 42
2 13 16 27 30 41
3 12 17 26 31 40
窓 4 11 18 25 32 39 廊下
5 10 19 24 33 38
6 9 20 23 34 37
7 8 21 22 35 36
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そう言いながら黒板に(上記のような)表を書いた。少ない時間ながらも達筆なのは先生らしい。
「当たった数字のところが席ってわけか」
「そうだな。じゃあ、誰からでもいい。順番に引いてこい」
教室の中が騒がしくなり、クラスで目立つ男女から列に並んでいく。内海くんも、前から5番目辺りだ。
様子を伺いながら並び、列の中間から少し後ろで待機していると、前の方は既にくじを引く始めていた。
「よしゃ!一番後ろ~」
「は?俺|28《アリーナ席》なんだが??」
「|古結《こげつ》おつぅ~」
前からどんどん決まっていき、その度に心臓がドキドキしている。
半分より少し前まで引いた辺りで、ふと内海くんと仲良い人たちの会話が聞こえた。
「晴怜どうだった?俺40」
「あー俺5だったわ。離れたな」
「え、紅葉俺32」
「ちっか!いいな~那月と紅葉。僕19」
内海くんは5かぁ。
頭の隅っこで「隣だったら良いなぁ」なんて考えながら箱に入れて一番上に乗っていた紙を摘まんだ。
手を抜いてからも楓華と香恵が引くまでまだ手に包んで見てない。
「藍萌引いたよ!」
「じゃあ行くよ?せーのっ」
香恵の合図で折りたたまれた紙を開いた。
パッと見ると、紙には21と書かれていた。
内海くんの隣になるには10を引かなきゃいけなかったけど……そんな都合の良い事なんてないよね。
ある程度近い席だし、後ろ姿ならいつでも見れるか。
「藍萌どうだった⁈」
「21だったぁ。ザンネン」
「あの人の隣なら10引かなきゃいけなかったのかぁ。私33だし交換しても意味ないね」
少ししょんぼりしていたとき、香恵が私の肩を叩いて言った。
「あーちゃん、僕10だったよ?」
「えっ⁈」
私は思わず大きな声を出してしまう。
けど、周りも騒がしかったからか、内海くんや他の人から目立たなかった。
「交換する?」
「良いの⁈」
「うん」
香恵の笑顔が女神に見えてきた。
紙をこっそり交換し、私は香恵に抱き着く。
「ありがとう香恵~~!!」
「友達だもん。これくらい当たり前」
「香恵の彼女はクラス違うもんね」
「それ言うならふーもでしょ?」
「良いなぁー藍萌は好きな人と隣の席になれて」
「折角隣になるんだから、アピール頑張ってね」
「アピール……うん。頑張る」
わざとあざとく話しかけたりするのは苦手。だから可愛くなれなくても、自分なりに話しかけれたなと思う。そもそも緊張して話せないかもだけど……。
「全員引いたな。それじゃあ動けー」
先生の合図で一気に机を動かす。
木の板と金属などが擦れ合う低い音が教室を埋め尽くし、数分して全員が自分の位置に行くと、音はすんなり鳴り止まった。
教室の中の動きが落ち着いたとき、私の頭の中は沢山の文字に溢れていた。
と、隣に内海くんがいる~。近い、かっこいい、横顔綺麗!窓から差し掛かる光に照らされてるのが何とも神々しい。神。窓見てる姿ドラマみたい!!首細っ、すらってしてる。睫毛長い。髪サラサラだぁ。席交換してくれて本当にありがとう香恵~~~!大好き!!
チラチラと隣にいる内海くんを見ていると、突然心臓がドキッとした。
……目が合った。
脳が数秒静止している間、目があったまま。正気を取り戻して焦った途端、目を逸らした。
「やっばい……」
顔を両手で隠しながら小さな声で呟く。
顔が熱い。心臓バクバクやばい……。
先生が何か話してるっぽいけど、今は先生の声よりも、心臓の音の方が大きかった。
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「マジか……」
白鳥が麻薙に抱き着いてるのを見たとき、白鳥の隣は誰なんだろうと思った。抱き着いて喜んでるから、白鳥にとって良い席なんだとはわかったけど、まさか俺の隣だとは……。
正直嬉しすぎている。折角隣に居る白鳥の顔を見れない。白鳥は俺の隣が良かったのだろうか。いや…自意識過剰は良くないよな。反対側の隣と言えば……爽か。つまり白鳥は俺か爽が隣で喜んでるってことか?あーできれば俺だったら嬉しいな。ていうか喜んでた白鳥可愛すぎだろ。笑顔だった。やばい段々俺キモくなってね?今は隣になれたことだけ喜んでおこう。
俺の頭の中は大変なことになっていた。
黒板の方を見ると、名取先生が話し出そうとしていたので体の向きを戻そうとした。その時ふと白鳥の方を見た。
「あ」
目が合った。数秒。
時が止まったようだった。いつも可愛いと思っていた白鳥が、綺麗に見えた。光を写した瞳が明るく眩しいくらいに。
ずっと見つめていたかったけど、白鳥は目を逸らした。そりゃあそうか、と少し残念な感じがする。
それはそうと目が合ったんだ。俺が普通にいれるはずがない。
俺はまた、窓の方を見た。
白く大きい雲が澄み切った空に優雅に浮いている。気ままな感じが落ち着かせてくれる。
「振り向いてもらえるには、どうしたらいいかなぁ」
静かな空間に、先生の声が響いた。
「何人かは多分知ってるだろう。来月には体育祭があるから、今からその種目を決める」