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商談43 神の使い

ー/ー



俺はもうゆなに会えないかも知れない。もしこの先があの世の入口だとしたら、あいつの背中を見かけたのも納得だ。あぁ、俺はいつの間に死んでしまったのだろうか? 今となっては心当たりなどない。足は確かにあるのに生きた心地がしていない。
『アァーッ、アァ―ッ』
 俺が感傷に浸っていると、これまた変な鳴き方をするカラスが俺の頭上を通り過ぎた。よく見るとそいつは体色が白い。白蛇や白鳥など、日本では昔から白い生き物を『神の使い』と称されて有難がる。それは縁起物として珍重され、特に白蛇は富の象徴とされる。
 実際、白い生き物は『アルビノ』と呼ばれる先天的に色素が欠落した個体である。それらはただでさえ稀有な存在なのに、自然界では目立つことから天敵に狙われやすい。故に、それらをお目にかかれること自体がかなり貴重な体験なんだ。つまり、名実ともに白いカラスは希少個体というわけだ。
『ワンワン!』
 このカラス、やっぱり鳴き方が変だ。もしかしたら、俺を先導しようとしているのかも知れない。乗り掛かった舟だ、この際行ける所まで行くしかあるまい。俺は白カラスへ着いていくことにした。
 白カラスへ着いていく道中で、俺の思い出たちが走馬灯のように巡る。小学生の頃、悪ガキだった俺に修行と称して親父が半ば強制的に剣道場へ通わせたこと。中学生になっても俺の悪さは落ち着かず、とうとう鹿児島の親戚へ勘当も同然に預けたこと。そして、自身の実力でどうにか関東へ戻ってきたこと。言うなれば、俺の人生は戦いだった。
 そして社会人として挫折を覚えて、秋子と出会ってゆなが生まれた。それから――。
『ニャァァァッ!!』
 おい、せっかく俺が思いを馳せているのに邪魔するんじゃない。全く、神の使いと言われる割に節操のない白カラスだ。いくら白カラスといえど、それはどうかと思うぞ?
「うるさいっ!」
 神の使いに申し訳ないが、俺は腹立たしくなって怒声を上げてしまった。こんな奇声を発するカラスが神の使いだと? 冗談も大概にしてほしい。
『スビバセン......』
 今、すみませんって言ったか? 人間の鼻声のような感じだったが、まぁいい。詫びる気持ちがあるなら許してやるか。神の使いに対して『許してやる』ってのも、何だか滑稽だ。
 そんな掛け合いをしているうちに雑木林も開けてきた。そして、俺の目の前に現れたのは荘厳な石造りの鳥居。そこに書かれていたのは『馬野大社』の文字だった。


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俺はもうゆなに会えないかも知れない。もしこの先があの世の入口だとしたら、あいつの背中を見かけたのも納得だ。あぁ、俺はいつの間に死んでしまったのだろうか? 今となっては心当たりなどない。足は確かにあるのに生きた心地がしていない。
『アァーッ、アァ―ッ』
 俺が感傷に浸っていると、これまた変な鳴き方をするカラスが俺の頭上を通り過ぎた。よく見るとそいつは体色が白い。白蛇や白鳥など、日本では昔から白い生き物を『神の使い』と称されて有難がる。それは縁起物として珍重され、特に白蛇は富の象徴とされる。
 実際、白い生き物は『アルビノ』と呼ばれる先天的に色素が欠落した個体である。それらはただでさえ稀有な存在なのに、自然界では目立つことから天敵に狙われやすい。故に、それらをお目にかかれること自体がかなり貴重な体験なんだ。つまり、名実ともに白いカラスは希少個体というわけだ。
『ワンワン!』
 このカラス、やっぱり鳴き方が変だ。もしかしたら、俺を先導しようとしているのかも知れない。乗り掛かった舟だ、この際行ける所まで行くしかあるまい。俺は白カラスへ着いていくことにした。
 白カラスへ着いていく道中で、俺の思い出たちが走馬灯のように巡る。小学生の頃、悪ガキだった俺に修行と称して親父が半ば強制的に剣道場へ通わせたこと。中学生になっても俺の悪さは落ち着かず、とうとう鹿児島の親戚へ勘当も同然に預けたこと。そして、自身の実力でどうにか関東へ戻ってきたこと。言うなれば、俺の人生は戦いだった。
 そして社会人として挫折を覚えて、秋子と出会ってゆなが生まれた。それから――。
『ニャァァァッ!!』
 おい、せっかく俺が思いを馳せているのに邪魔するんじゃない。全く、神の使いと言われる割に節操のない白カラスだ。いくら白カラスといえど、それはどうかと思うぞ?
「うるさいっ!」
 神の使いに申し訳ないが、俺は腹立たしくなって怒声を上げてしまった。こんな奇声を発するカラスが神の使いだと? 冗談も大概にしてほしい。
『スビバセン......』
 今、すみませんって言ったか? 人間の鼻声のような感じだったが、まぁいい。詫びる気持ちがあるなら許してやるか。神の使いに対して『許してやる』ってのも、何だか滑稽だ。
 そんな掛け合いをしているうちに雑木林も開けてきた。そして、俺の目の前に現れたのは荘厳な石造りの鳥居。そこに書かれていたのは『馬野大社』の文字だった。