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骨神社④

ー/ー



 伊沢さんが手を合わせました。僕はお祓いに使う道具をバッグから出し始めました。

「唱え奉る光明真言は大日普門の万徳(まんどく)を二十三字に集めたり・・・・・・」

 僕はお経を唱え始めました。

 そこで彼女は合わせていた両手をばっと前に突き出しました。悪霊を逃がさないよう、結界を張ったのです。

「オン アボキャ ベイロシャノウ マカ ボダラ マニ ハンドマジンバラ ハラバリタヤ ウン・・・・・・」

 鏡の中にいる悪霊の顔が険しくなりました。それから、ぐっと前に出てきたかと思うと、鏡の中から悪霊が出てきたのです。

 悪霊が鏡から出てきたとたん、嫌な気配がぐっと増しました。それと同時に、頭痛がしました。

 悪霊が口をくわっと開けました。すると、口の中から女性の悲鳴や、女性の助けを求める悲痛な叫びが聞こえてきました。

 少しして、口の中から小さな女性の霊が這い出してきました。あの、写真に写っていた女性の霊でした。その霊があともう少しで出られる、というところで悪霊は口をばくんっと閉じました。

 助けて、助けて、と肩から上だけを出した状態で女性の霊が叫んでいました。悪霊は一瞬だけ口を開けると、食らいつくようにそれを飲み込んでしまいました。そのあとに、悪霊はおぞましい笑みを浮かべたのでした。

 見ていてものすごく不快でしたが、相手の思惑がわかっていたので、動じることはありませんでした。ああやって我々を怯えさせて、心の中に入り込む隙を作ろうとしているのです。

 しかし、そんなものは無意味でした。伊沢さんの張った結界のおかげで、悪霊はこちらには来られないうえ、あとは燃やされるのみです。さらにお経で呼び出した神様が伊沢さんに力を分け与えてもいます。

 彼女は合わせていた手を離して、右手を前に突き出しました。

 その直後、悪霊が悲鳴をあげだしました。それと同時に、体が白い粒子となって消え始めました。彼女が霊力で作った火を結界内に放って、悪霊を燃やし始めたのです。

 これで終わりかに見えました。ところが突然、彼女が苦しみだしたのです。そして、彼女は床に嘔吐しました。

 僕は伊沢さんのそばへかけよって、背中に手を当てました。

「ナウマク サンマンダ バザラダ センダ マカロシャダヤ ソワタヤ ウンタラタ カンマン・・・・・・」

 不動明王真言を唱えてみましたが、それでも伊沢さんの体調はよくなりませんでした。それどころか、その場に膝をついてしまいました。

「伊沢さん、大丈夫ですか?」

伊沢さん
「大丈夫、向こうのくだらない、悪あがきだから。もうすぐ、燃え尽きるはずだから、大丈夫」

「そうじゃなくて、伊沢さんの体調のほうはどうなんですか? 気持ち悪いんですか?」

伊沢さん
「ちょっと気持ち悪いけど―――」

 そこで彼女はまた吐いてしまいました。

「水、飲みますか?」

伊沢さん
「飲む。水ちょうだい」

 僕はバッグから、ミネラルウォーターを出して、伊沢さんに渡しました。

 彼女はミネラルウォーターを一口飲んで、それからさらにもう少し飲みました。それから彼女はふたを閉めて、ミネラルウォーターを僕に渡しました。

伊沢さん
「ありがと。もう大丈夫」

 大丈夫、と言われても僕は彼女の背中から手を離しませんでした。

 彼女は立ち上がると、再び手を前に突き出しました。そこで、悪霊の消える勢いが急に強まりました。少しして、悪霊は完全に消滅しました。

伊沢さん
「終わった。これでもう大丈夫。ここにあった呪物の呪いごと燃やしたから、ここは問題ない」

 そのあと、さらに神社の境内も念入りにお清めをしました。そうしてそこに悪霊が寄り付かないレベルまで清めたあと、我々は帰りました。

 後日、これを執筆する際に、あの神社について霊視したことをいろいろと聞きました。具体的には、なぜあの神社があそこまで廃れてしまったのかと、なぜお坊さんの姿をした悪霊がいたのか、について聞きました。

 まず悪霊の正体ですが、あれはもともと、あの神社に封印されていたものだそうです。

 もともと、あそこにはお寺が建っていたそうです。小さなお寺で、そこには一人の住職がいました。

 その住職は表向きは優しいふりをしていましたが、裏では女性に暴行を働いたあげく、殺してしまうような悪党でした。不老長寿の秘薬があると言ってお寺の裏に信者や、あるいは寺に泊っている旅人を誘い込んでは、犯行に及んでいたのです。

 当然、そんなことがいつまでも続くわけもなく、みんなにばれて、死刑になりました。

 ところが、その住職は死んだあと悪霊となって、自分が悪事を働いていたお寺に戻ってきてまた悪さをし始めたのです。

 そこで、力の強い霊能者がそのお寺に住職の悪霊を封印したのです。そのあと、神仏習合などもあって、鳥居が設置されたりして、いつしか神社へとなったわけです。

 ここまではよかったのです。

 ただ、そのあとにこの神社の成り立ちを知った人たちが、この神社を呪いに利用するようになったのです。いわくのある成り立ちがあるから呪いがうまくいくだろう、と信じたのかもしれません。

 くわえて、住職の悪霊に対して、誰々を呪い殺してくれ、などと祈願する者まで現れました。

 神様というのは、そういった人の邪念や呪いを嫌います。前に除霊をした神社でもそうですが、呪いなどによって神様は弱ってしまうのです。

 結果、その神社はとうとう神様が離れてしまったのです。

 神様がいなくなって、さらに呪いや邪念で土地が穢れてしまったことで、神聖なものの力が弱まりました。そしてとうとう、悪霊の封印が壊れてしまったのです。そうして、住職の悪霊が地上に出てきて、神のふりをするようになった、というわけです。

 ああした鏡とかがあったのは、悪霊が神のふりをして見える人に近づいて、仏像や仏具を捨てさせて、逆に鏡などの道具を集めさせたからです。鏡というのは、八咫鏡のように神聖なものとして扱われる例もありますが、一方で、合わせ鏡のように降霊術などのよくないことに使われることもあります。この時は、悪霊の住処として使われてしまったのです。

 あの神社で女の声がしたのは、悪霊が人を呼び寄せるために、わざと自分が襲った女性の霊に声を出させたからです。女性の霊の悲鳴を聞けば、興味を持ったりする人や、かわいそうに思ったりする人が出てきて、何度も通う人が出てきます。そうして、神社が廃れた後も人を呼び寄せて魂を喰おうとしていたのです。

 あの写真に写っていた女性は、悪霊ではなく被害者の女性の霊だったのです。

 一応、あの悪霊ごと女性の霊も成仏させたので、霊的にはあそこはまったく問題はありません。しかし、今後も近づかないことをおすすめします。

 それというのも、人がまだ出入りしている可能性があるからです。あそこへ行った時に中の様子を見たのですが、鏡や呪物に埃がかぶっておらず、長年放置されているものとは到底思えませんでした。

 おそらく、あの神社で悪霊を信仰していた人たちが今も出入りしていて、定期的に物を動かしたりしていたのだと思います。

 夜であっても、骨神社へ行ってしまうとそういった信者たちと鉢合わせになる危険性もあります。ですので、なるべく入らないようにしてください。


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 伊沢さんが手を合わせました。僕はお祓いに使う道具をバッグから出し始めました。
「唱え奉る光明真言は大日普門の|万徳《まんどく》を二十三字に集めたり・・・・・・」
 僕はお経を唱え始めました。
 そこで彼女は合わせていた両手をばっと前に突き出しました。悪霊を逃がさないよう、結界を張ったのです。
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカ ボダラ マニ ハンドマジンバラ ハラバリタヤ ウン・・・・・・」
 鏡の中にいる悪霊の顔が険しくなりました。それから、ぐっと前に出てきたかと思うと、鏡の中から悪霊が出てきたのです。
 悪霊が鏡から出てきたとたん、嫌な気配がぐっと増しました。それと同時に、頭痛がしました。
 悪霊が口をくわっと開けました。すると、口の中から女性の悲鳴や、女性の助けを求める悲痛な叫びが聞こえてきました。
 少しして、口の中から小さな女性の霊が這い出してきました。あの、写真に写っていた女性の霊でした。その霊があともう少しで出られる、というところで悪霊は口をばくんっと閉じました。
 助けて、助けて、と肩から上だけを出した状態で女性の霊が叫んでいました。悪霊は一瞬だけ口を開けると、食らいつくようにそれを飲み込んでしまいました。そのあとに、悪霊はおぞましい笑みを浮かべたのでした。
 見ていてものすごく不快でしたが、相手の思惑がわかっていたので、動じることはありませんでした。ああやって我々を怯えさせて、心の中に入り込む隙を作ろうとしているのです。
 しかし、そんなものは無意味でした。伊沢さんの張った結界のおかげで、悪霊はこちらには来られないうえ、あとは燃やされるのみです。さらにお経で呼び出した神様が伊沢さんに力を分け与えてもいます。
 彼女は合わせていた手を離して、右手を前に突き出しました。
 その直後、悪霊が悲鳴をあげだしました。それと同時に、体が白い粒子となって消え始めました。彼女が霊力で作った火を結界内に放って、悪霊を燃やし始めたのです。
 これで終わりかに見えました。ところが突然、彼女が苦しみだしたのです。そして、彼女は床に嘔吐しました。
 僕は伊沢さんのそばへかけよって、背中に手を当てました。
「ナウマク サンマンダ バザラダ センダ マカロシャダヤ ソワタヤ ウンタラタ カンマン・・・・・・」
 不動明王真言を唱えてみましたが、それでも伊沢さんの体調はよくなりませんでした。それどころか、その場に膝をついてしまいました。
「伊沢さん、大丈夫ですか?」
伊沢さん
「大丈夫、向こうのくだらない、悪あがきだから。もうすぐ、燃え尽きるはずだから、大丈夫」
「そうじゃなくて、伊沢さんの体調のほうはどうなんですか? 気持ち悪いんですか?」
伊沢さん
「ちょっと気持ち悪いけど―――」
 そこで彼女はまた吐いてしまいました。
「水、飲みますか?」
伊沢さん
「飲む。水ちょうだい」
 僕はバッグから、ミネラルウォーターを出して、伊沢さんに渡しました。
 彼女はミネラルウォーターを一口飲んで、それからさらにもう少し飲みました。それから彼女はふたを閉めて、ミネラルウォーターを僕に渡しました。
伊沢さん
「ありがと。もう大丈夫」
 大丈夫、と言われても僕は彼女の背中から手を離しませんでした。
 彼女は立ち上がると、再び手を前に突き出しました。そこで、悪霊の消える勢いが急に強まりました。少しして、悪霊は完全に消滅しました。
伊沢さん
「終わった。これでもう大丈夫。ここにあった呪物の呪いごと燃やしたから、ここは問題ない」
 そのあと、さらに神社の境内も念入りにお清めをしました。そうしてそこに悪霊が寄り付かないレベルまで清めたあと、我々は帰りました。
 後日、これを執筆する際に、あの神社について霊視したことをいろいろと聞きました。具体的には、なぜあの神社があそこまで廃れてしまったのかと、なぜお坊さんの姿をした悪霊がいたのか、について聞きました。
 まず悪霊の正体ですが、あれはもともと、あの神社に封印されていたものだそうです。
 もともと、あそこにはお寺が建っていたそうです。小さなお寺で、そこには一人の住職がいました。
 その住職は表向きは優しいふりをしていましたが、裏では女性に暴行を働いたあげく、殺してしまうような悪党でした。不老長寿の秘薬があると言ってお寺の裏に信者や、あるいは寺に泊っている旅人を誘い込んでは、犯行に及んでいたのです。
 当然、そんなことがいつまでも続くわけもなく、みんなにばれて、死刑になりました。
 ところが、その住職は死んだあと悪霊となって、自分が悪事を働いていたお寺に戻ってきてまた悪さをし始めたのです。
 そこで、力の強い霊能者がそのお寺に住職の悪霊を封印したのです。そのあと、神仏習合などもあって、鳥居が設置されたりして、いつしか神社へとなったわけです。
 ここまではよかったのです。
 ただ、そのあとにこの神社の成り立ちを知った人たちが、この神社を呪いに利用するようになったのです。いわくのある成り立ちがあるから呪いがうまくいくだろう、と信じたのかもしれません。
 くわえて、住職の悪霊に対して、誰々を呪い殺してくれ、などと祈願する者まで現れました。
 神様というのは、そういった人の邪念や呪いを嫌います。前に除霊をした神社でもそうですが、呪いなどによって神様は弱ってしまうのです。
 結果、その神社はとうとう神様が離れてしまったのです。
 神様がいなくなって、さらに呪いや邪念で土地が穢れてしまったことで、神聖なものの力が弱まりました。そしてとうとう、悪霊の封印が壊れてしまったのです。そうして、住職の悪霊が地上に出てきて、神のふりをするようになった、というわけです。
 ああした鏡とかがあったのは、悪霊が神のふりをして見える人に近づいて、仏像や仏具を捨てさせて、逆に鏡などの道具を集めさせたからです。鏡というのは、八咫鏡のように神聖なものとして扱われる例もありますが、一方で、合わせ鏡のように降霊術などのよくないことに使われることもあります。この時は、悪霊の住処として使われてしまったのです。
 あの神社で女の声がしたのは、悪霊が人を呼び寄せるために、わざと自分が襲った女性の霊に声を出させたからです。女性の霊の悲鳴を聞けば、興味を持ったりする人や、かわいそうに思ったりする人が出てきて、何度も通う人が出てきます。そうして、神社が廃れた後も人を呼び寄せて魂を喰おうとしていたのです。
 あの写真に写っていた女性は、悪霊ではなく被害者の女性の霊だったのです。
 一応、あの悪霊ごと女性の霊も成仏させたので、霊的にはあそこはまったく問題はありません。しかし、今後も近づかないことをおすすめします。
 それというのも、人がまだ出入りしている可能性があるからです。あそこへ行った時に中の様子を見たのですが、鏡や呪物に埃がかぶっておらず、長年放置されているものとは到底思えませんでした。
 おそらく、あの神社で悪霊を信仰していた人たちが今も出入りしていて、定期的に物を動かしたりしていたのだと思います。
 夜であっても、骨神社へ行ってしまうとそういった信者たちと鉢合わせになる危険性もあります。ですので、なるべく入らないようにしてください。