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骨神社③

ー/ー



伊沢さん
「いいえ。悪霊の分身を消して、さらにHさんに結界をかけます。そうすれば悪霊にとり憑かれることはなくなるので、大丈夫です」

Hさん
「ほんとですか?」

 彼女はほっとしたような表情を見せたあと、顔をゆがめました。それから口に手を当てて、嗚咽を押し殺しながら、ぼろぼろと涙を流し始めました。

「大丈夫ですか?」

Hさん
「すみません。やっぱり、どうしても悔しくて。悪霊なんかにJたちを殺されてしまって、心霊スポットなんて行かなきゃよかったって。あの時、私がちゃんと止めていれば、みんな生きてたのに」

伊沢さん
「Hさんのせいではありませんから、大丈夫です。それに、亡くなった方たちの仇はちゃんと私がとります。その悪霊は、私が責任をもって消滅させます」

Hさん
「仇を、とってくれるんですか?」

伊沢さん
「はい。どちらにしても、このまま放置しておくとHさんも危ないですし。Hさん、人よりも霊感が強いんですよ。神社の前で頭痛で動けなくなったのも、本能で危機感を覚えて、防御反応としてそういうかたちで出たものなので。

 ただ、そうやって感じる能力が高いだけに、霊とも波長が合いやすいんです。そうなると向こうも、見えるなら怖がらせたりしやすい、ということになってやってくるので、危険なんです」

Hさん
「そうなんですね」

伊沢さん
「でも大丈夫です。ちゃんとぜんぶ終わらせるので安心してください。とにかく、まずは除霊と、あとは結界をかけますので」

 そこで悪霊の分身を除霊して、Hさんに結界をかけました。そして写真も消してもらいました。

 結界は一か月ちかくは続くとのことで、そのあいだはHさんがとり憑かれたりすることはない、ということでした。そのあいだに悪霊を退治してしまえば、Hさんにはなんの問題もないわけです。

 そして翌日、我々はS村へと行きました。

 車で行けるところまで行って、行けなくなったところからは歩いて行きました。

 そのまましばらくまっすぐ進んでいくと、Hさんの話の通り、右のほうに赤い鳥居と、神社の建物が見えました。

 鳥居の近くまで行ったところで、頭痛がしました。霊的にやばいところだったり、やばいところの近くへ行ったりすると、僕の場合、頭痛がするのです。

伊沢さん
「大丈夫?」

「大丈夫です。いけます」

伊沢さん
「念のため、保護かけるね」

 彼女は僕の背後から両肩に手を置くと、体に保護をかけてくれました。

 鳥居をくぐって、神社の境内へと入りました。境内には参道があって、参道の両脇に灯篭が設置されていました。神社の敷地じたいはそんなに広くなく、小さな公園程度の広さしかありませんでした。

 参道を少し進んだところで、嫌な気配がぐっと強まって、重力が増えたみたいに足への荷重が増えたような気がしました。

伊沢さん
「ここから先は進めないね。いったん、お祓いしよう。お経をお願い」

 そう言って、彼女は手を合わせました。

 それとほぼ同時に、左にある茂みのほうから、黒い影がものすごい勢いで飛び出してきました。黒い影はまっすぐ伊沢さんへと向かって行きました。

伊沢さん
「動くな」

 しかし彼女は素早く反応して、言霊を放ちました。黒い影は彼女のすぐそばでぴたりと止まりました。彼女は手を離すと、右手で手刀を作って、黒い影の頭あたりを薙ぎ払いました。

 黒い影の体が白い粒子となって消えていき、やがて消滅しました。

伊沢さん
「よどみすぎてて、気づかなかった。いないと思ってたから」

「そういえば、悪霊の姿が全然見えませんね。どこへ行ったんですかね?」

伊沢さん
「あいつが全部追い払ってるんだよ」

 彼女は本殿のほうを指さして言いました。

伊沢さん
「ほとんどの他の悪霊は、あいつに怯えて逃げ出してる。さっきのやつは、それなりに強いやつで、陰に隠れて獲物を横取りしようとしてた」

 そのあと、伊沢さんと僕とで、周囲のお祓いをして、邪気を祓って先に進めるようにしました。

 ちなみに、Aさんたちがやったように邪気を祓わずにそのまま進んでしまった場合、体が邪気にむしばまれることになります。それは霊感がない人でも例外ではなく、あとから体や生活に支障が出るような形で表れてきます。

 本殿まで行って、扉を開けて、中に入りました。

 本殿の一番奥にある台座の真ん中に大きな鏡が置いてありました。鏡の手前には、動物のものと思われる骨や、汚れた布切れや、魔物の顔を模した仮面など、およそ神社に似つかわしくないようなものがありました。さらに、両脇に鏡が向かい合わせで置いてあって、合わせ鏡になっていました。

 僕は前へと進み出て、奥にある鏡を見てみました。覗いたら死ぬ、とのことでしたが、見たかんじではそこまでやばそうには見えなかったからです。少なくとも、あの時に見た呪いの箱ほどではありませんでした。

 鏡の中には当然、僕の姿が映っていました。しかしそれだけではありませんでした。鏡の中から、Hさんにとり憑いていた僧侶が笑いながらこちらを見ていたのです。

 僕は、この鏡に本体が棲んでいるのだ、と気づきました。一方で、僕は疑問も抱いていました。本来、人を導いたり助けたりするはずの僧侶が、悪霊となって神社にいるというのはどういうわけなのか、と。

伊沢さん
「やっぱり、鏡の中にいるね」

「はい」

伊沢さん
「よし、やろう」



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伊沢さん
「いいえ。悪霊の分身を消して、さらにHさんに結界をかけます。そうすれば悪霊にとり憑かれることはなくなるので、大丈夫です」
Hさん
「ほんとですか?」
 彼女はほっとしたような表情を見せたあと、顔をゆがめました。それから口に手を当てて、嗚咽を押し殺しながら、ぼろぼろと涙を流し始めました。
「大丈夫ですか?」
Hさん
「すみません。やっぱり、どうしても悔しくて。悪霊なんかにJたちを殺されてしまって、心霊スポットなんて行かなきゃよかったって。あの時、私がちゃんと止めていれば、みんな生きてたのに」
伊沢さん
「Hさんのせいではありませんから、大丈夫です。それに、亡くなった方たちの仇はちゃんと私がとります。その悪霊は、私が責任をもって消滅させます」
Hさん
「仇を、とってくれるんですか?」
伊沢さん
「はい。どちらにしても、このまま放置しておくとHさんも危ないですし。Hさん、人よりも霊感が強いんですよ。神社の前で頭痛で動けなくなったのも、本能で危機感を覚えて、防御反応としてそういうかたちで出たものなので。
 ただ、そうやって感じる能力が高いだけに、霊とも波長が合いやすいんです。そうなると向こうも、見えるなら怖がらせたりしやすい、ということになってやってくるので、危険なんです」
Hさん
「そうなんですね」
伊沢さん
「でも大丈夫です。ちゃんとぜんぶ終わらせるので安心してください。とにかく、まずは除霊と、あとは結界をかけますので」
 そこで悪霊の分身を除霊して、Hさんに結界をかけました。そして写真も消してもらいました。
 結界は一か月ちかくは続くとのことで、そのあいだはHさんがとり憑かれたりすることはない、ということでした。そのあいだに悪霊を退治してしまえば、Hさんにはなんの問題もないわけです。
 そして翌日、我々はS村へと行きました。
 車で行けるところまで行って、行けなくなったところからは歩いて行きました。
 そのまましばらくまっすぐ進んでいくと、Hさんの話の通り、右のほうに赤い鳥居と、神社の建物が見えました。
 鳥居の近くまで行ったところで、頭痛がしました。霊的にやばいところだったり、やばいところの近くへ行ったりすると、僕の場合、頭痛がするのです。
伊沢さん
「大丈夫?」
「大丈夫です。いけます」
伊沢さん
「念のため、保護かけるね」
 彼女は僕の背後から両肩に手を置くと、体に保護をかけてくれました。
 鳥居をくぐって、神社の境内へと入りました。境内には参道があって、参道の両脇に灯篭が設置されていました。神社の敷地じたいはそんなに広くなく、小さな公園程度の広さしかありませんでした。
 参道を少し進んだところで、嫌な気配がぐっと強まって、重力が増えたみたいに足への荷重が増えたような気がしました。
伊沢さん
「ここから先は進めないね。いったん、お祓いしよう。お経をお願い」
 そう言って、彼女は手を合わせました。
 それとほぼ同時に、左にある茂みのほうから、黒い影がものすごい勢いで飛び出してきました。黒い影はまっすぐ伊沢さんへと向かって行きました。
伊沢さん
「動くな」
 しかし彼女は素早く反応して、言霊を放ちました。黒い影は彼女のすぐそばでぴたりと止まりました。彼女は手を離すと、右手で手刀を作って、黒い影の頭あたりを薙ぎ払いました。
 黒い影の体が白い粒子となって消えていき、やがて消滅しました。
伊沢さん
「よどみすぎてて、気づかなかった。いないと思ってたから」
「そういえば、悪霊の姿が全然見えませんね。どこへ行ったんですかね?」
伊沢さん
「あいつが全部追い払ってるんだよ」
 彼女は本殿のほうを指さして言いました。
伊沢さん
「ほとんどの他の悪霊は、あいつに怯えて逃げ出してる。さっきのやつは、それなりに強いやつで、陰に隠れて獲物を横取りしようとしてた」
 そのあと、伊沢さんと僕とで、周囲のお祓いをして、邪気を祓って先に進めるようにしました。
 ちなみに、Aさんたちがやったように邪気を祓わずにそのまま進んでしまった場合、体が邪気にむしばまれることになります。それは霊感がない人でも例外ではなく、あとから体や生活に支障が出るような形で表れてきます。
 本殿まで行って、扉を開けて、中に入りました。
 本殿の一番奥にある台座の真ん中に大きな鏡が置いてありました。鏡の手前には、動物のものと思われる骨や、汚れた布切れや、魔物の顔を模した仮面など、およそ神社に似つかわしくないようなものがありました。さらに、両脇に鏡が向かい合わせで置いてあって、合わせ鏡になっていました。
 僕は前へと進み出て、奥にある鏡を見てみました。覗いたら死ぬ、とのことでしたが、見たかんじではそこまでやばそうには見えなかったからです。少なくとも、あの時に見た呪いの箱ほどではありませんでした。
 鏡の中には当然、僕の姿が映っていました。しかしそれだけではありませんでした。鏡の中から、Hさんにとり憑いていた僧侶が笑いながらこちらを見ていたのです。
 僕は、この鏡に本体が棲んでいるのだ、と気づきました。一方で、僕は疑問も抱いていました。本来、人を導いたり助けたりするはずの僧侶が、悪霊となって神社にいるというのはどういうわけなのか、と。
伊沢さん
「やっぱり、鏡の中にいるね」
「はい」
伊沢さん
「よし、やろう」