蛇蟲②
ー/ー Wさんが話し終えたあとで、伊沢さんは口を開きました。
伊沢さん
「まず、今まで起きたできごとは全部、幻覚ではありません。全部、霊障です。その中年の女性がWさんに言ったように、黒い蛇がWさんの体に巻き付いています。体が痛いのは、蛇に体を締め付けられたことによる痛みですね。霊体なので実体はないんですけど、痛みだけはWさんの魂が感じとってしまうんです。
あと、記憶がなくなるとおっしゃっていたと思うんですけど、それはその蛇にとり憑かれて、Wさんの意識がなくなっていたせいです。
ようはWさんが、日常生活のあいだでたびたび蛇に憑依されていたんです。憑依されているあいだって、Wさんの意識はないので、あとから見ると、記憶が消えているようにしか思えないんです。
ただまわりから見ると、突然Wさんの挙動がおかしくなっているように見えていたはずです。たとえば歩き方が酔っぱらっているみたいにふらふらしてるとか、そんな風に見えていたはずです。
それと、線路に落ちたのは、たまたまではありません。この蛇が、Wさんの命を奪おうとして、線路に落としたんです」
Wさん
「え、な、なんでですか? もしかして、姿を見られたことに怒っているからですか?」
伊沢さん
「違います。この蛇は、とり憑いたものの命を奪うっていう、そういうものなんです。存在自体が呪いなんですよ。Wさんにとり憑いたのも、恨みとかっていうよりはただ、狙いやすかったからですね。
Wさんは双極性障害を患っているとのことでしたが、やはりそういう精神が不安定になっている時って心のガードが弱まるので狙われやすいんです。くわえて、Wさんは人よりも霊感が強くて霊的なものを引き寄せやすかったので、それも災いしたみたいです。
あと、街でお会いした女性が憎らしく感じた、ということでしたけど、それはWさんの感情ではないです。とり憑いてる蛇の感情ですね。怖がらせるつもりはないんですが、Wさんの魂に蛇のしっぽの先あたりが入り込んでしまっていて、半分同化しているような状態になってしまっているんです。それで、感情が蛇のそれとリンクしやすくなっていたんです」
Wさん
「そんなことになってたんですか! え、蛇のしっぽが魂に入り込むって、どんな状態なんですか?」
伊沢さん
「人間の魂って、おへそより少し下くらいのとこにあるんですけど、ちょうどそのあたりの腰の後ろあたりから、蛇のしっぽが体の中に入り込んでいるような、そんなかんじになっています」
Wさん
「そうなんですか。え、なんでその蛇は、そこまでして私を殺そうとしているんですか? 何か、私が悪いことをしたとか、そういうことなんですか?」
伊沢さん
「違います。Wさんは何も悪くありません。悪いのはまったく別の人です。
それをお話しするには、まず蛇の正体について説明しなければいけないんですが。あの、蟲毒って知ってますか?」
Wさん
「蟲毒? あの、毒虫を壺のなかに何匹もいれて、殺し合わせるっていうやつですよね?」
伊沢さん
「そうです、それです。だいぶ昔になるんですけど、蛇も含めた、毒のある生物を箱の中に入れて蟲毒を作った人がいたんです。プロの呪術師ではなく、素人だったんですけど。
素人がやると、中途半端になってしまって失敗する場合のほうが多いんですが、その人の場合はたまたま成功してしまったんです。
そして術者は、蟲毒の中で生き残ったその蛇を、恨んでいる人の家の庭に放したんです。
それで呪いは成功しました。ただ、素人だったので、呪いの終わらせ方を知らなかったんです。
その結果、蟲毒の蛇、蛇に蟲と書いて蛇蟲っていうんですけど、それが悪霊化してしまったんです。それで暴走してしまって、人にとり憑いては呪い殺す、ということを繰り返すようになってしまったんです。
さらに、行く先で人の魂とか動物の魂とか、ようは力の塊ですね、それを食べて大きくなっていって、結果として今では化け物みたいになってしまっているんです。今では知性もついてるので、人間の言葉もわかるぐらいになってしまっています」
その時に、蛇蟲が、僕のほうを向きました。そして突然、口をくわっと開けたのです。その時にそいつの口の中が見えました。そいつの口の中には、人の頭だけがこちらを覗いている姿だったりとか、人の手だったりとか、得体のしれない白いものがあったりしました。そいつの中に、いくつも死霊が棲みついていたのです。
僕には、そいつが口の中を見せつけているように思えました。お前らの言うことや考えていることは全部わかっている、とでもいうつもりだったのかもしれません。あるいは、力を見せつけたかったのかもしれません。
伊沢さん
「ちなみにですけど、術者のほうは呪いの対象が死んだその次に呪い殺されています。自分のかけた呪いが返ってきたんですね。当然といえば当然です。全然、呪いを制御できてなかったので」
Wさん
「そ、それで、そんなにやばいものを、祓うことはできるんでしょうか?」
伊沢さん
「大丈夫です。問題なく祓えます。今すぐ、お祓いを開始しますので、ご安心ください」
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