蛇蟲①
ー/ー 依頼主はWさんという女性でした。身長が高くて、優しそうではあるのですが、ちょっとだけ陰のある表情をした女性でした。なんでも、双極性障害を抱えているとのことで、今回のできごとも霊が原因なのか、たんなる幻覚なのか決めかねているようでした。
Wさん
「なんにも憑いていなかったら憑いていないとはっきり言ってください。私、ちょっと頭おかしくなっちゃってるのが自分でもわかってるんで、幻覚見てたんだって言われても、全然納得できるので」
彼女はひきつった笑みを浮かべながら、言いました。
しかし僕の目にはもうすでに、彼女を苦しめているものの存在が見えていました。
それは黒い蛇でした。黒い蛇が、彼女の全身に巻き付いているのです。驚くべきはその大きさで、少なく見積もっても、体長五メートルはありそうでしたし、体が丸太のように太かったのです。
それが、僕のほうを見て、チロチロと舌を出していました。その時に僕は、ぞっとするような恐怖を覚えました。これはよくないものだ、と直感的に感じました。
Wさん
「あの、どうかしまたか?」
僕と伊沢さんが二人とも無言だったことに疑問を覚えたのか、Wさんが声をかけてきました。
僕
「あ、失礼しました。大丈夫です。それでは改めて、何が起きたのかについて最初からお話しいただけますか? その話を聞いて、伊沢が霊視をしますので」
Wさんはうなずいてから、話し始めました。
Wさん
「ある時電車に乗っていて、その時に下を向いて座っていたんですけど、途中で急に大きな影が自分のほうにさしたんですね。
その時になぜかぞっとしたんです。いますぐこの場から逃げ出したいって思うくらいに、怖いって思ってしまったんです。
それから、誰が私の前にいるんだろう、と不安に思って、前を見たんです。その時に男の人の足と、足に巻き付いている蛇のしっぽみたいなものが見えて。
びっくりして見上げたら、全身に蛇が巻き付いた男の人がいたんです。その男性は手で吊り革を持った状態で、ぎらぎらした目でこっちをじーっと見ていました。
最初は、なんでこの人の体に蛇が巻き付いているんだろう、って思っていました。けれどもそのうち、なんで誰も騒がないんだろうってことに気がつきました。だって、電車内で体に蛇が、それも何メートルもあるようなやつが、巻き付いているのを見たら、誰だって騒ぐじゃないですか。
それで、ああこの蛇は私にしか見えていないんだって気づいたんです。
怖かったですし、本当は逃げるべきだったんですけど、恐怖のあまり体が動かなくなってしまって。
そうやって男性と目が合ったままじっと座っていたら突然、男の人が”見たな”って言ったんです。
その時に私なぜか、男の人がそう言ったって思えなくて。その蛇のほうがそう言ったんだって思えてしまったんです。
それで、私はいてもたってもいられなくなって、その場で席を立って、その男性から遠く離れたところへ歩いて行きました。そして、電車が止まったあとは駆け足で駅を出て、近所の神社へお参りまでしました。
あの日以来、蛇の姿は一度も見ていません。鏡を見ても、蛇が体に巻き付いたりしてるところは見えませんでしたし」
どうやらWさんは、蛇の形をした何かにとり憑かれてからは、蛇を認識できなくなっているようでした。蛇の力によって、そのようにさせられていたのかもしれません。
Wさん
「ただちょっと、いろいろと変なことが起こっていたので、それをお話しします。
蛇を見た次の日から、全身が重くて、しかもあちこちが筋肉痛でも起こしたみたいに痛くて。湿布を貼っても、ネットに書いてある除霊法とかを試してみても、全然その痛みがとれなくて。
あと、ところどころ記憶がなくなるっていうようなことが起こるようになってしまって。
たとえば、会社を出た記憶はあるのに、気がついたら家にいて、帰っていた時の記憶がないとか、そんなようなことがたびたび起こるようになってしまって。しかも一度、それが原因で死にかけたことがあるんです。
駅のホームで待っていた時に、その記憶のなくなるやつが起きてしまって。気がついたら、線路の中にいたんです。しかも、電車がもうすぐそばまで迫ってきていて。
どうしようって思っていたら、たまたま近くにいた男の人が手を伸ばしてきてくれて、私を引き上げてくれて助けてくれたので、無事だったんですけど。それがなかったら、今頃私は死んでいました。
そういうことがあってすごく困っていたんですけど、ある時、街中を歩いていたら、私のことをじーっと見てくる中年の女性がいたんです。あまりにもじーっと見てくるので、なんかその人のことがなんとなく憎たらしく感じてしまって、嫌になってしまって。顔を背けてその場から離れようとしたんです。
そしたら、”待って!”って大声で呼び止められました。私、気が弱くて、人の言うこととか無視するのが苦手だったので、つい止まってしまったんです。
そしたら女性がはや足で近づいてきて、”あなた最近、蛇にまつわる何かに近づいたり、あるいは蛇に関する何かが起こったりしなかった?”って聞かれたんです。
つい最近、蛇に巻き付かれた男の人を見たばっかりだったので、それをぴったり言い当てられたような気がして、ちょっとびっくりしてしまいました。それでつい、今まであったことをお話ししてしまったんです。
普通なら絶対信じてもらえないじゃないですか、そんな話。でもその女性は全然バカにしたりとかもしないで聞いてくれて。むしろ”たぶんその蛇だと思うんですけど、あなたの体に巻き付いています”って言われたんです。
それから続けて”でも私はお祓いができないし、たぶん普通の神社でもこれは祓えません。でも、祓える人なら知っています”って言って、伊沢先生の名前を教えてくれたんです。
それで、帰ってからすぐにサイトで見た電話番号に電話をして、っていうかんじです。ここまでが私に起きたことです」
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