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蛟は静かに雪上を這う②

ー/ー



屋敷の入口すぐの左手が、翔悟の探偵事務所の事務室兼応接室である。

その主人である須佐翔悟は、仕事がなければ大抵、ここで机に突っ伏して高いびきを書いているか、タバコを吹かしてダラダラしているのが常だ。
まあ、例え事務仕事があったとしても、彼はそれらほぼすべてを雪乃に押し付けてばかりなわけだが。

「くぉらー!翔さん!今日はちゃんと仕事してんでしょーねッ!」

その事務所入口をぶち破らんばかりの開け放った紅香の目に映ったのは、やはり机にだらしなく足を乗せ、イスに寄りかかりいびきをかく翔悟であった。

「おらァ!翔さん何をサボってやがる!働きもしないヤツはこうしてくれるわ!」

その姿を視認した瞬間、紅香は翔悟の寄りかかるイスを無慈悲にも思い切り引きずりだした。

「ぶぉっ!?」

思わず間の抜けた悲鳴をあげた翔悟は、あわれにもその後頭部をしたたかに打ち付ける羽目になった。

「……ってぇ……。てめぇ紅香、何しやがる!昔のマンガの奴隷にムチ打つ悪役みたいなセリフ吐きやがって!」

「ふっふーんだ、サボり魔の翔さんが悪いんでしょ。働かざる者サボるべからず!」

「いやそれちょっと意味わかんない」

ふんふんと鼻息の荒い紅香に、静馬が呆れとため息のないまぜになった笑みを浮かべる。

「……それより翔様。今日は紅香たちに仕事があって呼んだのではないですか?」

こちらはかなり呆れ顔の雪乃の言葉に、翔悟はイスを立て直し、腰かけた。

「ああ、そうそう。またちょいと面倒ごとみたいなもんがあってな。ったく、郁真が煉獄への門を開いちまってから、まだここらは色々不安定なんだわ。それでそこらの魑魅魍魎どもが、この街にちょっかい出しやがってるわけだが」

そこまで言うと翔悟はトレードマークの帽子をかぶり直し、タバコに火を着ける。

「今度は、前崎市北部にあるさびれた神社だ。今じゃ参拝する人間もいない廃神社で、心霊スポットとかで動画撮りに来る連中なんかいたりするとこなんだがな、あそこは結構ガチな神様ぁ祀った場所なんだわ」

「あー、前に言ってた『そこらの神社にもちゃんとした神様がいたりする』ってあれ?」

数ヶ月に聞いた言葉を思い出す紅香の言葉に、翔悟はうなずく。

「それだ。まあ、あそこは本尊じゃなくて名前分けしてもらったとこなんだが……そこがどうも、人心を喪ったことで悪いもんに利用されてるらしい。今日はちょっとそいつを祓ってきて欲しいんだわ」

「……その相手、ヤバいヤツ?」

『祓ってこい』という翔悟の言葉に、紅香の目が期待の色を込めて爛々と輝く。

「……お、おう。まあ、多分な」

「うぉぉーし!ストレス発散案件来たー!どつく!ツブす!フルボッコフルコース!」

拳を握りしめ叫ぶ紅香に、翔悟はため息とともに大きく紫煙を吐き出した。

「……こいつをこの場で祓った方が、街は平和になるかもな……」

「ん?なんか言った?あー、あと危険手当出る?」

「出すつもりだったが、さっき俺を危険な目に合わせたから無しだ!見ろ!たんこぶ出来てんぞ!ハゲたらどうする!」

が、翔悟が見せる先ほど打った頭から視線を見ることもせず、紅香はすでに事務所から飛び出していた。

「じゃあ翔さーん!今日のバイト代の準備よろしくぅー!」

「あの野郎……今日のバイト代、半分カットだ」

だが、そううめく翔悟の背後にいるのは、昨日彼に頼んでおいたはずの、束になった白紙の事務書類を手にした雪乃であった。

「……翔様の今月のお小遣いも、半分カットです」

「……はい、ずびばぜん」


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屋敷の入口すぐの左手が、翔悟の探偵事務所の事務室兼応接室である。
その主人である須佐翔悟は、仕事がなければ大抵、ここで机に突っ伏して高いびきを書いているか、タバコを吹かしてダラダラしているのが常だ。
まあ、例え事務仕事があったとしても、彼はそれらほぼすべてを雪乃に押し付けてばかりなわけだが。
「くぉらー!翔さん!今日はちゃんと仕事してんでしょーねッ!」
その事務所入口をぶち破らんばかりの開け放った紅香の目に映ったのは、やはり机にだらしなく足を乗せ、イスに寄りかかりいびきをかく翔悟であった。
「おらァ!翔さん何をサボってやがる!働きもしないヤツはこうしてくれるわ!」
その姿を視認した瞬間、紅香は翔悟の寄りかかるイスを無慈悲にも思い切り引きずりだした。
「ぶぉっ!?」
思わず間の抜けた悲鳴をあげた翔悟は、あわれにもその後頭部をしたたかに打ち付ける羽目になった。
「……ってぇ……。てめぇ紅香、何しやがる!昔のマンガの奴隷にムチ打つ悪役みたいなセリフ吐きやがって!」
「ふっふーんだ、サボり魔の翔さんが悪いんでしょ。働かざる者サボるべからず!」
「いやそれちょっと意味わかんない」
ふんふんと鼻息の荒い紅香に、静馬が呆れとため息のないまぜになった笑みを浮かべる。
「……それより翔様。今日は紅香たちに仕事があって呼んだのではないですか?」
こちらはかなり呆れ顔の雪乃の言葉に、翔悟はイスを立て直し、腰かけた。
「ああ、そうそう。またちょいと面倒ごとみたいなもんがあってな。ったく、郁真が煉獄への門を開いちまってから、まだここらは色々不安定なんだわ。それでそこらの魑魅魍魎どもが、この街にちょっかい出しやがってるわけだが」
そこまで言うと翔悟はトレードマークの帽子をかぶり直し、タバコに火を着ける。
「今度は、前崎市北部にあるさびれた神社だ。今じゃ参拝する人間もいない廃神社で、心霊スポットとかで動画撮りに来る連中なんかいたりするとこなんだがな、あそこは結構ガチな神様ぁ祀った場所なんだわ」
「あー、前に言ってた『そこらの神社にもちゃんとした神様がいたりする』ってあれ?」
数ヶ月に聞いた言葉を思い出す紅香の言葉に、翔悟はうなずく。
「それだ。まあ、あそこは本尊じゃなくて名前分けしてもらったとこなんだが……そこがどうも、人心を喪ったことで悪いもんに利用されてるらしい。今日はちょっとそいつを祓ってきて欲しいんだわ」
「……その相手、ヤバいヤツ?」
『祓ってこい』という翔悟の言葉に、紅香の目が期待の色を込めて爛々と輝く。
「……お、おう。まあ、多分な」
「うぉぉーし!ストレス発散案件来たー!どつく!ツブす!フルボッコフルコース!」
拳を握りしめ叫ぶ紅香に、翔悟はため息とともに大きく紫煙を吐き出した。
「……こいつをこの場で祓った方が、街は平和になるかもな……」
「ん?なんか言った?あー、あと危険手当出る?」
「出すつもりだったが、さっき俺を危険な目に合わせたから無しだ!見ろ!たんこぶ出来てんぞ!ハゲたらどうする!」
が、翔悟が見せる先ほど打った頭から視線を見ることもせず、紅香はすでに事務所から飛び出していた。
「じゃあ翔さーん!今日のバイト代の準備よろしくぅー!」
「あの野郎……今日のバイト代、半分カットだ」
だが、そううめく翔悟の背後にいるのは、昨日彼に頼んでおいたはずの、束になった白紙の事務書類を手にした雪乃であった。
「……翔様の今月のお小遣いも、半分カットです」
「……はい、ずびばぜん」