ふ、と。
如月雪乃は、誰かに呼ばれたように感じて振り返った。
「……………?」
だが、その視線の先に声を発するようなものはいない。
「どうしたの? 雪ちゃん」
そう問いかける紅い髪の少女は、クラスメイトであり、先のふたつの大きな戦いでともに戦った仲間でもある火ノ宮紅香である。
彼女らは一見、普通の日本の女子高生ではあるが、2人ともその身に人ならざるものを宿す人間だ。
「いえ……今、誰かに呼ばれたような気がしまして」
「ふーん……ま、気のせいでしょ。じゃなきゃ翔さんがこっそりストーキングしてるとか」
「いやいや、普通にこれからその翔さんがいる家に帰るんだから、そんなことする意味ないって」
そう言いながら、紅香の後ろを舞うように漂うのは紅香の守護霊であり、生前は彼女の幼なじみであった神代静馬だ。
彼の言う通り、彼女らは現在、学校からの帰宅中であり、翔さんこと須佐翔悟は雪乃の住む屋敷の持ち主だ。
「わ、わかってるよ。ちょっとした冗談じゃない」
指摘されて頬を赤らめる紅香に、雪乃がくすりと笑う。
「では、その翔さまが待つ家へ、早く帰りましょうか」
「そうだね、今日は何やら仕事があるって話だったしね」
静馬の言う仕事とは、彼と紅香が翔悟の住居兼仕事場である探偵事務所のアルバイトだ。
とは言っても主に行う仕事内容は探偵の仕事ではなく、この街−−−−前崎市で起こった怪異事件の解決である。
紅香や雪乃はその身に宿す、人ならざる者の力を用いて人に仇なす怪異を退治するのだ。
「ふふふ……今日は危険手当が出るくらい危ないヤツがいいなぁ……。いい感じの欲しいパーカー見つけちゃったし、何よりちょっとヤバい、激しいバトル、最近してなかったし……」
「いや、それじゃ危険でヤバいのは紅香自身だから」
瞳に危ない光を湛えて笑う紅香に、思わず額に手をやり静馬がため息をつく。
そうこうしているうちに、一行は翔悟の探偵事務所兼自宅である屋敷へと到着する。
何棟もの尖塔や、レンガ造りの壁を這うツタなどに覆われたそれは、どう見ても古いホラー映画の舞台のそれだ。