しおりちゃん②
ー/ー 僕とGさんは驚きのあまり、声を失っていました。しかしそれで終わりではなく、枕が大きく飛んで、伊沢さんの頭上を越えて、天井にぶつかって床に落ちました。それを見たGさんは、悲鳴をあげました。
伊沢さん
「だめだ、もうやります。危険なので、後ろにいてください」
彼女はぱん、と音をたてて手を合わせました。手を離すと、左手で人形の頭をおさえて、右手のひとさし指と中指で人形のおなかを刺しました。
その時、かすかにですが、男のものとも女のものともつかない。悲鳴のようなものが聞こえた気がしました。断末魔のような声でした。
いつの間にか、ベッドの揺れが収まっていました。
揺れが収まった後も、彼女はしばらく人形を刺したまま、じっとしていました。しかしやがて、手を離しました。
伊沢さん
「終わりました。もうこの人形は普通の人形ですので、持っていても大丈夫です」
Gさん
「あ、ありがとうございます。あの、ベッドが揺れていたのは、あれはなんだったんですか?」
伊沢さん
「人形の中にいたものが起こしたものです。人形の中にいたのは悪霊でした。しおりちゃんという名前を名乗ってはいたんですけど、正体は中年の男でした。小さい女の子のふりをしていたみたいです」
Gさん
「ええ!」
伊沢さん
「悪霊を燃やすときに、ちらっと悪霊の記憶みたいなものが見えたんですけど、最近どこか、川に行きませんでしたか?」
Gさん
「ええ、行きました。日帰りでキャンプしに家族で行きました」
伊沢さん
「そこにそいつがいたんです。それで、娘さんが好みの見た目だったから、娘さんについてきたんです」
Gさん
「好みって、娘はまだ五歳ですけど」
伊沢さん
「ええ。だからいわゆるペドフィリアっていうやつです。子供にそういう欲求を抱く、変態だったんですよ」
Gさん
「ええ・・・・・・」
Gさんはドン引きしていました。
それから伊沢さんは、娘さんのほうを見て、言いました。
伊沢さん
「もうしおりちゃんはいなくなったから大丈夫だよ」
Gさんの娘さん
「ほんとう?」
伊沢さん
「うん」
娘さんは、それに対して怒るわけでもなく、ただぼんやりとうなずいただけでした。あれほど好きだったはずのしおりちゃんが消えたのにやけに薄い反応だな、と思った記憶があります。
そのあといろいろと後始末をしたあと、帰ることになりました。
帰りの運転中に、僕は彼女に質問をしました。
僕
「Gさんの娘さん、なんか一瞬で静かになったときありましたよね? あれなんだったんですか?」
伊沢さん
「あれは、言霊を使った。言霊って知ってる?」
僕
「知ってますよ。言葉に魂が宿るとか、そういう話ですよね」
伊沢さん
「そんなかんじ。私のは、言葉に霊力を宿らせて放つ。そうすると、その言葉が相手に影響を及ぼすようになる。落ち着いてっていえば落ち着くけど、極端な話、死ねっていうと死んじゃうからちょっと使いどころが難しいんだけど」
僕
「そんな技があったんですね。ああ、あとなんであの子は、大好きな人形が消えたのに全然悲しまなかったんでしょうね? 操られてたんですか?」
伊沢さん
「違う、脅されてたんだよ」
僕
「脅されてた?」
伊沢さん
「あの子にしがみつかれたときに見えたんだけど、毎日のようにあの悪霊から、”殺してやる”とか、”私を怒らせたらこの家の人間全員死ぬよ”とか言われて、脅されてた。
最初は悪霊も優しいふりしてたんだけど、そのうちだんだん本性を現わしてきて、捨てようとしたり告げ口しようとしたりしたら全員呪い殺すとか言って脅したり、体に傷をつけたりしてた。
それが怖くて、あの子は何もできなかった。あれだけ騒いだのも、自分や母親が殺されちゃうって思ったからなんだよね。”もし私が下に来てるやつらに見つかったら、お前も母親も呪い殺してやる”って言われてたから、必死だったんだよ。
で、なんで悪霊がそういうことをしてたかっていう理由なんだけど、あの子の体を奪い取ろうとしてたんだよね」
僕
「ええ⁉」
伊沢さん
「嫌がらせをしてあの子の精神を弱らせてから、あの子の魂をあの子の体から追い出して、自分がその中に入ろうとしてた。そうすれば、大好きな女の子の姿に自分がなれるからって。特に子供は体と魂の結びつきがまだしっかりしていないから、狙われやすいんだよね」
それを聞いたときは、さすがにぞっとしました。どうやら、生きている人の体が悪霊にとられてしまう、という例もあるようです。
僕
「怖すぎますって」
伊沢さん
「怖いっていうか、邪悪だよね。だから許せないんだよ」
僕
「まあ、そいつは伊沢さんが消してくれたので、本当によかったですよね。あ、そういえば僕、お祓いの最中に悲鳴みたいのが聞こえたんですけど、男のものか女のものかわからなかったんですけど」
伊沢さん
「え、まじ?」
僕
「え、もしかしてなんかまずかったですか?」
伊沢さん
「いや、もしかしたら村山君、霊感が目覚めつつあるかもしれない。私のそばにいる人って、急に霊が見えるようになる人が多いんだよね。もしかしたら村山君もそのうち、見えるようになるかもしれない」
僕
「それは、見たくないですね」
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